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2018年12月30日 (日)

第403回:2018年の終わりに

 TPP11協定の発効に伴って今日まさに著作権の保護期間の延長が施行された事を始めとして今年も非道い一年だったが、取り上げる暇があまりなかった各省庁の細かな動きについて最後にまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知的財産関係の法改正に絡む動きとしては、特許庁から、1月16日〆切で産業構造審議会・知的財産分科会・意匠制度小委員会報告書「産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて(案)」に対する意見募集の実施についてというパブコメが掛かっている。

 この特許庁の意匠制度の見直しについて(案)という報告書案は、意匠制度小委員会で検討されていたもので、意匠法の大幅な改正、保護強化を打ち出して来ており、「1.画像デザインの保護」、「2.空間デザインの保護」、「3.関連意匠制度の拡充」、「4.意匠権の存続期間の延長」、「5.複数意匠一括出願の導入」、「6.物品区分の扱いの見直し」、「7.その他」という各項目に書かれている事はどれも重要な法改正事項を含むが、ここでは、中でも大きなものと言えるだろう、「1.画像デザインの保護」、「2.空間デザインの保護」、「4.意匠権の存続期間の延長」の内容について以下簡単に紹介する。

 画像デザインの保護については、既存の意匠法の話が前提となっているので分かりにくいが、「操作画像や表示画像については、画像が物品(又はこれと一体として用いられる物品)に記録・表示されているかどうかにかかわらず保護対象とすることが適当」(第3ページ)、「他方、壁紙等の装飾的な画像や、映画・ゲーム等のコンテンツ画像等は、画像が関連する機器等の機能に関係がなく、機器等の付加価値を直接高めるものではない。これらの画像については、意匠法に基づく独占的権利を付与して保護する必要性が低いと考えられることから、保護対象に追加しないこととするべき」(同)と書かれている通りで、物品と一体となっていないような操作画像まで意匠保護の対象とするが、コンテンツ画像までは対象としないという事が書かれている。

 空間デザインの保護では、「現行意匠法の保護対象である『物品』(動産)に加え、『建築物』(不動産)を意匠の保護対象とすべき」(第5ページ)と、建築物の外観や内装まで意匠保護の対象とするとしている。

 意匠権の存続期間の延長としては、「意匠権の存続期間を20年から25年に延長すべき」(第10ページ)、「意匠権の存続期間を『登録日から20年』から、『出願日から25年』に見直すべき」と、保護期間を延長するとしている。

 特に、意匠権の保護期間延長については、報告書案の第10ページで、「意匠権の15年目現存率が、平成24年の17.3%から平成28年の22.0%へと増加していることから、意匠権を長期的に維持するニーズが高まっていることがうかがえる」、「諸外国と比較しても、欧州において、最長25年の意匠権の存続期間が認められている」と一応もっともらしい根拠も少し書かれているが、これも、本当に25年前のデザインを使う事があるのか、使う事があるとして、特許の保護期間ですら通常は20年で25年は例外的な延長の結果として認められるものに過ぎない中で、それは産業の発達のための創作保護法である意匠法で保護するべきものなのかという根本から考えるとかなり疑わしいものである。ただし、意匠権者が専有する権利は、特許と同じく、審査登録制を前提として、あくまで業として意匠の実施をする権利なので、著作権の保護期間の延長によって生じる様な問題は生じないだろう。(本報告書案の内容はともかく、意匠法の本当の問題はやはり著作権法との関係にあるのだが、そのレベルの問題の整理は極めて難しく、世界的に見ても当分進む事はないだろう。)

 特許庁が次に提出する事を考えているのだろう法改正はパブコメに掛かっている報告書案の内容の通り、意匠法中心なのだろうと思うが、特許制度小委員会商標制度小委員会も開催されており、それぞれ直近の12月25日の配布資料と12月27日の配布資料を見ると、証拠収集手続の強化や損害賠償額算定などについて検討が進められているようであり、他の事項も追加されるのかもしれない。

