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2013年5月19日 (日)

第290回:インターネット・ホットラインセンターの権限強化を図りTorブロッキングを推奨する警察庁・総合セキュリティ対策会議の報告書

 既にガジェット通信の記事で84oca氏(twitter)が書かれているように匿名の検討会で匿名化技術がけしからんと言っている時点で噴飯ものなのだが、警察庁の昨年度の総合セキュリティ対策会議が取りまとめた2つの報告書がこの5月7日にようやく公開された。(internet watchの記事も参照。)

 無論前々回 前回と取り上げた児童ポルノ排除総合対策案の方が大問題だが、この総合セキュリティ対策会議の報告書の方もかなりの問題を含んでいる上にパブコメすら取っていないというあまりにもあまりなものなので、ここで突っ込んでおきたいと思う。(なお、この報告書については公表されたときにtwitterでもコメントを書いた。)

(1)「官民が連携した違法・有害情報対策の更なる推進について」
 1つ目の報告書は、主にインターネット・ホットラインセンターに関する話を扱っている、官民が連携した違法・有害情報対策の更なる推進について(pdf)資料編(pdf))というものである。

 まず、その「第1章 インターネット上の広告業界との連携の在り方及び自主的取組の促進について」では、

1 インターネット・ホットラインセンターからインターネット上の広告業界に対する悪質サイトの情報提供
 インターネット・ホットラインセンターは、警察庁の業務委託のもと、インターネット上における違法・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼を行っているところ、インターネット上の違法・有害情報対策を更に推進するためには、広告料収入を目的とした悪質サイトの減少を期して、インターネット・ホットラインセンターが、削除依頼に応じず違法・有害情報を放置する悪質サイトの情報をインターネット上の広告業界に対して提供することが望ましい。
 この点に関しては、現在、インターネット・ホットラインセンターにおいては、フィルタリング事業者や児童ポルノブロッキング団体に対しても情報提供を行っているところ、インターネット上の広告業界に対しても、同種の情報提供を行うことが考えられる。

2 インターネット上の広告業界における悪質サイトへの広告配信停止等の措置
 インターネット上の広告業界においては、第2で述べたとおり、広告事業者各社が禁止事項を定めた契約約款や規約等を策定しており、違法・有害情報掲載サイトへの広告掲載を発見した場合には、当該契約約款や規約等に基づき、広告配信の停止、広告料の支払差止め、広告料の没収等の措置が採られている状況にあるところ、同業界はインターネット・ホットラインセンターから上記1 の情報提供を受け、広告事業者各社の契約約款や規約等に基づいて、自主的に悪質サイトへの広告配信停止等の措置を速やかに採ることが望ましい。

3 違法・有害情報に係る官民の情報交換
 インターネット上の広告業界の広告事業者各社においては、それぞれの運営基準等に基づいて、クローリングを用いた自動チェックの実施など、継続的に広告掲載サイトのコンテンツチェックを行っている。しかしながら、こうしたコンテンツチェック活動をすり抜けてしまう新たな用語、隠語等の出現が見られるため、違法・有害情報に係る官民の情報交換を行うことにより、新たな用語、隠語等を使用する悪質サイトの早期排除を促進することが望ましい。

という提言を出し、「第2章 匿名サイトにおける自主的管理強化の促進について」では、

1 電気通信事業関連4団体によるガイドライン及び契約約款モデル条項の普及促進のための啓発活動
 電気通信事業関連4団体においては、電子掲示板の管理者等が自ら違法性を判断して行う送信防止措置等の対応や、警察、インターネット・ホットラインセンター等の第三者機関からの送信防止措置依頼の対応手続等が定められたガイドラインを策定し、また、違法・有害情報に関する禁止事項や、当該情報等の削除等に関する規定、第三者からの連絡受付体制の整備に関する規定等が定められた契約約款モデル条項を策定するなど、インターネット上の違法・有害情報対策に努めているところである。
 しかしながら、前述のとおり、ガイドライン及び契約約款モデル条項のいずれも浸透していない状況がうかがえたことから、電気通信事業関連4団体が、電子掲示板管理者等に対して、ガイドライン及び契約約款モデル条項の普及促進のための啓発活動を強化することが望まれる。

