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2013年6月16日 (日)

第291回:米国通商代表部のTPP日本参加パブコメに提出されたアメリカの著作権ロビー団体である国際知的財産協会(IIPA)の意見書

 自民・公明・維新の三党から国会に単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案が提出され、6月14日には都議会選挙の告示があり、来月には参議院選挙が控えているなど、気になることは山のようにあるのだが、この6月9日までアメリカ通商代表部が募集していたパブコメに提出されている意見の中に知的財産に関するものもあり、TPP交渉におけるアメリカの知的財産に関するスタンスを知る上で非常に参考になる資料だと思うので、ここで取り上げておきたいと思う。

 このアメリカ通商代表部のTPP協定交渉への日本の参加における交渉ターゲットに関する意見募集(募集ページ参照)は既に締め切られているが、特に秘密とされない限り提出意見は提出意見公開ページで見ることができる。(それで日本政府としてどうしようとしているのかは分からないが、外務省が一応このパブコメ結果について概要(pdf)を作っている。知的財産関係ではないが、アジア太平洋資料センターの内田聖子氏(twitter)がアメリカ企業のすさまじい要求についてブログ記事を書かれているので、関心のある方は是非リンク先をお読みいた開ければと思う。)

 現時点で提出意見は90件中86件が公開されているが、知的財産関係ということでは、特に国際知的財産協会(IIPA)から提出されている意見(提出意見公開ページ参照)が非常に参考になる。この国際知的財産協会は、その名前に国際がついているが、その概要を読めば分かる通り、別に各国から代表が集まっているような団体ではなく、要するにアメリカ映画協会(MPAA)や全米レコード協会(RIAA)などアメリカの主立った著作権ロビー団体が集まって作られたアメリカの対外交渉向け著作権ロビー団体である。

 このアメリカの著作権ロビー団体である国際知的財産協会が出した意見書で日本政府に対して要求するべき項目としてあげられているのは以下の7点である。

  • Extension of terms of copyright protection for all works, including sound recordings, to comply with evolving global norms. Although more than 80 countries around the world, including a majority of TPP partners, have extended terms beyond the minimum levels set by the Berne Convention and/or the TRIPS Agreement, Japan has done so only for one category of work – films.
  • More effective, predictable and deterrent remedies for infringement, including pre-set statutory damages. Damage awards for copyright infringement in Japan often fall well short of deterrent or even fully compensatory levels. Making statutory damages available could help address this problem, and also facilitate settlements by making defendants’ financial exposure more certain.
  • Further strengthening of legal protections for the use of technological protection measures. Although Japan provides some protection against circumvention of technological measures copyright owners use to manage access to or copying of their works, gaps remain to be filled. These include: providing civil remedies under the Copyright Act for trafficking in technologies to circumvent copy controls (currently the law provides only a criminal offense under Art. 120bis); outlawing the act of circumvention of access controls (covered primarily by the Unfair Competition Prevention Act); providing criminal remedies that meet global standards (for example, Art. 120bis improperly requires proof that a trafficker in circumvention devices intended to infringe copyright); and ensuring coverage of unauthorized distribution of product keys.
  • Reform of Japan’s private copying exception, to exclude from the exception the downloading of all types of copyright works from known infringing sources. Currently, only audio and video recordings so downloaded are excluded from the exception (Art. 30(1)(iii)), implying that other works such as software can be downloaded from such sources with impunity.
  • Elimination of costly and burdensome requirements for formal legal complaints from right holders before criminal copyright cases can be prosecuted.
  • Bringing enforcement procedures and remedies up to global minimum standards. Needed changes include: authorizing the seizure and destruction of all equipment and instrumentalities used to commit infringements; explicitly outlawing the creation of or trafficking in counterfeit labels, certificate of authenticity, or software documentation; and clarifying judicial powers to enforce orders and punish violators.
  • More effective enforcement tools against online copyright infringements, including improvements to the notice-and-takedown process.
  • 国際基準の進展に合わせ、録音含め全ての著作物に対する著作権保護期間の延長。多数のTPP参加国も含め80カ国以上でベルヌ条約の最低水準を超える期間への延長を行っているにもかかわらず、日本は映画という1つのカテゴリーの著作物しか延長していない。
  • 法定賠償制度等、より効果的で予見性が高く抑止力のある救済措置の導入。日本における著作権侵害に対する損害賠償は、抑止力となる水準からあるいは完全に損害を埋め合わせる水準からもかなり低くなることが多い。法的賠償制度を使用可能とすることはこの問題に対処する助けとなり、被告に対して求められる額をより明確とすることで和解を容易にすることにもなるであろう。
  • 技術的保護手段の利用のための法的保護のさらなる強化。日本は、著作権者がその著作物のコピー又はアクセスを管理するために使う技術的保護手段の回避に対して保護を行っているが、埋めるべきギャップはまだ存在している。それは次のことを含む:コピーコントロールを回避する技術の取引に対して著作権法において民事救済を規定すること(現在、日本の著作権法は第120条の2で刑事罰のみを定めている);アクセスコントロールの回避行為の違法化(主として不正競争防止法によってしかカバーされていない);世界基準に合わせた刑事救済を規定すること(例えば、第120条の2は、回避装置の取引者が著作権を侵害する目的を持っていたことの証明を不適正なことに求めている);そして、プロダクトキーの不正頒布のカバーまでを確かに行うこと。
  • 日本の私的複製の例外を改正し、著作権侵害ソースからそうと知ってダウンロードすることの私的複製の例外からの除外を全てのタイプの著作物に拡大すること。現在、録音録画物のダウンロードのみがこの例外から除外されており(第30条第1項第3号)、ソフトウエア等の他の著作物のそのようなダウンロードは罰されずに行えると考えられる。
  • 著作権刑事事件の訴追までに権利者に求められる、正式な告訴のための、費用と手間のかかる要件の排除。
  • エンフォースメント手続きと救済措置をグローバルなミニマムスタンダードに合わせること。次の改正が必要である:著作権侵害を行うために使われた全ての設備と手段の没収と廃棄を可能とすること;ラベル、真贋評価書又はソフトウェアドキュメントの偽造品の製造又は取引の明確な違法化;命令を執行し、著作権侵害者を罰する司法権限の明確化。
  • ノーティスアンドテイクダウン手続きに関する改善等、オンライン著作権侵害に対するより効果的なエンフォースメントツールの整備。

