第407回:「アクセス抑止方策に係る検討の論点」に対する意見募集(5月14日〆切)への提出パブコメ
去年のちょうど今頃知財本部を中心に著作権ブロッキングのごり押しの検討が進められいたと記憶しているが、今もその余波は続いていて、今度はアクセス警告方式が前面に押し出され、知財本部は今でも絡んでいると思うが、その検討のために、4月19日から総務省でインターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会が始まっている。
その検討会の資料として、5月14日〆切で意見募集が掛かっている(総務省HP、電子政府HP参照)、アクセス抑止方策に係る検討の論点について、私も意見を提出したので、ここに載せておく。
その内容は下を見ていただければと思うが、意見募集対象の論点を見ると、サイトへのアクセスにおいて警告画面を表示するアクセス警告方式の導入ありきの検討をしようとしている気配が濃厚に漂うが、アクセス警告方式は利用者・ユーザが一応突破できる点でブロッキングよりは制約的でないと言えるかも知れないが、通信の監視・介入の点で本質的に違いはなく、ほぼ同等の大きな問題を抱えるものである。
海賊版対策と称して、本来取り組まなければならないはずの送信側・アップロード側の対策そっちのけで、受信側・利用者・ユーザのアクセス制限というネット検閲の検討ばかりが延々と続けられている事には本当に辟易するが(大体、古今東西この手の検閲がうまく行った例はない)、この総務省のパブコメも重要なものの1つと思うので、関心のある方は是非提出を検討する事をお勧めする。
(以下、提出パブコメ)
《要旨》
情報の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない、サイトブロッキングやアクセス警告方式の導入ありきの検討に反対する。インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。
《全文》
論点0:サイトブロッキング及びアクセス警告方式についてどう考えるか。
(左記論点に対する意見)
「アクセス抑止方策に係る検討の論点」には最も基本的な論点が欠けているので、ここで、論点0として「サイトブロッキング及びアクセス警告方式についてどう考えるか。」を追加した。
「アクセス抑止方策に係る検討の論点」に提示された論点を見ると、総務省は、アクセス警告方式の導入ありきでの検討を行おうとしていることが見て取れるが、私はこのような検討に反対する。
2018年に知財本部において著作権サイトブロッキングについて導入ありきごり押しの検討がされ、幸いなことに、この検討は途中で止まったが、インターネット利用者から見てその妥当性をチェックすることが不可能なサイトブロッキングにおいて、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなブロッキングは、憲法に規定されている情報・表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであり、決して導入されるべきでないものである。
アクセス警告方式は、利用者・ユーザが警告画面を一応突破できるという点でブロッキングよりは制約的でないと言い得るかも知れないが、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、同様に、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。アクセス警告方式においては、利用者・ユーザーが警告画面を一応突破できるとはいえ、突破したことが妥当であったのかは突破してみなければ分からず、通信の監視によって、利用者・ユーザが警告画面を突破したことについて不利な扱いを受ける恐れが強い状況下で、警告画面の表示は実質的にブロッキングと同等の国民の情報アクセス制限手段として機能することになる。
また、いかなる形を取るにせよブロッキングの採用が有効な海賊版対策として世界の主要な流れとなっているとは到底言い難いことに加え、アクセス警告方式の導入例に至っては皆無であろう。
インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。
今後、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止及び通信の秘密から、サイトブロッキングやアクセス警告方式のような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。
<検討・実施に当たっての基本的な考え方及び進め方について>
論点1:アクセス抑止方策の検討に際しては、インターネット上の海賊版の現状について関係者の共通認識のもとで議論を進めるべきではないか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、あらゆる者の情報アクセスに広く影響を及ぼし得る、インターネット上の海賊版対策の検討にあたっては、権利者団体のみならず、個々の権利者、利用者・ユーザも含む形で、基礎となる事実をきちんと確認した上で議論を進めるべきである。ここで、権利者団体側の一方的な主張に基づく推定に推定を重ねたアクセス数に著作物の単価を掛けるような乱暴な被害額の試算など真摯な政策論の基礎とならないことをまず確認するべきである。
論点2:インターネットの特徴や役割を踏まえて、あるべきネットワークの姿は何かを考慮しつつ議論を進めるべきではないか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、国民の基本的な権利である情報の自由を守ることを中心として、インターネットもこのような情報の自由を支える重要な基盤の一つであるという認識に基づいて議論が進められるべきであることは言うまでもない。
論点3: 具体的な方策の検討に当たっては、海賊版サイトにアクセスするユーザにとどまらず、多くのネットユーザにも影響があり得ることから、幅広いユーザの声に耳を傾け、ユーザの理解を十分に得て進めることが必要ではないか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対するが、あらゆる者の情報アクセスに広く影響を及ぼし得る、インターネット上の海賊版対策の検討にあたっては、利用者・ユーザの理解を幅広く得ることが必要であることは言うまでもない。ここで、単にこの論点についてのパブコメ結果が理解を得たことの証左とされてはならない。検討会の委員の過半数を利用者代表とすることや、検討会において消費者・利用者団体のすべてに意見を述べる機会を与え、かつ、最終的な報告書においてその意見をきちんと反映するなど、可能な限り利用者の意見を汲み取るようにするべきである。
論点4:アクセス抑止方策の実際の導入に向けた詳細調整・実施は、民間部門において主体的・主導的に進められるべきではないか。
(左記論点に対する意見)
私は児童ポルノを理由とした、民間主導とされているサイトブロッキングにも反対している。児童ポルノ問題と知的財産権の侵害である著作権侵害問題は混同されるべきではないが、民間主導を建前としても、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利の実質的な侵害となるサイトブロッキングやアクセス警告方式は許されてはならないものである。今後、検討の過程において民間主導の話が出されることがあったら、通信関連法を所管する総務省から、そのようなことは民間主導であってもなされるべきではないと述べるべきである。