2 ガイドラインの普及促進のための方策
 電気通信事業関連4団体においては、上記1に加え、ガイドラインの普及促進に資するため、必要に応じて契約約款モデル条項の改訂を行うことが望ましい。この場合において、例えば、ガイドラインに留意して対応することに関する規定を契約約款モデル条項に追加することが考えられる。

という提言を出しているが、この提言部分だけを読んでも分かるように、この報告書は、要するに、インターネット・ホットラインセンターの言う通り削除を行わないサイトから広告を締め出すことと、匿名サイト(と警察庁が称するサイト)に対する締めつけを厳しくすることを警察庁が関係業界に求めるというものであり、そのようにしてインターネット・ホットラインセンターの権限強化を図ろうとするものである。

 民間での自主ガイドラインの普及促進や各種の自主的な措置は進めてしかるべきだろうし、そのこと自体をどうこう言うつもりは全くないが、ここで、 いくらインターネット・ホットラインセンターが警察庁の予算で運営されており、実質的に警察の完全な下部機関として機能しているとは言え、民間団体による民間の自主規制として削除要請を行うという形を取っている以上、その削除要請に従わないからと言って必ずしも問題はないということを完全に失念しているのは非常に問題が大きい。この時点で、警察庁によって上のような権限強化のごり押しが行われるとしたら完全にアウトだろう。

 このような権限強化の根拠として平成24年8月6日から9月5日までの1ヶ月間の調査で、インターネット・ホットラインセンターからの削除依頼にサイト管理者が応じない違法・有害情報数が224件、インターネット・ホットラインセンターからこの違法・有害情報を受理後に警察庁において未だ削除されていないことが確認できた違法・有害情報数が95件、うち広告が確認できたものが44件(46.3%)、うち匿名サイトのものが63件(66.3%)があったという件数をあげているのだが、ここでも「違法情報」と「有害情報」をごっちゃにしている時点で論外である。さらに言えば、そもそも民間団体という建てつけのインターネット・ホットラインセンターに情報の違法性を判断する権限はないのであるから、警察庁としては本来ならばインターネット・ホットラインセンターからの要請のうちどれだけが本当に法律で規制されている違法情報に該当するのかといった妥当性の検証から行わなければならないはずであるが、そのような検証を行った気配は全くない。(警察庁が出している平成24年中の「インターネット・ホットラインセンター」の運用状況等について(pdf)でも、このような検証が行われた様子はない。ただし、この運用状況も含めて考えると、インターネット・ホットラインセンターの要請でも削除されない「違法・有害情報」のうち「違法情報」がおよそ6割、「有害情報」がおよそ4割程度ではないかとの推計はできる。)

 その上、この報告書の「匿名サイトとは、匿名で自由に書き込みや画像の投稿を行うことが可能な電子掲示板を運営しているサイトのことであり、国内のインターネット上の電子掲示板のほとんどは、匿名サイトと位置付けられるものである」という匿名サイトの定義もどうかと思うものである。これならほとんどあらゆるサイトが匿名サイトになってしまうに違いない。

 印象操作ということでは、検挙にまで至った最悪のケースである13件だけを取り上げてあたかも多くのサイト管理者が莫大な広告料を受け取っているかのような印象を与えようとしている点も問題だろう。

 さらに、将来的に民間に資金を出させた上で天下り先にでもしようとしているのか、「第3章 インターネット・ホットラインセンターの民間費用負担の在り方について」で、今現在税金で運営されているインターネット・ホットラインセンターへの民間から費用負担を警察庁が求めているのだが、このような明らかな警察業務のアウトソース機関に資金を出すことに対してはさすがに反発が強かったと見え、この点に関しては「インターネット・ホットラインセンターの民間費用負担の在り方については、国民の利便やインターネットの環境浄化の必要性にかんがみ、国民がインターネットを安全に安心して利活用できるよう、そのニーズを模索しつつ、引き続き検討を重ねるべきである」と継続検討ということになっている。

(2)「サイバー犯罪捜査の課題と対策について」
 2つ目の報告書は、サイバー犯罪捜査の課題と対策について(pdf)資料編(pdf))というものである。こちらの報告書は遠隔操作ウィルスによる冤罪事件に対応するものだが、これほど騒ぎになっているにもかかわらずその内容は非常に薄っぺらである。