 経産省では、不正競争防止小委員会が11月20日に開催され、その配布資料として、限定提供データに関する指針(案)が示されている。この指針案に対するパブコメはもう締め切られているが、じきに案の取れた正式版の指針が出されるのだろう。(指針のレベルでどうこう言う事はないが、そもそもの法改正の必要性については私はいまだに疑問に思っている。)

 文化庁では、前回その報告書案に対するパブコメを載せた法制・基本問題小委員会以外にも、文化審議会・著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会国際小委員会が開催されている。直近の12月4日の利用・流通に関する小委員会で、配布資料として、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について(クリエーターへの適切な対価還元関係)(案)という資料が出されており、文化庁と権利者団体は相変わらず私的録音録画補償金の対象拡大を狙っていると知れるが、金さえ取れれば後は何でもいいと言わんばかりで、徹頭徹尾意味不明の理屈をずっと捏ね回している。12月19日の国際小委員会(配布資料参照)では追及権について議論された様だが、文化庁が最終的にどうするつもりなのかは良く分からない。

 知的財産戦略本部では、検証・評価・企画委員会知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会が開催されており、各種タスクフォースも開催されているが、来年の知財計画がどうなるのか、ブロッキング問題について知財本部として今後どうするつもりなのかは良く分からない状況である。

 今年は知財本部における著作権ブロッキングの検討が止まった事はかろうじて良かった事の一つとしてあげられるが、本来必要のなかったはずの著作権保護期間延長がTPP関連と称して不合理極まる形で国会を通されて施行されてしまうなど、ここ10年ほどの間で知財政策上悪い意味で大きなターニングポイントとなってしまった年として後世評価される事になるだろう。だからと言って私は諦めるつもりもない。今年も非道い一年だったが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2018年12月27日 (木)

第402回:文化庁・著作権分科会・法制・基本問題小委員会中間まとめに対する提出パブコメ

 前回取り上げた、文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめに関する意見募集(電子政府のHP、文化庁のHP参照。2019年1月6日〆切。)について、以下のような意見を出したので、内容はほとんどいつも書いていることの繰り返しだが、念のため、ここに載せておく。前回も書いた通り、文化庁がどこまで意見を聞く気があるのか疑問ではあるが、このような著作権問題に関心のある方は是非意見を出す事をお勧めする。

(1)リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応について

①意見提出対象の区分:A:リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応

②賛成/反対:反対

③御意見(2000字以内):

 現行現行の著作権法における民事の間接侵害(カラオケ法理)あるいは刑事の著作権侵害幇助との関係整理をおざなりにした、著作権侵害コンテンツへのリンク行為に対するみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加に反対する。

 本当に悪質な場合について現行法で不十分というところがあれば、その点について立法による対処も当然あり得るだろうが、本中間まとめを読んでも、権利者団体の一方的かつ曖昧な主張が並べられているだけで、権利者団体側がリーチサイト等に対して現行法に基づいてどこまで何をしたのか、現行法による対処に関する定量的かつ論理的な検証は何らされておらず、本当にどのような場合について現行法では不十分なのかは全く不明である。

 例えば、本中間まとめの第12ページでロケットニュース事件やリツイート事件を取り上げているが、これらの事件はニュースサイトやツイッターの様なSNSサイトにおけるリンク行為を取り扱ったものであって、いわゆるリーチサイトとは性質を異にすると考えるべきものである。カラオケ法理に関してはネットワークを通じた提供を含めて各種の民事での判例があり、著作権侵害幇助に関する刑事事件もあるのであって、本中間まとめは判例と現行法の解釈についての分析すら不十分であると言わざるを得ない。さらに言えば、ここで本当に問われるべきは、権利者団体が悪質なケースがあると主張しているにもかかわらず、その悪質なリーチサイトに対して何故いまだに民事・刑事での明確な裁判例が積み重なっていないのかということであろう。

