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2017年4月21日 (金)

第377回:経産省の2つの知財関係の報告書(ADR制度導入や不競法上のDRM規制強化などを含む)

 幾つかの新聞で報道されている通りなのだが、経産省から2つ知財関係の報告書が公表されているので、ここでも念のため見ておきたいと思う。

(1)第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会報告書
 1つは第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方について(pdf)概要(pdf)参考資料(pdf))(経産省のリリース参照)と称するもので、例によって第四次産業革命という何だか良く分からないキーワードが踊っているだけの空疎極まる内容のものである。

 この報告書は全編ほとんど無意味なことしか書かれていないが、強いて法改正に絡むことが書かれているとすれば、第13ページの、

ビジネス関連発明を含む多様な特許に係る紛争処理システムの機能強化を図るべく、証拠収集手続において、書類提出の必要性を、当事者に書類を一旦提示させることで裁判所がインカメラ手続を通じて判断できるような制度や、中立的な第三者の技術専門家が関与できるような制度の導入に向けた検討を進める。

といった記載や、第16〜17ページの、

 第一に、社会的影響の大きい標準必須特許については、特許権者の権利を不当に害さないことに留意しつつ、特許権者と利用者の間でライセンスに関する協議が整わない場合に、利用者の請求に基づいて、行政が両者の間に入って、適切なライセンス料を決めるADR制度(標準必須特許裁定)の導入を検討する。なお、制度設計に当たっては、特許権行使専業企業への対応の必要性も考慮しつつ、デジュール標準以外の標準やFRAND条件でライセンスすることが宣言された標準必須特許以外の特許をどこまで対象とするか、実施権の設定を行う場合の要件をどのようにするか等についても検討を行う必要がある。
 第二に、多様な特許をめぐる紛争を迅速かつ簡便に解決するため、特許権者と利用者との間でライセンスに関する協議が整わない場合や権利侵害をめぐる紛争が起きた場合等に、当事者である中小企業等を含む多様な企業の請求に基づいて調整を行うADR制度(あっせん)について、既存のADR制度との関係を整理の上、検討する。

といった記載くらいである。前者の紛争処理システムの機能強化の話は前の特許庁の報告書の内容を超える情報は全くなく(第374回参照)、後者の標準裁定などの話についても既存のADR(裁判外紛争解決手続き)の利用もあまり進んでいない中で国が間に入る形の新しい制度を作る意味がさっぱり分からない。

 この報告書は、最後に、「本検討会における検討結果を、『知的財産推進計画2017』及び『日本再興戦略2017』等に反映するとともに、速やかに着手可能な取組については、平成29年度中を目途に結論が得られるよう、特許制度小委員会等で法改正を視野に入れた具体的な検討を進めることが適当である」と書かれている通り、知財計画などに間に合わせるためにありあわせで提言を出しておくというだけのもので、実際の具体的な検討はこれからなのだろうが、上のADRに関する話などどこまで実現性があるか甚だ疑わしい。

(2)営業秘密の保護・活用に関する小委員会中間とりまとめ案
 もう1つは産業構造審議会・知的財産分科会・営業秘密の保護・活用に関する小委員会で取りまとめ中の第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討中間とりまとめ概要(案)(pdf)概要(pdf))である。(小委員会の4月20日の配布資料参照。)

