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2018年3月25日 (日)

第390回:閣議決定された不正競争防止法案の条文(限定提供データ規制の追加とDRM規制の強化)

 政府・与党で検討されているという著作権ブロッキングや国会の動向など気になることは幾つもあるが、前回の続きで、先に今国会に提出されている知財関連法改正案の条文の話をしておきたい。

 やはりこの2月に不正競争防止法と特許法等を含む法改正案が閣議決定され、国会に提出されている(経産省のリリース参照)。これほど多くの法律をまとめる意味は謎という他ないが、この法改正案(概要1(pdf)概要2(pdf)参考資料(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照条文(pdf)参照)は、不正競争防止法、特許法、意匠法、商標法、弁理士法から工業標準化(JIS)法まで含むものになっている。

 ここではまず、中でも私が最も問題点の多いと思っている不正競争防止法の主要な改正条文を見て行くが、概要1(pdf)には、不正競争法改正の概要について以下のように書かれている。

(1)不正競争防止法の一部改正
①相手方を限定して業として提供するデータ(ID/パスワード等の電磁的方法により管理されているものに限る。)の不正な取得、使用及び開示を不正競争に位置づけ、これに対する差止請求権等の民事上の措置を設ける。
②暗号等の技術的制限手段について、その効果を妨げる機器の提供等だけでなく、その効果を妨げる役務の提供等も不正競争とする。
③書類提出命令における書類の必要性を判断するためのインカメラ手続、専門委員のインカメラ手続への関与【(3)②と同じ】

 このうち、①の限定提供データ関連で新しく追加される条文は以下のようになっている。(以下、下線を引いた部分が追加部分。)

(定義)
第二条
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為(以下「限定提供データ不正取得行為」という。)又は限定提供データ不正取得行為により取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
十二
 その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
十三
 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為
十四
 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」という。)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データを使用する行為(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。)又は開示する行為
十五
 その限定提供データについて限定提供データ不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその限定提供データを開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
十六
 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為があったこと又はその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為
(略)

 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

(略)

(適用除外等)
第十九条
 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(略)
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争
 次のいずれかに掲げる行為
 取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為であること又はその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為若しくは限定提供データ不正開示行為が介在したことを知らない者に限る。)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその限定提供データを開示する行為
 その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

 次に②のDRM規制関連の強化については、以下のような条文改正になっている。

(定義)
第二条
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
十一十七 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第八項において同じ。)の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラム若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為
十二十八 他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴ー若しくはプログラムの実行、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものをー含む。)を含む。)若しくは指令符号を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラム若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為

 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音若しくはプログラムの記録、プログラムその他の情報の記録のために用いられる機器をいう。以下この項において同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを、プログラムその他の情報を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

(適用除外等)
第十九条
 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
(略)
 第二条第一項第十一号及び第十二号第二条第一項第十七号及び第十八号に掲げる不正競争 技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる同項第十一号及び第十二号同項第十七号及び第十八号に規定する装置若しくはこれらの号、これらの号に規定するプログラム若しくは指令符号を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は、若しくは当該プログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為又は技術的制限手段の試験又は研究のために行われるこれらの号に規定する役務を提供する行為

 この法改正案は、経産省の産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会の中間報告(pdf)をほぼそのまま条文化したものだが、その中間報告案に対する提出パブコメ(第385回参照)で書いた通り、これが有害無益な法改正のための法改正であるという私の考えに何ら変わりはない。

 「限定提供データ」とは、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報」らしいが、具体的なデータとして何がどこまで規制の対象となるのかはやはり良く分からない。無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の情報については適用除外も設けられているものの、そもそもこのような過度に曖昧かつ広範な定義の限定提供データについてその不正取得行為や不正開示行為を規制の対象とすること自体が間違いである。はっきり言って契約と既存の法規制による対応の方がましであり、この法改正が成立したら、かえってデータの利活用を阻害することになるだろう。