 さらに、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分であって、インターネット利用における民事・刑事のリスクに関する不確実性を増すだけである、このような不十分な検討に基づくリンク行為へのみなし侵害規定の追加及び刑事罰付加に私は断固反対する。

 今現在、カラオケ法理の適用範囲がますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分である。本中間まとめにおけるこの部分は全て白紙に戻し、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定し、著作権法へセーフハーバー規定を導入することのみを速やかに検討するべきである。

(2)ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについて

①意見提出対象の区分:B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し

②賛成/反対:反対

③御意見(2000字以内):

 ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大に反対する。

 本中間まとめの第47ページから、諸外国における取り扱いについて書かれており、ドイツ、フランス、カナダ、アメリカ、イギリスの条文等を載せ、これらの国でダウンロード違法化がされており、効果が上がっているような印象操作がされているが、アップロードとダウンロードを合わせて行うファイル共有サービスに関する事件を除き、どの国においても単なるダウンロード行為を対象とする民事、刑事の事件は1件もなく、日本における現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化も含め、このような法制が海賊版対策として何の効果も上がっていないことは明白である。

 本中間まとめの第47ページの注41で、平成25年12月の調査を引用しているが、この調査は文化庁と権利者団体中心のお手盛り調査であって何ら信頼に足るものではない。ファイル共有ソフトのノード数の減少はダウンロード犯罪化の運用が不明な中での一時的な現象であろうし、政府の委託調査で広くアンケートを取り違法行為をしているかと聞けば控えたと答えるに決まっているのでそのような回答の傾向はユーザーの行動の実態を表しているとは言えない。この様なお手盛り調査の我田引水は論外であるが、ダウンロード違法化・犯罪化がされた当時と比較して音楽と映像に関して違法にアップロードされている著作物のダウンロードは減っているのではないかとも思うが、それは単にストリーミングサービスも含めて利便性の高い正規のサービスが充実して来たことの結果に過ぎず、ここでダウンロード違法化・犯罪化がほとんど何の役にも立ってない事は日本のみならず世界的に同じ傾向が見られる事からも明らかであろう。

 本中間まとめの第56ページで権利者団体側の一方的な主張に基づき被害額を試算して被害が甚大であるかのような印象操作がされているが、これも一方的な主張に過ぎず、送信可能化・アップロードとの関係でダウンロードによる損害額がどう算定されるのかすら分からない中、推定に推定を重ねたアクセス数に著作物の単価を掛けるような試算は乱暴の極みと言うほかなく真摯な立法論の基礎とするに足るものでは全くない。

 違法サイトかどうか利用者からは区別がつかないという事はダウンロード違法化・犯罪化の議論当初から問題にされており、当時音楽団体がエルマークを持ち出したと記憶しているが、本中間まとめの第68ページで言及されている、出版社の「ABJマーク」なども、残念ながら、上の平成25年の文化庁委託調査ですら認知度が低い事が示されており、その後も認知が進んでいるとは到底思えない音楽団体のエルマークと全く同じ道を辿る事であろう。

 さらに言えば、このようなダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大は、研究など公正利用として認められるべき目的のダウンロードにも影響する。

 すなわち、何ら合理的な根拠もなく、結論ありきでダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大を正当化している、本中間まとめにおけるこの部分は全て白紙に戻すべきである。

 過去の意見募集においても繰り返しているが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化・犯罪化は法規範としての力すら持ち得ず、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利の観点からも問題がある。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、今のところ幸いなことに適用例はないが、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。過去の文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hokoku.htmlの意見募集の結果参照)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)等を完全に無視して行われたものであり、さらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無い、百害あって一利ないダウンロード違法化・犯罪化を規定する著作権法第30条第1項第3号及び第119条第3項の削除を速やかに行うべきである。