 こちらも同じく良く分からないキーワードが踊る報告書案なのだが、この報告書案は特に不正競争防止法の改正を取り扱っているという点で注意を要する。

 まず、報告書案中の第1章の「データの保護制度の在り方について」から法改正に関する方向性の部分だけを抜き出して行くと、以下のようになる。

  • データの不正利用等に関し、新たな不正競争行為として行為規制を設ける方向で検討する。
  • データの保護対象を明確化した上で、保護すべきデータの範囲について検討する。
  • 新たな制度の創設により、データの利活用が進まなくなることがないよう、悪質性の高い取得行為を規制対象とする。今後、どのような行為がこの「悪質性の高い」行為に当たるかについて検討する。
  • 悪質性の高い行為により取得したデータを使用・提供等する行為を規制対象とする。
  • その他、例えば以下に掲げる行為についても規制の可否について検討する。・正当に取得したデータについて、データ提供者の意に反し、不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的での使用、提供の行為。・不正にデータを取得した者からデータの提供を受ける二次取得以降の取得についても、事情を知って、若しくは重大な過失により知らないで、当該データを使用、提供等する行為。
  • 保護対象として、データの保有・管理を行う者が当該データに対してのアクセスを認めていない者に対して、アクセスを認めていない者がデータを取得やアクセスすることを防止したいとの、データを保有・管理する者の意思について一定の認識ができる状態となっているデータ等を対象とする。
  • 保護すべきデータの範囲を画するにあたり、一定の「有用性」を有することを要件とする。
  • 保護すべきデータとして、データ自体が単体、集合物であることを問わず、保護対象とする。
  • まずは、電子データを念頭において検討する。
  • その他、保護すべきデータを検討するにあたって、以下の点を考慮することが考えられる。・事業に実際に利用しているデータを保護対象とする。・公知情報を集めたデータであっても収集したことで一定の価値を有するデータは保護対象とする。・営業行為を行わない個人のデータについては保護対象外とする。
  • 不正競争行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置を設ける。
  • 刑事措置については、今後の状況の変化等を踏まえて慎重に検討する。

 具体的な内容は良く分からないところも多いが、要するに、今までの営業秘密の保護を超えて、一定の有用性・価値を有するデータを不正競争防止法で保護すると言っているのであり、これはかなりの注意を要する。また、データ管理情報について、「著作権の対象とならない情報に付与される管理情報について、ニーズをまずは調査した上で、ニーズがあると認められれば保護する方向で検討する」と言っていることにも注意しておいた方がいいに違いない。

 次に、第2章の「情報の不正利用を防止する技術の保護の在り方について」からやはり法改正の関する方向性の部分だけを抜き出すと、以下のようになる。

  • 「影像」、「音」について、分析等「視聴」以外の利用を制限するために施される技術的な制限手段を保護対象として必要に応じて追加する。
  • 人が視覚・聴覚で感知できないデータの利用を制限する手段の保護に関しては、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段による保護対象の範囲としてどのようなデータとすべきかについて、技術的制限手段のユーザーに対しニーズ調査を行いつつ検討していく。
  • 技術的制限手段を無効化した上で利用等する行為の規制については、必要に応じ検討する。
  • 不正競争行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置及び刑事措置を設ける。
  • アクティベーション方式等に係る技術的手段について、技術的制限手段の定義に含まれることを明確化する。
  • 技術的制限手段を無効化するサービスを提供する行為を、必要に応じて不正競争行為とする。
  • 無効化を可能とする情報を単に提供するだけのサービスに関しては、規制についてのニーズの把握に努めつつ、引き続き、慎重に検討する。
  • ただし、悪質な行為を伴う、技術的制限手段を無効化する方法を教えるサービスについては、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段を無効化した上で利用等する行為の規制については、必要に応じ検討する。
  • 技術的制限手段を無効化するサービスを提供する行為に対する救済措置として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置等の民事措置及び刑事措置を設ける。

 やはり詳細不明なところが多いが、これは、不正競争防止法によるDRM規制、技術的制限手段に関する規制について大幅な規制強化の検討をすると言っているのであり、非常に要注意である。このような規制強化のニーズがあるとは私には全く思えず、DRM規制については現行法ですら厳し過ぎると私は考えているのである。

 こちらの中間とりまとめ案は今後どうなるのか良く分からないが、パブコメにかけられ次第私は意見を出すつもりでいる。

(5月11日夜の追記:5月9日に経産省から上で取り上げた営業秘密の保護・活用に関する小委員会の中間とりまとめ(案が取れたバージョン)が公開されたが(経産省のHP参照)、パブコメにはかかってない。極めて残念なことだが、どうやらこの報告書の内容について国民から広く意見を聞くつもりは経産省にはないようである。)

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