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2013年7月22日 (月)

第294回:フランスにおける3ストライク法のネット切断の罰の廃止他

 選挙の結果、参院でも自公が過半数を占め、ねじれが解消された。日本の政策動向もどうにも予断を許さない状況が続くとは思うが、今回からしばらく、なかなかきちんとまとめて書く暇がなかった各国の著作権政策動向について紹介して行きたいと思う。

(1)大臣令による3ストライク法のネット切断の罰の廃止
 まずはフランスについて、去年の選挙でサルコジ氏が敗れ、社会党のオランド氏が大統領になってから、その見直しは必至と見られていた訳だが、lefigaro.frの記事1(フランス語)zdnet.frの記事(フランス語)generation-nt.comの記事1(フランス語)、フランス文化通信省のリリース1(フランス語)などに書かれている通り、この7月10日にまず大臣令によって3ストライク法のネット切断の罰が廃止された。

 この大臣令はこの5月13日にフィリペッティ仏文化大臣へ提出されたレスキュール氏の検討委員会報告書(フランス文化通信省のリリース2(フランス語)参照)を受けてのものである。この報告書(第1分冊(pdf)第2分冊(pdf))は、フランスでの政権交代の後、政府から託されたデジタル時代の文化政策の検討の結果を報告したものであり、対象は3ストライク法に限らず、かなり盛りだくさんの内容となっている。到底全部は紹介し切れないが、その提言から3ストライク関係の部分だけ抜き出すと、

55. Clarifier l'articulation entre reponse graduee et contrefacon: demander aux Parquets de n'engager des poursuites pour contrefacon que lorsqu'il existe des indices d'enrichissement personnel ou collectif ; engager, sous l'egide du CSPLA, une reflexion sur la redefinition de la contrefacon afin de prendre en compte le prejudice cause aux titulaires de droits et la finalite lucrative ou non de l'acte incrimine.

56. Alleger le dispositif de reponse graduee : renforcer la phase pedagogique, supprimer la sanction de suspension de l'acces Internet, depenaliser la sanction et en reduire le montant, et faire de l'obligation de securisation une obligation de moyens.

57. Confier au CSA la mise en oeuvre de la reponse graduee ainsi allegee, afin d'inscrire la protection du droit d'auteur dans une politique globale de regulation de l'offre culturelle numerique.

58. Inscrire la sensibilisation au droit d'auteur et aux pratiques culturelles en ligne dans l'education artistique et culturelle et dans l'education aux medias.

55.ストライクポリシーと著作権侵害の間の連関を明らかにすること:個人的あるいは集合的利益の獲得を示す証拠がない限り検察に著作権侵害の訴追をしないように求めること;文化芸術財産高等評議会(CSPLA)の監督下で、権利者に生じる損害と最終利益あるいは不起訴相当ケースについて把握するため、著作権侵害の再定義を検討すること。

56.ストライクポリシーの規定を軽減すること:教育段階を強化し、インターネット・アクセスの遮断の罰を廃止し、罰則から罰の性質を取り除いて罰金の額も下げ、その手段においてセキュリティの確保を義務化すること。

57.デジタル文化作品に関する規則の世界的政治動向において著作権の保護を示すべく、このように軽減したストライクポリシーの実施を視聴覚高等評議会(CSA)に任せること。

58.芸術文化教育とメディア教育においてネットにおける文化活動と著作権の意識啓発を行うこと。

となる。つまり、この報告書はストライクポリシーにおける罰を相当軽減し、現行のストライク機関(Hadopi)を廃止して後は全てCSAに任せるというかなり大胆な提言をしているのだが、無論一足飛びにそこまで行くということはなく、オランド政権としては手っ取り早くできることとしてまず大臣令でネット切断の罰を廃止したということだろう。(上でリンクを張ったフランス文化通信省のリリース1でも、2013年末か2014年頭までにストライク機関をCSAに統合する法改正案を予定していると書かれている。)

 ここで、このネット切断の罰を廃止する大臣令も訳出しておくと以下のようになる。

JORF n° 0157 du 9 juillet 2013 page 11428 texte n° 60

Decret n° 2013-596 du 8 juillet 2013 supprimant la peine contraventionnelle complementaire de suspension de l'acces a un service de communication au public en ligne et relatif aux modalites de transmission des informations prevue a l'article L. 331-21 du code de la propriete intellectuelle

Publics concernes : personnes titulaires d'un acces a un service de communication au public en ligne, operateurs de communications electroniques.

Objet : infraction de negligence caracterisee ; abrogation de la peine complementaire de suspension de l'acces a un service de communication au public en ligne ; modalites de transmission des informations necessaires a l'identification des abonnes.

Entree en vigueur : le texte entre en vigueur le lendemain de sa publication.