(3)アクセスコントロール等に関する保護の強化について

①意見提出対象の区分:B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し

②賛成/反対:反対

③御意見(2000字以内):

 不正競争防止法と著作権法による二重保護の問題やDRM保護のそもそもの必要性について本来なされるべき検討もせずに行われようとしている、2つの法律の条文の辻褄合わせのような法改正のための法改正に反対する。

 経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会において2018年1月にとりまとめられた「データ利活用促進に向けた検討中間報告」において書かれたDRM回避規制強化のための法改正を是とするに足る立法事実の変化はなく、このような法改正のための法改正はされるべきではなかったものである。

 このような無意味なDRM規制強化の検討は全て白紙に戻し、今ですら不当に強すぎるDRM規制の緩和のための検討を不正競争防止法と合わせ速やかに開始するべきである。

 特に、DRM回避規制に関しては、有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。また、同時に、何ら立法事実の変化がない中、ドサクサ紛れに通された、先の不正競争防止法改正で導入されたDRM回避規制の強化や、TPP関連として入れられたものも含め以前の著作権法改正で導入されたアクセスコントロール関連規制の追加についても、速やかに元に戻す検討がなされるべきである。

(4)その他

①意見提出対象の区分:G:A~F以外

②賛成/反対:反対

③御意見(2000字以内):

 著作権の保護期間の延長について元に戻す事を求めるとともに、私的録音録画補償金の対象範囲の拡大に反対し、一般フェアユース条項の導入を求める。

 TPP11協定の発効に合わせて著作権の保護期間の延長が今まさに施行されようとしているが、TPP11協定では保護期間の延長は凍結されたのであって、この保護期間の延長は本来必要ではなかったものである。このように何ら国民的なコンセンサスを得ることもないまま、不合理ななし崩しの法改正により甚大な国益の喪失をもたらした事について私は日本政府を強く非難する。

 日EU(欧)EPA協定にも著作権の保護期間の延長は含まれているが、これもTPP協定同様の姑息かつ卑劣な秘密交渉で決められたものであって、著作権の保護期間の延長の様に国益の根幹に関わる点について易々と譲歩して協定を発効させようとしているなど、日本政府は完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。この日EU(欧)EPA協定に含まれる著作権の保護期間の延長にも私は反対する。

 このように何ら国民的なコンセンサスを得ることもないまま、不合理ななし崩しの法改正あるいは秘密の条約交渉によってなされた著作権の保護期間の延長については必要な法改正及び条約改定によって元に戻す事を検討するべきである。

 また、別の委員会で検討されている事であるが、私的録音録画補償金問題について、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではなく、私的録音録画補償金の対象範囲の拡大にも私は反対する。

 そして、ユーザーに対する意義からも、アメリカ等と遜色ない形で一般フェアユース条項を可能な限り早期に導入するべきである。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

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2018年12月10日 (月)

第401回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制(リンク規制)の法制化を含む文化庁・著作権分科会・法制・基本問題小委員会中間まとめに関する意見募集の開始(2019年1月6日〆切)

 最後の12月7日の文化審議会・著作権分科会・法制・基本問題小委員会の資料がまだ文化庁のHPにアップされていないが、先日から報道されている通り、文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめが2019年1月6日〆切でパブコメにかかった。(電子政府のHP、文化庁のHP参照。)

 文化庁の今回の中間まとめはダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制(リンク規制)の法制化を含むものであって、インターネットにおける情報・表現の自由に非常に大きな影響を及ぼす可能性のあるものであり、ここでも、その内容を見て行きたいと思う。

