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2013年10月28日 (月)

第298回:カナダの著作権法改正(フェアディーリングの拡充、ユーザー作成コンテンツのための権利制限など)

 今国会にかかっているものとして秘密保護法案なども気になるが、それは多くの報道でさんざん問題点を指摘されている話なので、ここでは、昨年2012年6月成立、同11月施行といささか旧聞に属するのだが、今まで取り上げていなかったカナダの著作権法改正の紹介をしておきたいと思う。

 カナダの状況についてはマイケル・ガイスト教授(オタワ大)がそのブログで随時取り上げており、去年11月のブログ記事1でこの法改正の概要を箇条書きで以下のように書いてくれている。

  • The addition of education, parody, and satire as fair dealing purposes.
  • The creation of a non-commercial user generated content provision that creates a legal safe harbour for creators of non-commercial UGC (provided they meet four conditions in the law) and for sites that host such content.
  • The adoption of several new consumer exceptions including time shifting (recording of television shows), format shifting, and the making of backup copies.
  • Changes to the statutory damages rules that distinguish between commercial and non-commercial infringement. The law now includes a cap of $5000 for all non-commercial infringement. The change reduces the likelihood of lawsuits against individuals for non-commercial activities and would apply to educational institutions engaged in non-commercial activity and significantly reduce their potential liability for infringement.
  • The inclusion of an exception for publicly available materials on the Internet for education. This covers the content found on millions of websites that can now be communicated and reproduced by educational institutions without the need for permission or compensation.
  • The adoption of a technology-neutral approach for the reproduction of materials for display purposes. The current law is limited to manual reproduction or on an overhead projector. The provision may be applicable in the online learning context and open the door to digitization activities.
  • The implementation of a distance learning provision, though use of the exception features significant restrictions that require the destruction of lessons at the conclusion of the course.
  • The inclusion of a restrictive digital inter-library loans provision that will allow for digital transmission of materials on an inter-library basis, increasing access to materials that have been acquired by university libraries.
  • A new exception for public performances in schools, which will reduce licensing costs for educational institutions.
  • フェアディーリングの目的として教育、パロディ、風刺を追加。
  • (法律に規定されている4条件に合致する限り)非営利のユーザー作成コンテンツ(UGC)の作成者とそれをホストするサイトに対して法的なセーフハーバーを作るUGC規定の創設。
  • タイムシフト(テレビ番組録画)、フォーマットシフト及びバックアップコピーの作成を含むいくつかの新たな消費者のための例外の採用。
  • 営利侵害と非営利侵害を区別する法定賠償制度の変更。著作権法はこれであらゆる非営利侵害に対して5000ドルの上限を含むこととなる。この法改正は個人の非営利活動に対してあり得た訴訟を減らし、非営利活動を行う教育機関にも適用され、その侵害責任の可能性を大いに減らすことだろう。
  • 教育のためのインターネットで広く入手可能な著作物に対する例外の追加。これは、無数のウェブサイトにおいて見つかるコンテンツを教育機関が許諾又は補償の必要なく送信、複製することをカバーする。
  • 表示目的での著作物の複製に対する技術中立的なアプローチの採用。以前の著作権法は手による複製かオーバーヘッドプロジェクターに限られていた。この規定はオンライン教育コンテンツにも適用可能となり、デジタル活動の道を開いた。
  • 遠隔教育規定の導入、ただし、この例外の利用にはコースの終わりに授業を消去するという大きな制約がある。
  • 図書館間での著作物のデジタル通信を認め、大学図書館によって入手された著作物へのアクセスを増やす、限定的なデジタル図書館間貸与規定の追加。
  • 教育機関の許諾コストを減らすことになる、学校における上演のための新たな例外。

 これだけでも決して悪くない方向での法改正であることが分かるとは思うが、ガイスト教授が同じく去年6月のブログ記事2でまとめている過去の案との比較を見ると、市民からの声も相当あってここまでのものになったのだろうことが分かる。(念のために書いておくと、上のブログ記事1にも書かれている通り、去年の10月にカナダ政府はマイクロSDカードを私的録音録画補償金の対象外とする決定も出しており、無論法改正にも補償金制度の拡大のような話は含まれていない。)

 上であげた概要に加えて、カナダ著作権法改正条文(pdf))の中から、ユーザーとして興味深い部分を少し抜き出しておくと、まずパロディ等に関してはフェアディーリング条項における列挙の追加として、

