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2017年12月29日 (金)

第387回:2017年の終わりに

 既に役所も休みに入り、一通り年内のイベントは終わったと思うので、今年も一年の終わりに今まであまり取り上げる暇がなかった細かな話をまとめて書いておきたいと思う。

 最初に特許庁では、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会の報告書案に対する意見募集が1月24日〆切で開始されている。(特許庁のHP1、電子政府のHP1参照。)

 この第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて(案)(pdf)は、第377回で取り上げた検討会報告書や第378回で取り上げた知財計画2017の後を受けた検討の結果が示されているが、この報告書案によれば、案の定標準必須特許裁定制度の導入は見送られたようであり、後は次のような法改正事項が並んでいる。

  • 証拠収集手続の強化
  • 新規性喪失の例外期間の延長
  • 中小企業の特許料及び手数料の一律半減制度の導入
  • 判定における営業秘密の保護
  • クレジットカードを利用した特許料等及び手数料納付制度の導入

 このうち証拠収集手続の強化は、書類提出命令の必要性判断においてインカメラ手続を導入し、専門委員にインカメラに関与することを可能とするもので、ほぼ知財計画2017などに書かれていた通りのものだが、他の項目はこの報告書案で始めて方向性が明らかにされたものばかりであり、かなり唐突感がある。

 そうは言っても、基本的には全て制度ユーザーの利便性向上のための法改正事項であり、その限りにおいて特に大きな問題はないが、上から2つめの新規性喪失の例外期間の延長について、「このグレース・ピリオドについては、『環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(TPP担保法)』によって、国際調和の観点から、米国と同様の1 年に延長されることとされているが、その施行を待つことなく早急に措置することが適当である」(第10ページ)とあからさまにTPP関連法の前倒しであることを明言している点は注意しておいてもいいだろう。(前回第384回で書いた通り、著作権の保護期間延長問題については直近ではTPPより日欧EPAの方がより致命的な影響を及ぼしそうな情勢であるが。)

 特許庁では、他にも8月には商標制度小委員会も開かれていたが、こちらの報告書がまとめられているということはまだないようである。また、内容の紹介は省略するが、弁理士制度小委員会の報告書案に対する意見募集も1月24日〆切で行われている。(特許庁のHP2、電子政府のHP2参照。)

 大して内容はないが、意匠絡みで、産業競争力とデザインを考える研究会という研究会が開催されており、11月22日には中間とりまとめが出されている。

 次に文化庁では、文化審議会・著作権分科会の下で、いつも通り、法制・基本問題小委員会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会国際小委員会といった小委員会が開かれており、特に法制・基本問題小委員会でのリーチサイト対策の検討が要注意なのは間違いなく、保護利用小委員会での補償金問題の検討も気になっているが、まだいまいち方向性は見えていない。

 農水省では、日欧EPAの合意に対応し、地理的表示に関して、日EU・EPA(GI分野)の概要(pdf)指定の内容の決定についてを公開している。ただし、農水省の資料としては、知財本部・検・評価企画委員会の12月26日の産業財産権分野会合(第2回)資料(pdf)の方がまとまっていて分かりやすい。

 知財本部では、来年の知財計画に向けた検討が始まっているが、検証・評価・企画委員会に加えて知的財産戦略ビジョンに関する専門調査会が設置されている。この専門調査会は、「2025年~2030年頃を見据え、中長期の社会・経済の変化に対応する今後の知財システムの在り方に関する調査・検討する」ということで、どうやら4年前の知的財産政策ビジョン(pdf)のように意味不明の長期ビジョンをまたぞろ立てるつもりらしい

 今年もおよそロクなことがなかったが、政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を、このブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

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2017年12月17日 (日)

