第370回:TPP協定・関連法案の衆議院委員会可決とアメリカ大統領選挙の結果
先週11月4日にTPP協定とその関連法案が衆議院のTPP特別委員会で可決され、本会議での議決を待つ状態になっている。
衆議院委員会審議の中で10月31日には知財関係でも参考人が呼ばれ、土肥一史先生がTPPに基づく著作権法改正に賛成の立場から意見を述べ、福井健策先生が慎重な立場から意見を述べている。(衆議院インターネット中継参照。)
土肥先生は文化庁の著作権分科会・法制・基本問題小委員会の主査としてTPPに絡む著作権法改正案の検討に関わっていたので、このように保護期間延長などについて賛成の意見を述べたのは当然と言えば当然である。
また、これに対して、福井先生は、保護期間延長は著作物に関する現状の貿易赤字を増やすとともに、ビックデータ時代において実質的に権利処理不能となる著作物を莫大に増やすものであるからこのような法改正には慎重であるべきと述べ、合わせ、非親告罪化や法定賠償についても十分注意しなければならないとの指摘をしている。
なお、両先生とも、取るべきとする手段において違いはあるものの、今後の著作物の利用円滑化施策の重要性はともに認めていた。
これで衆議院としては知財部分についても賛成反対の両論を聞き、その主要な問題点についても指摘されたということになるが、衆議院においてTPP協定について本当に真摯な検討がされたということはなく、ほとんど結論ありきの審議で、委員会で可決までされてしまった。
その中で、今日アメリカ大統領選の結果が出、TPP離脱を公約とする共和党候補のドナルド・トランプ氏が次期大統領になることになった上、同時に行われている上下院選挙でも共和党が多数派になったことで、アメリカでTPPが批准される可能性は完全になくなったと言える。
衆議院委員会でもアメリカ大統領選との関係で何度も再交渉についてどうするかという話題が持ち上がりながら、首相を始めとして再交渉には応じないとの一点張りで全く議論になっていないが、もはや再交渉の問題ですらない。言わずもがなのことだが、日本の議会での可決によってトランプ氏がそのスタンスについて再考を促されることなど到底あり得ないだろう。
日本国内における真剣な議論の結果ではなく、アメリカの選挙という外的な要因によることが情けないと言えば情けないが、少なくともTPP協定について今日その命脈が完全に絶たれたことは良いことと私は考えている。そもそもアメリカが批准しなければ絶対に発効しない貿易協定について日本だけで批准・関連法案の可決をすることに全く意味はない。政府与党が自分たちの下らないメンツだけのために衆議院本会議でTPP協定とその関連法案を可決した上で、条約として自然成立させるなどというバカげたことをしないことを私は願っている。
(2016年11月10日夜の追記:発効の見通しの立たない中、今日衆議院本会議でTPP協定とその関連法案が可決された。TPP協定に関する私の考えは変わりはしないが、政府与党がこのように自分たちのメンツだけを優先して協定・法案の衆議院可決を行ったのは残念なことである。)
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