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2014年6月24日 (火)

第315回:知財計画2014の文章の確認

 先週6月20日に知財計画2014本文(pdf)が決定された。

 今年の知財計画も途中での番狂わせはなく、前から言われていたように特許法の職務発明制度の見直しと営業秘密の保護強化が2つの大きな目玉になっているくらいで、取り立てて見るべきところがある訳ではないが、知財政策検討項目集としてパブコメを出したところなどがどういう書き方になったかを見て行きたいと思う。(今年の私の提出パブコメは第312回、去年の知財計画2013の内容については第292回参照。)

 目玉項目のうち1つ目の「職務発明制度の抜本的な見直し」については第12ページから書かれているが、第15〜16ページの今後取り組むべき施策で書かれているのは以下のような文章である。

 職務発明制度の在り方について、特許庁において2013年度に実施した調査5において収集した海外における職務発明制度の内容や判例等の情報、企業向けアンケート調査結果や、研究者向けアンケート結果等の客観的資料に基づき、例えば、法人帰属や使用者と従業者などとの契約に委ねるなど、研究者の研究開発活動に対するインセンティブの確保と企業の国際競争力・イノベーションの強化を共に実現できるような制度設計をすべく、産業構造審議会知的財産分科会での議論を加速化させ、今年度(2014年度)のできるだけ早い時期に、法制度上の措置を講ずることの必要性も含め、結論を得る。(短期)(経済産業省)

 職務発明制度の見直しと言っても前回の法改正以降訴訟が乱発されているなどということもなく、法改正を是とするに足る立法事実の変化はなにもないように思うが、去年と比べてもさらに取り上げ方が大きくなっており、特に方針の変更があったという話も聞かないので、ここにも書かれている通り、職務発明の法人帰属化(現行の特許法第35条では従業者の職務発明に関する権利を対価と引き換えに契約等で法人に承継させるのが基本だが、これを始めから法人帰属にする)や完全な契約ベース化(特許法第35条の廃止)のようなかなりラディカルな方向で今後も特許庁の特許制度小委員会で検討が進められるのだろう。

 もう1つの目玉、「営業秘密保護の総合的な強化」については第17ページからで、中でも法制面で検討すべきことについては、第19ページで、

 我が国における流出の実態と課題に照らし、更に実効的な抑止力を持つ刑事規定の整備、実効的な救済(損害賠償・差止)を実現できる民事規定の整備を実現するため、その内容と実現スピードの適切なバランスを考えつつ、優先すべき事項から法制度の見直しを進めていく。例えば、刑事規定については非親告罪化や罰金の上限の引上げなど、民事規定については立証負担の軽減など、その他については水際措置の導入など、知財関連法制の範囲で検討できる事項については、早急に産業界のニーズや実態を踏まえ、次期通常国会への法案の提出も視野に、スピーディーに検討を進めていく。(短期・中期)(経済産業省、財務省、法務省)

と書かれている。営業秘密の保護強化も本当に必要かどうかと考えるとかなり疑問なところが多いが、ここで書かれているように、非親告罪化や罰金の上限の引上げなどの検討が経産省で進められるのだろう。

 あと地道に進めてもらえれば良い特許の運用改善などに関する話を飛ばして法改正に関係する部分をざっと見て行くと、まず、意匠法について、第10ページで、

(画像デザインの意匠法による保護)
・事業者のクリアランス負担を軽減すべく、運用面のインフラ整備を進める。これを前提とし、関係する産業界から広く参画を得つつ、画像デザインの意匠の保護の在り方を検討する。(短期)(経済産業省)

と画面デザインについて書かれているが、去年よりはかなり押さえ気味の書きぶりとなっている。

 商標法や地理的表示保護法についてなどは法改正が通ったためかばっさりと項目がなくなり、著作権改正関係ではほぼ去年通りの記載で第40ページの、

(新しい産業の創出環境の形成に向けた制度等の構築・整備)
・著作物の公正な利用と適切な保護を調和させ、クラウドサービスや情報活用のサービスなどの新たな産業の創出や拡大を促進するため、著作権の権利制限規定の見直しや円滑なライセンシング体制の構築などの制度の在り方について、文化審議会の議論を加速化させ、今年度の出来る限り早期に結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期)(文部科学省)

