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2013年6月25日 (火)

第292回:知財計画2013の文章の確認

 今日6月25日に知財本部知的財産推進計画2013(pdf)が決定された。今年も表現規制関係の項目が入らなかったのは良いとしても、それ以外に取り立てて見るべきところはなく、政権交代の影響もほとんど見られず、相変わらず毎年作ることに何の意味があるのか良く分からない検討項目集となっている。

 そうは言っても今の政府内の知財関係の検討状況を一覧として見る分には便利な資料には違いないので、今年も内容をざっと見ておきたいと思う。(去年の内容に関しては第270回参照、私の出したパブコメは第286回参照。今年は6月7日に知財政策ビジョン(pdf)という名称の検討項目集も決定されているが、このように似たような内容の資料を2つ作ることからして意味不明であり、内容に大して違いがある訳でもないので、基本的に知財計画の方で文章を確認して行く。)

 本当にどうでも良いことしか書かれていない情勢認識という名のお題目や、地道にやってもられば良い運用の改善関係の施策を飛ばして気になるところだけ拾って行くと、まず第8ページで、TPPについて、

(経済連携協定、投資協定などの取組の強化)
・自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)や投資協定などの二国間・多国間協定を通して、グローバルな企業活動を阻害する知的財産分野における国際的な問題の解決・改善を図る。具体的には、我が国産業界などの要望を踏まえつつ、交渉相手国の知的財産制度の整備や実効的な法執行の確保などを促し、また、TRIPS協定などの規定を上回る水準の知的財産の保護が達成されるよう、積極的に働きかける。特に、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する。(短期・中期)(外務省、経済産業省、農林水産省、文部科学省、財務省)

と書かれているが、これは知財政策ビジョンと全く同じ文章であり、やはり何も言っていないに等しい。前回も書いた通り、TPP交渉に関して政府内できちんとした交渉戦略などほとんど作られていないのではないかという懸念が強く、今後のことが非常に不安である。

 第9ページでは、特許の職務発明制度の見直しの検討ということで、

(職務発明制度の在り方)
・職務発明制度の在り方に係る整理にあたっては、国内外の運用状況に関する分析結果や、産業構造や労働環境が大きく変化している状況も踏まえつつ、以下のような観点から検討し、例えば、法人帰属や使用者と従業者などとの契約に委ねるなど、産業競争力に資するような在り方について結論を得る。(短期)(経済産業省)
−発明者に対する支払いの予見性を高める観点
−発明者への支払いが発明の譲渡に対する対価と考えるべきか、追加的な報酬と考えるべきかという観点
−従業者の報酬については一般的には労働法で規定されているところ、発明の対価に関しては職務発明規定として特許法で規定されていることから、労働法の視点からも職務発明制度について整理する観点
−グローバルな制度調和の観点
−発明者にとって魅力ある制度・環境の提供という観点

という項目が入っているが、検討の方向性までは良く分からない。(日経の記事NHKの記事に書かれている通り、この項目が今回の知財計画の目玉なのかも知れないが、具体的な法改正の根拠は乏しく、この検討がどうなるのか何とも良く分からない。)

 第10ページでは、意匠・商標制度について、

(グローバル意匠制度、グローバル商標制度の構築)
・画像デザインの意匠の保護対象拡充に向けて、具体的課題を解決するべく検討を進める。(短期)(経済産業省)
(略)
・「音」や「動き」といった商標を新たに保護対象とすべく制度の拡充を図る。(短期)(経済産業省)
・ご当地グルメなど、地域ブランドによる地域活性化に中心的に取り組んでいる商工会議所などが地域団体商標の登録主体となるように制度の拡充を図る。(短期)(経済産業省)
・需要者に提供される商品や役務の品質などを証明する標識を保護するための商標制度の在り方について検討を進める。(短期・中期)(経済産業省)
・登録後に識別力を喪失した登録商標の取消制度の導入については、諸外国の制度及び運用について調査研究を行い、「音」や「動き」といった新しい商標の運用状況も見極めた上で、その方向性を決定する。(短期・中期)(経済産業省)

