第397回:著作権ブロッキングに関する2018年2月1日のミュンヘン地裁判決及び6月14日の高裁判決
知財本部でインターネット上の海賊版対策に関する検討会議が7月25日の第4回まで開かれており、またよほど検討を焦っているのか、8月10日にはインターネット上の海賊版対策に関する勉強会も開かれている。
この検討会議では有名な大学教授が多く委員になっており、外国の話についてあまり間違った事が言われるとも思わないが、この検討会議の議論の様子を見つつ、補足をしておいた方がいいと私が思う点をここでも少し書いて行きたいと思う。
まず、今回はドイツの話をしたいと思うが、7月25日の第4回の検討会議において、委員でもある早稲田大学の上野教授がドイツ著作権法におけるブロッキング(pdf)という資料を提出し、2018年2月1日にミュンヘン地裁の決定があったことについて説明をしている。ミュンヘン地裁がドイツ法の妨害者責任から初めて著作権ブロッキングを認容した事、日本法にはドイツ法の妨害者責任の様な考え方がない事、日本の著作権法で差し止めとしてのサイトブロッキングを認めるならカラオケ法理によるだろうが正当化根拠はなお検討の余地がある事といった上野教授の説明は何ら間違いではない。
ただ、この地裁の判決(仮処分事件なので訳語は決定の方がいいかも知れないが、ここでは判決としておく)とその後の高裁の判決の内容は以下のようなものであり、これらの判決を見ても、ヨーロッパ及びドイツの状況は、去年第379回や第380回で書いた事からほとんど変わっていないというのが私の認識である。
このドイツの仮処分事件は、ドイツのボーダフォンとドイツのコンスタンティンフィルムの間で争われたもので、最初に、2018年2月1日のミュンヘン地裁の判決文の冒頭に書かれている概要部分を訳出すると以下のようになる。
1. Auch gegen Anbieter von Telemediendiensten nach dem Telemediengesetz kann aus europarechtlichen Erwagungen nach den Grundsatzen der Storerhaftung vorgegangen werden. Durch das Dritte Anderungsgesetz zum Telemediengesetz wurde die Moglichkeit der Inanspruchnahme von "regularen" Internet-Zugangsprovidern nicht neu geregelt, so dass insbesondere der § 8 Abs. 1 S. 2 TMG einer Inanspruchnahme aus Storerhaftung nicht entgegensteht. (Rn. 29) (redaktioneller Leitsatz)
2. Der Wortlaut von § 8 Abs. 1 S. 2 TMG ist im Wege der Auslegung dahingehend einzuschranken, dass er sich allein auf die in § 7 Abs. 4 TMG genannten privilegierten Nutzer bezieht. Denn es liegt ein offensichtlicher Widerspruch zur Gesetzesbegrundung vor. Der Gesetzgeber wollte mit dem Dritten Anderungsgesetz zum Telemediengesetz allein die Haftung der Anbieter von WLAN-Netzwerken regeln. (Rn. 34) (redaktioneller Leitsatz)
3. Es ist unzumutbar, einen privaten Rechteinhaber, der Rechte aus einem Film geltend macht, der gerade neu erschienen ist und deshalb in der wichtigsten Phase seiner wirtschaftlichen Verwertung steht, auf ein zeitaufwendiges vorheriges Vorgehen gegen im Ausland ansassige, offensichtlich nicht erreichbare und daruber hinaus hoch kriminell agierende Rechtsverletzer (hier: kinox.to) zu verweisen, wenn er verschiedene Masnahmen gegen die Verantwortlichen des Angebots versucht hat, die nicht erfolgreich gewesen sind. (Rn. 58 und 61) (redaktioneller Leitsatz)
4. Das Angebot von kinox.to ist nicht schutzwurdig, weil es offensichtlich in hoch krimineller Art und Weise auf die viel-tausendfache Verletzung von Urheberrechten ausgerichtet ist. Dies folgt bereits aus der Aufmachung der Seite und der Tatsache, dass keine Impressumsangaben vorhanden sind. In marktschreierischer Weise wird den Nutzern der Seite der illegale Zugang zu Filmen und Serien ermoglicht. In einer Gesamtschau ist es fur jedermann ersichtlich, dass es sich um ein offensichtlich auf die Verbreitung von urheberrechtswidrig erlangten Inhalten ausgerichtetes Angebot handelt. (Rn. 66) (redaktioneller Leitsatz)
