第346回:TPP交渉大筋合意と今後のこと
つい昨日TPP交渉の大筋合意が発表され、その概要がようやく日本政府のTPP対策本部から発表された。
その発表資料のうち、環太平洋パートナーシップ協定の概要(暫定版)(仮訳)(pdf)の知財関連部分には、
18.知的財産(IP)
TPP協定の知的財産章は、特許、商標、著作権、意匠、地理的表示、営業上の秘密その他の形式の知的財産及び知的財産権の行使並びに締約国が協力することを合意する分野を対象とする。知的財産章は企業が新しい市場において知的財産権を調査、登録及び保護することを容易にするものであり、これは特に中小企業にとって重要である。
WTO協定に附属するTRIPS協定及び国際的な最良の慣行に基づく基準を定める。商標について、本章は、企業及び個人がその商品を市場において識別するために使用するブランド名及びその他の標識の保護を定める。本章はまた、国際約束を通じて認定され又は保護される新規の地理的表示の保護に関する一定の透明性及び適正手続を求める。これらは、商標と地理的表示との関係についての理解の確認及び一般に使用される言語の使用に関する保護措置を含む。
さらに、本章は、様々な締約国がその基準を満たすために必要とする期間を考慮し、革新的で救命に資する医薬品の開発及びジェネリック医薬品の入手可能性の両方を促進する医薬品関連の条項を含む。本章は、新たな医薬品及び農業用の化学薬品の販売承認を取得するため提出された開示されていない試験データ及びその他のデータの保護に関する約束を含む。本章は、また、WTOによるTRIPS協定及び公衆の健康に関する2001年の宣言についての締約国の約束を再確認し、特に公衆の健康を保護するための措置をとることを妨げられないこと(これにはヒト免疫不全ウイルス及び後天性免疫不全症候群のような伝染病への対処が含まれる。)を確認する。
著作権について、本章は、歌唱、映画、書籍、ソフトウェア等の著作物、実演及びレコードに対する保護を求める約束を定めた。これらの約束には、技術的な保護手段及び権利管理情報に関する効果的で均衡のとれた規定が含まれる。これらの約束を補完するために、本章は、特に、正当な目的による例外及び制限(デジタル環境におけるもの含む。)を通して、締約国が、著作権制度における均衡を継続して達成するよう努める義務を含む。本章は、締約国にインターネット・サービス・プロバイダに関する著作権に係る免責措置の枠組みを創設し又は維持することを求める。これらの義務は、締約国に対して、インターネット・サービス・プロバイダがそのシステムにおいて侵害行為を監視することを、その免責措置の条件とすることを許容するものではない。
最後に、TPP協定の締約国は、例えば、民事上の手続、暫定措置、国境措置並びに商業的規模による商標の不正使用及び著作物又は関連する権利を侵害する複製に対する刑事上の手続及び刑罰を含む強力な権利行使の制度を定めることを合意する。特に、TPP協定の締約国は、営業上の秘密の横領を防止するための法的手段を定め、営業上の秘密の盗取(サイバー窃盗の方法によるものを含む。)及び映画盗撮に対する刑事上の手続及び罰則を規定する。
と書かれ、TPP協定の概要(日本政府作成)(pdf)には、
第18章 知的財産
TPP協定で対象となる知的財産は、商標、地理的表示、特許、意匠、著作権、開示されていない情報等である。知的財産章は、これらの知的財産につき、WTO協定の一部である「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を上回る水準の保護と,知的財産権の行使(民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置等)について規定し、もって、知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっている。知的財産章の主な規定は,以下のようなものである。
〇医薬品の知的財産保護を強化する制度の導入
①特許期間延長制度(販売承認の手続の結果による効果的な特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するために特許期間の調整を認める制度)
②新薬のデータ保護期間に係るルールの構築。
③特許リンケージ制度(後発医薬品承認時に有効特許を考慮する仕組み)〇商標
・商標権の取得の円滑化:国際的な商標の一括出願を規定した標章の国際登録を定めるマドリッド協定議定書(マレーシア、カナダ、ペルー等が未締結)又は商標出願手続の国際的な制度調和と簡略化を図るためのシンガポール商標法条約(マレーシア、カナダ、ペルー、メキシコ等が未締結)の締結を義務付け。
・商標の不正使用について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。〇特許
・特許期間延長制度(出願から5年、審査請求から3年を超過した特許出願の権利化までに生じた不合理な遅滞につき、特許期間の延長を認める制度)の導入の義務付け。
・新規性喪失の例外規定(特許出願前に自ら発明を公表した場合等に、公表日から12月以内にその者がした特許出願に係る発明は、その公表によって新規性等が否定されないとする規定)の導入を義務付け。〇オンラインの著作権侵害の防止
インターネット上の著作権侵害コンテンツの対策のため、権利者からの通報を受けて、プロバイダー事業者が対応することで賠償免責を得る制度を導入。プロバイダー事業者に著作権侵害防止のためのインセンティブを与える制度を担保。〇知的財産権保護の権利行使
WTO・TRIPS協定やACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)と同等又はそれを上回る規範の導入。
(例)・不正商標商品又は著作権侵害物品の疑義のある、輸入されようとしている物品、輸出されようとしている物品、若しくは領域を通過する物品について、権限のある当局が職権で差止め等の国境措置を行う権限を付与(ただし,通過物品については,荷宛国への侵害疑義物品情報提供をもって代替することが認められる)
・営業秘密の不正取得、商標を侵害しているラベルやパッケージの使用、映画盗撮に対する刑事罰義務化
・衛星放送やケーブルテレビの視聴を制限している暗号を不正に外す機器の製造・販売等への刑事罰及び民事上の救済措置を導入。〇著作権
著作権に関しては次のルール等が規定されている。
・著作物(映画を含む)、実演又はレコードの保護期間を以下の通りとする。
①自然人の生存期間に基づき計算される場合には、著作者の生存期間及び著作者の死から少なくとも70年
②自然人の生存期間に基づき計算されない場合には、次のいずれかの期間
(i)当該著作物、実演又はレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の年の終わりから少なくとも70年
(ii)当該著作物、実演又はレコードの創作から一定期間内に権利者の許諾を得た公表が行われない場合には、当該著作物、実演又はレコードの創作の年の終わりから少なくとも70年
・故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。
・著作権等の侵害について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。〇地理的表示(GI)
地理的表示の保護又は認定のための行政手続を定める場合、①過度の負担となる手続を課することなく申請等を処理すること、②申請等の対象である地理的表示を公開し、これに対して異議を申し立てる手続を定めること、③地理的表示の保護又は認定の取消しについて定めること等が規定されている。
と書かれている。
このような概要を読む限り、前回まで取り上げて来たリーク文書はやはり正しかったとしか言いようがなく、また、何故このような概要を最初から発表してくれなかったのかと思うし、リーク文書でしか内容が分からなかった時点でまるでダメなのだが、TPP協定交渉に関しては、完全に日本政府にポリシーロンダリングをやられたとしか言いようがない。
しかし、実際のところ、このTPP協定は関税含めてほとんど日本としては負けと言って良い内容であり、今後各国で国会審議と批准というプロセスも残っており、私は全く絶望していないし、このような非道な協定に対して断固反対して行きたいという私の立場にも何ら変わりはない。
(2015年10月25日夜の追記:引用中で幾つか改行がおかしな点があったので修正した。)
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コメント
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