第327回:TPP協定知財章第2リーク文書(2014年5月版条文案から予想される今後の日本の法改正事項と各国スタンス表)
今まで第322回、第323回、第324回、第325回、第326回とウィキリークス公開の2014年5月版のTPP協定知財章条文案の翻訳紹介をして来た訳だが、第304回で取り上げたどこかの国の交渉関係者によるまとめ資料の最新版はリークされていないので、ここに自分なりのまとめを作っておく。
(1)条文案から予想される今後の日本の法改正事項
TPP協定の問題点も細かなところまで挙げて行くと切りがなくなるので、以下は今まで取り上げて来た部分の話が中心となるが、まず、TPP交渉の中で日本政府が改正しない内からコミットし、かつ既に法改正が終わった事項として、
- 音の商標の導入
- 地理的表示保護法の制定
の2点があげられる。これらはかなり前から法改正の検討がされていたものなので、TPP交渉から来ている法改正とは必ずしも言えないが、今年急いで法改正が行われた背景にはTPP交渉対策の面もあるのではないだろうか。
そして、2014年5月版条文案で日本政府が既にコミットしており、TPP交渉の進展に合わせて今後法改正が確実に持ち出されるだろう事項をあげると、
- 著作権侵害の非親告罪化(「権利者が著作物を利用する能力に対する影響がある場合に限定」という条件つき)
- 著作権侵害における法定賠償制度の導入
- アクセスコントロール回避行為そのものの犯罪化・刑事罰付加やDRM回避規制における法定賠償制度の導入
- 手続き遅延を理由とした特許の保護期間延長
となる。
さらに、まだ対立しているところだが、アメリカなどの圧力によって日本に押しつけられる可能性がかなり高いと私が見ている事項は、
- 著作権保護期間の延長
- 匂いの商標の導入
である。
(2)2014年5月時点の各国のスタンス表
さらに、第304回で取り上げたどこかの国の交渉関係者による表に倣い、リーク条文案から読める限りで、主な検討条項について各国のスタンスの表を作ると以下のようになる。(「賛」が賛成、「反」が反対、「条賛」が条件つき賛成の略である。今度の表は翻訳ではないので、分かりやすさを考えて項目名を多少変え、ほぼ問題のない形でまとまりそうなインターネットサービスプロバイダー(ISP)に関する項目やアメリカが取り下げたと思しき並行輸入に関する項目などを消し、手続き遅延を理由とした特許の保護期間延長に関する項目を追加し、順序を条文番号順にした。著作権の50年を超える保護期間延長について、条文案にはスタンスは書かれていないが、各国の保護期間を考慮して70年や100年を主張しているだろう国を推定して賛成と反対を埋めている。また、表にしたことで細かな情報が落ちており、全ての対立点について表を作成している訳でもないので、詳しくは実際のリーク条文案にあたって頂ければと思う。なお、マニアック過ぎるので細かな説明を省略するが、特許リンケージは、特許期間内に第三者が特許対象医薬品の販売許可を求める場合に特許権者にそのことを通知することなど、特許と結びつけて医薬品の販売許可手続きを進めることに関する条項であり、念のために書いておくと、これも日本における法改正が必要になるだろう部分である。)
この表はあくまで私が条文案を見て作ったものなので前の表と単純な比較はできないことに注意して頂きたいが、2013年8月から2014年5月の間で見て最も大きな変化と言えるのは、前の条文案では比較的保留も多かった日本が多くの部分でアメリカ寄りのスタンスを取ることを固めたことだろうか。
条文案の変化を見ると確かに全体としてテクニカルな整理は進んでいるが、この表からも分かる通り、今も本質的な部分で各国の対立が解消しているとは言い難い状況にあると見て良いだろう。そうは言っても、現実的には知財のみで交渉が破綻するとは考え難く、今後の日本の知財政策・法制は、TPP交渉の知財以外の部分で合意が成立するかに大きく依存することになるに違いない。
せめて最大の問題点である著作権の保護期間延長と特許・医薬の保護強化が共倒れしてくれるよう願っているが、実際のところ、それすらもどうなるか良く分からない。日本の知財法制が上であげたような法改正事項によって今以上に歪むのは心底願い下げなのだが、TPP交渉も不透明感が増しているとは言え、政治判断という名のポリシーロンダリングが行われる可能性はなお高く、今後も予断を許さない危険な状況が続くのだろう。
いつものことながら知財が選挙の争点になりそうもないのが残念だが、次回はまた衆院選関連のエントリを書くつもりでいる。
(2014年11月24日夜の追記:少しだけ文章を整えた。)
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