 また、DRM規制の強化も有害無益なものであるとやはり私は考えている。上の条文案は非常にややこしいが、要するに、規制の対象となる技術的制限手段の定義を、影像・音の視聴、プログラムの実行又は影像・音・プログラムの記録を制限するものから、影像・音の視聴、プログラムの実行、情報の処理又は情報の記録を制限するものに拡大するとともに、この技術的制限手段の回避手段として指令符号を追加し、規制されるサービス(役務提供)を追加するというものである。これは、技術的制限手段として情報処理一般、情報記録一般を制限するものまで含まれるようにするという意味で同じく規制を過度に広範なものとするものであり、一応今までと同様に試験又は研究の目的での回避手段の譲渡等が適用除外とされているが、このような適用除外で十分とは到底言い難い。やはり、この法改正が成立すると、場合によって必要となる機器の解析やリバースエンジニアリングなどが阻害されることにつながるだろう。アクティベーション方式への対応を意味する回避手段としての指令符号の追加や、サービス規制も現時点で法改正をする意味は全くない。

 私としてはこの不正競争防止法の改正に反対であることに変わりはなく、このような法改正が成立しないことを願っている。

 ③のインカメラ手続に関する改正部分については特許法等と同じなので回を分けて他の知財関連法改正と合わせて次回にまとめて取り上げたいと思う。

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2018年3月 4日 (日)

第389回:閣議決定された著作権法改正案の条文(リバースエンジニアリング、所在検索・情報解析サービスのための権利制限の拡充他)

 先月から各知財法の改正案の閣議決定がされ、その条文が公開されているので、順番に見て行きたい。まずは2月23日に文科省のHPで公開された著作権法改正案(概要(pdf)要綱(pdf)案文・理由(pdf)新旧対照表(pdf)参照条文(pdf))についてである。

 このうち、概要(pdf)には、以下のような改正の概要が書かれている。

①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4、第47条の4、第47条の5等関係)
・著作物の市場に悪影響を及ぼさないビッグデータを活用したサービス等※のための著作物の利用について、許諾なく行えるようにする。
・イノベーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定を整備する。
(※)例えば現在許諾が必要な可能性がある以下のような行為が、無許諾で利用可能となる。
○所在検索サービス(例:書籍情報の検索)
→著作物の所在(書籍に関する各種情報)を検索し、その結果と共に著作物の一部分を表示する。
○情報解析サービス(例:論文の盗用の検証)
→大量の論文データを収集し、学生の論文と照合して盗用がないかチェックし、盗用箇所の原典の一部分を表示する。

②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
・ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする。
【現在】利用の都度、個々の権利者の許諾とライセンス料の支払が必要
【改正後】ワンストップの補償金支払のみ(権利者の許諾不要)

③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)
・マラケシュ条約※の締結に向けて、現在視覚障害者等が対象となっている規定を見直し、肢体不自由等により書籍を持てない者のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようにする。
(※)視覚障害者や判読に障害のある者の著作物の利用機会を促進するための条約
【現在】視覚障害者や発達障害等で著作物を視覚的に認識できない者が対象
【改正後】肢体不自由等を含め、障害によって書籍を読むことが困難な者が広く対象

④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条、第47条、第67条等関係)
・美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようにする。
・国及び地方公共団体等が裁定制度※を利用する際、補償金の供託を不要とする。
(※)著作権者不明等の場合において、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することで、著作物を利用することができる制度
【現在】裁定制度により著作物等を利用する場合、事前に補償金の供託が必要
【改正後】国及び地方公共団体等については、補償金の供託は不要(権利者が現れた後に補償金を支払う)
・国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾無く行えるようにする。
デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応
するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、
美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにする。
【現在】小冊子(紙媒体)への掲載は許諾不要。タブレット等(デジタル媒体)での利用は許諾が必要。
【改正後】小冊子、タブレット等のいずれも場合も許諾不要。

施行期日 平成31年1月1日 ②については公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日。

 この著作権法改正案は、第375回で取り上げた去年の文化庁の法制・基本問題小委員会の中間まとめに対応するもので(内容として違いはないが、最終的な報告書としては去年4月の文化審議会著作権分科会報告書(pdf)にまとめられている)、基本的に権利制限の拡充をするものであり、その限りにおいて問題はない。

