第307回:欧州におけるいくつかの動き(ストリーミング視聴は著作権侵害にならないとするドイツ地裁の決定、DRM回避規制において法目的を考慮するべきとする欧州司法裁の判決、著作権管理団体に関する欧州指令の議決)
知財関係の動向についてはTwitterでも随時メモしているが、中でももう少し詳しく紹介しておいた方が良いと思う話についてここで取り上げておきたい。
(1)ストリーミング視聴は著作権侵害にならないとするドイツ・ケルン地裁の決定
まず、前回少しだけ紹介した動画サイトの視聴に対して大量の警告状が出されたレッドチューブ事件に関して、1月24日にドイツのケルン地裁が単なるストリーミングの視聴は著作権侵害にはならないとしてユーザーの異議を認め、前の情報開示に関する決定を破棄する決定(ドイツ語)(pdf)を出した(ケルン地裁のリリース(ドイツ語)(pdf)も参照)。
その決定からポイントとなる部分を抜きだすと、
Wie nunmehr u.a. durch die eingereichten Abmahnschreiben bekannt geworden ist, handelte es sich jedoch tatsachlich um Verletzungshandlungen, die durch das Ansehen eines so genannten "Streams" auf der Plattform redtube.com begangen worden sein sollen, womit das Abspielen einer Video-Datei im Webbrowser des Nutzers im Raume steht. Die Kammer neigt insoweit der Auffassung zu, dass ein blosses "Streaming" einer Video-Datei grundsatzlich noch keinen relevanten rechtswidrigen Verstos im Sinne des Urheberrechts, insbesondere keine unerlaubte Vervielfaltigung i.S.d. §16 UrhG darstellt, wobei diese Frage bislang noch nicht abschliesend hochstrichterlich geklart ist. Eine solche Handlung durfte vielmehr bei nur vorubergehender Speicherung aufgrund einer nicht offensichtlich rechtswidrig hergestellten bzw. offentlich zuganglich gemachten Vorlage regelmasig durch die Vorschrift des §44a Nr. 2 UrhG gedeckt sein.
提出された警告状から今分かったことは、本件はプラットフォームredtube.comにおけるいわゆる「ストリーミング」の視聴を通じた著作権侵害行為を扱っており、利用者のウェブブラウザにおける動画データの再生を問題にしているということである。この問題は上位裁判所で今の所明らかに決められているものではないが、当裁判所は今のところ、動画データの単なる「ストリーミング」は基本的に著作権法における違法な侵害にあたらず、特にドイツ著作権法第16条の意味における違法な複製にあたらないという見解を取る。それは明らかに違法に作成されるかアクセス可能とされたものではない提示であり、そのような行為は、一時的蓄積に過ぎないものとしてドイツ著作権法第44a条第2号の規定により法的にカバーされ得るものである。
となるだろう。
これが地裁の決定に過ぎないことに注意が必要で、ドイツのレッドチューブ事件を巡る騒ぎもまだ続きそうだが、このように単なるストリーミングは著作権侵害にあたらないと確認されたことで多少は落ち着くのではないだろうか。
さらに、この決定は、「(権利者側の用いた)プログラムが(ユーザと動画サイトの)両者の間の接続にどうして介入できたのかという疑問に対する答えはまだ与えられていない」と、ダウンロードした者のIPアドレスを調べるプログラムの正当性についても疑義を呈しており、情を知ってあるいは故意にダウンロードした者がどのようにしたら分かるのかというダウンロード違法化・犯罪化における本質的な問題点がこの事件の今後の手続きで議論される可能性がある点も注目に値するだろう。(繰り返しになるのでここでくどくど書くことはしないが、このことこそダウンロード違法化・犯罪化における本当に本質的な問題点である。)
今のところ同じくストリーミングの単なる視聴はダウンロードにあたらないとされているとは思うが、日本でも様々な法的不安定性は残されており、ダウンロード違法化・犯罪化に関する今後の法政策動向には注意が必要である。問題の極めて大きいダウンロード違法化・犯罪化条項は全て削除するべきだと私が思っていることに変わりはない。
(2)DRM回避規制において法目的を考慮するべきとする欧州司法裁の判決
任天堂が当事者となっている割には日本ではあまり話題になっていないようだが、欧州司法裁判所が、1月23日に、技術的保護手段・DRM回避規制の解釈・運用において法目的を考慮するべきとする判決を出している(欧州司法裁のリリース(pdf)も参照)。
これは、イタリアの裁判所から、任天堂のゲーム機のDRMを回避して独自のプログラムを実行可能にする機器が問題となったケースにおいて欧州指令の解釈に関する質問を付託されたもので、欧州司法裁は、その判決で、
Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society must be interpreted as meaning that the concept of an 'effective technological measure', for the purposes of Article 6(3) of that directive, is capable of covering technological measures comprising, principally, equipping not only the housing system containing the protected work, such as the videogame, with a recognition device in order to protect it against acts not authorised by the holder of any copyright, but also portable equipment or consoles intended to ensure access to those games and their use.