1.通信メディア法による通信メディアの提供者に対しても、欧州法も考慮し、妨害者責任の原則は適用され得る。通信メディア法の第3次改正法により、「通常の」インターネットアクセスプロバイダーについての請求の規定が改められた訳ではなく、特に通信メディア法第8条第1項第2号が妨害者責任から来る請求の妨げとなる事はない。
2.通信メディア法第8条第1項第2号の条文は、通信メディア法第7条第4項にあげられた特別な利用者にのみ関係すると限定して解釈されるべきである。ここには、立法と明らかに矛盾する主張がある。立法府は、通信メディア法の第3次改正法により、WLANネットワークの提供者の責任のみを規定しようと考えていた。
3.新しく公開され、したがってその経済的利用の重要な段階にある映画の権利を主張する民間の権利者が、提供の責任に対する様々な手段を試み、成功しなかった時に、外国にあり、明らかに到達不可能であり、そこから高度に犯罪的に振る舞っている侵害者(ここでは:Kinox.to)を時間のかかる事前の請求によって排除しようとする事までは要求し難い。
4.それは高度に犯罪的なやり方で明らかに何千件もの著作権侵害に向けられたものであり、Kinox.toの提供は保護に値しない。発行者の表示がないという、サイトの作り及び事実からもこの事はすぐに導かれる。過大な形でサイトの利用者に映画とシリーズへの違法なアクセスが可能とされている。全体を見た時に、それは明らかに著作権侵害コンテンツの頒布に向けられた提供を扱っている。
上の概要は上野教授の資料に書かれている通りだと思うが、この判決の主文もここで訳しておくと以下のようになる。
I. Der Antragsgegnerin wird es bei Meidung eines fur jeden Fall der Zuwiderhandlung falligen Ordnungsgeldes bis zu EUR 250.000,-, ersatzweise Ordnungshaft, oder Ordnungshaft bis zu 6 Monaten, im Wiederholungsfall Ordnungshaft bis zu 2 Jahren, wobei die Ordnungshaft oder Ersatzordnungshaft an dem Vorstand der Antragsgegnerin zu vollziehen ist, untersagt, ihren Kunden uber das Internet Zugang zum Film "Fack Ju Gohte 3" zu vermitteln, soweit dieser Film uber den gegenwartig "KINOX.TO" genannten Internetdienst abrufbar ist, wie nachfolgend eingeblendet:
...Ⅰ.被請求人は、違反行為の場合に生じる25000ユーロまでの秩序金を回避した場合における、代替的秩序拘禁、または6月までの秩序拘禁、再違反の場合の2年までの秩序拘禁、そこで被請求人の取締役への秩序拘禁または追加秩序拘禁が執行される、により、以下に挿入されている通り、現在「KINOX.TO」という名のインターネットサービス上で呼び出す事が可能になっている限り、映画「Fack Ju Gothe 3」へのインターネット上のアクセスを顧客に仲介する事を禁じられる:
(以下、サイトのスクリーンショットは省略。)
この事件は当たり前の様に控訴され、2018年6月14日にはミュンヘン高裁で控訴の判決が出されているが、やはりボーダフォン側が敗訴している。その判決文の冒頭に出ている概要には以下のように書かれている。
1. Ein Unterlassungsantrag ist nur insoweit hinreichend bestimmt im Sinne von § 253 Abs. 2 S. 2 ZPO, soweit er sich auf die konkret benannten Domains und die benannte IP-Adresse bezieht. Ihm muss aber nicht unmittelbar zu entnehmen sein, welche konkreten Handlungs- und Prufpflichten der Antragsgegnerin abverlangt werden sollen. Es reicht aus, wenn sich die zu befolgenden Sorgfalts- und Prufpflichten aus der Antragsbegrundung und den Entscheidungsgrunden ergeben. (Rn. 20 - 21) (red. LS Gotz Schulze)
2. § 8 Abs. 1 S. 2 TMG ist unionsrechtskonform teleologisch dahin zu reduzieren, dass er nur WLAN-Betreiber, nicht aber andere Access-Provider von der Storerhaftung ausnimmt. (Rn. 40) (red. LS Gotz Schulze)