 上の改正事項順に条文を見て行くと、「①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備」であげられている各改正条項の第30条の4、第47条の4、第47条の5は以下のようなものとなっている。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四
 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

(電子計算機における著作物の利用に付随する利用等)
第四十七条の四
 電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。以下この条において同じ。)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合において、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑又は効率的に行うために当該著作物を当該電子計算機の記録媒体に記録するとき。
 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該他人の自動公衆送信の遅滞若しくは障害を防止し、又は送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために、これらの自動公衆送信のために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合
 情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合において、当該提供を円滑又は効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うことを目的として記録媒体への記録又は翻案を行うとき。

 電子計算機における利用に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 記録媒体を内蔵する機器の保守又は修理を行うために当該機器に内蔵する記録媒体(以下この号及び次号において「内蔵記録媒体」という。)に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該保守又は修理の後に、当該内蔵記録媒体に記録する場合
 記録媒体を内蔵する機器をこれと同様の機能を有する機器と交換するためにその内蔵記録媒体に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該同様の機能を有する機器の内蔵記録媒体に記録する場合
 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該自動公衆送信装置により送信可能化された著作物の複製物が滅失し、又は毀損した場合の復旧の用に供するために当該著作物を記録媒体に記録するとき。

(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)
第四十七条の五
 電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによつて著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(当該行為の一部を行う者を含み、当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆への提供又は提示(送信可能化を含む。以下この条において同じ。)が行われた著作物(以下この条及び次条第二項第二号において「公衆提供提示著作物」という。)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という。)を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物に係る公衆への提供又は提示が著作権を侵害するものであること(国外で行われた公衆への提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 電子計算機を用いて、検索により求める情報(以下この号において「検索情報」という。)が記録された著作物の題号又は著作者名、送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること。
 電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること。
 前二号に掲げるもののほか、電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であつて、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定めるもの

 前項各号に掲げる行為の準備を行う者(当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆提供提示著作物について、同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項及び次条第二項第二号において同じ。)を行い、又はその複製物による頒布を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は頒布の部数及び当該複製、公衆送信又は頒布の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 この部分についてはかなり条文の整理が入っており、新旧の対比が分かりにくいので、ここでさらに簡単な対比表を作ると以下のようになる。

(新)第30条の4(思想感情非享受利用)
・第1項(非享受利用一般):新規
・・第1号(技術開発・試験):(旧)第30条の4
・・第2号(情報解析):(旧)第47条の7
・・第3号(情報処理他):新規

(新)第47条の4(電子計算機付随利用)
・第1項(円滑・効率的):新規
・・第1号(情報処理):(旧)第47条の8
・・第2号(自動公衆送信):(旧)第47条の5第1項第1号、第2項
・・第3号(情報提供):(旧)第47条の9
・第2項(状態維持・回復):新規
・・第1号(保守・修理):(旧)第47条の4第1項
・・第2号(交換):(旧)第47条の4第2項
・・第3号(復旧):(旧)第47条の5第1項第2号

(新)第47条の5(電子計算機軽微利用)
・第1項(軽微利用):新規
・・第1号(検索情報提供):(旧)第47条の6
・・第2号(解析情報提供):新規
・・第3号(国民生活利便性向上(政令)):新規
・第2項(準備):新規

 こうして見ると、情報処理関連の権利制限については、私はこれを本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項であるとは評価しないが、思想又は感情の享受を目的としない利用、付随利用、軽微利用という3つの類型に整理し直され、それぞれ少しずつ一般化が図られていることが分かる。

 特に新しい点は、思想又は感情の享受を目的としない利用一般のための権利制限として第30条の4が作り直されている点であり、明示的には書かれていないが、中間まとめで権利制限の対象とするべきとされていたリバースエンジニアリングはここで読めると考えられる。

