番外その38:児童ポルノ規制に関する国連のガイドライン案に関する意見募集(3月31日〆切)
先週ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案が今国会への提出を見送られたところで、それ自体は良いこととしても、今後、似た様な法改正案の次の国会提出に向けた動きが強まるのは間違いない。そのため、この著作権法改正問題についてもまだ要注意な状況が続くと思うが、今回は、番外として全く別の話である。
児童ポルノ規制に関する国連のガイドライン案の意見募集が3月31日〆切でかかっていて、これについては、他のブログや団体、すちゃもく雑記2nd、うぐいすリボン、AFEEなどで既に取り上げられているので、どうしようかと思っていたが、私も関心を持つ個人として意見を出したので、このブログでも念のため、書いておく事にする。
このガイドライン案は、児童の権利条約の児童ポルノ等に関する選択議定書の実施のための、国連の児童の権利委員会によるガイドライン案で、法的拘束力のあるものではないが、案の段階でかなり広範な規制を推奨するものとなっており、この案がそのまま通ると、またぞろ国内外の規制団体が鬼の首でも取ったかの様に国内外で訳の分からない圧力を強める可能性が強く、また、日本政府も国連のガイドラインである事から無視する事が難しくなり、今後国内でも大きな影響が出て来る可能性も否定できない。
このガイドライン案は、児童の保護の強化を目的とするもので、その限りにおいて大いに賛同できる内容なのだが、私が特に問題視するのは次のような記載である。(以下、全て拙訳。)
第11ページ、第43段落:
43. Considering that child sexual abuse material, such as images and videos, can circulate indefinitely online, the Committee alerts States parties to the fact that the continuous circulation of such material, in addition to perpetuating the harm done to child victims, contributes to the promotion of a subculture in which children are perceived as sexual objects, and risks strengthening the belief among persons with a sexual interest in children that it is "normal" since many others share the same interest. The Committee therefore urges States parties to ensure that internet service providers control, block and, ultimately, remove such content as soon as possible as part of their prevention policies.
43.画像や映像の様な児童の性的虐待マテリアルが、いつまでもオンラインで流通し得る事を考え、委員会は、その様なマテリアルの継続的な流通が、児童の犠牲者に与える害を継続的にする事に加えて、児童が性的な対象と見る下位文化の促進に繋がり、他の多くの者が同じ関心を持っている事から、児童に性的関心を持つ者の間にそれは普通であると思わせる事を強める恐れがあるという事実について加盟国に警告する。したがって、委員会は、加盟国に、その抑止政策の一部として可能な限り早く、インターネットサービスプロバイダーが、その様なコンテンツをコントロール、ブロックし、最終的に削除する事を確保する事を強く求める。
第13、14ページ、第61、62段落:
61. Child pornography is defined in article 2 OPSC as "any representation of a child engaged in real or simulated explicit sexual activities, regardless of the means used, or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes". The qualification "by whatever means" reflects the broad range of material available in a variety of media, online and offline. It includes, inter alia: visual material such as photographs, movies, drawings and cartoons; audio representations; any digital media representation; live performances; written materials in print or online; and physical objects such as sculptures, toys, or ornaments.
62. The Committee urges States parties to prohibit, by law, child sexual abuse material in any form. The Committee notes that such material is increasingly circulating online, and strongly recommends States parties to ensure that relevant provisions of their Criminal Codes cover all forms of material, including when the acts listed in article 3.1(c) are committed online and including when such material represents realistic representations of non-existing children.
61.児童ポルノは、選択議定書の第2条において、「用いる手段によらず、実際の又は真似の明らかな性的行為を行う子供を写したあらゆるもの、又は主に性的な目的のための児童の性的な部位を写したあらゆるもの」と定義されている。「あらゆる手段による」という条件は、オンライン及びオフラインの様々な媒体において手に入る広い範囲のマテリアルを反映するものである。それは、特に次のものを含む:写真、映画、絵及び漫画の様な視覚に関するマテリアル;あらゆるデジタルメディアにおける写されたもの;ライブパフォーマンス;印刷された又はオンラインの書かれたマテリアル;及び彫刻、玩具又は装飾の様な物理的な対象。
62.委員会は、加盟国に、法によってあらゆる形式の児童の性的虐待マテリアルを禁止する事を強く求める。委員会は、そのようなマテリアルのオンラインにおける流通が増加している事に注意しており、加盟国に、その刑法の関連規定が、第3条第1項(c)に列挙されている行為がオンラインでされている場合及びそのようなマテリアルが非実在児童のリアリスティックな表現を表したものである場合を含め、全ての形式のマテリアルをカバーする事を強く推奨する。
第14ページ、第68段落:
68. Article 3.1(c) OPSC obliges Sates Parties to criminalise the acts of producing, distributing, disseminating, importing, exporting, offering, selling or possessing, for specific purposes, "child pornography". The Committee strongly recommends States Parties to criminalise the mere possession of such material, while granting due consideration to potential exceptions to this prohibition, for instance where professional requirements justify the possession of such material. Exceptions should be clearly framed by law and accompanied by procedures that establish when such material can be possessed and by whom.