 アメリカの著作権ロビー団体がかなり良く日本の著作権法を勉強していることが分かるが、この意見書を読んだだけでも、アメリカ政府とその背後にいる著作権ロビー団体が、TPP交渉あるいは並行協議で日本に対して、主として、

  • 著作権保護期間の延長
  • 法制賠償制度の導入
  • 技術的保護手段(DRM)回避規制の強化
  • ダウンロード違法化・犯罪化の全著作物への拡大
  • 刑事告訴手続きの簡素化(明確には言及していないが非親告罪化を含むだろう)
  • 各種エンフォースメント手続きの強化
  • プロバイダー責任制限法の著作権者よりの変更(明確には言及していないが米国型のノーティスアンドテイクダウン制度の導入やストライクポリシーの強制などを含むだろう)

を中心にかなりハードな著作権法改正要求を強硬に突きつけて来る(あるいは来ている?)のは間違いないと知れるのである。2011年時点のアメリカ提案TPP条文は、骨董通り法律事務所のコラムに抄訳が掲載されているが、その線は外れておらず、上の意見からもこのような知財に関する要求でアメリカが既に折れ何かしらの譲歩をしている可能性は低いと見て良いのではないかと思う。

 対して日本政府はと言えば、知財本部で検討され、6月7日に決定された知的財産政策ビジョン(pdf)で一応「環太平洋パ ートナーシップ(TPP)協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する」とは書いているが、これはほとんど何も言っていないに等しく、海賊版対策条約(ACTA)の検討で見せたどうしようもない戦略性・交渉力の欠如のことを考えても、政府内できちんとした交渉戦略などほとんど作られていないのではないかという懸念がどうにも拭えない。今からでも遅くはないのでTPP交渉から日本は速やかに脱退した方が良いと私は思っているが、日本の置かれた状況を考えるにつけ今後のことが非常に思いやられる。

 最後に、大体twitterでメモしていることではあるのだが、合わせてここでも少し他の海外動向について紹介しておくと、イギリスでは、知的財産法の改正案が国会に提出されたり、著作権法における私的複製、パロディ、引用、行政利用に関する著作権の例外規定に関するテクニカル・レビューが行われたりしている(それぞれイギリス知的財産庁のリリース1参照)。また、フランスでは、numeramaの記事(フランス語)に書かれている通り、ネット切断を止める方向でストライク法の改正検討が開始されているが、実際にどうなるかはまだ良く分からない。今後、また折を見て英仏のこのような動きなども紹介して行きたいと思っている。

(2013年6月17日夜の追記:1カ所分かりにくかった翻訳を訂正し(「の提供」→「を規定すること」)、意見書の項目に合わせ下の箇条書きに1項目(「・各種エンフォースメント手続きの強化」)を追加した。

 また、時事通信の記事毎日新聞の記事にもなっているが、今日TPP交渉に関して業界団体向け説明会が開催された。これだけでもやらないよりはましだが、これほど重要な問題であるにもかかわらず、日本政府はTPP交渉について本当の意味で一般向けの説明会や意見募集をするつもりはないようである。全くもって国民をバカにしているとしか言いようがない。)

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