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2015年11月15日 (日)

第353回:日米TPP並行交渉書簡とダウンロード違法化・犯罪化(刑事罰付加)問題

 11月4日と11日に文化庁で法制・基本問題小委員会が開催され(文化庁のHP1HP2参照)、TPP協定と国内知財法の関係に関する危うい検討が始まったところで非常に不安を感じているところだが、11日の資料を見て(internet watchの記事参照)、日米TPP並行交渉にかかる書簡の内容についても大いに危惧を覚えたので、ここでも補足を書いておきたいと思う。

 大体日米の並行交渉も本交渉と同じくらい秘密交渉で行われていたこと自体大問題である上、並行交渉書簡について日本政府のTPP対策本部のHPにもいまだに日本語としては概要(pdf)しか載っていないという状況に私は憤りを感じるばかりである。

 その概要(pdf)

(4)知的財産権
(ア)概要
 両国政府は、TPP協定の関連規定の円滑かつ効果的な実施のために必要な措置をとること、日本政府が著作権の私的使用のための複製の例外の適用範囲について、文化審議会著作権分科会に再び諮ること、及び、両国政府が著作権等の知的財産権の保護の強化に向け取組の継続の重要性を認めることとした。
(イ)主な内容
①両国政府は、TPP協定中の関連規定の円滑かつ効果的な実施のために必要な措置をとる。
②あらゆる違法なソースからのダウンロードに私的使用の例外が適用されないようにすべきかどうかについて、日本政府は文化審議会著作権分科会に再び諮る。
③両国政府は、アジア太平洋地域における著作権等の知的財産権の保護の強化に向け、取組の継続の重要性を認める

という記載は間違っている訳ではないものの、アメリカの通商代表部(USTR)のHPなどに載っている書簡等と比べると、恐らくわざとだろうが、少し情報が落ちているのである。

 例えば、USTRの非関税措置に関する日米並行交渉の概要(pdf)には、以下のように書かれている。

Intellectual Property Rights

Along with TPP commitments on copyright term of protection, technological protection measures and enforcement, Japan will examine the appropriate scope of the application of the private use exception with regard to works other than sound recordings and motion pictures from illegal sources, further improving Japan's intellectual property regime for U.S. companies and artists.

知的財産権

著作権保護期間、技術的保護手段及びエンフォースメントについてのコミットメントと並行して、日本は、違法ソースからの録音及び映像以外の著作物に関する私的利用の例外の適切な適用範囲を検討し、さらに日本の知的財産法制をアメリカの会社及びアーティストのために改善する。

 そして、実際の書簡(pdf)から知的財産権に関する部分を抜粋すると、以下のようになる。(なお、USTRの方が文書が分かれていて読みやすいので使ったが、英文の書簡自体は日本のTPP本部の交換文書(pdf)の最後の方にも載っている。)

INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS

Both Governments will take necessary measures for the smooth and effective implementation of the relevant provisions in Chapter 18 (Intellectual Property) of the TPP Agreement.

Private Copying Exception

On the scope of copyright protection, the Copyright Working Group under the Council for Cultural Affairs of Japan studied the scope of the private use exception and concluded in 2009 that it is appropriate that the private use exception should not be applied for downloading of sound recordings and motion pictures from illegal sources.

The Government of Japan will resume its consultation with the Copyright Working Group with respect to whether the private use exception should not be applied for downloading of other works from any illegal sources as soon as possible and no later than the time when the TPP Agreement takes effect with respect to both countries. In order to facilitate this process, the Government of the United States and the Government of Japan will exchange relevant information in this respect.

Both Governments also recognize that it is important for both countries to continue to work toward enhancing the protection of intellectual property rights in the Asia-Pacific region, including with respect to copyrighted works such as manga, animation, software and books.

知的財産権

両政府はTPP協定の第18章(知的財産)の関連規定のスムースで有効な実施のために必要な措置を取る。

私的複製の例外

著作権保護の範囲について、日本の文化庁の文化審議会の著作権ワーキンググループは私的利用の例外の範囲を研究し、私的利用の例外は違法ソースからの録音及び映像のダウンロードには適用されないのが適当であるという結論を2009年に出した。

日本政府は、私的利用の例外は違法ソースからのその他の著作物のダウンロードにも適用されないべきではないかということに関して著作権ワーキンググループへの諮問を、可能な限り早く、TPP協定が両国に対して発効するときより前に、再開する。このプロセスを促進するため、日米政府はこの点で関連する情報を交換する。

両政府は、漫画、アニメーション、ソフトウェア及び本のような著作物に関することを含め、アジア太平洋領域における知的財産権の保護の強化に向けた仕事を続けることが両国にとって重要であることも認める。

 以前から分かっていたことではあるが、これを読んでも、日本の私的複製の例外の範囲の縮小あるいはダウンロード違法化・犯罪化(刑事罰付加)の範囲の拡大に対するアメリカ政府の並々ならない関心は明らかであり、情報交換と称して今後アメリカ政府から露骨に圧力が掛かるのは目に見えている。

 敢えて言うならTPP協定本文に書かれるよりはマシだったかも知れないが、今までの文化庁の行状を見てもアメリカ政府からの圧力に対して何もせずに済ますということは非常に難しいだろうと思われ(アメリカが日本の著作権法改正事情に通じており、このような形で書簡をまとめていることからも、ダウンロード違法化当時の文化庁の凄まじい法改正理由「諸般の事情」(第39回参照)にはアメリカからの圧力が含まれていたのだろうと想像されるのである)、日本政府は政府として並行交渉でも愚劣極まるコミットメントをしたものであり、私的複製・ダウンロード違法化・犯罪化(刑事罰付加)問題についても今後無傷では済まないのではないかという強い危惧を私は抱いている。

 なお、アメリカが日本の事情に通じていることの証左として、書簡で日本政府の審議会の透明性に関して以下のような注文もつけているので、最後に参考のために一緒に訳出しておく。前に載せるのが概要からの抜粋、後に載せるのが書簡そのものからの抜粋である。日本政府が非常に不透明なやり方で審議会を運営し、自分たちの好きなように規制政策を決定していることはアメリカにもばれているのである。

Transparency

Government-established advisory councils play a critical role in the Japanese regulatory policymaking process. Those advisory councils will be subject to greater transparency requirements, which will make it easier for U.S. firms to participate in the regulatory process and compete on an equal footing with Japanese firms.