It is for the national court to determine whether other measures or measures which are not installed in consoles could cause less interference with the activities of third parties or limitations to those activities, while still providing comparable protection of the rightholder's rights. Accordingly, it is relevant to take account, inter alia, of the relative costs of different types of technological measures, of technological and practical aspects of their implementation, and of a comparison of the effectiveness of those different types of technological measures as regards the protection of the rightholder's rights, that effectiveness however not having to be absolute. That court must also examine the purpose of devices, products or components, which are capable of circumventing those technological measures. In that regard, the evidence of use which third parties actually make of them will, in the light of the circumstances at issue, be particularly relevant. The national court may, in particular, examine how often those devices, products or components are in fact used in disregard of copyright and how often they are used for purposes which do not infringe copyright.
情報社会における著作権及び著作隣接権のある側面の調和に関する2001年5月22日の欧州議会及び理事会の欧州指令第2001/29号は、「有効な技術的手段」は、指令第6条第3項の目的において、主に検知機能をともなう備品に向けられたものであって、著作権の権利者によって許可を得ていない行為に対して保護を行うことを意図した、ビデオゲームのような保護を受ける著作物を含む媒体だけではなく、そのようなゲームのアクセス及び利用が保証されている携帯機器やゲーム機も含むものと解釈される。
権利者の権利に対するかなりの保護が与えられている一方で、他の手段又はゲーム機に導入されていない手段が第3者の活動又はその活動の制限に関してより干渉することがないかどうかは、イタリアの裁判所が判断する事項である。ここで、技術的手段の様々なタイプの関係コスト、その実施の技術的及び現実的側面、並びに、権利者の権利の保護に関するその様々な技術的手段の有効性の比較について考慮することが問題となるが、その有効性は完全なものであるべきではない。裁判所は、その技術的手段を回避することのできる機器、製品又は部品の目的も検討しなければならない。この点で、問題の回避に関して、第3者が実際にしている利用についての証拠が特に問題となる。イタリアの裁判所は、特に、その機器、製品あるいは部品が実際に著作権に不利な形でどれくらい使われているのか、および、著作権を侵害しない目的でどれくらい使われているのかを検討して良い。
という判断を示した。
事件に対する具体的な判決はイタリアの裁判所で出されることとなるが、ここで、欧州司法裁が、DRM回避規制についてはその法目的も考慮するべきであって、その保護は完全なものであるべきではないとした点は重要である。日本も含め、全体的に法目的をないがしろにした条文の硬直的な運用が著作権法を巡る問題を大きくしているのは間違いなく、法目的も考慮した上で柔軟な法解釈がもっと示されて良いのではないかと私は常々思っている。
今回は欧州の判決の紹介だけで、日本における問題については深く立ち入らないが、DRM回避規制に関する限り、日本では不正競争防止法でも規制されているため、法目的を考慮したとしても、ある意味他国と比べてかなり強力な保護が権利者やゲーム機メーカー側に与えられてしまっていることになる。DRM回避規制についてもまだまだ整理が必要だと思うが、2つの法律による規制と言い、どうにもややこしいことこの上ない。
(3)著作権管理団体に関する欧州指令の議決
また、欧州議会では、2月4日に音楽作品のオンライン利用のための複数国ライセンスEU域内ライセンスに関する欧州指令が議決されている。
この欧州指令について、欧州議会のリリースに書かれている概要は以下のようになる。
Cross-border licenses for EU-wide online music services
Under the new rules, online music service providers in the EU will be able to obtain licenses from collective management organisations representing authors' rights across borders. With licenses covering more than one member state, service providers should find it easier to stream music services across the EU.