Notice : le present decret abroge le III de l'article R. 335-5 du code de la propriete intellectuelle. Seule une peine d'amende contraventionnelle de 5e classe pourra desormais etre prononcee pour l'infraction de negligence caracterisee prevue a ce meme article. Le decret precise egalement les modalites de transmission securisee des informations necessaires a l'identification des abonnes.
...

Le Premier ministre,
...
Decrete :

Article 1
Au premier alinea de l'article R. 331-37 du code de la propriete intellectuelle, apres le mot : << communiquer >>, sont inseres les mots : << , par une interconnexion au traitement automatise de donnees a caractere personnel mentionne a l'article L. 331-29 ou par le recours a un support d'enregistrement assurant leur integrite et leur securite, >>.

Article 2
Le III de l'article R. 335-5 du meme code est abroge.

Article 3
Le present decret est applicable sur l'ensemble du territoire de la Republique, a l'exception de la Polynesie francaise.

Article 4
La garde des sceaux, ministre de la justice, et la ministre de la culture et de la communication sont chargees, chacune en ce qui la concerne, de l'execution du present decret, qui sera publie au Journal officiel de la Republique francaise.

フランス共和国官報2013年7月9日第0157号第11428ページ第60番

知的財産法第331−21号に規定されたオンライン公衆通信サービスへのアクセスを遮断する補助的な罰を廃止する2013年7月8日の大臣令第2013−596号

関係する者:オンライン公衆通信サービスへのアクセスの所有者、電気通信事業者。

対象:特定の懈怠による違反;オンライン公衆通信サービスへのアクセスを遮断する補助的な罰の廃止;契約者の特定に必要な情報の伝達の態様。

施行日:公布の日の翌日から本令を施行する。

注意:本令は知的財産法規則第335−5条第3項を削除する。今後は第5級の罰金(訳注:1500ユーロ以下の罰金)のみが同条の懈怠による違反に課され得る。また、本令は契約者の特定に必要な情報の伝達におけるセキュリティの確保についても定める。

(中略:参照法文)

総理大臣は、
(中略:関連条項の列挙)
以下の通り宣告する:

第1条 知的財産法規則第331−37条の第1段落の「伝達する」の語の前に、「法第331−29条に書かれている個人的な性格を持つ情報の自動的な取扱いの相互連絡によってか、その全体性とセキュリティを確保する形で記録媒体を使って」が挿入される。

第2条 知的財産法規則第335−5条第3項を削除する。

第3条 本令は、フランス領ポリネシアを除き、共和国全土で適用される。

第4条 司法大臣及び文化通信大臣が、それぞれの担当に応じて、フランス共和国官報において公布される本令の実施に責任を負う。

 さらに、この大臣令で削除された規則第335−5条第3項の条文も見ておくと、

Article R335-5
...
III.-Les personnes coupables de la contravention definie au I peuvent, en outre, etre condamnees a la peine complementaire de suspension de l'acces a un service de communication au public en ligne pour une duree maximale d'un mois, conformement aux dispositions de l'article L. 335-7-1.

規則第335−5条
(略:第1項及び第2項は罰金について規定)
第3項 第1項に規定されている違反を犯した者は、法第335−7−1条の規定に合致する形で、さらに最長1ヶ月間のオンライン公衆通信サービスの遮断という補助的な罰を課され得る。

となり、このようにネット切断の罰の実施について定めた最後の第3項が削除されたことで、この罰は実施不能となったということである。

 フランスの3ストライク法に関しては、2010年10月の最初の送付以来今までで累計200万通近い警告メールが送付されて来た訳だが、結局最終段階のネット切断まで行ったのは1人のみという状態で、このようにその罰が廃止されるに至った。(pcinpact.comの記事(フランス語)lefigaro.frの記事2(フランス語)itespresso.fr(フランス語)の記事など参照。)

 そして、この3ストライク法の効果はと言えば、lefigaro.frの記事3(フランス語)に書かれている通り、ストライク機関の最近の調査でも、違法ソースからの複製が減ったとは言いがたいという結果に終わっている。ストライク法の推進派はこのような取り組みには教育的効果があるといったことをさんざん主張して来た訳だが、そのような効果すら怪しいことが明らかになって来ていると言って良い。(ストライク機関のリリースも参照。この調査自体日本の文化庁などの調査と同じくどこまで信頼できるかという問題はあるが。)

 大臣令による規則改正を通じた罰の廃止ということで多少変則的であり、ネット切断の罰を廃止したと言っても、ストライク機関そのものまで廃止した訳ではなく、警告メールの送付は続けられており、最終的に罰金が課される可能性があることに注意が必要だが、何にせよ、ストライク法の本家フランスでネット切断というあまりにもバランスを欠いたバカげた罰が廃止されたのは喜ばしいことである。