68.選択議定書の第3条第1項(c)は、加盟国に、「児童ポルノ」の製造、配布、頒布、輸入、輸出、提供、販売又は特定の目的のための所持の行為を犯罪化する事を義務づけている。委員会は、加盟国が、例えば職業的な要請からその様なマテリアルの所持が正当化される場合の様な、禁止のあり得る例外について検討の上、その様なマテリアルの単純所持まで犯罪化する事を強く推奨する。例外は、その様なマテリアルがどの時に及び誰によって所持可能であるのかを確立するよう、明確に、法律によって枠が作られ、手続きが伴っていなければならない。
全体的にあくまでガイドラインとして曖昧な書き方に終始しているものの、要するに、この案は、前後の脈絡から考えて意味不明の形で、児童ポルノのブロッキング(第43段落)や単純所持(第68段落)、漫画等(第61段落)や非実在児童の性的表現(第62段落)の規制を各国に求めるものとなっているのである。
「児童ポルノ」という用語を「児童の性的虐待マテリアル」にする事を始めとして、実在の児童の保護を強化するという観点から多く書かれている、このガイドライン案の他の部分は賛同できるものである。しかし、児童ポルノに関する部分だけ表現の自由などの他の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない広範な規制を求めているのは、例によっていつもの有害無益な規制団体連のロビー活動の所為だろうか。はっきり言って、実在の児童の保護に向けられるべき各国政府の限りあるリソースを、この様な表現の自由に対する明らかな侵害によって、非実在児童に振り向けようとする事は、実在の児童の保護に真面目に取り組んでいる多くの人や団体に対する侮辱に他ならないだろう。
アメリカの児童保護団体の1つPROSTASIAがそのHPで提出意見を募っているなど、国内外でこの話はそれなりに知れ渡っている様であり、世界中からかなり多くの意見が集まるのではないかと思っており、私が出した意見はいつも国内のパブコメで書いている児童ポルノを理由としたブロッキングや単純所持、一般表現規制についての意見を英語に訳して出しただけなので省略するが、このガイドライン案については、その募集案内にある通り、英語(日本だとフランス語やスペイン語で出す方はほとんどいないと思うので)で書いたワードファイル(5ページ以内)で、3月31日までにメールで国連の児童の権利保護委員会に出す必要があり、ハードルは少し高いかも知れないが、国内でも、児童保護や各種表現の関係者やこの様な問題に関心のある方々には是非その内容に注意して意見を出す事を検討してもらいたいと思うものである。
(2019年3月18日夜の追記:リンク先を見れば分かる話だが、念のため、この意見募集は5ページ以内とされている事を括弧書きで追記した。)
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コメント
前回この話題で投稿させて頂いたものです。
取り上げて下さりありがとうございます。
本当これ困るんですよね。
各国の児童ポルノ禁止法自体あくまで実在児童保護を主とした法律なのにそれを判ってか判っていないのか、それとも悪意を持ってやっているのか、ここに創作物まで入れると単なる猥褻物規制法になってしまい、それこそ法律の根底自体おかしくなるんですよね。
(少なくとも日本において前々からその手の行動を国連でしている団体があると聞くので、今回もその可能性が高いのでしょうね…。)
本来ならば児童保護を主とする人達が真っ先にこんなもん怒る必要があると思うのですが、現実は彼らが推進している事をみても児童保護なんてどうでも良いと言っている様にしか思えません。
幾ら他の部分が良くてもこんな条文が含まれている以上、加担した人たちも同罪であるとしか思えません。
それこそ例の文化庁の小委員会並、いやそれ以上の悪辣さだと思います。
流石に余りに酷い内容だったので、稚拙ながら私も反対意見をさせて頂きましたが、これ日本の個人あるいは団体だけが反対しても効果が少ないと思いますので、本来ならば各国の海賊党やアメリカの図書館協会、コミック弁護基金あたりが動いて下さればよいのですがと思いますね…。
それでは失礼いたします。
投稿: 匿名 | 2019年3月26日 (火) 01時08分
追記したくて連投になり申し訳ないですが、昨今韓国やイギリスでもポルノブロッキングを行ったり行おうとしているのとこの国連の動きは関係あるのかもしれませんね。