と、特許庁で今検討が進められている、意匠や商標の保護対象の拡大などの話が書かれている。特許庁での検討状況については、やはり今日公表された特許行政年次報告書2013年版の第3部第8章法改正に向けた検討状況(pdf)の方が分かりやすいが、上の文章でも画像デザインへの意匠の保護対象拡大についてまだ「検討を進める」で、音や動きのような商標について「制度の拡充を図る」とされているところにそれぞれの検討の進み具合が出ている。(新しいタイプの商標の保護についてはこの2013年2月に特許庁の産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会報告書(pdf)を出したところだが(経産省のリリース参照)、意匠制度小委員会の方はまだまとまった報告書は出していない。)

 一番問題となる著作権関係の話は第26ページ以下に書かれている。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの普及や各種の2次利用促進策なども重要な点だとは思うが、法改正絡みということでは、特に以下のような項目があげられている。

(新しい産業の創出環境の形成に向けた制度構築)
・著作物の公正な利用と著作物の適切な保護を調和させ、新しい産業と文化の発展を続けるため、クラウドサービスといった新たな産業の創出や拡大を促進する全体的な法的環境の整備を図るため、著作権の権利制限規定の見直しや円滑なライセンシング体制の構築などの制度の在り方について検討を行い、必要な措置を講じる。(短期)(文部科学省)

(クリエーターヘの適切な対価還元に向けた制度構築)
・クリエーターヘ適切な対価が還元されるよう、私的録音録画補償金制度について、引き続き制度の見直しを行うとともに、必要に応じて当該制度に代わる新たな仕組みの導入を含む抜本的な検討を行い、コンテンツの再生産につながるサイクルを生み出すための仕組みを構築する。(短期・中期)(文部科学省、経済産業省)

(新しい産業の創出・拡大に向けたコンテンツの権利処理の円滑化)
(略)
・孤児著作物を含む過去の膨大なコンテンツ資産の権利処理の円滑化によりその利用を促進するため、著作権者不明の場合の裁定制度の在り方を見直し、権利者不明の立証負担の軽減や標準処理期間の短縮などにより、手続きの簡素化、迅速化を推進する。(短期・中期)(文部科学省)
(略)

(電子書籍の本格的な普及促進)
・海外の巨大プラットフォーム事業者などに対する交渉力向上や模倣品・海賊版対策などのため、電子書籍に対応した出版権の整備など出版者への権利付与や、書籍の出版・電子配信に係る契約に関する課題について早期に検討を行い、必要な措置を講じる。(短期)(文部科学省、経済産業省)

 去年の項目と比べると、本文から保護期間延長や間接侵害の話が落ちているが、これは別に検討が完全に終わったことを意味するのではなく、知財計画2013(pdf)の最後についている工程表の第57ページ項目番号139に書かれている通り継続検討とされていると見る方が正しいのだろう。(多少政府内でのプライオリティは下がったと見て良いのかも知れないが、これらの話はTPPとの絡みもあり全く安心できない。)

 また、出版社への権利付与の問題については、議員立法の話がひとまず消え、文化庁の文化審議会・著作権分科会・出版関連小委員会で検討するということになったまでは良いのだが、文化庁の検討でもかなり紛糾することは間違いなく、要注意であることに変わりはない。

 そして、私的録音録画補償金制度についてなどは法制・基本問題小委員会で検討されるようである。メンバーの偏りからして問題のあるこの委員会で文化庁がどうするつもりなのか良く分からないが、国内の検討ということでは上の出版関連での検討と同じく特に注意しておいた方が良いだろう。

 ここで、第29ページの、デジタル・アーカイブ化の促進などに関する、

(文化資産のデジタル・アーカイブ化の促進)
・新たな産業や文化創造の基盤となる知的インフラを構築するため、書籍、映画、放送番組、音楽、アニメ、マンガ、ゲーム、デザイン、写真、文化財といった文化資産及びこれらの関連資料などのデジタル・アーカイブ化を促進するとともに、各アーカイブ間の連携を実現するための環境整備及び海外発信の強化について検討し、必要な措置を講じる。(短期・中期)(総務省、文部科学省、経済産業省)

(教育の情報化の推進)
・すべての小・中学校において児童生徒1人1台の情報端末によるデジタル教科書・教材の活用を始めとする教育の情報化の本格展開が急務であり、実証研究などの状況を踏まえつつ、デジタル教科書・教材の位置付け及びこれらに関連する教科書検定制度などの在り方と併せて著作権制度上の課題を検討し、必要な措置を講じる。(短期・中期)(文部科学省、総務省)