 3ストライク法を巡る憲法裁判等の過去の経緯については過去のエントリを見てもらえればと思うが、ストライクポリシーは今に至るも変形例を含めて導入した国はわずかで、国際的に全く主流とはなっていない。そして、本家のフランスがこのようにネット切断の罰を廃止したことで、今後ネット切断について追随する国はもはや出て来ないだろう。

(2)20世紀の絶版作品電子化法
 また、いささか旧聞に属するが、フランスは、去年の3月、まだサルコジ政権のときに20世紀の絶版作品電子化法を可決・成立させている。(current.ndl.go.jpの記事も参照。)

 この絶版作品電子化法によってフランス知的財産法に挿入された条文のうち、ポイントとなる第134−2条、第134−3条と第134−4条の一部は以下のようなものである。

Article L134-2
Il est cree une base de donnees publique, mise a disposition en acces libre et gratuit par un service de communication au public en ligne, qui repertorie les livres indisponibles. La Bibliotheque nationale de France veille a sa mise en oeuvre, a son actualisation et a l'inscription des mentions prevues aux articles L. 134-4, L. 134-5 et L. 134-6.

Toute personne peut demander a la Bibliotheque nationale de France l'inscription d'un livre indisponible dans la base de donnees.
...

Article L134-3
I. — Lorsqu'un livre est inscrit dans la base de donnees mentionnee a l'article L. 134-2 depuis plus de six mois, le droit d'autoriser sa reproduction et sa representation sous une forme numerique est exerce par une societe de perception et de repartition des droits regie par le titre II du livre III de la presente partie, agreee a cet effet par le ministre charge de la culture.
Sauf dans le cas prevu au troisieme alinea de l'article L. 134-5, la reproduction et la representation du livre sous une forme numerique sont autorisees, moyennant une remuneration, a titre non exclusif et pour une duree limitee a cinq ans, renouvelable.

Article L134-4
I. — L'auteur d'un livre indisponible ou l'editeur disposant du droit de reproduction sous une forme imprimee de ce livre peut s'opposer a l'exercice du droit d'autorisation mentionne au premier alinea du I de l'article L. 134-3 par une societe de perception et de repartition des droits agreee. ...

第134−2条 オンライン公衆通信サービスによって自由かつ無償でアクセス可能とされる絶版本の公共データベースが作られる。国立図書館がその運用、更新並びに第134−4条、第134−5条及び第134−6条に規定された付記について監督する。

誰でもこのデータベースへの絶版本の登録を国立図書館に求めることができる。
(略)

第134−3条
第1項 第134−2条に記載されたデータベースに本が登録されて6ヶ月以上経過したとき、デジタル形式での複製及び上演を許諾する権利は、その権限について文化担当大臣の認可を受けた、本部第3編第2章の著作権管理団体によって行使される。
 第134−5条の第3段落に規定された場合を除き、その本のデジタル形式での複製及び上演は、補償金により、非独占的条件で5年間許諾され、その期間は更新可能である。
(略)

第134−4条
第1項 絶版本の作者又はその本の印刷形式での複製権を有する出版社は、第134−3条第1項に記載された認可を受けた著作権管理団体による権利許諾の行使に反対することができる。(後略)

 この部分だけからも分かるように、この法改正は政府が強く関与する形で実質オプトアウト方式で強力に絶版作品の電子化を図るものである。その背景には、無論グーグルブック対抗という意味が強くあったとは言え、やはり行き過ぎた著作権保護を緩和する意味もあると言って差し支えないだろう。

 この法改正についても成立前後からいろいろと騒がれて来たが、ITmediaの記事にもなっている通り、2013年3月に6万件のデータが登録された絶版作品データベースReLIREが公開され、この9月から絶版作品の非独占電子化権が他社に与えられ得るというところまで来ている。

 フランスほどラディカルな方法を取るべきというつもりもなく、すぐにどうこうという話でもないが、孤児作品だけでなく絶版作品について著作権法的にどう考えるべきかという点はもっと議論されて良いところではないかと、日本だと絶版作品についてあまり問題にされていないのは残念なことと私は常々思っている。

 欧州のことというと兎角著作権保護強化のことばかり取り沙汰され、それはそれで一面正しいのだが、そのような非道な保護強化の動きばかりがある訳ではない。本当に国際動向云々と言うのなら、当然のこととして反対の動きも含めて丁寧に見て行かなければならない。

 フランスでもまた何かしら動きがあれば随時取り上げて行きたいと思っているが、次はドイツの話をまとめて書きたいと思っている。

(なお、これも出て来て当然の話だが、generation-nt.comの記事2(フランス語)にあるように、ストライク機関を騙った偽の警告メール・詐欺メールも出て来ており、またなお、恐らくまだどうともなっていないと思うが、infojustice.orgの記事のになっている通り、変形ストライクポリシー導入国の韓国でも廃止の動きがあるということを最後に合わせ書いておく。)

(2013年7月23日夜の追記:いくつか誤記を直した。)

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