 この中間まとめ(pdf)の章立ては、「第1章 リーチサイト等を通じた侵害コンテツへの誘導行為への対応」、「第2章 ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」、「第3章 アクセスコントロール等に関する保護の強化」、「第4章 著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化」、「第5章 著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入」、「第6章 行政手続に係る権利制限規定の見直し(地理的表示法・種苗法関係)」、「第7章 その他(改正著作権法第47条51項3号規定に基づく政令ニーズ)」となっており、第7章を除いてそれぞれ全て法改正事項として書かれており、以下で順に取り上げて行くが、中でも「リーチサイト等を通じた侵害コンテツへの誘導行為対応」、「ダウンロード違法化の対象範囲見直し」は問題が大きく、「アクセスコントロール等に関する保護の強化」はそれに次ぐと言っていいだろう。(なお、これらは意見募集要領(pdf)ではA~Gの区分とされている。)

(1)リーチサイト規制(リンク規制)の法制化
 まず第1章のリーチサイト等を通じた侵害コンテツへの誘導行為への対応は第2ページから始まるが、権利者団体のリーチサイトについてどこまで現行法による対応を真剣に試みたのか不明な規制強化ありきの主張と、消費者団体等のリンク規制には慎重であるべきとする主張が両論併記の形で並べられた後、第22ページからの検討結果から、リーチサイト規制(リンク規制)の法改正のポイントとなるだろう部分を抜き出して行くと以下のようになる。

(1)民事(差止請求について)(第22ページ~)
ア.総論(略)

イ.場・手段について:「差止請求の対象とするべき『場・手段』は,社会通念上いわゆる『リーチサイト』・『リーチアプリ』として認知されているような,類型的に侵害コンテンツの拡散を助長する蓋然性が高い悪質なものに限定することが適当」(第24ページ)

ウ.主観について:「侵害コンテンツであることへの認識に関し一定の主観要件を課すことが適当」、「具体的には,『違法にアップロードされた著作物と知っている場合,又はそう知ることができたと認めるに足る相当の理由がある場合』等として,侵害コンテンツであることについて故意・過失が認められる場合に限定することが適当」(第24ページ)

エ.行為について:「実質的に侵害コンテンツへの到達を容易に行えるようにする情報の提供等と評価できる行為であれば,これを差止請求の対象とすること(が)適当」(第26ページ等)

オ.対象著作物について
ⅰ 有償著作物等への限定を行うべきか否かについて:「限定を行わないこととするのが適当」(第27ページ)
ⅱ いわゆるデッドコピー等への限定を行うべきか否かについて:「オリジナルの著作物の相当部分をそのまま利用しているようなケースについては差止めの対象とするべきという考え方を基本としつつ,具体的な制度設計に当たっては,差し当たり緊急に対応する必要性の高い悪質な行為類型への対応という今般の制度整備の考え方,対象範囲を限定することによる潜脱のおそれ,対象範囲の限定の仕方が明確でない場合には萎縮効果を生じるおそれがあること,立法技術上の対応可能性なども踏まえ,どのような形で対象を規定するのが妥当かについて検討が行われることが適当」(第29ページ)
ⅲ 国外における侵害コンテンツの取扱い:「国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものに係るリンク情報等についても差止請求の対象とすることが適当」(第29ページ)

カ.その他の要素(正当な目的を有する場合の取扱い等)について:「具体的な制度設計に当たり,場・手段に関する要件の設定の仕方も念頭において,そうした場等において行われる侵害コンテンツへのリンク情報等の提供をする行為のうち差止めの対象外とするべきケースとしてどのようなものがあるかを検討した上で,場・手段の要件の内容も踏まえて特別な除外規定の要否の判断が行われることが適当」(第30ページ)

キ.リーチサイト運営者に対する差止請求について
ⅰ 個々の著作物に係るリンク情報等の提供行為に関する差止請求について:「リーチサイト運営者の個々のリンク情報等に関する責任についての立法的な対応の当否については,以上の点を勘案して検討が行われる必要がある」(第31ページ)
ⅱ リーチサイト運営行為そのものに関する差止請求について:「サイト運営の差止めを請求する権利を個々の権利者に付与することは過剰差止めとなるおそれがあること,及びサイトの中に含まれる適法な情報との関係でも過剰差止めの問題が生じることから,慎重な検討が必要」(第32ページ)

