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2013年12月 9日 (月)

第304回:TPP協定知財リーク文書その2(11月時点での交渉の概要と各国のポジション)

 今まさにシンガポールでTPP閣僚会合が行われている中、Wikileaksが二度目のTPP文書のリークを行った。

 この二度目のリーク文書に含まれている11月19日から24日のアメリカ・ソルトレークシティ交渉の概要抜粋と各国のポジション一覧自体は予想通りの内容で特段驚くことはないが、今まで書いてきたことのまとめとして丁度良いので、ここで両方の文書から知財に関係する部分の翻訳を作っておく。

 まず、ソルトレークシティ会合の概要抜粋(pdf)の知財関連の記載は以下のようになっている。

[lntellectual Property]:
...lntellectual Property Group to review the work that had developed during the previous days in SLC. This work is reflected in the Non Paper from the Chair(USA) which includes "landing zones" in each of the pending Chapter issues ....Some countries reinserted their positions or brackets on all these issues in order to display a more objective assessment in each one of them ...ln general, the "landing zones" from the Chair showed a solution coming from the U.S. position. Therefore, it was crucial for other countries to reinsert their positions to avoid losing their positions in a text that can be used by the United States, later, to try to reach agreement....

...As a general consideration, the meeting served to confirm the large differences that continue in most areas of the chapter, which introduces serious doubts as to what will happen in Singapore. Clearly this Non Paper cannot be presented for consideration by the Ministers. What the U.S. aims for is that the Ministers adopt directives or guidelines on which the Group can then continue working to reach a conclusion. Similar to what happened in SOEs, implicitly, it is admitted that it will not be possible to conclude this issue in Singapore. However, countries must be prepared for attempts deployed by the U.S. to force closure of different areas of the Chapter during that time...

…ln lP, the CNs got together with the Chair and Leads to organise work for the coming days. With respect to the Non Papers / Landing Zones, ...they should not supplant the positions of the countries and it does not seem right ...to not have a clear attribution of the positions. The Chair aims to reduce the number of the 119 outstanding issues. lt was agreed that there will be ongoing communication with CNs and daily updates about the progress of the Group. The united States indicated that the idea is to leave the most important or sensitive for Singapore....

...ln connection with the disscussion of pharmaceuticals, U.S. and JP presented their non paper to the rest of the delegations... lt is worth noting that delegations AU, SG and CL made interventions pointing out that there were elements and language from the proposal that they recognized from their respective standards from bilaterals with U.S., but that in the majority of these obligations, these were above the agreed standard. ln this context, none of the three delegations indicated that they were in conditions to go beyond its bilateral.

...ln this context, delegations made comments on the submitted text and presented language to be able to reflect the standards from their respective bilaterals or legislation...

...Singapore said to the rest of the small Group that it will work on the basis of ideas of the U.S., which means it is leaving the Group. In the same vein, Canada has also been receiving high-level pressure to not file a counterproposal. Finally, the Australian position is unclear and begins to show some weakness in its support of the small Group. ln conclusion, cracks in the Group cohesion were noticed...

[知的財産権]:
…知的財産権グループはソルトレークシティを通じて行われた作業を検討した。この作業は、章の保留事項のそれぞれにおける「交渉ゾーン」を含む議長国(米)からのノンペーパーにまとめられた…いくつかの国は、それぞれにおけるより客観的な評価を示すためにそれらの全ての事項についてそのポジション又はブラケットを再び入れた…全体的に、議長国による「交渉ゾーン」はアメリカのポジションから解決が出され得ることを示している。したがって、後に合意に達するべく、アメリカによって使われ得る条文案においてポジションを失わないためにそのポジションを再び入れることが他の国にとって極めて重要であった…

一般的な考察により、会合は本章のほとんどの領域において続く大きな違いを確認することに役立ったが、このことはシンガポールにおいて起こるだろうことに深刻な疑いをもたらす。明らかに本ノンペーパーは閣僚会合での検討に提示できない。アメリカが目指すことは合意に達するためにグループで作業を続ける上での指針又はガイドラインを閣僚会合で採決することである。国営企業についても同様のことが起こっており、暗に、シンガポールでこの問題を妥結するのは不可能だろうことが認められる。しかしながら、各国は、その際に本章の様々な領域を閉じようとするアメリカによって展開される試みのための準備をしなければならない…

…知財において、首席交渉官らは議長とその主導により続く日の作業をともに行った。ノンペーパー/交渉ゾーンに関して……彼らは国のポジションを越えるべきではなく…ポジションの明確な理由が分からないのは…正しいとは思われない…議長は119の未解決事項の数を減らそうとした。代表間で継続的に連絡し、グループの進展について日々更新することに合意した。アメリカはシンガポールのために最も重要な又はセンシティブな事項を捨てる考えを示唆した…

…医薬品に関する議論に関係して、アメリカと日本は他の代表にそのノンペーパーを提示した…アメリカとの二国間交渉でのそれぞれのスタンダードから認められる提案からの要素及び文章があるが、その義務の多くにおいて、合意したスタンダードを越えることがあるのをオーストラリア、シンガポール及びチリの代表が指摘したのは注目に値する。このコンテキストにおいて、これらの三国の代表の誰もその二国間交渉を越える用意があることを示唆しなかった。

…このコンテキストにおいて、代表は提示された条文案についてコメントをし、二国間交渉でのそれぞれのスタンダードを反映し得る文章を提示した…

…シンガポールは、グループを去るところで、アメリカのアイデアを基礎に作業を続けるだろうと残っていた小グループに言った。同じ流れで、カナダもカウンター提案を出さないようハイレベルでのプレッシャーを受けているとした。最終的に、オーストラリアのポジションは不明確で、小グループでの支持に多少弱さがあるようであり、グループのまとまりに亀裂が見られた…

 また、各国のポジション一覧(pdf)の知財関連部分は以下のようになっている。(この一覧は賛成、反対あるいは保留の3つにポジションが単純化されており、各国の具体的な主張の内容については条文案も合わせて見なければならないことに注意が必要である。)
Position1  これらを見ても分かるように、何と言っても際立つのはアメリカ提案の孤立ぶりである(日本もアメリカに圧力をかけられていた割にはきちんと反対あるいは態度保留に回っている)。上の概要ペーパーを見ても、各国とも今回のシンガポール会合での知財章の合意はほとんど不可能と認めているようだが、TPP交渉が続く限りアメリカは各国に知財の面でも強力に圧力をかけて来るだろうし、最後まで安心はできないだろう。

(2013年12月10日夜の追記:昨日急いで翻訳したため、一覧表で読み違えがかなりあったのを修正し(「反/保」→「保」、特許性クライテリアの行でペルー「反」→「賛」、新利用の保護拡大の行でシンガ「反」→「賛」、批准・実施すべき協定の行でシンガの色違いを修正、国内法の扱いの行と次の空行を統合、匂いの商標の導入の行で豪とNZの色違いを修正、ブランドを通じた地理的表示の保護の行で米及びペルー「賛」→「反」、地理的表示の無効・異議制度の行で米「反」→「賛」)、合わせて文章を少し整えた。このようなミスについて心からお詫び申し上げる。今回の間違いは我ながらひどいと思うので、自戒の意味を込めてここに元の間違い込みの一覧表へのリンク(png)も残しておく。)

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