第345回:TPP協定知財章第3リーク文書(2015年5月版条文案から予想される今後の日本の法改正事項と各国スタンス表)
今まで第340回、第341回、第342回、第343回、第344回と取り上げて来た、2015年5月版のTPP協定知財章第3リーク文書の条文案について、最後に、まとめを作っておきたいと思う。
(1)条文案から予想される今後の日本の法改正事項
まず、2015年5月版条文案から予想される今後の日本の法改正事項だが、今年の法改正にTPP協定関連事項は含まれていなかったので、第327回の時点と比べて変わりはなく、
◯法改正済みのTPP協定関連事項:
- 音の商標の導入
- 地理的表示保護法の制定
◯TPP交渉の進展に合わせて今後確実に政府から持ち出されるだろう事項(日本政府コミット済み):
- 著作権侵害の非親告罪化(「権利者が著作物を利用する能力に対する影響がある場合に限定」という条件つき)
- 著作権侵害における法定賠償制度の導入
- アクセスコントロール回避行為そのものの犯罪化・刑事罰付加やDRM回避規制における法定賠償制度の導入
- 手続き遅延を理由とした特許の保護期間延長
◯今後押しつけられる可能性が高いと見られる事項:
- 著作権保護期間の延長
- 匂いの商標の導入
という整理にも変化はない。(ただし、他にも細かな項目は多々あり、これは今までここで取り上げて来た部分を中心に私が作った整理であることに注意して頂きたい。)
(2)2015年5月時点の各国のスタンス表
そして、同様に2015年5月時点の各国スタンス表を作るとおよそ以下のようになる。(2014年時点のものは第327回参照。それぞれ条文の書き方が大きく変わり、直接義務化しているように読めなくなったので、地理的表示の他条約からの異議、動植物発明の保護、映画盗撮への刑事罰付加の項目は落としている。特許の保護期間延長、新薬データ保護、特許と結びつけて医薬品の販売許可手続きを進めることに関する特許リンケージの3つの項目について、条文上各国のスタンスに微妙な違いも見られるのだが、移行期間に関するノンペーパーにアメリカ、日本、シンガポール以外の国名がないので、これらの国以外は基本反対寄りのスタンスを取っていると考えて表を作った。また、著作権の50年を超える保護期間延長については各国の保護期間から推定して賛成と反対を埋めている。なお、表にしたことで細かな情報が落ちているので、詳しくは実際のリーク文書にあたって頂ければと思う。)
この表の変化を見ても2014年5月から2015年5月の間で特許要件などについてテクニカルな整理が進んでいることは分かるのだが、新薬データ保護についてなど本質的な部分での対立が解消しているとは到底言えるものではなく、恐らく報道の通り、今でもこの問題は片づいてはいないのだろうと思える。
以前書いた通り、知財のみでTPP協定交渉が漂流・破綻するとは考えにくく、今後のことは何とも分からないのだが、もし本当に知財に関する部分が要因の一つとなってこれほど非道い内容の条約が流れるのであればそれは実に幸いなことと言って差し支えないだろう。日本の知財政策・法制を大きく歪めることになるだろうTPP協定について私はこれからも反対し続けるだろうし、この協定の交渉が速やかに破綻することを心の底から願っている。
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