という項目などは是非進めてもらいたいと思うものだが、政府がどこまで本気なのかは良く分からない。(クールジャパン推進と称して数百億円のバラマキ機関を作るくらいなら、こちらにこそ百億単位の金をかけてしかるべきだと思うのだが。)

 第30〜31ページには、かなりマニアックな話だが、去年と同じく、地理的表示保護制度の導入に関して、

・我が国の高品質な農林水産物・食品の高付加価値化・ブランド力向上に資する地理的表示(GI)の保護制度を導入し、輸出促進を図る。(短期・中期)(農林水産省)

という項目が残されており、恐らく農水省で検討が続けられるのだろう。

 これも去年とほぼ同じだが、第32ページには、海外におけるコンテンツ規制の撤廃に関して、

(コンテンツ規制の撤廃・緩和の働きかけ強化)
・二国間や多国間の官民による協議・交渉において、映画・放送番組・マンガ・アニメといったコンテンツの輸入規制を文化・産業面での大きな参入障壁として捉え、協議・交渉全体の中でコンテンツ規制の緩和・撤廃を優先度の高い課題として取り上げ、ハイレベルでの働きかけを強力に進めていく。(短期)(外務省、経済産業省、総務省)

と書かれている。海外でコンテンツ規制の撤廃を働きかけることが重要なのは無論のこととしても、パブコメなどでも書いている通り、まず日本国内での、それも政府・与党(自民党・公明党)内での児童ポルノや青少年保護を理由としたコンテンツに関するバカげた規制強化の動きを止めるのが先だろう。今後規制強化の動きが本格化するのは参院選後になるのだろうが、表現規制に関する先行きはどうにも不穏である。

 最後に、模倣品対策については、第33〜34ページに、

(正規品の流通拡大と一体となった侵害対策の推進)
・模倣品・海賊版対策を強化するため、官民一体となった働きかけや各国との連携により侵害発生国での模倣品・海賊版の取締りやインターネット上からの削除といったエンフォースメントの一層の強化を図るとともに、侵害対策と一体となった正規コンテンツの流通促進のための取組を支援する。(短期)(外務省、経済産業省、総務省、文部科学省、財務省、農林水産省)
(略)

(ACTAの推進)
・ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)に関し、既署名国を中心とした他国に対して、ハイレベルを含めた働きかけをより積極的に進めることにより、協定の早期発効を目指すとともに、アジアを始めとする諸外国に対し協定への理解・参加を促す。(短期)(外務省、経済産業省、文部科学省、農林水産省、総務省、法務省、財務省)

と書かれている。ネット上の海賊版対策に関する文章が去年並なのは良いとして、ACTAに関しては、既に署名を締め切ったところで、その署名国(豪加欧日韓モ新星米墨)のうち、EUでは議会で既に否決されており、他の国も否定的か興味を失いつつあると見え、わざわざ批准したのは主導国とされる日本だけという状況である。ACTAについて日本は世界に恥を晒しているだけと言って全く差し支えない状況だと思うが、なお未練たらしく推進と書いているあたり、政府内にはどうにもこの条約を諦め切れない人間が結構いるのだろう。

 ざっと見た限り、知財計画は今年も特に代わり映えのしない内容であり、様々な問題が積み重なる中、残念ながら今後も知財政策に関して迷走が続くのは間違いないのだろう。つくづく今後のことが思いやられる。

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2013年6月16日 (日)

第291回:米国通商代表部のTPP日本参加パブコメに提出されたアメリカの著作権ロビー団体である国際知的財産協会(IIPA)の意見書

 自民・公明・維新の三党から国会に単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案が提出され、6月14日には都議会選挙の告示があり、来月には参議院選挙が控えているなど、気になることは山のようにあるのだが、この6月9日までアメリカ通商代表部が募集していたパブコメに提出されている意見の中に知的財産に関するものもあり、TPP交渉におけるアメリカの知的財産に関するスタンスを知る上で非常に参考になる資料だと思うので、ここで取り上げておきたいと思う。