・クリエーターへ適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、引き続き上記の検討と併せて、私的録音録画補償金制度の見直しや当該制度に代わる新たな仕組みの導入について検討を進め、結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省、経済産業省)

という権利制限や私的録音録画補償金制度に関する項目や、第41〜42ページの

(教育の情報化の推進)
・全ての小・中学校において児童生徒1人1台の情報端末によるデジタル教科書・教材の活用を始めとする教育の情報化の本格展開が急務であり、実証研究の成果等を踏まえつつ、クラウド等の最先端の情報通信技術を活用した教育ICTシステムの標準モデルの確立を進めるとともに、デジタル教科書・教材の位置付け及びこれらに関連する教科書検定制度などの在り方について本年度中に課題の整理を行い、2016年度までに導入に向けた検討を行い結論を得て、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省、総務省)

・大規模公開オンライン講座等のインターネットを通じた教育や、上記に関する検討と併せてデジタル教科書・教材に係る著作権制度上の課題について検討し、必要な措置を講ずる。(短期・中期)(文部科学省)

という項目が残った。

 著作権法改正関係の中でも、第45ページの、

(アーカイブの利活用促進のための著作権制度の見直し)
・孤児著作物を含む過去の膨大なコンテンツ資産の権利処理の円滑化等によりアーカイブの利活用を促進するため、著作権者不明の場合の裁定の手続の簡素化や、裁定を受けた著作物の再利用手続の簡素化など裁定制度の在り方について早急に検討を進めるとともに、諸外国の取組・動向等も参考としつつ、アーカイブ化の促進に向けて新たな制度の導入を含め検討を行い、必要な措置を講じる。(短期・中期)(文部科学省)

という項目で、アーカイブ化の促進に向けた新たな制度の導入が書かれているのは注目しておいて良いかも知れないが、結局検討するのは文化庁と思うので、あまり期待は持てないだろう。

 その他海賊版対策や海外、条約関係ということでは、第51〜52ページ、第55〜56ページに、

(海外での外国番組の規制等の撤廃)
・海外において、外国製の映画・放送番組・マンガ・アニメ等のコンテンツの輸入や国内放映に係る規制が存在することを踏まえ、二国間や多国間の官民による協議・交渉・対話において、これらの規制の緩和や撤廃を求め、我が国のコンテンツの自由な流通が実現されるよう引き続き働き掛けを行う。(短期)(外務省、経済産業省、総務省、文部科学省)

(海外における正規版流通拡大と一体となった模倣品・海賊版対策の推進)
・模倣品・海賊版対策を強化するため、官民一体となった働き掛けや各国との連携により侵害発生国での模倣品・海賊版の取締りを強化する。また、インターネット上での偽ブランド品や違法コンテンツの排除に向け、インターネットサービスプロバイダ(ISP)と権利者等との連携による自主的な削除対応やセキュリティソフト等を通じた利用者への注意喚起など、民間での取組を促進するとともに、消費者等への被害の発生・拡大防止のための対策なども進めることにより、より効果的なエンフォースメントが実施されるよう必要な取組を行う。(短期)(外務省、経済産業省、総務省、文部科学省、警察庁、財務省、農林水産省、消費者庁)

(グローバルな模倣品・海賊版対策の強化)
・グローバルな模倣品・海賊版対策の実効性を高めるべく、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)に関し、既署名国を中心とした他国に対して、引き続き参加を働き掛け協定の早期発効を目指す。また、二国間の経済協議等において知的財産の保護強化を積極的に取り上げるなど、各国のエンフォースメント強化に向けた取組を推進する。(短期)(外務省、経済産業省、文部科学省、農林水産省、総務省、法務省、財務省)

(通商関連協定の活用)
・自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)などの二国間・多国間協定を通して、国際的な問題の解決・改善を図る。特に、TPP協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する。(短期・中期)(外務省、経済産業省、農林水産省、文部科学省、財務省)