 まず、Torなどの匿名化技術を扱っている、「第1章 高度匿名化技術の悪用への対策について」であげられている対策は、

(1) 高度匿名化技術に関する調査・研究の推進
 サイバー犯罪捜査においては、被害に係るコンピュータ端末等から得られる通信に係る記録を基に発信先を事後的に追跡することとなるが、高度匿名化技術はこの事後追跡を困難にするという点において極めて大きな障害となっている。Torについては、既に我が国においても犯罪に悪用されており悪用への対策の必要性が認められるものの、Torはあくまでも匿名化技術の一例であり、他にも多く匿名化技術の研究がなされ、また、ツール化されてきている。
 今後も、情報通信技術の発達に伴い、様々な高度匿名化技術が研究・開発され、ツール化されることが予想されることから、警察において、海外も含めて高度匿名化技術がサイバー犯罪に用いられた事例やそれへの対応策について情報収集に努めるとともに、最新の高度匿名化技術に係る研究、開発、実用化等の動向について調査・研究を推進していくことが求められる。

(2) Torからのアクセスを制限することについて
 Torが本事件を始め、国内外において犯罪に悪用されている状況に鑑みると、Torの犯罪への悪用を防ぐという観点からの対策が求められる。
 Torを用いて行われる通信を、例えば、下記の手法により技術的に制限することが可能であることから、Torによる通信により被害を受けるおそれのあるサイト等当該サイトの特性に応じ、サイト管理者等の判断によりTor を用いた通信を遮断することとすれば、犯罪抑止の観点から一定の効果があると考えられる。

というものであり、さすがにTorブロッキングを大々的に強要するのは無理があったと見え、「Torの犯罪への悪用を防ぐという観点からの対策が求められる(中略)サイト管理者等の判断によりTorを用いた通信を遮断することとすれば、犯罪抑止の観点から一定の効果があると考えられる」と思ったよりおとなしめの書き方になっているが、実際のところは、第3回検討会の発言要旨(pdf)で、

「高度匿名化技術の悪用への対策」の1つとして挙げられている「Torからのアクセスを制限することについて」については、民間でできることの1つとして、実現の可能性を探っていきたいと思っています。
 Torはそもそも表現の自由等の保護のために開発されたものだと思いますが、我が国において、Torを積極的に認めなければならない環境にはないのではないかと思っています。悪用のリスクがあるのであれば、サイバー空間の安全を保つためにこの対策が可能であるならやりたいと個人的には思っていますし、報告書に記載できるのであれば、ぜひ記載していただきたいと思っています。

と、誰だか知らないが、日本国民に表現の自由や通信の秘密など要らないと断言しているのが今の警察関係者の嘘偽らざる本心ではないかと私は疑っている。(これも、そこまで状況が悪くなっていることを示しているに過ぎないが、この発言の後で、さすがにまずいと思ったのか、あの前田雅英首都大学東京教授が委員長として「国でTorを禁止することを報告書に記載することはあり得ません。対策として挙げられているの は、サイト管理者の判断で制限をするということの働き掛けです」と押さえているのには少し驚いた。)

 インターネットの自由にとって極めて重大な意味を持つことなので、警察庁が働きかけを行ったところで、おいそれと従うサイト管理者はそうはいないと思うが、匿名化技術Torこそ諸悪の根源とばかりに上のように報告書に書いたのをいいことに警察庁がTorブロッキングの押しつけをして来ないかどうか十分に注意しておく必要があるだろう。

 また、「第2章 コンピュータ・ウイルス対策について」では、「1 民間事業者等の知見の活用」、「2 諸外国の捜査機関等との連携」、「3 最新の情報通信技術に係る調査研究」、「4 相談窓口の充実」、「5 部門間の連携」、「6 サイバー犯罪情勢に応じた捜査の推進」という項目があげられているが、これらはごく当たり前のことを書いているだけで、項目名で十分なほど具体的な中身がない。

 この報告書の「おわりに」で「なお、こうした対策を警察において主体的に講じていくためには人員、資機材及び予算を含めた警察のリソースの充実が不可欠であることを最後に付言する」としたり顔になお書きを書いているのだが、これこそ本来この検討会で検討し、大いに敷衍すべき点であるにもかかわらず、この一文だけで済ませているあたりがこの報告書の性質の全てを物語っている。