(2)刑事について(第32ページ~)
ア.新たな罰則を設ける必要性について(略)

イ.具体的な制度設計について
ⅰ リーチサイト・リーチアプリ等におけるリンク情報の提供行為に係る罰則:「みなし侵害になるようなリーチサイト等の侵害コンテンツを拡散する蓋然性の高い場等において侵害コンテンツのリンク情報等を提供する行為は,悪質性が強いと認められ,抑止効果が生じるようにすることが適当」(第33ページ)
ⅱ リーチサイト運営・リーチアプリ提供行為に係る罰則:「リーチサイトやリーチアプリといった,侵害コンテンツへの到達を容易にすることによって侵害コンテンツを拡散する蓋然性の高い場の運営や手段の提供を行うことは,個々のリンク情報等の提供を行う者との比較において,違法行為を助長する度合いがより大きく,社会総体として見たときに著作権者により深刻な不利益を及ぼしていると評価できることから,個々の著作物等に係るリンク情報等の提供行為とは独立して,社会的な法益侵害を及ぼすものとして,罰則の対象とするべき」(第33ページ)
ⅲ 法定刑について:「現行著作権法における罰則の法定刑の考え方との整合性に留意しつつ,今般創設する各罰則の法益侵害の度合いに照らして適切な法定刑が検討されることが適当」(第34ページ)

 第35ページ以降の「インターネット情報検索サービスへの対応について」で、「現時点において直ちに立法的対応の検討を進めることはせずに,まずは当事者間の取組みの状況を見守ることとし,協議が一定程度進捗した段階で進捗状況等の報告を受け,必要に応じ対応を検討していくことが適当」(第42ページ)とされているので、検索エンジンについて特別な法改正がされることはなく、また、「最初の対応に当たっての基本的な考え方」で「海賊版蔵置サイトやリーチサイトのような場以外の場(例えば個人が一般的な言論活動を行うことを目的として開設しているSNSのアカウント等)において行われる表現の中に侵害コンテンツのリンク情報が単発的に含まれているようなケースについては,(ゲーム関係者から要望のあった汎用的なUGCサイトにおける事案も含め)その被害実態が必ずしも明らかではない。したがって,正当な表現行為の萎縮が生じないよう,こうした場における表現行為は今般の法的措置の対象とはしないこととし,当該行為に対する差止請求の可否については,引き続き現行法の解釈・運用に委ねることとすることが適当」(第23ページ)と書かれていることにも注意しておくべきだろうが、上で抜き出した部分をまとめると、良く分からない部分も多いものの、文化庁がリーチサイト規制(リンク規制)として考えている法改正は、著作権法第113条のみなし侵害規定の項の一つとして以下のようなものを追加し、合わせて刑事罰も付加しようとするものではないかと思える。(いつものことだが、報告書だけで具体的な条文案をつけない役所のやり方は卑怯という他なく、以下はあくまでダウンロード違法化や検索エンジンの例外などの条文から私が類推したものである。)

著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)に係る送信元識別符号(注:リンク情報)等を、その事実を知りながら又はそう知ることができたと認めるに足る相当の理由がある場合に、その著作権の侵害を助長する蓋然性が高い方法により、提供する行為は、それらの著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

 このようなリーチサイト規制(リンク規制)の法制化は一応それらしく限定されているようにも読めるが、ここでの最大の問題点は、この文化庁の検討が生煮えもいいところであって、本来先に検討するべき現行の著作権法における民事の間接侵害(カラオケ法理)あるいは刑事の著作権侵害幇助との関係整理を投げ捨てて、みなし侵害規定の追加ありきで法制化を考えている点である。本当に悪質な場合について現行法で不十分というところがあれば、立法による対処も当然あり得るだろうが、本当にどのような場合について現行法では不十分なのか残念ながら報告書を読んでも良く分からず、このような間接侵害あるいは幇助の検討において当然必要とされるはずのセーフハーバーの検討も極めて不十分であって、このような生煮えの検討に基づくみなし侵害規定の追加は、インターネット利用における民事・刑事のリスクに関する不確実性が増すだけと私には思える。