といった項目が並んでいるが、相変わらず、日本国内におけるコンテンツに対するバカげた規制圧力を政府として本気で止める気はないと見えるし、ほとんど死んでいると言って差し支えない海賊版対策条約(ACTA)も上の文章を読む限り諦めていないと見える。

 今年の知財政策上のホットトピックが職務発明の見直し、営業秘密の保護強化、TPP交渉の3点であろうことは知財計画からも明らかに見て取れるが、いつものこととは言え著作権問題などで利用者の視点も踏まえた検討がまともに進められそうな気配は微塵も感じられないのが極めて残念である。

(2014年7月6日夜の追記:7月4日に特に内容の変更はないものの本文とは別に工程表などを含めた知財計画2014(pdf)が決定された。どうにも分かりにくいが、合わせ上の文章中でリンクを張った部分の言葉を「知財計画2014本文」と改めた。)

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2014年6月22日 (日)

第314回:新所持罪を含む児童ポルノ規制法改正案の可決・成立、その施行に向けて気をつけておくべきこと

 今年の国会で、著作権法改正案と特許法等改正法案(第309回参照)、地理的表示保護法案(第311回参照)、児童ポルノ規制法改正案が可決・成立した。(意匠法の改正と関係してハーグ協定のジュネーブ改正協定とロカルノ協定も承認されている。)

 児童ポルノ改正法改正案について、先週6月17日の参議院法務委員会での審議において定義の問題についてなどかなり突っ込んだ議論がされたところもあり(インターネット審議中継参照)、以下のような附帯決議(pdf)がついたのが不幸中の幸いとは言え、

 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

一 児童を性的搾取及び性的虐待から守るという法律の趣旨を踏まえた運用を行うこと。

二 第七条第一項の罪の適用に当たっては、同項には捜査権の濫用を防止する趣旨も含まれていることを十分に踏まえて対応すること。

三 第十六条の三に定める電気通信役務を提供する事業者に対する捜査機関からの協力依頼については、当該事業者が萎縮することのないよう、配慮すること。

条文解釈上まだ曖昧なところは多い。そこで、ダウンロード犯罪化の時に書いたことと同じなのだが(第282回参照)、今回の通常国会で成立した中でも一番問題の大きいこの法改正についての注意はいくらあっても悪くはないだろうと思うので、前回に続き、ここで少しネット利用との関係でまず考えられる注意を書いておきたい。

(1)P2Pファイル共有ソフトは法律的なことと技術的なことをある程度理解してから使用すること
 著作権法のダウンロード犯罪化の摘発例は今のところまだないが、児童ポルノの新所持罪(性的好奇心目的所持罪)が導入されることで、P2Pファイル共有ソフト利用のリスクはさらに高まることになる。余計なトラブルを避けるために、P2Pファイル共有ソフトを使うのであれば、使おうとするソフトが技術的にどのようなことを行っているのか、それが法律的にどのように考えられるのかについてできるだけ知っておいた方が良い。P2Pファイル共有自体が違法や犯罪であるということにはなり得ず、新所持罪の導入で違法ファイル共有の摘発数が劇的に増えるということも考えがたいが、警察はネット関連の最初の摘発対象・スケープゴートとして違法ファイル共有ユーザーを狙って来るだろうと考えられるのである。

(2)家庭で無線LANを使う場合は必ず暗号化を施すこと、軽い気持ちで他人にインターネット回線を貸さないこと
 児童ポルノ新所持罪について警察がどのような運用をして来るか読めない中で、無線LANを暗号化せずに使うことほど危険なことはない。また、インターネット回線を軽い気持ちで他人に貸すべきでもない。他人の行為で、警察が我が家に家宅捜索に来て痛くもない腹を探られるような事態を避けるためには、家庭で無線LANを使う場合必ず暗号化を施すことを忘れないようにし、また、基本的に他人にインターネット回線を貸すようなことをしないよう気をつけておいた方が良い。さらに言えば、暗号化方式の強度もなるべく高い方が良いだろう。