透明性

政府設置の審議会が、日本の規制政策決定プロセスにおいて決定的な役割を果たしている。これらの審議会により大きな透明性の要件が課され、このことは、日本の会社と対等の地位で規制プロセスに参加し、競争することをアメリカの会社に容易にするであろう。


TRANSPARENCY

1. Advisory Councils / Committees

The Government of Japan affirms the importance of transparency with respect to the formation and operation of advisory councils and similar groups ("advisory councils") that are established by the Government of Japan to advise or provide recommendations to the Government on the development of regulations and other measures which have an impact on trade and investment between Japan and the United States.

Accordingly, the Government of Japan will ensure that the relevant authorities:
(a) permit interested persons to attend, appear before, or file statements with advisory councils, subject to reasonable rules or regulations, including by providing meaningful opportunities for all interested parties, including foreign parties, to file statements on terms no less favorable than those accorded to its own parties in like circumstances;

(b) provide timely public notice of the formation of advisory councils;

(c) open meetings of advisory councils to the public;

(d) provide timely public notice of each advisory council meeting, such as by posting notifications of meetings on the website of the responsible ministry or agency, so as to ensure that interested persons are notified prior to the meeting date;

(e) make available for public inspection and copying, such as by posting on the website of the responsible ministry or agency, the minutes and other documents made available to the advisory councils;

(f) require detailed minutes of each meeting of the advisory councils to be kept, including a record of the persons present, a complete and accurate description of matters discussed and conclusions reached, and copies of all reports received, issued, or approved by the advisory councils; and

(g) provide interested persons with the opportunity to seek redress in the event of a failure of any of the above mentioned requirements through complaints filed with the secretariats of the advisory councils, which will report to the advisory councils a summary of any comments or complaints received;

with exceptions to these requirements only in the event the relevant authorities determine that a meeting or portion of a meeting needs to be closed to the public for national security or other reasonable grounds (such as protection of information that would otherwise be exempted from disclosure under relevant laws and regulations). In that event, the relevant authorities will be required to make public the reasons for this determination.

Further, the Government of Japan will ensure that any rules enacted for the formation and operation of the advisory councils are made publicly available and are consistent with all general transparency requirements for advisory councils.

透明性

1.審議会/委員会

日本政府は、日米間の貿易及び投資に影響する規制の展開及びその他の措置について日本政府に助言又は提言する、日本政府によって設置された審議会及び類似のグループ(「審議会」)の形成及び運用に関して透明性が重要であることを認める。

したがって、日本政府は関連当局が以下のようにすることを確保する:
(a)外国の関係者も含め、全ての利害関係者に、同様の状況において自国の関係者に与えるものに劣らない期間で意見を提出する意味のある機会を与えることを含め、合理的な規則又は規制に服する審議会に出席するか、参加するか、意見を提出することを利害関係者に認めること;

(b)審議会の形成について時宜を得た形で公的な通知を提供すること;

(c)審議会の会合を公衆に公開すること;

(d)利害を有する者が会合の日よりも前に知らされることが確保されるように、責任を有する省庁のウェブサイトに会合の通知を掲載すること等により、それぞれの審議会の会合について時宜を得た形で公的な通知を提供すること;

(e)責任を有する省庁のウェブサイトに掲載すること等により、議事録及び審議会で入手可能とされたその他の資料を公衆による精査及び複製のために入手可能とすること;

(f)出席者の記録、議論された事項の完全で正確な描写及び到達した結論並びに審議会が受け取ったか、出したか、承認した全ての報告書の複製を含め、審議会の各会合の詳細な議事録の保存を求めること;

(g)上記の要件のいずれかを欠くことがあった場合に、審議会事務局への苦情の提出を通じて、利害関係者に是正を求める機会を提供すること、審議会事務局は受け取ったあらゆるコメント又は苦情の概要を審議会に報告する;

これらの要件の例外は、会合又は会合の一部が国家安全保障又は(関連法規制によって別段開示を除外されている情報の保護のような)その他の合理的な理由によって公衆に閉ざされる必要があると関連当局が決定した場合のみに限られる。この場合、関連当局はこの決定の理由を公にすることを求められる。

さらに、日本政府は、審議会の形成及び運用のために制定されたあらゆる規則が公衆に入手可能とされ、これらが審議会についての一般的なあらゆる透明性の要件と合致することを確保する。

(2015年11月17日夜の追記:11月11日の文化庁の小委員会の配布資料が文化庁のHPにアップされたので、上でHP2としてリンクを追加した。なお、TPP関連の交換文書中には知財関連として戦時加算や地理的表示に関することも書かれているのだが、戦時加算に関しては単なる注意喚起に留まるもので意味はなく、地理的表示に関しては単に保護されるべき酒の名前がリスト化されているだけなので、ここでは省略する。)

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コメント

This is one awesome blog post. Keep writing. ecdgdedcbbed

投稿: Johnf66 | 2015年12月 8日 (火) 13時15分

Very nice site!

投稿: Pharmd823 | 2015年12月12日 (土) 20時17分

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