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2018年12月30日 (日)

第403回:2018年の終わりに

 TPP11協定の発効に伴って今日まさに著作権の保護期間の延長が施行された事を始めとして今年も非道い一年だったが、取り上げる暇があまりなかった各省庁の細かな動きについて最後にまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知的財産関係の法改正に絡む動きとしては、特許庁から、1月16日〆切で産業構造審議会・知的財産分科会・意匠制度小委員会報告書「産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて(案)」に対する意見募集の実施についてというパブコメが掛かっている。

 この特許庁の意匠制度の見直しについて(案)という報告書案は、意匠制度小委員会で検討されていたもので、意匠法の大幅な改正、保護強化を打ち出して来ており、「1.画像デザインの保護」、「2.空間デザインの保護」、「3.関連意匠制度の拡充」、「4.意匠権の存続期間の延長」、「5.複数意匠一括出願の導入」、「6.物品区分の扱いの見直し」、「7.その他」という各項目に書かれている事はどれも重要な法改正事項を含むが、ここでは、中でも大きなものと言えるだろう、「1.画像デザインの保護」、「2.空間デザインの保護」、「4.意匠権の存続期間の延長」の内容について以下簡単に紹介する。

 画像デザインの保護については、既存の意匠法の話が前提となっているので分かりにくいが、「操作画像や表示画像については、画像が物品(又はこれと一体として用いられる物品)に記録・表示されているかどうかにかかわらず保護対象とすることが適当」(第3ページ)、「他方、壁紙等の装飾的な画像や、映画・ゲーム等のコンテンツ画像等は、画像が関連する機器等の機能に関係がなく、機器等の付加価値を直接高めるものではない。これらの画像については、意匠法に基づく独占的権利を付与して保護する必要性が低いと考えられることから、保護対象に追加しないこととするべき」(同)と書かれている通りで、物品と一体となっていないような操作画像まで意匠保護の対象とするが、コンテンツ画像までは対象としないという事が書かれている。

 空間デザインの保護では、「現行意匠法の保護対象である『物品』(動産)に加え、『建築物』(不動産)を意匠の保護対象とすべき」(第5ページ)と、建築物の外観や内装まで意匠保護の対象とするとしている。

 意匠権の存続期間の延長としては、「意匠権の存続期間を20年から25年に延長すべき」(第10ページ)、「意匠権の存続期間を『登録日から20年』から、『出願日から25年』に見直すべき」と、保護期間を延長するとしている。

 特に、意匠権の保護期間延長については、報告書案の第10ページで、「意匠権の15年目現存率が、平成24年の17.3%から平成28年の22.0%へと増加していることから、意匠権を長期的に維持するニーズが高まっていることがうかがえる」、「諸外国と比較しても、欧州において、最長25年の意匠権の存続期間が認められている」と一応もっともらしい根拠も少し書かれているが、これも、本当に25年前のデザインを使う事があるのか、使う事があるとして、特許の保護期間ですら通常は20年で25年は例外的な延長の結果として認められるものに過ぎない中で、それは産業の発達のための創作保護法である意匠法で保護するべきものなのかという根本から考えるとかなり疑わしいものである。ただし、意匠権者が専有する権利は、特許と同じく、審査登録制を前提として、あくまで業として意匠の実施をする権利なので、著作権の保護期間の延長によって生じる様な問題は生じないだろう。(本報告書案の内容はともかく、意匠法の本当の問題はやはり著作権法との関係にあるのだが、そのレベルの問題の整理は極めて難しく、世界的に見ても当分進む事はないだろう。)

 特許庁が次に提出する事を考えているのだろう法改正はパブコメに掛かっている報告書案の内容の通り、意匠法中心なのだろうと思うが、特許制度小委員会商標制度小委員会も開催されており、それぞれ直近の12月25日の配布資料と12月27日の配布資料を見ると、証拠収集手続の強化や損害賠償額算定などについて検討が進められているようであり、他の事項も追加されるのかもしれない。

 経産省では、不正競争防止小委員会が11月20日に開催され、その配布資料として、限定提供データに関する指針(案)が示されている。この指針案に対するパブコメはもう締め切られているが、じきに案の取れた正式版の指針が出されるのだろう。(指針のレベルでどうこう言う事はないが、そもそもの法改正の必要性については私はいまだに疑問に思っている。)

 文化庁では、前回その報告書案に対するパブコメを載せた法制・基本問題小委員会以外にも、文化審議会・著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会国際小委員会が開催されている。直近の12月4日の利用・流通に関する小委員会で、配布資料として、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について(クリエーターへの適切な対価還元関係)(案)という資料が出されており、文化庁と権利者団体は相変わらず私的録音録画補償金の対象拡大を狙っていると知れるが、金さえ取れれば後は何でもいいと言わんばかりで、徹頭徹尾意味不明の理屈をずっと捏ね回している。12月19日の国際小委員会(配布資料参照)では追及権について議論された様だが、文化庁が最終的にどうするつもりなのかは良く分からない。

 知的財産戦略本部では、検証・評価・企画委員会知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会が開催されており、各種タスクフォースも開催されているが、来年の知財計画がどうなるのか、ブロッキング問題について知財本部として今後どうするつもりなのかは良く分からない状況である。

 今年は知財本部における著作権ブロッキングの検討が止まった事はかろうじて良かった事の一つとしてあげられるが、本来必要のなかったはずの著作権保護期間延長がTPP関連と称して不合理極まる形で国会を通されて施行されてしまうなど、ここ10年ほどの間で知財政策上悪い意味で大きなターニングポイントとなってしまった年として後世評価される事になるだろう。だからと言って私は諦めるつもりもない。今年も非道い一年だったが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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今年もためになる情報ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

投稿: | 2018年12月31日 (月) 11時32分

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