29. Fair dealing for the purpose of research, private study, education, parody or satire does not infringe copyright.

第29条 研究、私的勉強、教育、パロディ又は風刺のためのフェアディーリングは著作権を侵害しない。

と書かれ、非営利UGCに対するセーフハーバーは、

29.21 (1) It is not an infringement of copyright for an individual to use an existing work or other subject-matter or copy of one, which has been published or otherwise made available to the public, in the creation of a new work or other subject-matter in which copyright subsists and for the individual - or, with the individual’s authorization, a member of their household - to use the new work or other subject-matteror to authorize an intermediary to disseminate it, if
(a) the use of, or the authorization to disseminate, the new work or other subject-matter is done solely for non-commercial purposes;
(b) the source - and, if given in the source, the name of the author, performer, maker or broadcaster - of the existing work or other subject-matter or copy of it are mentioned, if it is reasonable in the circumstances to do so;
(c) the individual had reasonable grounds to believe that the existing work or other subject-matter or copy of it, as the case may be, was not infringing copyright; and
(d) the use of, or the authorization to disseminate, the new work or other subject-matter does not have a substantial adverse effect, financial or otherwise, on the exploitation or potential exploitation of the existing work or other subject-matter - or copy of it - or on an existing or potential market for it, including that the new work or other subjectmatter is not a substitute for the existing one.
...

第29.21条第1項 以下の場合、著作権の存在する新たな著作物、その他の保護対象物又はその複製物の作成のための、公開されているか又はその他の方法により公衆に入手可能とされている既存の著作物、その他の保護対象物又はその複製物の個人による利用は著作権侵害とならず、また、その個人−又は、その個人に許可されたその家族−によるその新たな著作物又はその他の保護対象物の仲介者に対する頒布の許諾利用は著作権侵害とならない:
(a)その新たな著作物又は保護対象物が非営利目的のためのみに利用されるか又は頒布を許諾されており;
(b)状況に照らしてそうすることが合理的なときには、既存の著作物のソースへの−そのソースに含まれているなら、著作者、実演家、作者又は放送者の名前も含めて−言及があり;
(c)その個人に、ケースに応じて既存の著作物又はその他の保護対象物が著作権を侵害していないと思える合理的な理由があり;かつ
(d)新たな著作物又はその他の保護対象物が既存のものの代替とならないことも含め、新たな著作物又はその他の保護対象物の利用又は頒布の許諾が、既存の著作物又はその他の保護対象物−又は、その複製物−の利用又は潜在的利用若しくはその存在している又は潜在的な市場に実質的な経済的その他の不利な影響を与えない場合。
(後略)

と書かれている。

 日本の政策検討において利用者視点も含めて合理的な判断がされるということがおよそなく、なかなか権利制限の一般規定・フェアユース規定が入らないのは残念だが、他の国のこのようなパロディやUGCに関する一般的な権利制限規定の拡充・導入は日本でも参考になるところがあるのではないだろうか。無論どの国についても一長一短はあり、運用まで見ないと何とも言えないところもあるので、そのまま取り入れるべきなどというつもりは毛頭ないが、様々な国のことを参考にしつつ著作権法上の権利制限を新たに広く一般的な形へと拡充することで著作権を巡る混迷状況はかなり緩和できるだろうと私は思っている。

 ここまでは良いのだが、その後、カナダでも海賊版対策条約(ACTA)批准のための法改正案が出されていたり、政府が次の法改正の検討についての見解を示していたり、TPPを通じた保護期間延長が警戒されていたりと(ガイスト教授の今年3月、6月、8月のブログ記事3参照)、やはり全く油断はできない状況が続いていることに変わりはない。どこの国でも著作権戦争に終わりはないのである。

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2013年10月 3日 (木)

第297回:文化庁・著作権分科会・出版関連小委員会中間まとめ(電子出版権創設提言)に対するパブコメ募集(10月27日〆切)

 先週9月27日に文化庁から10月26日〆切で、著作権分科会・出版関連小委員会中間まとめに対するパブコメ募集が始まった(電子政府のHP参照)。あわや新隣接権の創設かと思われた話にしては今の出版権の延長での電子出版権の創設という極めて順当なところに落ち着いており、今の方向性で大きな問題があるということはないが、久しぶりの著作権法改正パブコメであり、ここで経緯も含めてその内容を簡単に紹介しておきたいと思う。

 非常にややこしいのだが、この話について1980年代くらいからこれまでの経緯をざっと書いておくと、

1985年〜1990年 文化庁・著作権審議会第8小委員会(出版者の保護関係)で出版社の権利について検討、その報告書で補償金請求権付与を提言するが、結局法改正に至らず