 そして、第47条の5第1項第1号の検索情報提供も、元の第47条の6から比べると、送信可能化された情報以外の情報も含むように少し広げられ、書籍情報の検索のような所在検索サービスが含まれるようになっており、その下の第2号に解析情報提供もあるので、論文の盗用の検証のような情報解析サービスも含まれると読める。中間まとめで権利制限の対象とすべきとされていた、外国人のための翻訳サービスは法改正条文としては入っていないが、第3号に政令で定めるものを対象とできるとあるので、政令で指定するつもりなのだろう。

 次に、「②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」に関する第35条は以下のようになっている。(下線が追加部分。以下同じ。)

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条
 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用利用に供することを目的とする場合には、必要その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製する複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
(第3項:略)

 また、「③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備」に関する第37条は以下のようになっている。

(視覚障害者等のための複製等)
第三十七条

(略)
3 視覚障害者その他視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識に障害のあるが困難な者(以下この項及び第百二条第四項において「視覚障害者等」という。)の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものは、公表された著作物であつて、視覚によりその表現が認識される方式(視覚及び他の知覚により認識される方式を含む。)により公衆に提供され、又は提示されているもの(当該著作物以外の著作物で、当該著作物において複製されているものその他当該著作物と一体として公衆に提供され、又は提示されているものを含む。以下この項及び同条第四項において「視覚著作物」という。)について、専ら視覚障害者等で当該方式によつては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するために必要と認められる限度において、当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む。)公衆送信を行うことができる。ただし、当該視覚著作物について、著作権者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者により、当該方式による公衆への提供又は提示が行われている場合は、この限りでない。

 最後に、「④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等」に関する第31条、第47条、第67条は以下のようになっている。

(図書館等における複製等)
第三十一条

(略)
3 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等又はこれに類する外国の施設で政令で定めるものにおいて公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、自動公衆送信される当該著作物の一部分の複製物を作成し、当該複製物を一人につき一部提供することができる。

(美術の著作物等の展示に伴う複製等)
第四十七条
 美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者(以下この条において「原作品展示者」という。)は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又はこれらの展示する著作物(以下この条及び第四十七条の六第二項第一号において「展示著作物」という。)の解説若しくは紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載する当該展示著作物を掲載し、又は次項の規定により当該展示著作物を上映し、若しくは当該展示著作物について自動公衆送信(送信可能化を含む。同項及び同号において同じ。)を行うために必要と認められる限度において、当該展示著作物を複製することができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 原作品展示者は、観覧者のために展示著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該展示著作物を上映し、又は当該展示著作物について自動公衆送信を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該上映又は自動公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 原作品展示者及びこれに準ずる者として政令で定めるものは、展示著作物の所在に関する情報を公衆に提供するために必要と認められる限度において、当該展示著作物について複製し、又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第六十七条

(略)
 国、地方公共団体その他これらに準ずるものとして政令で定める法人(以下この項及び次条において「国等」という。)が前項の規定により著作物を利用しようとするときは、同項の規定にかかわらず、同項の規定による供託を要しない。この場合において、国等が著作権者と連絡をすることができるに至つたときは、同項の規定により文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
(第3項以下略)

 これらの②~④に関する改正も決して十分とまでは言えないが、単純な拡充であり、内容としては比較的分かりやすい。

 その他にもそこかしこに入っているテクニカルな改正についての説明は省略するが、この著作権法改正案は、基本的に個別の権利制限を拡充する方向のものであり、その限りにおいてそれなりに評価できるものとなっている。ただし、これは本当の意味で柔軟な一般フェアユース条項を入れるものではなく、この法改正が通ったとしても、私は一般フェアユース条項の導入を求めて行く必要があると考えている。

 政府が著作権の保護期間を50年から70年に延長する方針であるという報道もあったが、この先月閣議決定され国会に提出された著作権法改正案には保護期間延長は含まれていない。第386回で書いた通り、保護期間延長は日欧EPAに伴うものなので、政府としては別にするつもりなのだろう。今後政府がごり押ししてくるに違いない日欧EPA署名・批准とそれに伴う著作権法改正は本当に危険であり、要注意である。

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