Preserving cultural diversity
To ensure that the creators of music in all member states have access to licences covering more than one country and to preserve cultural diversity, collective management organisations that do not themselves issue copyright licences for more than one country will be able to request another organisation to represent their repertoire. Under certain conditions, those organisations would be obliged to do so.
Thanks to MEPs, collective management organisations will have to manage the repertoire they represent under the same conditions that they apply to their own repertoires.
Timely and appropriate remuneration for artists
All collective management organisations will be required to ensure that artists receive appropriate remuneration for the use of their rights in good time. In general, the royalties will have to be distributed to artists as quickly as possible, and no later than nine months from the end of the financial year in which the rights revenue was collected.
Rightholders will also have a say in the decisions on the management of their rights and the freedom to select the collective management organization of their choice. To ensure that rightholders' rights are properly managed, collective management organisations will also have to comply with transparency and reporting requirements as well as minimum rules on governance and on the collection and use of revenues.
EU域内のオンライン音楽サービスのための越境ライセンス
新たな規則の下では、欧州連合においてオンライン音楽サービスプロバイダーは、著作者の権利を代行する著作権管理団体から越境ライセンスを得ることができる。複数の加盟国をカバーするライセンスによって、サービスプロバイダーは欧州連合全域でのストリーミング音楽サービスがやりやすくなる。
文化的多様性の保護
全加盟国の音楽クリエイターに複数の国をカバーするライセンスを利用可能とすることを確保するとともに、文化的多様性を保護するため、複数国著作権ライセンスを自ら提供することをしない著作権管理団体は、他の団体がその管理著作物について代行することを求めることができる。ある条件で、これらの団体にはそうすることが義務づけられる。
欧州議員により、著作権管理団体はその代行する作品について自身の管理著作物に適用するのと同じ条件で管理することとされた。
アーティストに対する適時の適切な補償
全ての著作権管理団体に、その権利の利用に対する適切な補償を適切なときにアーティストが受けられることを確保することが求められる。一般的に、ロイヤリティは可能な限り迅速にアーティストに分配され、それは権利収入が集められた財務年の末から9月を越えない。
権利者は、その権利の管理に関する決定について発言することができ、その選択により著作権管理団体を自由に選ぶことができる。著作権管理団体は、権利者の権利の適切な管理を確保するため、透明性、報告義務並びにガバナンス、管理及び収入の利用に関する最低限の規則に合致するようにしなければならない。
欧州連合が著作権に関する管理運用が各国ごとにばらばらなのにかなりいら立ちをつのらせていたのは間違いなく、この指令もかなり前から議論されていたもので、ようやく今月議決されることとなったものである。あとは欧州理事会における各国大臣による形式的な決定が残っているだけなので、これはこのまま指令となるだろう。
この指令は各国の著作権管理団体を統合しろというようなラディカルなものではなく、これだけですぐに何かが大きく変わるということもないだろうが、各国の著作権管理団体による縄張りを一部取り除いてEU域内ライセンスを可能とし、また、著作権者が著作権管理団体を選べるとしたことは欧州の著作権政策動向に地味ながら将来的に決して無視できない影響を及ぼして行くことだろう。EU自体がどうなるか分からないところもあるが、統合を進めるなら特許同様著作権に関しても制度の統一を図って行くしかなく、この著作権管理団体に関する指令もその一歩に過ぎず、今行われている著作権に関するアンケートのことを考えても、時間はかかるかも知れないが今後さらに検討が進められて行くだろうと私は見ている。
最後に、既にcnetの記事になっているので、ここでは説明を省略するが、欧州司法裁判所で、2月に単なるリンクは著作権侵害にならないとする判決も出されている(欧州司法裁のリリース(pdf)も参照)。当たり前のこととは言え、このような法的な確認は重要であり、合わせてここにもそのリンクを張っておく。
今年はほぼ全ての知財関連法の改正が想定されるという珍しい年であり、例年通りならもうすぐ知財本部のパブコメも始まるはずなので、次回はそのパブコメエントリになるのではと思っているが、多少前後するかも知れない。
(2014年2月16日の追記:1カ所誤記を修正した。)
(2016年9月11日の追記:1カ所誤記を修正した。)
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