2003年 知財計画2003で版面権に言及するが、結局まとまらず

2005年 知財計画2005から版面権に関する記載が消える

2010年3月〜6月 文部科学省・総務省・経済産業省3省のデジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会で出版社の権利についても検討

2010年12月〜2011年12月 同3省の電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議で引き続き検討、特に結論出ず

2012年2月 中川正春衆院議員を座長とする印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会で出版社への権利付与について検討開始

2012年2月 弁理士会が知財計画意見(pdf)で電子出版権の創設を提言

2012年5月 知財計画2012(pdf)で出版社への権利付与の検討項目が復活

2012年6月 中川勉強会が中間取りまとめ(pdf)で出版社への隣接権付与を提言

2013年2月 経団連が電子出版権の創設を提言

2013年4月 中山信弘先生らが現行出版権の拡張を提言(pdf)補足説明(pdf) )、中川勉強会も同提言を取り込む(議事録(pdf)参照)

2013年5月〜9月 文化庁・著作権分科会・出版関連小委員会で検討開始、中間取りまとめで電子書籍に対応した出版権の整備を提言

となる。ここ最近では、中川勉強会で隣接権付与が言い出され、すわ議員立法かと思われた時期が一番危なかったが、様々な関係者のロビー活動や中山提言のお陰もあり、最終的に順当なところに落ち着いたのは非常に喜ばしい。

 今回の中間取りまとめ(pdf)の内容は、その概要(pdf)に十分まとまっているとも思うが、念のため、この概要の表を参考にさらに現行の出版権も加えて比較表を作っておくと、

Epub_rights_2

となるだろう。つまり、この提言に沿った法改正がなされても、現行と同様に契約によって出版権あるいは電子出版権を設定するという形になるのであって、元の著作権者の意図にすら反して自動的に出版社に何かしらの隣接権が発生するというようなことはない。(細かなこととしては、電子出版権の基本的な存続期間がどれだけになるのかまだ分からないことや現行の出版権も再許諾が可能になったりとわずかに変わるとされていることに少し注意しておいた方が良いかも知れないが。)

 隣接権創設については、中間取りまとめの第15〜16ページでも、

 その他の関係団体からは、(ⅰ)著作権者の意思に反して権利行使される可能性や権利者数の増加による権利処理コストの増大から、流通阻害効果が予想され、副作用が大きいと考えられること、(ⅱ)印刷会社と出版社の間では、出版物等原版の取扱い等について議論があり、著作隣接権の付与により取扱いや帰属が変わってしまうことが懸念されること、(ⅲ)漫画家が制作する原稿は、本を通じて読者が目にする形そのものであるから、 漫画の原稿の図案にまで出版者に権利を与えることは反対であることなどから、著作隣接権の創設に反対する意見が多く示された。

と書かれており、今後もごく当たり前の話としてこのような否定的な整理を守るべきだろう。

 今回のパブコメは順当な内容のものであり、私もこの方向で進めてもらいたいという意見を書いて送るつもりだが、文化庁が多少なりともまともになったと考えている訳ではカケラもない。権利者と利用者が対立する場合必ず権利者側に立って非道い報告書をまとめる文化庁も、このように著作者と出版社が対立する場合にはそれなりにバランスを取って考えるというだけのことである。TPPとも絡み、日本政府が著作権法改正について今後何を言い出して来るかは本当に要注意である。

 なお、そもそものことを言えば、出版業界で出版権設定契約が必ずしも十分に浸透していないということがあり(この報告書に載っている数字でも73%の出版契約の8割が出版権設定契約とあるので、新刊書籍のうち出版権の設定がされているのは全体の5割程度ということになり、雑誌に至っては事例がないとのことだが、このように十分な契約もできていない状態でとにかく隣接権を寄越せと主張されてもほとんど出版社のわがままとしか思えない)、できればこのような法改正でもう少しきちんとした契約がされるようになればとも思うが、果たしてどうだろうか。

 最後に著作権政策を巡る最近の国内動向も少し紹介しておくと、内閣府の規制改革会議がクラウドと著作権の問題について突っ込んで来ている(毎日新聞の記事、規制改革会議・創業・IT等WGの9月30日資料など参照)。今までのことを考えると規制改革会議にも大きな期待はできないと思うが、例年通り10月31日〆切で意見の集中受付をやっているので、著作権問題について合わせて意見を出しておくのも一案だろう。

 今回のパブコメで提出する意見はここに載せるほどの内容にはならないので、次回は国内外の動向に合わせてまた別の話を書きたいと考えている。

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