第305回:2013年の終わりに
今年も終わりにあたってあまり取り上げて来なかったことを中心に知財政策関係の動きを一通りまとめて書いておきたいと思う。
まず、特許、商標、意匠関連ということでは、あまり目新しい話は出て来ていないが、この12月16に開かれた特許庁の産業構造審議会・知的財産分科会で報告書のとりまとめが行われており、1月24日〆切でそのとりまとめ案のパブコメが行われている(特許庁HPの募集ページ1又は電子政府HPの募集ページ1参照)。とりまとめ案(pdf)の内容は、今までの特許庁の方針の追認が多く、ここで細かな内容まで立ち入ることはしないが、法改正関係では、以下のような項目についてかなりはっきりと法改正案を提出すると書かれている。
- 第三者の知見を活用した品質向上のための特許権の「付与後レビュー制度」の導入
- 特許権を取得する際の手続に関する救済規定の整備
- 地域を活性化させるための地域ブランドの担い手拡充
- 「色」や「音」等の新しいタイプの商標の保護の導入
そして、
- 専門家の質を向上させるための弁理士制度の見直し
という項目は今年度中に結論を得て法改正案を提出するとされている。
これに対して、意匠法関連で、
- 一度の手続きで複数国での審査が受けられるハーグ協定への加入に向けた取組み
という項目は2014年初旬を目途に報告書をとりまとめて法改正案を提出するとされているものの、
- 画像デザインの保護拡充に向けた関連法整備
の項目の方では報告書のとりまとめだけが言及されており、2つの意匠法関連項目で書きぶりに多少の濃淡が出ている。
さらに、議論を進めるとだけ書かれているが、法改正と絡む可能性があり注意が必要な項目としては、
- 営業秘密の保護強化や相談体制の充実
- 企業の産業競争力の強化につなげるための職務発明制度の見直し
- 出願公開のあり方を含めた特許情報を経由した技術流出への対応の検討
があげられるだろうか。
こうした項目の間の文章の違いから見ても、来年の国会には、まず権利付与後のレビュー制度や新しいタイプの商標保護の導入に関する特許法や商標法の改正案が提出されると見ておくべきなのだろう。
(上のとりまとめ案にも書かれている通り、知的財産政策部会の中の小委員会として、特許制度小委員会、商標制度小委員会でそれぞれ検討が行われ、今年9月に「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて(pdf)」(特許庁のリリース1)、「新しいタイプの商標の保護等のための商標制度の在り方について(pdf)」(特許庁のリリース2)という2つの報告書がとりまとめられている。)
そして、上の項目通り、意匠制度小委員会、弁理士制度小委員会も開催されており、それぞれ1月25日〆切で報告書案のパブコメが開始されている(特許庁HPの募集ページ2、3又は電子政府HPの募集ページ2、3参照)。このうち意匠法に関する報告書案「創造的なデザインの権利保護による我が国企業の国際展開支援について(pdf)」は、おおよそハーグ協定加入や画像デザインの保護拡充について引き続き検討が必要としているものであり、審査基準レベルの運用変更はともかく、すぐに法改正案が出て来そうな様子のものとはなっていない。
なお、極めて実務的な話だが、特許料の軽減に関わる産業競争力強化法が12月4日に成立しており、その施行令などに関するパブコメが1月11日〆切で行われているということもある(特許庁のリリース3参照、電子政府の募集ページ4参照)。
また、文化庁では、12月20日の出版関連小委員会で電子出版権導入に関する報告書案がとりまとめられ、親委員会である著作権分科会に報告するとされた(江口秀治氏の実況ツイート1参照)。その報告書案(pdf)は第297回で紹介した内容から大筋で変更はないのだが、様々な思惑が交錯したのであろう、電子出版権と紙の出版権を一体的なものとするかどうかの部分の書き方が「紙媒体での出版と電子出版に係る権利が、おのずと同一の出版者に一体的に設定されていくことが想定され(中略)立法化に当たっては、小委員会で示された関係者の意見や出版・電子出版の実態、出版者の役割等を考慮することが必要」と一気に曖昧にされている。(電子政府HPで文化庁パブコメ結果も公開されている。)
そして、法制・基本問題小委員会の下に著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチームが設置され、12月16日に第1回が開催されている(江口秀治氏の実況ツイート2参照)。このワーキングチームでクラウドと著作権の問題などを検討するようだが、利害関係者だらけのメンバーリスト(pdf)を見ても、過去の私的録音録画小委員会と同じですぐに行き詰まるだろうと思える。文化庁が何を考えているのかは相変わらず良く分からないところが多いが、クラウドと著作権の問題に関して真摯に法的な解決を与えようとする姿勢は残念ながらあまり感じられない。
(また、開催頻度が低く、文化庁らしい内容の偏りがある点に難があるが、国際小委員会の資料も著作権に関する国際動向を知る上では参考になる。)
農水省では、種苗分科会が種苗法の重要な形質の見直しの検討を地道に行っているが、地理的表示保護制度研究会の方は今年は動いていないようである。
総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会が開催され、今年の9月にはスマートフォン安心安全強化戦略がとりまとめられている(総務省のリリース参照)。
知財本部では、検証・評価・企画委員会が開かれており、今のところ既存の政策項目の検証を主に行っているようだが、例年通りならば、じきに来年の知財計画に関するパブコメが募集されるのではないだろうか。
今後の話として最も気になるのはTPP交渉の行方だが、自公政権も政権交代から2年目に入り、いよいよ児童ポルノ規制法の改正案なども国会審議にかかることが予想され、来年も激動の年になるのは間違いない。やはり今年も到底良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。
(2014年1月19日の追記:1カ所リンクがずれているのを見つけたので修正した。)
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