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2019年6月23日 (日)

第409回:知財計画2019の文章の確認

 先週6月21日に知財本部知財計画2019(pdf)概要(pdf))が決定された。

 今年の知財計画は、TPPなどの条約が批准され、関連法改正が一通り国会を通されてしまった事もあるのだろうが、例年にもまして内容が薄く何のために作っているのかさっぱり分からない施策項目集である。とは言え、今年も、各省庁における知財政策の検討状況を把握するという意味で、以下、法改正に関わる部分を中心にその記載を見ておく。

 まず、第15ページには、次の様な今回の特許法等の改正に関する項目がある。

・本年通常国会で成立した、特許法等の一部を改正する法律に基づく、中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)及び損害賠償額算定方法について、適切な運用に向けた取組を見守るとともに、同法の附帯決議に掲げられた事項について、内外の情勢を踏まえ、関係者の意見を聞きつつ検討する。また、画像及び建築物を保護対象に加える等の意匠制度の見直しについて、意匠審査基準、意匠審査体制の整備等の必要な準備を実施し、これらを含めた改正事項について、広く周知を行う。(短期)(経済産業省)

 次に、第17ページには、次の様な種苗法に対する制度的手当てと和牛遺伝資源の保護に関する記載がある。これらは、それぞれ、農水省の優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会での検討に対応するものだろう。また、農水省はその知財戦略2020の改定にも着手するらしい。

・我が国で開発された植物品種の海外への流出に対応するため、引き続き海外への品種登録出願への支援や侵害対応への支援を行うとともに、優良品種の持続的な利用を可能とする観点から、国内外での植物新品種の保護の在り方について、広く関係者の意見を聴いた上で、制度的な手当ても含め検討する。(短期、中期)(農林水産省)

・和牛遺伝資源の不適切な海外流出を防止する観点から、適正な流通管理や保護に向けた検討を進める。(短期、中期)(農林水産省)

・「農林水産省知的財産戦略2020」が定める戦略の実施期間である2019年度を迎えるにあたり、農業分野における新たな知財戦略の策定に向けた検討に着手する。(短期)(農林水産省)

 そして、今現在最大の問題となっていると言っていいだろう海賊版対策については、第18ページに以下の様な項目が並んでいる。この部分で、総合的な対策メニューという言葉こそ使っているものの、ブロッキングやアクセス警告方式に関する明示的な言及がないのは、総務省のインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会で否定的な見解が出されているという報道と符号する。今後について全く予断は許されないが、現時点で、著作権ブロッキングやアクセス警告方式の導入という最悪の結論を政府として出せる状況には至っていないと見ていいだろう。

・インターネット上の海賊版による被害拡大を防ぐため、効果的な著作権教育の実施、正規版の流通促進、国際連携・国際執行の強化、検索サイト対策、海賊版サイトへの広告出稿の抑制等の対策、その他の実効性がある制度の検討等、関係省庁等において総合的な対策メニューを実施するために必要な取組を進める。その際、取組についての工程表を作成し、進捗及び効果を検証しつつ行う。(短期、中期)(内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、経済産業省)

・模倣品・海賊版を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む模倣品・海賊版を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、各省庁、関係機関が一体となった啓発活動を推進する。(短期、中期)(警察庁、消費者庁、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)

・越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、個人使用目的を仮装して輸入される模倣品・海賊版を引き続き厳正に取り締まるとともに、特に増加が顕著な模倣品の個人使用目的の輸入については、権利者等の被害状況等及び諸外国における制度整備を含めた運用状況を踏まえ、具体的な対応の方向性について検討する。(短期)(財務省、経済産業省)

 そして、著作権法改正については、第26ページに以下の様な項目がある。

・2018年の著作権法の改正に伴い、ガイドラインの策定や著作権に関する普及・啓発など、法の適切な運用環境の整備を行う。(短期)(文部科学省)

・研究目的の権利制限規定の創設や写り込みに係る権利制限規定の拡充等、著作物の公正な利用の促進のための措置について、権利者の利益保護に十分に配慮しつつ検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省)

 また、著作権問題という事では、昔から同じ話を続けているが、第35ページに、次の様な同時配信と私的録音録画補償金問題に関する項目もある。

・同時配信等に係る著作隣接権の取扱いなど制度改正を含めた権利処理の円滑化について、関係者の意向を十分に踏まえつつ、運用面の改善を着実に進めるとともに、制度の在り方について、年度内早期に関係省庁で具体的な検討作業を開始し、必要に応じた見直しを本年度中に行う。(短期・中期)(総務省、文部科学省)

・クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、私的録音録画補償金制度の見直しや当該制度に代わる新たな仕組みの導入について検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期、中期)(文部科学省、内閣府、総務省、経済産業省)

 ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制を含む著作権法改正案(第406回参照)が国会提出を見送られた後、まだ今期の文化審議会・著作権分科会が開かれていないので、著作権法改正の検討状況は不明だが、前の法改正案の再提出も含め文化庁の動きに今後も注意が必要なのは間違いない。

 私としては、実際には必要がなかったにもかかわらずTPP11協定の発効とともになし崩しでされた著作権保護期間延長の問題などについても言い続けるつもりだが、今年の知財計画を見ても、日本の知財政策の迷走が止まる事はないと思えるし、引き続き最大限注意すべきは、著作権ブロッキングやアクセス警告方式の導入を巡る海賊版対策に関する検討、ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制を含む著作権法改正問題の行方という事になるだろう。

(2019年6月26日夜の追記:知財本部HPで案の取れた正式版の知財計画が公開されていたので、上のリンクを入れ替えた。)

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