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2016年12月28日 (水)

第372回:2016年の終わりに

 トランプ氏のアメリカ大統領選挙当選の結果発効の見込みが全く立っていないことが不幸中の幸いとは言え、日本の国会で極めて問題の多いTPP協定と関連法案が可決されるなど今年もおよそロクでもない年だったが、今日で各省庁も休みに入り、年内のイベントは一通り終わったと思うので、ここで、今まで取り上げる暇があまりなかった細かな話をまとめて書いておきたいと思う。

 まず、知財本部では、10月から検証・評価・企画委員会が開催されており、今のところほぼ今までの取り組みのフォローアップをしているだけで何か新しい方向性が出ているということはないが、産業財産権分野、コンテンツ分野、新たな情報財検討委員会と3つに分かれて検討が進められている。この中では、新たな情報財検討委員会がAI(人工知能)の作成・保護・利活用の在り方を検討しているようだが、例によって具体的に何をどうしたいのかいまいち良く分からない。

 次に文化庁では、例年通り文化審議会著作権分科会の下で、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会法制・基本問題小委員会新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム国際小委員会が開催されている。茂木和洋氏が最近の検討資料を氏のサイトに上げて下さっているが、私的録音録画補償金制度に関しては関係者の意見が対立したままで、一般的な権利制限規定(フェアユース)の導入には否定的と文化庁の検討は相変わらず全く期待できない状況である。さらに、まだかなり整理が必要だろうと思うが、法制・基本問題小委員会でリーチサイト対策についての検討が進められていることも要注意だろう。

 特許庁では、産業構造審議会知的財産分科会の下で、審査基準に関する検討なども行われているが、法制度に絡むものとして特許制度小委員会商標制度小委員会が開催されている。このうち7月に開催されていた商標制度小委員会の方ではすぐに法改正をするような話にはなっていないようだが、特許制度小委員会の方では知財計画2016(第363回参照)を受けて知財紛争処理システムの在り方に関する検討が行われている。

 また、経産省では、営業秘密の保護・活用に関する小委員会も開催されているが、これもまた資料を見ても何をどうしたいのか良く分からない。

 農水省では、種苗分科会が開催されているが、農水省関連としてはそのHPに書かれている通り、TPP関連法として成立した地理的表示保護法の改正法が既に施行されていることに注意が必要だろう。(無論改正法の他の部分はTPP協定の発効と結びついているので施行されていないが。)

 最後に、総務省では、知財とは直接関係がないが、放送を巡る諸課題に関する検討会放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会が開催されており、放送番組のネット同時配信の検討が行われている。

 TPP協定と関連法が国会を通った上、いつも通り各省庁は何のためか良く分からない検討のための検討をこぞって繰り広げており、来年も良い年にはなりそうもないが、だからと言って諦めるつもりもない。政官業に巣食う全ての利権屋に悪い年を。そして、この拙いブログを読んで下さっている方々に心からの感謝を。

(2017年1月11日の追記:特許庁のHPに資料が掲載されているが、昨日10日に意匠制度小委員会も開催されていたようである。意匠分野における優先権書類の電子的交換の仕組みの導入などそれなりに実務的に重要な検討もしているようだが、資料を見る限り、意匠法について大きな法改正が今すぐ動きそうな様子ではない。)

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2016年12月 9日 (金)

第371回:TPP協定・関連法案の参議院可決・成立と今後のこと

 今日12月9日に参議院本会議でTPP協定の承認案と関連法案が可決され、成立した。

 参議院での11月11日から12月9日までの審議も、衆議院同様時間こそそれなりに取られ、知財問題についても何回か触れられたものの、全く議論が深まることはなかったと言っていいものだった。(参議院インターネット中継参照)

 国会会期が延長されたことにともない自然成立もあり得たので、参議院での可決はかなり儀式的なものと言わざるを得ないが、いずれにせよ、確たる見通しも戦略もないまま、このように政府与党が自分たちのプライドのみを優先してTPP協定承認案と関連法案を国会で成立させたことは極めて残念なことである。

 アメリカ次期大統領であるトランプ氏が離脱を明言していることから、TPP協定が当面発効しないことが確実であることが不幸中の幸いとは言え、トランプ氏が二国間協定としてTPP協定以上の内容の押しつけをして来ることも考えられれば、日本政府が今回国内法に取り込んだ内容について協定の発効とは別に施行を考えるべきと言い出すこともあり得、今後も非常に注意が必要な状況が続くことに変わりはないし、私は今後も今回国会を通されたTPP協定とその関連法について反対して行くつもりである。

(なお、TPP政府対策本部のHPに掲載されている法案概要(pdf)にもある通り、関連法の内、地理的表示関連部分はTPP協定本体の発効とは関係なく公布の日から起算して2月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されてしまう。国会では全く議論が深まることがなかったが、このような部分が含まれていることもこの関連法の問題点の1つである。)

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