(3)スマートフォンなど携帯電話も含め子供のインターネット利用に気を配ること
 親が自ら変な写真を撮ったりしないよう気をつけるのは無論のことだろうが、児童ポルノ規制法はそのそもそもの性質から子供が関係して来る法律である。普通の意味で性犯罪の被害者になる可能性があることだけではなく、本来の法律の趣旨からすると奇妙な話ではあるのだが、読売新聞の記事などでも書かれている通り既に自画撮りの摘発例も多く、今回の法改正によって子供が自身の行為によって児童ポルノ関連罪で摘発される可能性が高まることになることも全ての親が知っておいて良いことだろうと思う。子供のインターネット利用を親が全て監視するべきだなどと言うつもりもなく、無意味に子供を脅すこともないだろうが、インターネットへのアクセスが無制限に可能なスマートフォンなどの携帯電話を制約なしに使わせるようなことはまず止めるべきだろうし、子供のネット利用についてさらに気を配る必要が出て来るのは間違いない。

(4)サイト管理者は書き込みやリンクの掲載などに気をつけること
 幇助による摘発の可能性も考えると、何かしら書き込みを可能としているサイトの管理者は書き込みやリンクの掲載に常に気をつけておく必要がある。普通ほとんどの場合で問題になるとは思えないが、警察が何をして来るか分からない中で、警察に目をつけられているだろう各種サイトの管理者は特に気をつけておいた方が良いだろう。

(5)児童ポルノを使って脅すようなメールなどについてはまず詐欺やウィルスの可能性を疑うこと
 これも他の国の例でかなり見かけるが、児童ポルノを使って脅すようなメールやサイト表示はまず詐欺やウィルスの可能性を疑った方が良い。今後このような詐欺・ウィルスはさらに増えると思えるのである。とにかく、そのようなものを見ても慌てないこと。ただし、日本でも警告の取組は行われており、本物の警告である場合もあることには注意しておいた方が良い。警告に関する法律的なことが良く分からなければ、専門家への相談を考えること。(弁護士などでも良いが、そこまでの話でなければ、警察庁・各県警のサイバー犯罪担当課へ直接確認してみれば良いのではないかと思う。)

(6)インターネットを今まで通りに使い必要以上に萎縮しないこと
 以上多少注意点について書いてきた訳だが、最低限の注意以上のことはやりようがなく、必要以上にネット利用について萎縮することはないだろう。今後どうなるかは何とも言いようがないが、この点で、前回書いた通り「取得の時期などを含めて、自己の意思に基づいて所持するに至った時期とか経緯などについて、できる限り客観的、外形的な証拠によって確定するべき」という法改正提案者の趣旨と、上で引いた附帯決議の内容が警察・検察にきちんと尊重されることを私も望んでいる。

(なお、このブログを読んでいる方にそんな方は大していないのではないかと思っているが、警察の捜査の端緒として国会答弁ではっきりと言われていた唯一の例である児童ポルノ業者の顧客リストに名前が載っているような方々は早めにこのような問題に詳しい弁護士に相談に行くのが良いのではないかと思う。)

 上で書いたリスクはダウンロード犯罪化でもあったリスクだが、今のところ著作権法での違法ダウンロードの摘発例がいまだなく、児童ポルノの新所持罪についてネットとの関係で警察・検察が何をやってくるか読めない中で、ネット利用についてさらに今回の児童ポルノの新所持罪のリスクが加わることになる。恐らくこれもすぐにどうこうということはないだろうが、濫用の懸念は常にあり、今後も運用について十分な注視が必要である。著作権法と比べて非親告罪であることがここで何かしら影響して来ることも十分に考えられるだろう。

 また、幸いなことに児童ポルノ規制法改正案に関する実務者協議の中で漫画やアニメに関する調査研究条項は削除されたが、自公議員が審議で見せた執念から考えても、残念ながら今後も青少年健全育成基本法や刑法の猥褻規制などと絡めて漫画やアニメの規制が何かと取り沙汰される辛い状況が続くのもまずもって間違いのないところだろう。

