第402回:文化庁・著作権分科会・法制・基本問題小委員会中間まとめに対する提出パブコメ
前回取り上げた、文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめに関する意見募集(電子政府のHP、文化庁のHP参照。2019年1月6日〆切。)について、以下のような意見を出したので、内容はほとんどいつも書いていることの繰り返しだが、念のため、ここに載せておく。前回も書いた通り、文化庁がどこまで意見を聞く気があるのか疑問ではあるが、このような著作権問題に関心のある方は是非意見を出す事をお勧めする。
(1)リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応について
①意見提出対象の区分:A:リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応
②賛成/反対:反対
③御意見(2000字以内):
現行現行の著作権法における民事の間接侵害(カラオケ法理)あるいは刑事の著作権侵害幇助との関係整理をおざなりにした、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加に反対する。
本当に悪質な場合について現行法で不十分というところがあれば、その点について立法による対処も当然あり得るだろうが、本中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して現行法に基づいてどこまで何をしたのか、現行法による対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について現行法では不十分なのかは全く不明である。
例えば、本中間まとめの第12ページでロケットニュース事件やリツイート事件を取り上げているが、これらの事件はニュースサイトやツイッターの様なSNSサイトにおけるリンク行為を取り扱ったものであって、いわゆるリーチサイトとは性質を異にすると考えるべきものである。カラオケ法理に関してはネットワークを通じた提供を含めて各種の民事での判例があり、著作権侵害幇助に関する刑事事件もあるのであって、本中間まとめは判例と現行法の解釈についての分析すら不十分であると言わざるを得ない。さらに言えば、ここで本当に問われるべきは、権利者団体が悪質なケースがあると主張しているにもかかわらず、その悪質なリーチサイトに対して何故いまだに民事・刑事での明確な裁判例が積み重なっていないのかということであろう。
さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分であって、インターネット利用における民事・刑事のリスクに関する不確実性を増すだけである、このような不十分な検討に基づくリンク行為へのみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加に私は断固反対する。
今現在、カラオケ法理の適用範囲がますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分である。本中間まとめにおけるこの部分は全て白紙に戻し、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定し、著作権法へセーフハーバー規定を導入することのみを速やかに検討するべきである。
(2)ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについて
①意見提出対象の区分:B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し
②賛成/反対:反対
③御意見(2000字以内):
ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大に反対する。
本中間まとめの第47ページから、諸外国における取り扱いについて書かれており、ドイツ、フランス、カナダ、アメリカ、イギリスの条文等を載せ、これらの国でダウンロード違法化がされており、効果が上がっているような印象操作がされているが、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。
本中間まとめの第47ページの注41で、平成25年12月の調査を引用しているが、この調査は文化庁と権利者団体中心のお手盛り調査であって何ら信頼に足るものではない。ファイル共有ソフトのノード数の減少はダウンロード犯罪化の運用が不明な中での一時的な現象であろうし、政府の委託調査で広くアンケートを取り違法行為をしているかと聞けば控えたと答えるに決まっているのでそのような回答の傾向はユーザーの行動の実態を表しているとは言えない。この様なお手盛り調査の我田引水は論外であるが、ダウンロード違法化・犯罪化がされた当時と比較して音楽と映像に関して違法にアップロードされている著作物のダウンロードは減っているのではないかとも思うが、それは単にストリーミングサービスも含めて利便性の高い正規のサービスが充実して来たことの結果に過ぎず、ここでダウンロード違法化・犯罪化がほとんど何の役にも立ってない事は日本のみならず世界的に同じ傾向が見られる事からも明らかであろう。
本中間まとめの第56ページで権利者団体側の一方的な主張に基づき被害額を試算して被害が甚大であるかのような印象操作がされているが、これも一方的な主張に過ぎず、送信可能化・アップロードとの関係でダウンロードによる損害額がどう算定されるのかすら分からない中、推定に推定を重ねたアクセス数に著作物の単価を掛けるような試算は乱暴の極みと言うほかなく真摯な立法論の基礎とするに足るものでは全くない。
違法サイトかどうか利用者からは区別がつかないという事はダウンロード違法化・犯罪化の議論当初から問題にされており、当時音楽団体がエルマークを持ち出したと記憶しているが、本中間まとめの第68ページで言及されている、出版社の「ABJマーク」なども、残念ながら、上の平成25年の文化庁委託調査ですら認知度が低い事が示されており、その後も認知が進んでいるとは到底思えない音楽団体のエルマークと全く同じ道を辿る事であろう。