少なくとも同じ連中が工作しているのかなとか思ったりしました。
どちらにしろ最近は著作権や児童の権利やポルノを持ち出してインターネット規制をする人間は碌な人物じゃない可能性が高いし、他の政策においてもほぼ無能である人物が多い様に思えてなりません。
それでは連投になり申し訳ありません。
失礼します。
投稿: 匿名 | 2019年3月26日 (火) 01時13分
こんばんわ。
第406回を読ませて頂いた限り、やはり文化庁はブロッキングもダウンロード規制も諦めていないようですね。
予想通りリーチサイト規制も碌でも無いものみたいですし(そもそもEUのリンク税と同じような問題点もありますし)本当に選挙結果次第ではやらかすと思います。
赤松氏のツイッターを見ても正直額面通りに受け取る事は出来ないです。
それと例のこの国連のパブコメの話ですが、コミック弁護基金はきちんと提出したみたいですね。
CBLDF Argues Against Expressive Content Restrictions In UN Guidelines
http://cbldf.org/2019/04/cbldf-argues-against-expressive-content-restrictions-in-un-guidelines/
正直どの程度の数が提出されたかは判りませんし、これからどうなるかは判らず、不安しかありませんが、日本の土壇場にならないと動かない団体や組織、そして漫画家などと違い、こういう最低限の意見はきちんと提出しているスタンスはツイッターで騒いでばかりの人達や日本の団体等も見習うべきであると読んでいて思いました。
それでは失礼しました。
投稿: 匿名 | 2019年4月 6日 (土) 02時20分
こんばんわ。
国連のガイドラインの決定稿が出ましたが予想通り、創作物規制がパラグラフ63に纏められて書かれていますね。
https://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/CRC/CRC.C.156_OPSC%20Guidelines.pdf
正直どの国でも児童ポルノ禁止法は実在児童保護の為の法律なのに委員会の人間はわざと非実在の保護も入れて、ただの猥褻物規制にしたいだけの様にしか思えません。
今回、各国からきたパブコメを見ても締結国に断りなく始めたようですし、パブコメも小手先だけ変えて中身の本質はまるで変っていないので、日本に限らず、さっさと条約解釈権違反等で委員会を逆に糾弾してほしい所です。
委員会が条約違反とか国連憲章違反とか前代未聞だと思います。
後、こちらは他の方にもメールしましたが、創作物規制以外の部分も割とひどいです。
苦手な英語ながら機械翻訳をかけつつ読みましたが、あまり変わっていないです。
読んで頂ければわかりますが、軽く読んでいてそのままか悪化している所さえある様な気がします。
草案43段落、決定稿41段落のブロッキングもそのままなのは請願で無効化したドイツ等の国にとっては迷惑でしょうし、草案68段落、決定稿65の単純所持規制もそのままです。
管轄権に関する草案84段落、決定稿80段落の飛行機や船舶でも逮捕できる様にする条項はまさに委員会のエゴであり、これは普通に警察の管轄や国家の法律の違いを考慮していない点も問題だと思います。
またチェコの指摘していた草案決定稿共に49の人身売買の段落や草案87決定稿83の域外管轄権、草案88決定稿84の二重犯罪に関しては言い回しを少し変えただけで内容はまるで変っていないとまるで国家からのパブコメも相手にしていない様子なのが良く見て取れます。
正直読んだ感想として、個人や団体はおろか、国家のパブコメすら委員会は軽視している印象を受けました。
委員会の都合の良い所だけ聞いていて、都合の悪い所は言葉だけをいじって、中身や本質を変えていない印象です。
どうも俗に言うオタクと呼ばれる方々は漫画等の規制に関わる部分しか見ていないですが、それ以外にも問題が多いと思います。
それではもし番号の間違いや的外れな所があれば申し訳ないです。
失礼致します。
投稿: 匿名 | 2019年9月19日 (木) 19時07分
コメントありがとうございます。
コメントに書いていただいた通りで、残念ながら国連児童権利委員会もパブコメで集まった声に真面目に耳を傾ける気はなかったのでしょう。
酷い話ですが、これで国の内外を問わず訳の分からない圧力がより一層強まる事を私も危惧しています。
投稿: 兎園 | 2019年9月28日 (土) 21時54分