第386回:著作権保護期間延長を含む日EU経済連携協定(EPA)の妥結条文

 先月にはアメリカ抜きの11カ国でのTPPの交渉妥結もあったが、この12月8日に日本と欧州連合(EU)の間で経済連携協定(EPA)も妥結されている。

 この日欧EPAの内容に関してはそこまで詳細に報道されていないように思うが、政府が12月15日になってようやく外務省のHPに出したファクトシート(pdf)の第37ページに、

●著作権及び関連する権利
 著作者,実演家,レコード製作者及び放送機関の権利の保護,著作物等の保護期間の延長(著作者の死後70年等),権利の制限と例外等について規定する。

とはっきり書かれているように、この条約は日本にとって著作権の保護期間の延長を含む致命的な内容ものとなっている。

 いまだに日本政府からはこのEPAの妥結条文の詳細も訳も公表されていないが、EUのHPでは妥結と同時に公表されており、その第14章知的財産(pdf)から、著作権保護期間延長に関する第13条を抜き出すと以下のようになる。

Article 13 Term of Protection

1. The rights of an author of a literary or artistic work within the meaning of Article 2 of the Berne Convention shall run for the life of the author and for 70 years after the author's death, irrespective of the date when the work is lawfully made available to the public.

1.1. Whenever the term of protection for the rights referred to in paragraph 1 is calculated on a basis other than the life of a natural person, such term shall be no less than 70 years after the work is lawfully made available to the public. Failing such making available within 70 years after the creation of the work, such protection shall be no less than 70 years from the work's creation.

2. The rights of performers shall expire not less than 50 years after the date of the performance.

3. The rights of producers of phonograms shall last, at least, until the end of the period of 70 years calculated from the end of the year in which the phonogram was published, or failing such publication within at least 50 years from the fixation of the phonogram, at least 50 years from the end of the year in which the fixation was made (Footnote: The Parties may adopt effective measures in order to ensure that the profit generated during the 20 years of protection beyond 50 years are shared fairly between the performers and producers of phonograms.).

4. The term of protection for rights in broadcasts shall expire not less than 50 years after the first transmission of the broadcast.

5. The terms laid down in this Article shall be calculated from the first of January of the year following the year of the event which gives rise to them.

第13条 保護期間

第1項 ベルヌ条約第2条の意味における文学的又は芸術的著作物の著作者の権利は、その著作物が適法に公衆に入手可能とされた日とは無関係に、著作者の存命中及び著作者の死後70年続く。

第1.1項 第1項に記載された権利の保護期間が自然人の存命以外の根拠にもとづき算定される場合は、そのような期間はその著作物が適法に公衆に入手可能とされた日の後70年未満であってはならない。その著作物の創作後70年以内にそのように公衆に入手可能とされなかったときは、そのような保護はその著作物の創作から70年未満であってはならない。

第2項 実演家の権利は、その実演の日の後50年未満で消滅してはならない。

第3項 レコード製作者の権利は、少なくとも、そのレコードが出版された年の終わりから算定して70年の期間の終わりまで存続し、そのレコードの固定から少なくとも50年以内にそのような出版がなされなかったときは、その固定がなされた年の終わりから少なくとも50年存続する(原注:加盟国は、50年を超える20年の保護の間に生じた利益が実演家及びレコード製作者の間で公平に分配されることを確保するための有効な手段を取ることができる。)。

第4項 放送における権利の保護期間は、放送の最初の送信の後50年未満で消滅してはならない。

第5項 本条で規定される期間は、それを発生させる事象の年に続く年の1月1日から算定される。

 見れば分かる通り、TPP交渉で既に譲歩した点だからいいだろうとばかりに、日本政府は日EU間の交渉においても50年から70年への著作権の保護期間延長を何の留保もつけずにまるごと受け入れているが、このような秘密の条約交渉でほとんど何の説明もなく国益の根幹に関わる点について日本政府が易々と譲歩したことに私は激しい憤りを覚える。その上例によってEU側で公表している条文の内容についてすらなお概要説明だけで、その翻訳すら公開しないなど完全に国民をバカにしているとしか言いようがない。