 このアメリカ通商代表部のTPP協定交渉への日本の参加における交渉ターゲットに関する意見募集(募集ページ参照)は既に締め切られているが、特に秘密とされない限り提出意見は提出意見公開ページで見ることができる。(それで日本政府としてどうしようとしているのかは分からないが、外務省が一応このパブコメ結果について概要(pdf)を作っている。知的財産関係ではないが、アジア太平洋資料センターの内田聖子氏(twitter)がアメリカ企業のすさまじい要求についてブログ記事を書かれているので、関心のある方は是非リンク先をお読みいた開ければと思う。)

 現時点で提出意見は90件中86件が公開されているが、知的財産関係ということでは、特に国際知的財産協会(IIPA)から提出されている意見(提出意見公開ページ参照)が非常に参考になる。この国際知的財産協会は、その名前に国際がついているが、その概要を読めば分かる通り、別に各国から代表が集まっているような団体ではなく、要するにアメリカ映画協会(MPAA)や全米レコード協会(RIAA)などアメリカの主立った著作権ロビー団体が集まって作られたアメリカの対外交渉向け著作権ロビー団体である。

 このアメリカの著作権ロビー団体である国際知的財産協会が出した意見書で日本政府に対して要求するべき項目としてあげられているのは以下の7点である。

  • Extension of terms of copyright protection for all works, including sound recordings, to comply with evolving global norms. Although more than 80 countries around the world, including a majority of TPP partners, have extended terms beyond the minimum levels set by the Berne Convention and/or the TRIPS Agreement, Japan has done so only for one category of work – films.
  • More effective, predictable and deterrent remedies for infringement, including pre-set statutory damages. Damage awards for copyright infringement in Japan often fall well short of deterrent or even fully compensatory levels. Making statutory damages available could help address this problem, and also facilitate settlements by making defendants’ financial exposure more certain.
  • Further strengthening of legal protections for the use of technological protection measures. Although Japan provides some protection against circumvention of technological measures copyright owners use to manage access to or copying of their works, gaps remain to be filled. These include: providing civil remedies under the Copyright Act for trafficking in technologies to circumvent copy controls (currently the law provides only a criminal offense under Art. 120bis); outlawing the act of circumvention of access controls (covered primarily by the Unfair Competition Prevention Act); providing criminal remedies that meet global standards (for example, Art. 120bis improperly requires proof that a trafficker in circumvention devices intended to infringe copyright); and ensuring coverage of unauthorized distribution of product keys.
  • Reform of Japan’s private copying exception, to exclude from the exception the downloading of all types of copyright works from known infringing sources. Currently, only audio and video recordings so downloaded are excluded from the exception (Art. 30(1)(iii)), implying that other works such as software can be downloaded from such sources with impunity.
  • Elimination of costly and burdensome requirements for formal legal complaints from right holders before criminal copyright cases can be prosecuted.
  • Bringing enforcement procedures and remedies up to global minimum standards. Needed changes include: authorizing the seizure and destruction of all equipment and instrumentalities used to commit infringements; explicitly outlawing the creation of or trafficking in counterfeit labels, certificate of authenticity, or software documentation; and clarifying judicial powers to enforce orders and punish violators.
  • More effective enforcement tools against online copyright infringements, including improvements to the notice-and-takedown process.
  • 国際基準の進展に合わせ、録音含め全ての著作物に対する著作権保護期間の延長。多数のTPP参加国も含め80カ国以上でベルヌ条約の最低水準を超える期間への延長を行っているにもかかわらず、日本は映画という1つのカテゴリーの著作物しか延長していない。
  • 法定賠償制度等、より効果的で予見性が高く抑止力のある救済措置の導入。日本における著作権侵害に対する損害賠償は、抑止力となる水準からあるいは完全に損害を埋め合わせる水準からもかなり低くなることが多い。法的賠償制度を使用可能とすることはこの問題に対処する助けとなり、被告に対して求められる額をより明確とすることで和解を容易にすることにもなるであろう。
  • 技術的保護手段の利用のための法的保護のさらなる強化。日本は、著作権者がその著作物のコピー又はアクセスを管理するために使う技術的保護手段の回避に対して保護を行っているが、埋めるべきギャップはまだ存在している。それは次のことを含む:コピーコントロールを回避する技術の取引に対して著作権法において民事救済を規定すること(現在、日本の著作権法は第120条の2で刑事罰のみを定めている);アクセスコントロールの回避行為の違法化(主として不正競争防止法によってしかカバーされていない);世界基準に合わせた刑事救済を規定すること(例えば、第120条の2は、回避装置の取引者が著作権を侵害する目的を持っていたことの証明を不適正なことに求めている);そして、プロダクトキーの不正頒布のカバーまでを確かに行うこと。
  • 日本の私的複製の例外を改正し、著作権侵害ソースからそうと知ってダウンロードすることの私的複製の例外からの除外を全てのタイプの著作物に拡大すること。現在、録音録画物のダウンロードのみがこの例外から除外されており(第30条第1項第3号)、ソフトウエア等の他の著作物のそのようなダウンロードは罰されずに行えると考えられる。
  • 著作権刑事事件の訴追までに権利者に求められる、正式な告訴のための、費用と手間のかかる要件の排除。
  • エンフォースメント手続きと救済措置をグローバルなミニマムスタンダードに合わせること。次の改正が必要である:著作権侵害を行うために使われた全ての設備と手段の没収と廃棄を可能とすること;ラベル、真贋評価書又はソフトウェアドキュメントの偽造品の製造又は取引の明確な違法化;命令を執行し、著作権侵害者を罰する司法権限の明確化。
  • ノーティスアンドテイクダウン手続きに関する改善等、オンライン著作権侵害に対するより効果的なエンフォースメントツールの整備。