 法改正後も児童ポルノ規制法については定義の問題から運用の問題からブロッキングの問題から何から何まで問題は山の様に積み残されたままである。国会の答弁でははぐらかされているが、非常に微妙な論点として通信傍受法の改正検討との関係もある。どんなことでも法案が通ったらそれで終わりということはない。さらに言うなら、情報の所持・取得罪自体に問題があるという認識がなかなか広く浸透しないのは非常に残念であるものの、その点に関して私の考えに変わりはないし、私は今後もそう言い続けるだろう。

 次回は6月20日に決定された知財計画2014の内容について取り上げる予定である。

(2014年7月6日夜の追記:なお、6月25日の官報(pdf)で改正法が公布された。20日後に施行とあるのでその施行日は7月15日となり、第7条第1項に対して1年間の猶予期間があるため新所持罪の適用は2015年7月15日からとなる。)

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2014年6月 8日 (日)

第313回:衆院で可決された児童ポルノ規制法改正案

 前回の審議が2009年6月26日なので5年ぶりになるが(当時の議事録参照)、新たに5党(自公民維結)の実務者協議で合意された児童ポルノ規制法改正案がこの6月5日に衆議院の法務委員会を、6日に本会議を通過した。既に報道もかなりされており、今回はtwitterでつぶやくだけに留めておこうかとも思ったのだが、条文に基づいてどう考えられるかという記事はそれほど多くないように思うので、念のため、ここでも少しコメントを書いておきたいと思う。

 今回衆議院で審議・可決された条文案を見ると、個人的には問題はまだ残されていると思うが、かなりまともに過去の各党の改正案の折衷案を作っており、何かしら別の重要案件に押されて参議院での審議が多少遅れることはあり得るとは思うが、政治的にここまでフラットに作られた折衷案が通らないということは考えがたい。(過去の自公案については番外その14、民主党案については第254回参照。)

 一番下に改正条文も載せておくが、今回の衆院可決版の児童ポルノ改正法案のポイントをあげると以下のようになる。

  • 第2条第3号の児童ポルノの定義を「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」という形に限定・明確化
  • 第3条で国民の権利として学問、芸術、報道等の自由に留意することを明記
  • 第3条の2で「みだりに児童ポルノを所持してはならない」という形で一般的に児童ポルノの所持を規制(罰則はなし)
  • 第7条第1項で「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」として自己の意思に基づく性的目的の児童ポルノ所持の処罰を規定
  • 第7条第5項で「ひそかに児童ポルノを製造した者」として盗撮による児童ポルノ製造の処罰を規定
  • 第15条及び第16条の2で関係行政機関及び児童保護施策推進機関として厚労省等を明記
  • 第16条の3でインターネット事業者の児童ポルノに係る情報の送信防止措置についての努力義務を規定
  • 自公案の附則にあった漫画、アニメ等に関する検討条項を削除

 衆議院法務委員会の審議(インターネット審議中継、みんなの党の山田太郎議員のブログ記事も参照)も合わせて考えると、今回の法改正案では、

  • 3号児童ポルノが限定・明確化されたことで、普通に水浴びしている子供が写っているだけの家族写真を持っているような場合まで処罰の対象となることは明らかになくなった
  • コンプライアンスの観点から一般的な所持規制の部分についてかなり懸念が残るものの、同時に学問、芸術、報道等の自由に基づく通常の活動についての留意も明記され、また、過去に入手をしたかも知れないが現在では自己の性的好奇心を満たす目的はもう失われているような場合まで処罰の対象となることはなく、完全な家捜しと焚書が求められることはない
  • 自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した者が処罰されるが、括弧書きで自己の意思に基づいて所持するに至った者という限定が入ったことでかなり取得規制よりの所持規制となっており、他人からメールを使って児童ポルノを送りつけられた場合などは基本的に処罰の対象とならないことがより明確となった
  • 児童保護施策の責任機関として厚労省が明記されたことで児童保護にも目を配ったバランスの取れた法運用の可能性が高まる、
  • インターネット事業者の送信防止措置の努力義務について今まで以上の努力を求められることはない、
  • 漫画、アニメ等に関する検討条項が削除されたことで、児童ポルノ規制法によって漫画、アニメ等が規制される危険性は相当低くなった