 日欧EPAも妥結されたことを受けて次の通常国会でその批准と国内関連法の改正法案が提出される可能性が高いが、これほど国民をバカにした形でなされた条約の批准に、著作権の保護期間延長に私は反対する。

(2017年12月19日夜の追記:翻訳中の誤記を修正した(「保」→「保護」、「利益」→「利益が」)。)

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2017年12月10日 (日)

第385回:経産省・不正競争防止小委員会の中間報告案(不競法による限定公開データ保護の導入及びDRM規制強化を含む)に対する意見募集(12月25日〆切)への提出パブコメ

 各省庁で今年度の法改正の検討が進められているが、その中の1つとして経産省の産業構造審議会・知的財産分科会・不正競争防止小委員会の中間報告案(pdf)が12月24日〆切でパブコメにかかっている。(電子政府のHP参照。)

 この小委員会の4月版の中間とりまとめ案については第377回でも取り上げているが、やはり現行法で守られている営業秘密を超えてデータそのものを守ろうとしている点とDRM規制の強化をしようとしている点で極めて大きな問題がある。

 内容はいつにも増してレベルが低く書かれていることは全て法改正のための法改正としか思えないが、この中間報告案に対して私が出したパブコメをここに載せておく。

 なお、私の提出したパブコメでは触れていないが、この中間報告案には、政令改正によって分析方法や評価方法に関する営業秘密も不正競争防止法第5条の2の不正に取得した技術上の営業秘密の使用に関する推定規定の対象とすることや、証拠収集手続について特許法の改正がなされる場合に不正競争防止法においても同様の規定を導入するといったことも書かれている。

(以下、提出パブコメ)

(1)限定公開データの保護のための法改正について
・該当箇所
 第2~12ページ「第一章 データ利活用促進に向けた制度について」

・意見内容
 本中間報告案中の、限定公開データの保護のための不正競争防止法改正に反対する。

・理由
 本中間報告案では、一定の要件を満たすデータを不正競争防止法の保護対象とするとしているが、そもそも、既存の営業秘密の保護を超え、日本が独自に定義する過度に広範なデータを不正競争防止法の保護対象とすることに対する法改正ニーズ及び立法事実はない。

 たとえば、本中間報告案の第2ページに契約に基づく信頼を裏切り不正に使用・提供されるおそれがある云々と記載されているが、このようなケースは既存の法制及び契約による対応で十分である。本当に秘密とするべきデータであれば秘密保持契約を結んで開示するべきであり、さらに悪意のある利用については契約違反である上、一般的な不法行為規制による対応もあり得、技術的な管理を破ることについては不正アクセス禁止法による対応があり、詐欺については詐欺罪による対応があり得るのである。データの内容次第だが、多くの場合で著作権法による対応も考えられるであろう。

 第6ページでは、対価を支払って選択的に提供される分析データや素材データが対象になると書かれているが、これらはあくまで対価の対象として得られる公開データなのであるから、技術及び契約による対応で十分であり、契約によって利用範囲を定め、それを超える利用は損害賠償の対象となるといったことを明確にしておけばよいだけのことである。

 すなわち、本中間報告案に書かれていることは法改正のための法改正でしかなく、本中間報告案に記載されている法改正は一切するべきではない。

 私は以上のとおり本中間報告案に書かれた法改正そのものに反対しているのであって、個別の問題点について修正すれば法改正に関する問題が解消されると言うつもりは一切ないが、さらに個別の問題点について以下に指摘する。

(a)保護対象となるデータの要件について
 本中間報告案では、保護対象となるデータの要件について、技術的管理性、限定的な外部提供性及び有用性が要件となるとしているが、このように営業秘密を超えて単に技術的に管理されていれば保護の対象となるとするような要件には明らかに問題がある。