 アメリカの著作権ロビー団体がかなり良く日本の著作権法を勉強していることが分かるが、この意見書を読んだだけでも、アメリカ政府とその背後にいる著作権ロビー団体が、TPP交渉あるいは並行協議で日本に対して、主として、

  • 著作権保護期間の延長
  • 法制賠償制度の導入
  • 技術的保護手段(DRM)回避規制の強化
  • ダウンロード違法化・犯罪化の全著作物への拡大
  • 刑事告訴手続きの簡素化(明確には言及していないが非親告罪化を含むだろう)
  • 各種エンフォースメント手続きの強化
  • プロバイダー責任制限法の著作権者よりの変更(明確には言及していないが米国型のノーティスアンドテイクダウン制度の導入やストライクポリシーの強制などを含むだろう)

を中心にかなりハードな著作権法改正要求を強硬に突きつけて来る(あるいは来ている?)のは間違いないと知れるのである。2011年時点のアメリカ提案TPP条文は、骨董通り法律事務所のコラムに抄訳が掲載されているが、その線は外れておらず、上の意見からもこのような知財に関する要求でアメリカが既に折れ何かしらの譲歩をしている可能性は低いと見て良いのではないかと思う。

 対して日本政府はと言えば、知財本部で検討され、6月7日に決定された知的財産政策ビジョン(pdf)で一応「環太平洋パ ートナーシップ(TPP)協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する」とは書いているが、これはほとんど何も言っていないに等しく、海賊版対策条約(ACTA)の検討で見せたどうしようもない戦略性・交渉力の欠如のことを考えても、政府内できちんとした交渉戦略などほとんど作られていないのではないかという懸念がどうにも拭えない。今からでも遅くはないのでTPP交渉から日本は速やかに脱退した方が良いと私は思っているが、日本の置かれた状況を考えるにつけ今後のことが非常に思いやられる。

 最後に、大体twitterでメモしていることではあるのだが、合わせてここでも少し他の海外動向について紹介しておくと、イギリスでは、知的財産法の改正案が国会に提出されたり、著作権法における私的複製、パロディ、引用、行政利用に関する著作権の例外規定に関するテクニカル・レビューが行われたりしている(それぞれイギリス知的財産庁のリリース1参照)。また、フランスでは、numeramaの記事(フランス語)に書かれている通り、ネット切断を止める方向でストライク法の改正検討が開始されているが、実際にどうなるかはまだ良く分からない。今後、また折を見て英仏のこのような動きなども紹介して行きたいと思っている。

(2013年6月17日夜の追記:1カ所分かりにくかった翻訳を訂正し(「の提供」→「を規定すること」)、意見書の項目に合わせ下の箇条書きに1項目(「・各種エンフォースメント手続きの強化」)を追加した。

 また、時事通信の記事毎日新聞の記事にもなっているが、今日TPP交渉に関して業界団体向け説明会が開催された。これだけでもやらないよりはましだが、これほど重要な問題であるにもかかわらず、日本政府はTPP交渉について本当の意味で一般向けの説明会や意見募集をするつもりはないようである。全くもって国民をバカにしているとしか言いようがない。)

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