さらに言えば、このようなダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。
すなわち、何ら合理的な根拠もなく、結論ありきでダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大を正当化している、本中間まとめにおけるこの部分は全て白紙に戻すべきである。
過去の意見募集においても繰り返しているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)等を完全に無視して行われたものであり、さらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無い、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3号及び第119条第3項の削除を速やかに行うべきである。
(3)アクセスコントロール等に関する保護の強化について
①意見提出対象の区分:B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し
②賛成/反対:反対
③御意見(2000字以内):
不正競争防止法と著作権法による二重保護の問題やDRM保護のそもそもの必要性について本来なされるべき検討もせずに行われようとしている、2つの法律の条文の辻褄合わせのような法改正のための法改正に反対する。
経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会において2018年1月にとりまとめられた「データ利活用促進に向けた検討中間報告」において書かれたDRM回避規制強化のための法改正を是とするに足る立法事実の変化はなく、このような法改正のための法改正はされるべきではなかったものである。
このような無意味なDRM規制強化の検討は全て白紙に戻し、今ですら不当に強すぎるDRM規制の緩和のための検討を不正競争防止法と合わせ速やかに開始するべきである。
特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。また、同時に、何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先の不正競争防止法改正で導入されたDRM回避規制の強化や、TPP関連として入れられたものも含め以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加についても、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。
(4)その他
①意見提出対象の区分:G:A~F以外
②賛成/反対:反対
③御意見(2000字以内):
著作権の保護期間の延長について元に戻す事を求めるとともに、私的録音録画補償金の対象範囲の拡大に反対し、一般フェアユース条項の導入を求める。
TPP11協定の発効に合わせて著作権の保護期間の延長が今まさに施行されようとしているが、TPP11協定では保護期間の延長は凍結されたのであって、この保護期間の延長は本来必要ではなかったものである。このように何ら国民的なコンセンサスを得ることもないまま、不合理ななし崩しの法改正により甚大な国益の喪失をもたらした事について私は日本政府を強く非難する。
日EU(欧)EPA協定にも著作権の保護期間の延長は含まれているが、これもTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものであって、著作権の保護期間の延長の様に国益の根幹に関わる点について易々と譲歩して協定を発効させようとしているなど、日本政府は完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。この日EU(欧)EPA協定に含まれる著作権の保護期間の延長にも私は反対する。
このように何ら国民的なコンセンサスを得ることもないまま、不合理ななし崩しの法改正あるいは秘密の条約交渉によってなされた著作権の保護期間の延長については必要な法改正及び条約改定によって元に戻す事を検討するべきである。
また、別の委員会で検討されている事であるが、私的録音録画補償金問題について、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではなく、私的録音録画補償金の対象範囲の拡大にも私は反対する。
そして、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。
| 固定リンク
« 第401回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制(リンク規制)の法制化を含む文化庁・著作権分科会・法制・基本問題小委員会中間まとめに関する意見募集の開始(2019年1月6日〆切) | トップページ | 第403回:2018年の終わりに »
「文化庁・文化審議会著作権分科会」カテゴリの記事
- 第492回:文化庁の2月29日時点版「AIと著作権に関する考え方について」の文章の確認(2024.03.03)
- 第490回:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集(2月12日〆切)に対する提出パブコメ(2024.01.28)
- 第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)(2023.12.28)
- 第487回:文化庁のAIと著作権に関する考え方の骨子案と総務省のインターネット上の誹謗中傷対策とりまとめ案(2023.12.10)
- 第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文(2023.03.12)
コメント