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2015年3月23日 (月)

第334回:閣議決定された特許法等改正案と不正競争防止法改正案

 この3月13日に特許法等改正案と不正競争防止法改正案が閣議決定され、国会に提出された。ほぼ審議会報告書通りで、以前書いたことと重なるが、念のためその内容を見ておきたい。

(1)特許法等改正案
 経産省のHPで公開された特許法等改正案の概要(参考資料)(pdf)には、法改正案のポイントについて以下のように書かれている。(概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)も公開されている。)

  • 職務発明の活性化:職務発明に関する特許を受ける権利を初めから法人帰属とすることを可能とする/発明者に対して現行法と実質的に同等のインセンティブ付与を法定/法人と発明者の間でのインセンティブ決定手続のガイドライン策定を法定化【特許法第35条】
  • 特許料等の改定:特許料を10%程度引き下げ/商標登録料を25%程度、更新登録料を20%程度引き下げ/国際出願の調査手数料等を日本語及び外国語別の料金体系に改正【特許法第107条第1項、商標法第40条第1項、国際出願法第18条第2項等】
  • 特許法条約、シンガポール条約(商標)への加入:外国語出願における翻訳文の提出期間を経過した場合の救済規定等の導入/書類の添付忘れ等瑕疵ある出願について、一定期間内に限り補完を可能とする制度を導入等【特許法第5条、第36条の2、商標法第9条等】

 料金や書類の提出期間経過後の救済規定なども重要には違いないがここではおくとして、今まで発明の自然人帰属の原則から出発して権利承継の形を取っていた職務発明について初めから法人帰属を可能とする、特許法に置ける今までの考え方の大転換の一つとも言っても良いだろう職務発明関連規定の条文案は以下のような形になっている。(下線部が追加部分。)

(職務発明)
第三十五条

(略)
 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめあらかじめ、使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させを取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。

 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価相当の利益について定める場合には、対価を、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。

 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。

 前項の対価相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第三項の対価の額第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

 上の経産省の概要資料では項目名が「職務発明の活性化」になっているが、この法改正で職務発明が活性化されることがないだろうことだけはほぼ断言できるし、実際のところ職務発明について法改正を是とするに足る立法事実の変化が大してなかったにもかかわらず、このような法改正案が出て来たことは私としてはやはり釈然としない。

 ただし、「相当の対価」については「相当の利益」と書き換える形でほぼ従前の規定ぶりを踏襲しており、法改正による金銭的な面での実際の変化はそれほど大きくないようにも見える。しかし、この法改正は従業発明者にしてみれば権利の切り下げであり、また、「対価」という語を「利益」という語にしたことから従業発明者にとって不利な解釈変更が生じないとも限らず、この法改正が成立した場合、第6項の規定から経済産業省(特許庁)が作るに違いない指針と合わせ、その運用は十分に注視して行く必要があるだろう。

 また、上の概要にも特許法条約、シンガポール条約への加入と書かれている通り、それぞれの条約の締結の承認も合わせ国会に提出されており、並行して審議が進められることになるのだろう。(それぞれ経過情報1参照。)

(2)不正競争防止法改正案
 同じく経産省のHPで公開されている不正競争防止法の概要(参考資料)(pdf)から法改正のポイントを抜き出すと以下のようになる。(概要(pdf)要綱(pdf)法律案・理由(pdf)新旧対照表(pdf)も公開されている。)

  • 法定刑の引上げ等:抑止力向上のため、罰金刑を引き上げる。(現行:個人1千万円以下、法人3億円以下)また、犯罪収益を没収できることとする。【第21条第1項、第3項、第10項】
  • 非親告罪化:営業秘密侵害罪を非親告罪とする(公訴提起にあたって被害者からの告訴が不要となる)。【新第21条第5項】
  • 立証負担の軽減:立証が困難である「加害者(被告)の企業情報の不正使用」について、一定の要件の下、被害者の立証負担を軽減する。(被告が当該情報の不使用を立証)【新第5条の2】
  • 企業情報使用物品の譲渡・輸出入等行為:企業情報を侵害して生産された物品を譲渡・輸出入等する行為を、損害賠償や差止請求の対象とするとともに、刑事罰の対象とする。【民事:新第2条第1項第10号】【刑事:新第21条第1項第9号】
  • 企業情報窃取等の未遂行為:「サイバー攻撃」などによる企業情報窃取や転売等の未遂行為を刑事罰の対象とする。【新第21条第4項】
  • 転々流通した企業情報の転得者:転々流通する企業情報について、不正に取得されたことを知って取得した者による使用、転売等を刑事罰の対象とする。(現行:実行行為者からの直接の取得者のみ)【新第21条第1項第8号】
  • クラウドなど海外保管情報の窃取:日本企業が国内で管理し、海外で保管する情報の「取得・領得」行為も刑事罰の対象とする。(例:海外サーバーからの情報窃取など)【新第21条第6項】

 条文案を引くと長くなるので省くが、前にも書いた通り、この法改正案は、営業秘密関係について現時点で考えられる規制強化をほとんど全て詰め込んだものになっており、やはり非常に企業寄りのものになっている。

 さらに広い意味で情報関係ということでは、刑事訴訟法等の改正案や個人情報保護法の改正案も閣議決定されている。それぞれ知財とは少し離れるので詳細は省くが、刑事訴訟法等の改正案(法務省のHP参照)は取り調べの可視化の範囲をかなり限定しながら、司法取引を導入し、通信傍受の範囲を拡大するなど検察・警察にとって非常に有利な内容になっており、特に、児童ポルノ規制法との関係では、通信傍受法において、傍受対象の共謀犯罪類型を規定する別表第二の第3号として「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第七条第六項(児童ポルノ等の不特定又は多数の者に対する提供等)又は第七項(不特定又は多数の者に対する提供等の目的による児童ポルノの製造等)の罪」という項目が追加されることになりそうである。

 そして、個人情報保護法の改正案(内閣官房のHP参照)では、一番問題視されていた同意なしでの利用目的の変更に関する規定がなくなったので、最も問題となるのは匿名加工情報に関する部分のように思うが、第36条第1項の「個人情報取扱事業者は、匿名加工情報(匿名加工情報データベース等を構成するものに限る。以下同じ。)を作成するときは、特定の個人を識別すること及びその作成に用いる個人情報を復元することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、当該個人情報を加工しなければならない。」に始まり、個人情報保護委員会の規則が非常に重要となる形となっている。そのため、これも現時点では、この規則次第としか言いようがないが、この規則が企業寄りの甘いものとなり、法改正が通った後どこかの時点で匿名加工情報の取り扱いが問題になる可能性もかなりあるだろうと私は見ている。

 今年これから予定される法改正は、利用者、消費者又は従業者側の視点が全くないとまで言うつもりはないし、今の流れから見てやむを得ないだろうとも思うが、どうにも企業寄りで、全体としてあまり期待は持てない。

(2015年3月24日夜の追記:いくつか誤記を直した。)

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