と言えるだろう。

 すなわち、デタラメだった元の自公案と比べると、かなり冤罪や不当な捜査、無茶な規制拡大の懸念が減っているのは間違いない。ただし、児童ポルノの定義の問題はこれで片づくような話ではなく、そもそも猥褻物規制に引きずられる形で一般人の性欲を要件にしているのがおかしいので、児童性虐待記録物として定義を新たに作り直すべきだというのはその通りだと私も思うし、また、「取得の時期などを含めて、自己の意思に基づいて所持するに至った時期とか経緯などについて、できる限り客観的、外形的な証拠によって確定するべき」という法改正提案者の趣旨が警察・検察に尊重されることを望みたいが、本改正案によって情報の所持・取得罪の本質的な問題が解決しているということもなく、立法から行政までほとんどの関係者が極めて問題の多いブロッキングを当然の前提として議論しているのもどうかと思う点である。(著作権法のダウンロード違法化・犯罪化問題とも絡み情報の所持・取得罪とブロッキングの問題点はさんざん書いてきているのでここで繰り返し書くことはしないが、今回の審議で「自己の性的好奇心を満たす目的」が児童買春規定に含まれているから明確だと言われたことについて、相手のある児童買春の場合と、行為に一人しか絡まない情報の所持・取得の場合では同じ文言でも意味合いが大きく変わってくるということはもっと理解されてしかるべきことではないかと思う。)

 それに今回の衆議院法務委の審議を見ても自公の議員を中心に漫画やアニメの規制に対する執念は凄まじく、この法改正案が通ったとしてもそれで終わりなどということは全くないだろうが、そうは言っても前回に比べるとここまで押さえた案を作られたことについて与野党の関係者の努力は本当にありがたく、参議院でこの法改正案について児童ポルノの定義とネットとの関係を中心にさらに細かな解釈・法運用にまで踏み込んだ慎重な審議がされることを期待したいと私は思っている。

(以下、衆院で可決された児童ポルノ規制法改正条文案。下線部が追加部分。)

(1)児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
目次
 第一章 総則(第一条―第三条の二)
 第二章 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰等(第四条―第十四条)
 第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置(第十五条―第十六条の二)
 第四章 雑則(第十六条の三・第十七条)
 附則

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

(定義)
第二条
(略)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

(適用上の注意)
第三条 この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意しなければ留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。

(児童買春、児童ポルノの所持その他児童に対する性的搾取及び性的虐待に係る行為の禁止)
第三条の二 何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくは第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない。

第二章 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰等

(略)
(児童ポルノ所持、提供等)
第七条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。
 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項第二項と同様とする。
5 前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
 第四項第六項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

(略)

(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条まで、第六条、第七条第二項から第八項まで及び前条の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

(国民の国外犯)
第十条 第四条から第六条まで、第七条第一項から第五項第七項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

(両罰規定)
第十一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五条から第七条、第六条又は第七条第二項から第八項までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

(略)

(教育、啓発及び調査研究)
第十四条 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ鑑み、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
第十五条 関係行政機関厚生労働省、法務省、都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 関係行政機関は、前項前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。

(略)

(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
第十六条の二 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3 厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。

第四章 雑則
(インターネットの利用に係る事業者の努力)
第十六条の三 インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。

(国際協力の推進)
第十七条 国は、第四条第三条の二から第八条までの規定に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。

(2)附則
(施行期日等)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
2 この法律による改正後の第七条第一項の規定は、この法律の施行の日から一年間は、適用しない。

(経過措置)
第二条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(検討)
第三条 政府は、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について、十分な配慮をするものとする。
2 インターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(児童福祉法等の一部改正)
第四条 次に掲げる法律の規定中「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に改める。
一 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十四条の二十第一項第三号
二 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百五十七条の四第一項第二号及び第二百九十条の二第一項第二号
三 関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十九条の二第一項第二号及び第六十九条の十一第一項第八号
四 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(平成十五年法律第八十三号)第八条第二号及び第十八条第三項第一号

(旅館業法及び暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部改正)
第五条 次に掲げる法律の規定中「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二章」に改める。
一 旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第八条第四号
二 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)別表第四十六号