3. Die Vermittlung des Zugangs zum Internet ist ein von der Rechtsordnung gebilligtes und gesellschaftlich erwunschtes Geschaftsmodell, das als solches nicht in besonderer Weise die Gefahr von Urheberrechtsverletzungen schafft. Ihr durfen deshalb keine Kontrollmasnahmen auferlegt werden, die ihr Geschaftsmodell wirtschaftlich gefahrden oder ihre Tatigkeit unverhaltnismasig erschweren. Die Auferlegung einer anlasslosen, allgemeinen Uberwachungs- oder Nachforschungspflicht des Access-Providers kommt daher nicht in Betracht. Eine Prufpflicht entsteht erst, wenn dieser auf eine klare Rechtsverletzung in Bezug auf die konkreten Rechtsverletzungen hingewiesen wird. (Rn. 47) (red. LS Gotz Schulze)
4. Im Rahmen der Prufung der Zumutbarkeit von Uberwachungs- und Sperrmasnahmen durch den Access-Provider ist es angemessen, eine vorrangige Rechtsverfolgung gegenuber denjenigen Beteiligten zu verlangen, die - wie die Betreiber beanstandeter Webseiten - entweder die Rechtsverletzung selbst begangen oder zu der Rechtsverletzung - wie der Host-Provider der beanstandeten Webseiten - durch die Erbringung von Dienstleistungen beigetragen haben. Der Vorrang entfallt aber, wenn der Inanspruchnahme des Betreibers der Webseite jede Erfolgsaussicht fehlt und deshalb andernfalls eine Rechtsschutzlucke entstunde. (Rn. 51) (red. LS Gotz Schulze)
1.差し止め請求は民事訴訟法第253条第2項第2号の通り十分に明確に決められなくてはならず、つまり、それは具体的にあげられたドメイン及びあげられたIPアドレスに関係する形でなければならない。しかし、被請求人がどの様な具体的な行為及び調査義務を求められるかはそこから直接的に引き出されない。請求の正当化理由及び判決理由から、それに従って注意及び調査義務が果たされていれば十分である。
2.通信メディア法第8条第1項第2号は、理論的に欧州連合法に適合する様に、WLANサービス提供者のみを妨害者責任から除外し、他のアクセスプロバイダーは除外していないと限定解釈されるべきである。
3.インターネットへのアクセスの仲介は、法秩序に適合し、社会的に求められるビジネスモデルであり、それ自体は特別に著作権侵害の危険をなすものではない。したがって、それに対してそれを経済的に危うくするかその行為を過度に困難なものとする管理手段を課す事は許されない。すなわち、アクセスプロバイダーに対する、理由のない、一般的な監視及び追跡義務は問題外である。これに具体的な権利侵害との関係で明確な権利侵害が示された時に初めて調査義務が発生する。
4.アクセスプロバイダーによる監視及びブロッキング手段を要求し得るかどうかの判断において、-問題となるウェブサイトの提供者の様に-自ら権利侵害をしているか、-問題となるウェブサイトのホストプロバイダーの様に-サービスの提供によって寄与している、関与者に優先的に権利追求を求める事が適切である。しかし、ウエブサイトの提供者への請求が全く請求する見込みがなく、したがって、さもなくば法の欠陥が発生する事になる時に、その様に優先させる事はない。
この高裁判決の主文も訳しておくと以下のようになる。
1. Die Berufung der Antragsgegnerin gegen das Urteil des Landgerichts Munchen I vom 1. Februar 2018 wird mit der Masgabe zuruckgewiesen, dass dieses wie folgt lautet:
Der Antragsgegnerin wird es bei Meidung eines fur jeden Fall der Zuwiderhandlung falligen Ordnungsgeldes bis zu 250.000, -, ersatzweise Ordnungshaft, oder Ordnungshaft bis zu sechs Monaten, im Wiederholungsfall Ordnungshaft bis zu zwei Jahren, wobei die Ordnungshaft oder Ersatzordnungshaft an dem Vorstand der Antragsgegnerin zu vollziehen ist, untersagt, ihren Kunden uber das Internet Zugang zum Film Fack Ju Gohte 3 zu vermitteln, soweit dieser Film uber den gegenwartig KINOX.TO genannten Internetdienst abrufbar ist, wie dies uber die Domains kinox.to, kinox.am, kinox.me, kinox.nu, kinox.tv, kinox.sg, kinox.sx oder kinos.to geschieht, welche sich der IP-Adresse 185.200.190.136 bedienen, wie nachfolgend eingeblendet:
...Ⅰ.2018年2月1日のミュンヘン地裁の判決に対する被請求人の控訴は、判決が次の様にされる限りにおいて、却下される:
被請求人は、違反行為の場合に生じる25000ユーロまでの秩序金を回避した場合における、代替的秩序拘禁、または6月までの秩序拘禁、再違反の場合の2年までの秩序拘禁、そこで被請求人の取締役への秩序拘禁または追加秩序拘禁が執行される、により、以下に挿入されている通り、IPアドレス185.200.190.136により提供されている、ドメインkinox.to、kinox.am、kinox.me、kinox.nu、kinox.tv、kinox.sg、kinox.sx又はkinos.toでなされている、現在KINOX.TOという名のインターネットサービス上で呼び出す事が可能になっている限り、映画Fack Ju Gothe 3へのインターネット上のアクセスを顧客に仲介する事を禁じられる:
(以下略。)
この様に、この事件はボーダフォン側の敗訴になっている訳だが、これは通常の裁判事件ではなくあくまで一時的な仮の処分を求める仮処分事件である点、そのため、日本同様、権利者側の立証は疎明で済む点(判決を読んでもこの訴訟の権利者が本当にどこまで権利行使をしようとしたのかかなり怪しいと私は思っている)、ドイツ語圏で有名で、他の事件も含めて長く争いになっている侵害サイトであるKinox.toが問題とされている点(私は権利者側の権利行使のやり方に問題があるのではないかと思っているが、第379回で少し書いたオーストリアの判決の対象も実質このKinox.toであり、また、ドイツにいたサイト提供者の刑事責任も確定しているが、サービスは中断していないといった事情がある)、ボーダフォン側がこの事件の中で通信メディア法の改正を主要な争点にしてしまい、他のより本質的な争点をぼかしてしまったと見える点(ここで通信メディア法の改正を持ち出すのは正直私が見ても無理筋である)に注意が必要である。すなわち、この様な結論が出された事はほとんどボーダフォンとコンスタンティンフィルムの間のそれぞれの訴訟戦略の結果としか思えず、この判決でもって差し止めとしての著作権ブロッキングがドイツの司法で一般的に認められるに至ったとは到底評価できないと私は考えている。
さらに、地裁と高裁の判決の主文の間でもドメイン名が増えている事からも分かる様に、オーストリア同様、既にいたちごっこの様相を呈している点や、また、DNSブロッキング以上の事を求めているかどうか良く分からない判決でIPアドレスを明示するなど裁判所が技術的な無知を自ら晒している点(ただし、ミュンヘン高裁が自ら認めている通り、執行される判決の範囲を当事者により明確に示すにはその方がいいだろうが)にも注意しておいていいだろう。これらの点は、どの様な形でするにせよ、サイトブロッキングはその有効性において本質的な問題を含んでいる事を良く示していると言っていい。
この事件自体は、ドイツの仮処分事件なので最高裁への上告ができず、判決の執行は可能と思われるので、ボーダフォンとしては自身のリスクとコストを考慮して対応を検討しているところだろう。しかし、高裁判決自体まだ6月の半ばに出されたばかりで、実際対応に困る判決であり、高裁判決に関するhandelsblatt.comの記事やgolem.deの記事などでもボーダフォンはさらに法的手段について検討するとしており、これから仮処分の停止あるいは取り消しの訴訟を提起する事や別の手段を取る事なども十分考えられるだろう。上でも書いた通り、著作権ブロッキングに関して、この判決でドイツで何かしらの整理がついたといった事はなく、ヨーロッパ、ドイツの状況はなお混沌としていると私は見ている。
前にも書いた通り、知財本部の検討会議でそこまで片寄った議論がされるとは思っていないが、次回も、知財本部の検討の状況を見つつ、外国の動向について補足を書きたいと思っている。
(2018年8月15日夜の追記:幾つか細かな誤記を直すとともに、「DNSブロッキング以上の事を求めていないにもかかわらず判決でIPアドレスを明示するなど」という記載を「DNSブロッキング以上の事を求めているかどうか良く分からない判決でIPアドレスを明示するなど」という記載に、「執行される判決の範囲を当事者に明確に示すには他にやりようはない」という記載を「執行される判決の範囲を当事者により明確に示すにはその方がいい」という記載に改めた。これは判決を読み直してみてプロバイダーに具体的にどのようなやり方によるブロッキングを求めているのか良く分からず、その範囲もいまいち明確でない様に思ったためだが、たとえこの判決が明示されたIPアドレスのブロッキングを求めているものだとしても、それが実効性を持つとは到底思えない。)
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