第374回:特許庁の報告書案から予想される今後の特許法改正
今現在3月17日〆切で特許庁から「我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて(案)(pdf)」という報告書案がパブコメにかかっている。
この報告書案は、知財本部の検討の後を受け、産業構造審議会・知的財産分科会・特許制度小委員会で知財訴訟制度に関する検討結果をまとめたものと見て取れる。(知財計画2016中の関連する記載については第363回参照)
特に大きな問題があるということはないが、今回はこの報告書案から予想される今後の特許法改正の内容をざっとまとめておきたいと思う。
おおよそどうでもいい部分を飛ばして各検討事項の結論部分だけを抜き出して行くと、まず、「Ⅰ.適切かつ公平な証拠収集手続の実現」の「2.各論」の「(1)訴え提起後の証拠収集手続について」では、
- ①公正・中立な第三者の技術専門家に秘密保持義務を課した上で、提訴後の証拠収集手続に関与できるようにする制度の導入について:「強制力のある査察制度の導入については引き続き慎重に検討」(第3ページ)、「日本の民事訴訟制度の枠組みに沿った形で公正・中立な第三者の技術専門家が証拠収集手続に関与する制度を導入することで、手続の充実化を図り、その運用を注視することが適切」(同上)、「例えば、秘密保持の義務を課された公正・中立な第三者の技術専門家が、書類提出命令(特許法第105条第1項)及び検証物提示命令(特許法第105条第4項、同条第1項)における書類及び検証物の提出義務の有無を判断するための手続(特許法第105条第2項、第3項。以下「インカメラ手続」という。)において裁判官に技術的なサポートを行うことを可能にすることや、鑑定人に検証の際の鑑定(民事訴訟法第233条)における秘密保持義務を課すことで、同手続を秘密保護に配慮した形で行うことを可能とすることなどが考えられる」(同上)
- ②書類提出命令・検証物提示命令の要件である書類・検証物の提出の必要性を判断するためにインカメラ手続を利用することができるようにする制度の導入について:「書類提出命令・検証物提示命令の制度に関し、書類・検証物の提出の必要性の有無についての判断のために、裁判所がインカメラ手続により当該書類・検証物を見ることを可能にする制度を導入」(同上)
- ③具体的態様の明示義務が十分に履行されなかった場合に書類提出命令が発令されやすくする方策について:「本方策については、②の新たな制度では対応が困難な課題が明らかになった場合に検討すべき課題とすることが適当」(第4ページ)
- ④現行の書類提出命令を発令しやすくするよう、同命令と秘密保持命令を組み合わせて発令できるようにする方策について:「本方策については、②の新たな制度では対応が困難な課題が明らかになった場合に検討すべき課題とすることが適当」(第5ページ)
と書かれ、「(2)訴え提起前の証拠収集手続について」では、
- 「現行の訴え提起前の証拠収集処分における任意性は維持した上で、訴え提起後の証拠収集手続の改善策と同様に、日本の民事訴訟制度の枠組みに沿った形で公正・中立な第三者の技術専門家が証拠収集手続に関与する制度を導入することで、手続の更なる充実化を図ることが適切」(第5ページ)、「例えば、秘密保持の義務を課された第三者の技術専門家が執行官に同行して技術的なサポートを行う仕組みを導入することが考えられる」(第5〜6ページ)
と書かれている。
次に、「Ⅱ.ビジネスの実態やニーズを反映した適切な損害賠償額の実現」の「2.各論」の「(1)現行特許法第102条第3項に規定される損害賠償額の算定方法の在り方について」では、
- 「特許法第102条第3項に規定される損害賠償額の算定方法の在り方については、今後、損害賠償額の認定に関する裁判所の運用や、理論的な検討の動向、国際的な動向を注視しつつ、引き続き慎重に検討」(第8ページ)
と、「(2)通常の実施料のデータベース等の作成について」では、
- 「通常の実施料のデータベース等の作成が適当であるとは言えない」(第8ページ)
とされている。
「Ⅲ.権利付与から紛争処理プロセスを通じての権利の安定性の向上」の「2. 各論」の「(1)侵害訴訟における特許庁に対する求意見制度、特許庁における有効性確認手続、侵害訴訟における訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について」では、
- ①侵害訴訟における特許庁に対する求意見制度について:「裁判所調査官制度及び専門委員制度の運用状況やユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第9ページ)
- ②特許庁における有効性確認手続について:「ユーザーニーズの状況を注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第10ページ)
- ③侵害訴訟における訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について:「訂正の再抗弁に関する裁判所の運用やユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第11ページ)
とされ、「(2)裁判所における更なる技術的専門性の向上や裁判所と特許庁との連携について」では、
- 「司法と行政のそれぞれの役割に留意し、裁判所の公平性、中立性を保ちつつ裁判所と特許庁が連携する取組を今後も進めていくことが適当」(同上)
と書かれ、「(3)侵害訴訟等において権利の有効性が推定されることを確認的に規定するための明らか要件の導入の是非及び訂正審判等の要件緩和等の是非等について」では、
- ①確認的な明らか要件の導入について:「裁判所による特許の有効性に関する判断の動向やユーザーニーズの状況を注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(第12ページ)
- ②訂正審判等の要件緩和等(特許権の拡張・変更)について:「ユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討を行うことが適当」(第13ページ)
- ③訂正審判等の要件緩和等(予備的訂正・段階的訂正)について:「ユーザーニーズの状況も注視しつつ、引き続き慎重に検討することが適当」(同上)
と書かれている。
後は審査の品質に関する取り組みについて書かれている程度なので省略するが、報告書案中の「慎重に検討」とはお役所文学で何のことはない「やらない」という意味なので、上の書きぶりから今現在特許法改正(恐らく他の知財法にも同様に導入されることになるのだろうが)により導入することがほぼ想定されているのは、要するに、
- 書類・検証物の提出の必要性の有無についての判断のために裁判所がインカメラ手続により当該書類・検証物を見ることを可能にすること
のみなのだろうと知れ、これに加えて可能性が高いこととして想定されているのは、
- 訴え提起後のインカメラ手続における裁判官や、訴え提起前の証拠収集手続における執行官に対して第三者の技術専門家の技術的なサポートを可能にすること
くらいなのだろうと分かる。
どちらも実務的にはそれなりに重要とは言え、この報告書案の内容から見る限り次の特許法改正は小幅の改正に留まりそうである。
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