« 第298回:カナダの著作権法改正(フェアディーリングの拡充、ユーザー作成コンテンツのための権利制限など) | トップページ | 第300回:TPP協定知財章リーク文書(インターネットサービスプロバイダーの責任関連部分) »

2013年11月14日 (木)

第299回:TPP協定知財章リーク文書(著作権保護期間延長、法定賠償、非親告罪化関連部分)

 既にITmediaの記事になっているが、昨日ウィキリークスが8月30日時点のTPP知財章草案をリークした。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の条文案に関する限りほぼ初めてのリークらしいリークであり、非常に手の込んだ偽物という可能性もなくはないが、その内容は大方の予想通りであり、私は本物だろうと踏んでいる。

 リークされた条文案の内容は非常に多岐に渡り問題点も多いのだが、今回は、著作権関連で影響が大きいと私が考えている保護期間延長、法定賠償、非親告罪化関連部分の条文が具体的にどうなっているのかを見ておきたいと思う。

 まず、それぞれポイントとなる部分の条文案を抜き出すと以下のようになる。

Article QQ.G.6: [US/AU/PE/SG/CL/MX propose; VN/BN/NZ/MY/CA/JP oppose: Each Party shall provide that, where the term of protection of a work (including a photographic work), performance, or phonogram is to be calculated:
(a) on the basis of the life of a natural person, the term shall be not less than the life of the author and [MX propose: 100] [MX oppose: 70] years after the author's death; and
(b) on a basis other than the life of a natural person, the term shall be:
(i) not less than [US propose; CL oppose: 95] [AU/PE/SG/CL propose: 70] [MX propose: 75] years from the end of the calendar year of the first authorized publication of the work, performance, or phonogram, or
(ii) failing such authorized publication within [US propose; CL oppose: 25] [SG/PE/AU/CL propose: 50] years from the creation of the work, performance, or phonogram, not less than [US propose; CL oppose: 120] [AU/PE/SG/CL propose: 70] years from the end of the calendar year of the creation of the work, performance, or phonogram.]

Article QQ.H.4.X
(1)
In civil judicial proceedings, with respect to infringement of copyright or related rights protecting works, phonograms, and performances, each Party shall establish or maintain a system that provides for one or more of the following:
(a) pre-established damages, which shall be available upon the election of the right holder; or
(b) additional damages,
(Footnote: For greater certainty, additional damages may include exemplary or punitive damages.)

(2)(Footnote: Negotiator's Note: AU is still considering this paragaph.) In civil judicial proceedings, with respect to trademark counterfeiting, each Party [US propose: shall] [NZ/MY/BN/JP propose: may] also establish or maintain a system that provides for one or more of the following:
(a) pre-established damages, which shall be available upon the election of the right holder; or
(b) additional damages.

(3) Pre-established damages shall be set out in an amount that would be sufficient to compensate the right holder for the harm caused by the infingement [VN oppose: , and with a view to deterring future infringements].

(4) In awarding additional damages, judicial authorities shall have the authority to award such additional damages as they consider appropriate, having regard to all relevant matters, including the [seriousness / extent / blatancy of the infringing conduct](Footnote: Negotiators' Note: Parties are considering the drafting choice of the word that represent the concept of seriousness.) and the need to deter similar infringements in the future.

Article QQ.H.7: {Criminal Procedures and Remedies / Criminal Enforcement}
1. Each Party shall provide for criminal procedures and penalties to be applied at least in cases of willful trademark counterfeiting or copyright or related rights piracy on a commercial scale.
...

7. With respect to the offences described in Article QQ.H.7[1]-[4] above, each Party shall provide:
...
[US/NZ/PE/SG/BN/CL/AU/MY/CA/MX propose: VN/JP oppose: (h) that its competent authorities may act upon their own initiative to initiate a legal action without the need for a formal complaint by a private party or right holder].

第QQ.G.6条
[米/豪/ペルー/シンガ/チリ/メキシコ提案;ブルネイ/ベトナム/ニュージー/マレ/加/日反対]加盟国は(写真を含め)著作物、実演又は録音の保護期間を以下の通り算定するよう規定しなければならない:
(a)自然人の生死に基づく場合、保護期間は著作者が生きている期間を下回らず、死後[メキシコ提案:100][メキシコ反対:70]年とし;
(b)自然人の生死に基づかない場合、保護期間は、
(ⅰ)著作物、実演又は録音の許諾を受けた最初の公開から[米提案;チリ反対:95][豪/ペルー/シンガ/チリ:70][メキシコ提案:75]年とするか、
(ⅱ)著作物、実演又は録音の創作から[米提案;チリ反対:25][シンガ/ペルー/豪/チリ提案:50]年そのような許諾を受けた公開がないとき、著作物、実演又は録音の創作の暦年の終わりから[米提案;チリ反対:120][シンガ/ペルー/豪/チリ提案:70]年を下回らないものとする。