 このように単に技術的に管理された有用なデータが保護の対象となるとすると、あらゆる限定公開データ、すなわち、ネットにおいて、無料有料にかかわらずあらゆる会員制サイトで提供されるコンテンツ・データ、対価の対象として提供されるあらゆるコンテンツ・データが対象となり得る。また、データ取引は企業間(BtoB)の取引のみならず、企業対一般消費者(BtoC)や一般消費者間(CtoC)もあり得ることが注意されなくてはならない。たとえ一般公開データと同一のデータを保護対象外とし、不正競争行為となる類型に制限を加えたとしても、このようなあらゆる限定公開データを不正競争防止法の保護対象とすることはあまりにも広範であり、かえってデータの利活用を阻害する。

(b)不正競争行為の類型について
 本中間報告案では、保護対象となるデータについて、権限のない者による不正アクセスや詐欺等の管理侵害行為による取得行為等、契約者による不正利益又は図利加害目的での第三者提供行為等、転得者による不正行為に係るデータの悪意での使用行為等を不正競争行為の類型として追加するとしているが、このような行為類型の追加に対する根拠はないに等しい。

 不正アクセスや詐欺等については不正アクセス禁止法や詐欺罪等による対応が可能であり、それ以上の不正競争防止法による対応を必要とする根拠はない。契約者による不正利益又は図利加害目的での第三者提供行為等についても契約があるのであるから、契約による対応で十分であり、それ以上の対応を必要とする根拠はない。転得者による不正行為に係るデータの悪意での使用行為等もこのような類型を対象とするべき根拠となる実例は存在しない。

(2)DRM規制の強化につながる法改正について
・該当箇所
 第13~15ページ「第二章 技術的な制限手段による保護について」

・意見内容
 本中間報告案中の、DRM規制の強化につながる技術的制限手段に関する不正競争防止法改正に反対する。

・理由
 本中間報告案において、DRM規制について、技術的制限手段による保護対象に一般的な電子計算機処理用データを追加し、そのための無効化する装置等の提供行為を不正競争行為とするとともに、技術的制限手段の定義でアクティベーション方式によるものが含まれることを明確化し、無効化装置等の提供と同等とみなされる無効化サービス提供行為、不正な無効化符号提供行為を不正競争行為とするとしているが、同様に、このようなDRM規制強化のための立法事実はない。

 DRM規制については、利用者に与える影響も大きく、平成11年導入時の必要最小限の内容に止めるとの整理を守るべきである。コンテンツ以外のデータについてDRMによる保護をかけていることのみでは法律で保護を与えるべき根拠とはならないこと、DRMの無効化助長行為は無効化装置の提供とは異なり慎重な検討が必要であることなど、このような議論は導入当時と何ら変わるものではない。また、なぜか本中間報告案では著作権法について一切言及がないが、DRM規制については、著作権法による規制も考慮した総合的な検討も必須である。

 DRM規制の対象として追加されるデータの例として機器の制御や不具合の解析などのために用いられるデータやゲームのセーブデータがあげられているが、これらのようなデータを不正競争防止法上のDRM規制の対象とするべき根拠はない。たとえば、機器の制御や不具合解析のためのデータの暗号の解読のための行為がなぜ不正競争とされるべきなのか根拠は一切不明であり、このようなことが規制されると、場合によって必要となる機器の解析やリバースエンジニアリングなどが阻害されることにつながるであろう。セーブデータ改変は既に著作権法違反なのであるから、不正競争防止法による対処は不要である。

 また、アクティベーション方式は既に現行法の対象と考えられており、無効化装置等の提供と同等とみなされる行為についても同等とみなされる場合は現行法で対処可能であり、法改正は不要である。

 このような無意味なDRM規制強化の検討は全て白紙に戻し、今ですら不当に強すぎるDRM規制の緩和のための検討を著作権法と合わせ速やかに開始するべきである。

 繰り返しになるが、本中間報告案に書かれていることは全て法改正のための法改正でしかなく、本中間報告案に記載されている一切の法改正に私は反対する。

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