(2)ダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大
 そのインターネット上の海賊版対策に関する検討会議が頓挫したことから、知財本部が急いで文化庁にねじ込んだためだろうが、次の第43ページからの第2章ダウンロード違法化の対象範囲の見直しとなるとさらに生煮えの感が高まる。

 この点について他の国の状況が何ら参考にならないことはここで繰り返し書いて来ており、日本でも現行の録音録画に関するダウンロード違法化・犯罪化について海賊版対策として何ら効果が上がっていないことは明白だと思うが、文化庁はこの報告書で取ってつけた様に各国でダウンロード違法化がされており、効果が上がっているような印象操作を書いて、第66ページで「録音・録画と同様の要件の下,対象範囲を著作物全般に拡大していくことについては相当程度の合理性が認められる」、第67ページで「対象範囲の拡大に当たっても,抑止効果を確保する観点から,同様に,有償で提供・提示されたものに限って刑事罰を科すことが適当」と、結論ありきでダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大を正当化しているのである。

 第66ページには、「具体的な対象範囲の在り方としては,録音・録画と同様の要件の下,対象範囲を著作物全般に拡大していくことを基本としつつ,並行してパブリックコメント等を通じて,事務局において引き続きユーザー保護が必要となる事例の有無について更なる検証を進めることが適当である。仮に,その中で,ユーザー保護の必要性・正当性が明らかな事例等が確認された場合には,それに即して,上記(4)で示した選択肢も参考に,悪影響が生じない形での限定方法を検討の上,立法措置に反映させることが適当であると考えられる」と、あたかもパブリックコメントで集めた意見を取り上げるかのような記載もあるが、拡大の結論ありきで報告書が書かれ、ほとんど大した根拠もなく「対象範囲を著作物全般に拡大していくことを基本」とすると決めつけているところで、広く集めた意見を本当にきちんと取り上げる気があるのか甚だ疑わしい。

(ダウンロード犯罪化の拡大については、TPP11関連法で導入される一部非親告罪化との関係も問題となるが、第68ページの「ダウンロード違法化に係る刑事罰については,全て親告罪のまま維持することが適当」ということはあまりにも当然の事でしかない。)

 このダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大について、また昔のように大量のパブコメが提出される事を恐れてか、文化庁らしくもなく、「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する留意事項(pdf)という参考資料がついており、「パブリックコメントに意見を提出いただく前に、必ず御一読ください」という文章とともに、「ダウンロード違法化に関して(中略)ダウンロード型の海賊版サイト等も多数存在しており、それらのサイトによる被害の拡大を防止するための措置として一定の効果が見込めるもの」だとか、「ダウンロード違法化についても(中略:海賊版対策の)手法の一つとして有効かつ重要なもの」だとか、「単に視聴・閲覧する行為は違法となりません」だとか、「視聴・閲覧に伴うキャッシュやプログレッシブダウンロードについても、著作権法第47条の8(平成30年改正後は第47条の4第1項)により適法となります」だとか、「特定少数者間でのメール送信や、個人が使用するクラウドロッカーからの送信等は含まれません」だとか、「ウェブサイトに掲載されたテキスト・画像をプリントアウトする行為や、そこでプリントアウトされたものを更にPDF化してコンピュータに保存する行為は違法とはなりません」だとか、「『複製』とは、手段を問わず著作物を有形的に再製することを指すものですので、右クリックによる保存のほか、スクリーンショット等も対象に含まれます」だとか、「『違法か適法か判断がつかなかった』、『通常であれば、違法だと当然に知っているべき状況だったが、本人は知らなかった』等の場合には、違法となりません」だとか、くどくど書いているが、私はこんなところで誤解などしていないし、今まで文化庁関連のパブコメの結果は十年以上見て来ているが、昔も今も全くないとまでは言わないが、このような基本的なところで誤解して出されている意見はそこまで多く見かけるものではない。