(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部改正)
第六条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)の一部を次のように改正する。
 第四条第一項第二号ホ及び第三十一条の八第五項中「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に改める。
 第三十五条及び第三十五条の二中「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第七条」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第七条第二項から第八項まで」に改める。

(厚生労働省設置法の一部改正)
第七条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
 第七条第一項第四号中「(昭和二十二年法律第百六十四号)」の下に「、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)」を加える。

(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正)
第八条 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。
 別表第七十号中「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に、「第七条第四項から第六項まで」を「第七条第六項から第八項まで」に改める。

(犯罪被害者等基本法の一部改正)
第九条 犯罪被害者等基本法(平成十六年法律第百六十一号)の一部を次のように改正する。
 第二十四条第二項第二号中「監視する」を「監視し、並びに当該施策の在り方に関し関係行政機関に意見を述べる」に改める。

(3)理由
 児童ポルノに係る行為の実情、児童の権利の擁護に関する国際的動向等に鑑み、児童ポルノの定義を明確化し、児童ポルノをみだりに所持すること等を一般的に禁止するとともに、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等を処罰する罰則を設け、あわせて、心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の推進及びインターネットの利用に係る事業者による児童ポルノの所持、提供等の行為の防止措置に関する規定を整備する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

(4)要綱
第一 題名及び目的規定の改正
一 法律の題名を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に改めること。(題名関係)
二 目的規定中「児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰する」を「児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰する」に改めること。(第一条関係)

第二 目次及び章区分の新設
 章区分を新設して四章建てとし、第一章の章名を「総則」とするとともにその範囲を第一条から第三条の二までとし、第二章の章名を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰等」とするとともにその範囲を第四条から第十四条までとし、第三章の章名を「心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置」とするとともにその範囲を第十五条から第十六条の二までとし、第四章の章名を「雑則」とするともにその範囲を第十六条の三及び第十七条すること。(目次及び章区分関係)

第三 いわゆる三号ポルノの定義の明確化
 いわゆる三号ポルノの定義を「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」に改めること。(第二条第三項第三号関係)

第四 適用上の注意規定の明確化
 この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならないものとすること。(第三条関係)

第五 児童買春、児童ポルノの所持その他児童に対する性的搾取及び性的虐待に係る行為の禁止
 何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくはこれに係る電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならないものとすること。(第三条の二関係)

第六 自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則
一 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとすること。同様の目的で、これに係る電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とすること。(第七条第一項関係)
二 一に係る国民の国外犯は、これを処罰するものとすること。(第十条関係)

第七 盗撮による児童ポルノ製造罪の新設
 現行の提供目的製造罪及び「児童に姿態をとらせ」製造罪に加えて、ひそかに児童ポルノに係る児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処するものとすること。(第七条第五項関係)

第八 心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する制度の充実及び強化
一 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を講ずる主体及び責任の明確化
 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を講ずる主体として、厚生労働省、法務省、都道府県警察、児童相談所及び福祉事務所を例示し、措置を講ずる主体及び責任を明確化すること。(第十五条関係)
二 心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等
1 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとすること。(第十六条の二第一項関係)
2 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議の厚生労働大臣又は関係行政機関に対する意見具申及び当該意見具申があった場合の厚生労働大臣又は関係行政機関が講ずる措置に関する規定を置くこと。(第十六条の二第二項及び第三項関係)

第九 インターネットの利用に係る事業者の努力
 インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその閲覧等のために必要な電気通信役務を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、その管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとすること。(第十六条の三関係)

第十 附則
一 施行期日等
1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行すること。(附則第一条第一項関係)
2 第六の一(自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則)は、この法律の施行の日から一年間は、適用しないものとすること。(附則第一条第二項関係)
二 検討
1 政府は、インターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限に関する技術の開発の促進について、十分な配慮をするものとすること。(附則第三条第一項関係)
2 インターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、1の技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとすること。(附則第三条第二項関係)
三 その他
 この法律の施行に関し必要な経過措置を定めるとともに、所要の規定の整備を行うこと

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