第QQ.H.4.X条
第1項
 民事訴訟手続きにおいて、著作物、録音及び実演を保護する著作権又は著作隣接権の保護に関して、加盟国は以下の1つ以上を規定する制度を確立するか、維持しなければならない:
(a)権利者に選択可能なものとされるあらかじめ定められた賠償;又は
(b)追加の賠償
(原注:明確化のため、追加の賠償とは警告的な又は懲罰的な賠償を含み得る。)

第2項(原注:交渉官注:豪は本項をなお検討している。) 民事訴訟手続きにおいて、商標権侵害に関して、加盟国は以下の一つ以上を規定する制度を確立するか、維持[米提案:しなければならない][ニュージー/マレ/ブルネイ/日提案:することができる]:
(a)権利者に選択可能なものとされるあらかじめ定められた賠償;又は
(b)追加の賠償

第3項 あらかじめ定められた賠償は[ベトナム反対:将来の侵害を防ぐ目的も含め]侵害から発生した損害に対し権利者を十分に補償するであろう額として設定されなければならない。

第4項 追加の賠償を認めるに当たっては、司法当局は、[深刻さ/程度/侵害行為の甚だしさ](原注:交渉官注:加盟国は深刻さを表す語の選択案について検討している。)及び将来における類似の侵害を防ぐ必要性等のあらゆる関係事項を考慮に入れ、そのような追加の賠償を認める権限を有する。

第QQ.H.7条:{刑事手続き及び救済措置/刑事執行}
第1項
 加盟国は、少なくとも商業的な規模での故意の商標権侵害又は著作権侵害の場合に対して刑事手続き及び刑事罰を規定しなければならない。
(略:故意侵害の定義や模倣ラベルの取り扱い等について規定)

第7項 上記の第QQ.H.7条[第1項]−[第4項]に書かれた侵害に関して、加盟国は以下のことを規定しなければならない:
(略:侵害品の没収等について規定)
[米/ニュージー/ペルー/シンガ/ブルネイ/チリ/豪/マレ/加/メキシコ提案;ベトナム/日反対(h)権限を有する当局は、民間の関係者や権利者の形式的な告訴を必要とせず、自発的に法的行動を起こせる。]

 アメリカを中心としたいくつかの国が著作権の保護期間延長、法定賠償の導入、非親告罪化を求めており、やはりいくつかの国が反対するべくしてしているという構図自体は予想通りであって、目新しいことはないのだが、条文を見てやはり気になるのは著作権侵害における法定賠償を規定する、第QQ.H.4.X条第1項に対して特に日本の反対が見られない点である。第2項の商標権侵害における法定賠償の導入に反対しているところを見ても、どうにも第1項の著作権における法定賠償について日本政府が法改正を含め何らかのコミットメントをしている気配が濃厚に漂っているのである。(条文の取り扱いが流動的な可能性や解釈でどうにかしようとしている可能性も全くないとまでは言い切れないが、そうだとすると著作権と商標権で対応が違って来る理由の説明がつかない。)

 8月30日の時点で日本が保護期間延長と非親告罪化に関して大きな譲歩をした形跡がないのはまだ良いとしても、アメリカがこれらの提案をそう簡単に落とすとも思えず、日米間の会談で大臣や首相がアメリカ寄りの発言をむやみに繰り返しているのを見ても、今後に関する懸念は強まるばかりである。

 今回のリーク文書の内容は大方の予想に沿ったものとは言え、特許なども含めこれほど広範かつ細かな内容がTPP協定に含まれていることには私も正直驚いた。著作権のみならず薬に関してなど、国民の生活に大きな影響を与える検討が超極秘裏に行われていることに私も激しい憤りの念を感じている。このリーク文書について恐らく各国政府はノーコメントを貫くだろうが、TPP協定交渉の透明化がこれでさらに強く求められるのは間違いない。

 しばらくこのリーク文書の翻訳・紹介を続けたいと思っており、少し間が空くかも知れないが、次回はインターネット・サービス・プロバイダーの責任に関する部分を取り上げるつもりである。

(2013年11月14日夜の追記:国の略記号でミャンマーとマレーシアを勘違いしていたので修正した(ミャンマー→マレ)。)

(2013年11月15日の追記:第QQ.H.4.X条第3項と第4項の翻訳漏れを修正し(第3項にベトナム反対の括弧を追加、第4項の括弧内に「程度」を追加)、合わせて文章を少し整えた。)

(2013年11月18日夜の追記:第QQ.H.4.X条第2項と第4項の注とその訳を念のため追加した。)

|

« 第298回:カナダの著作権法改正(フェアディーリングの拡充、ユーザー作成コンテンツのための権利制限など) | トップページ | 第300回:TPP協定知財章リーク文書(インターネットサービスプロバイダーの責任関連部分) »

TPP・ACTA・EPA」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 第299回:TPP協定知財章リーク文書(著作権保護期間延長、法定賠償、非親告罪化関連部分):

« 第298回:カナダの著作権法改正(フェアディーリングの拡充、ユーザー作成コンテンツのための権利制限など) | トップページ | 第300回:TPP協定知財章リーク文書(インターネットサービスプロバイダーの責任関連部分) »