(3)アクセスコントロール等に関する保護の強化
 上の2つに比べると、法改正としては小さい話だが、第70ページからの第3章アクセスコントロール等に関する保護の強化も問題がある。

 細かな条文に関する話は省略するが、ここで書かれているのは、以下の通り、要するに不正競争防止法の技術的制限手段の規制と著作権法の技術的利用制限手段(前は技術的保護手段)の規制を合わせようとするものである。

・「著作権法においても,定義規定の文言上の疑義により近時のソフトウェアの不正使用の態様に適切な対応ができない状況が生じるのは望ましくないと考えられることから,『技術的利用制限手段』の定義規定における『・・とともに』という文言を削除し,アクティベーション方式が含まれることを明確化することが適当」(第73ページ)

・「不正なシリアルコード(指令符号)の提供等は,回避装置・プログラムの提供等と同様に,多くのユーザーによる技術的利用制限手段の回避行為を助長する悪質な行為であり,正規のライセンス購入を減少させ,当該ソフトウェア等の著作権者の経済的利益を不当に害するものであることから,著作権法においても,著作権者の経済的利益の保護に万全を期す観点から,新たに規制対象とすることが適当」(第75ページ)

 既に不正競争防止法の改正が成立しているので、このような法改正の提案は予想されたこととはいえ、私は不正競争防止法やTPP11関連法によるDRM規制の強化にも反対であり、不正競争防止法と著作権法による二重保護の問題やDRM保護のそもそもの必要性についてなされるべき検討もせずに、このような2つの法律の条文の辻褄合わせのような改正には全く賛成できない。

(4)その他
 その他の話はマニアックでかつ特に大きな問題がある訳ではないので、ポイントの抜粋だけに留めるが、第81ページからの第4章著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化では、今年の不正競争防止法や特許法等の改正に合わせ、「『文書提出命令の申立ての対象書類等が侵害立証・損害額計算のために必要な書類であるか否かを判断する場合』にもインカメラ手続を用いることができるよう見直しを行うのが適当」(第85ページ)、「インカメラ手続に専門委員を関与させることができるよう見直しを行うのが適当」(第86ページ)とされ、第87ページからの第5章著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入では、ライセンスの対抗要件として登録を求めない「対抗要件を要することなく当然に対抗できることとする制度(当然対抗制度)を導入することが妥当」(第108ページ)(平成23年特許法改正に対応するもの)とされ、第135ページからの第6章行政手続に係る権利制限規定の見直し(地理的表示法・種苗法関係)では、「地理的表示法に基づく審査手続や種苗法に基づく審査手続・調査手続において,必要と認められる限度で行われる著作物の複製を権利制限の対象とすることが適当」(第144ページ)(特許庁での手続きについて平成18年著作権法改正で対応されていることから、それに続くもの)とされている。

 ざっと読んだだけだが、この文化庁の報告書に含まれているものの中でも、リーチサイト規制(リンク規制)の法制化とダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大の問題は非常に大きく、私は今回のパブコメも提出するつもりである。

(2018年12月12日夜の追記:幾つか誤記を直した。)

(2018年12月13日夜の追記:文化庁のHPにも中間まとめに対する意見募集の案内が掲載されていたので上でリンクを追加した。)

(2018年12月30日夜の追記:技術的制限手段は定義として技術的保護手段の次に入れられるもので(このTPP関連として入れられたアクセスコントロール規制の条文については第360回参照)、「技術的利用制限手段(元は技術的保護手段)」というのは少し変なのでこれを「技術的利用制限手段(前は技術的保護手段)の規制」という書き方に改めた。)

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