<アクセス警告方式の実現に向けた検討課題>
論点5:アクセス警告方式を何のために行うのか、どのような意味を持つのか等、実施の前提について議論すべきではないか。ユーザによる海賊版コンテンツのダウンロード行為が違法か違法でないかによって、違いがあるか。
(左記論点に対する意見)
アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するものであって、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。ここでは、ユーザによるダウンロード行為の違法性以前の問題として、総務省の過去の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において児童ポルノブロッキングの著作権ブロッキングへの濫用を戒める整理を敷衍し、アクセス警告方式についても、違法性阻却の余地はないと整理されるべきである。
論点6:アクセス警告方式にはどのようなメリット・効果があると考えられるか。
(左記論点に対する意見)
アクセス警告方式は、利用者・ユーザが警告画面を一応突破できるという点でブロッキングよりは制約的でないと言い得るかも知れないが、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、同様に、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。アクセス警告方式においては、利用者・ユーザーが警告画面を一応突破できるとはいえ、突破したことが妥当であったのかは突破してみなければ分からず、通信の監視によって、利用者・ユーザが警告画面を突破したことについて不利な扱いを受ける恐れが強い状況下で、警告画面の表示は実質的にブロッキングと同等の国民の情報アクセス制限手段として機能することになる。すなわち、アクセス警告方式の導入にメリット・有利な効果はない。
論点7:アクセス警告方式の実施の前提としての法的整理に関し、個別の同意が必要か、あるいは、包括同意で足りると整理することが可能か。
(左記論点に対する意見)
アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するものであって、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものである。これは、良く理解もされないまま個々の利用者・ユーザの同意さえ得れば良いという問題ではない。通信事業者及び利用者・ユーザに追加のコスト負担が発生しないことを前提に、アクセス警告方式への不参加をデフォルトとして、不利な点も含めてはっきりと説明した上で、全利用者・ユーザから明確な同意が得られれば、アクセス警告方式の実施について同意を前提とし得るかも知れないが、全く非現実的である。
論点8:アクセス警告方式に関する技術的な課題はあるか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。アクセス警告方式は、全国民の通信を監視してその通信に介入するという点ではサイトブロッキングとアクセス警告方式の間に本質的な違いはなく、情報・表現の自由や検閲の禁止、通信の秘密といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないものであって、サイトブロッキングと同様の技術的課題がある。
論点9:アクセス警告方式の導入及び実施のためのコストについて、どのように考えるか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。導入及び実施のためのコストを通信事業者が負担する又は利用者・ユーザに転嫁するといった安易な議論に断固反対する。
論点10:その他、導入に当たって、法的・技術的課題以外に検討すべき事項はあるか。
(左記論点に対する意見)
私はサイトブロッキング及びアクセス警告方式のいずれの導入にも反対する。そもそもこれはアクセス警告方式そのものの法的・技術的課題以前の問題であって、インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。
<その他アクセスを効果的に抑制するための方策に係る検討>
論点11:端末側での対応策にはどのようなメリット・効果があると考えられるか。
(左記論点に対する意見)
完全に携帯端末におけるフィルタリングにより対応するのであれば、通信事業者及び利用者・ユーザに追加のコスト負担が発生しないことを前提に、フィルタリングの不使用をデフォルトとして、不利な点も含めてはっきりと説明した上で、明確な同意が得られれば、同意を前提として個々の利用者・ユーザに対して適用が可能であるかも知れないが、このようなフィルタリングのメリット及び有効性は非常に怪しい。加えて、この場合においても、フィルタリングの使用を強制するようなことがあればアクセス警告方式やサイトブロッキングと同等となることを良く認識した上で、個々の利用者・ユーザから明確な同意を取るようにするとともに、利用者・ユーザからいつでもフィルタリングの解除ができるようにしておくべきである。
論点12:フィルタリング等の端末側での対応策はどのような方法が考えられるか。
(左記論点に対する意見)
海賊版サイトの主な収入が広告であり、携帯端末からのアクセスが主となっているのであれば、フィルタリングのような有効性の怪しい策より、携帯端末において広告を表示させないサービスを利用者・ユーザに提供することの方がまだ有効ではないかと考える。
論点13:端末側での対応策はどのような技術的課題があるか。
(左記論点に対する意見)
個々の利用者・ユーザから明確な同意が得られれば、同意を前提としてフィルタリングの適用が可能であるかも知れないが、その有効性は非常に怪しい。加えて、フィルタリングにおいても、対象サイトのリストの管理の問題も発生する。仮に、携帯端末におけるフィルタリングにより対応することを検討するにしても、フィルタリングするサイトのリストは利用者・ユーザから確認可能であるようにするとともに、基本的に対応は端末に閉じるようにするべきであって、通信事業者が利用者・ユーザの特定のサイトへのアクセスを監視することがないよう厳に戒めるべきである。
論点14:端末側での対応策の導入及び実施のためのコストについて、どのように考えるか。
(左記論点に対する意見)
端末側での対応策の導入及び実施のためのコストについても、通信事業者が負担する又は利用者・ユーザに転嫁するといった安易な議論は慎むべきである。
論点15:その他、端末側での対応策の導入に当たって、法的・技術的課題以外に検討すべき事項はあるか。
(左記論点に対する意見)
そもそもこれは端末側での対応策の法的・技術的課題以前の問題であって、インターネットにおける海賊版対策の検討においては、まず、アップロードによる著作権侵害に対する民事・刑事の権利行使においてどこにボトルネックがあるのかを明らかにした上で、そのボトルネックを解消するための地道な取り組みのみに注力するべきである。
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