 あれだけの冤罪事件を起こしておきながら、自分たちの捜査手法の見直しや人・機材のリソースの拡充に関する具体的な言及がなく、Torのような価値中立的な技術に責任を転嫁するだけで後は調査研究などでその場をごまかそうとする、このような報告書を出して来るようでは、残念ながら、このような体たらくでは、警察の無茶なサイバー犯罪捜査で冤罪事件は起こり続けるだろうし、日本の警察はインターネット利用者に対する最大のセキュリティホールであり続けることだろう。今後も警察庁の動向に気をつけておくに如くはない。

(なお、最近、internet watchの記事にある通り、警察庁警備局が「サイバー攻撃分析センター」を設置するとの報道があった。上の報告書を作った生活安全局よりはあてになりそうな気もするが、ここで警備局が単に「サイバー犯罪」ではなく「サイバー攻撃」に対応するとしているあたりに役所の強い縦割り意識を感じる。通常のサイバー犯罪については今まで通り生活安全局が担当するのだろうし、報告書でいくら連携について書いたところで、どうにも縦割りのまま事が進められるのではないかという疑念は拭えない。)

(2013年5月20日夜の追記:1カ所誤記を直し、文章を少しだけ整えた。)

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2013年5月 7日 (火)

第289回:内閣府・「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対する提出パブコメ

 前回取り上げた内閣府の「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)(pdf)に対してパブコメを書いて提出した。2010年当時の前回の提出パブコメと比べても大きな違いがある訳ではないが、念のため、ここに載せておく。このパブコメは明日5月8日までともう〆切まで間がないが(内閣府の意見募集ページ参照)、とても重要な内容を含んでおり、このような情報規制問題について関心のある方でまだ出していない方がいれば今からでも是非提出を検討頂ければと思う。(なお、前回同様かなり長くなったので私は意見を分割して提出した。)

(以下、提出パブコメ。)

(1)「1① 協議会の開催」(第1ページ)について
 ここに記載されている協議会とは「児童ポルノ排除対策推進協議会」を指すものと思われる。この児童ポルノ排除対策推進協議会の規約等を見ると、その役員及び参加団体は各省庁及びその傘下団体に明らかに偏っている。しかし、児童ポルノ対策が国民の基本的な権利である表現の自由や通信の秘密等にも関わる非常に重大な問題であることから、表現の自由に関する問題に詳しい情報法・憲法の専門家、児童ポルノ法の実務に携わりその本当の問題点を熟知している法律家、規制強化に慎重あるいは反対の意見を有する弁護士・団体等も多く含む形に再編し、児童ポルノ規制問題について、様々な意見があることを広めるとともに多様な意見の取り入れを図るとここに明記するべきである。

(2)「1②  国民運動の効果的な推進」(第1ページ)について
 ここに記載されているシンポジウムとは「児童ポルノ排除対策公開シンポジウム」を指すものと思われる。公開されているその概要を見ると、警察官僚や日本ユニセフ協会など規制強化を主導又は主張する当局及び団体のみでほぼ登壇者を固めているなど、明らかに構成に偏りが見られる。しかし、上で書いたことと同じく、児童ポルノ対策が国民の基本的な権利である表現の自由や通信の秘密等にも関わる非常に重大な問題であることから、表現の自由に関する問題に詳しい情報法・憲法の専門家、児童ポルノ法の実務に携わりその本当の問題点を熟知している法律家、規制強化に慎重あるいは反対の意見を有する弁護士・団体等もシンポジウムに呼び、児童ポルノ規制問題について、様々な意見があることを広めるとともに多様な意見の取り入れを図るとここに明記するべきである。

(3)「1⑥ 『女性に対する暴力をなくす運動』における取組」(第1〜2ページ)について
 児童問題と女性問題を混同するべきではなく、この項目は削除するべきである。

(4)「1⑧ 国際的取組への参画」(第2ページ)」について
 この項目において、「児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定し、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかける。」との記載を追加してもらいたい。

(5)「2(1)① 青少年インターネット環境整備法に基づく総合的な被害防止対策の推進」(第2ページ)について
 この項目において言及されている青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものであるが、この項目に記載されている調査研究その他の対策の推進においては、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言」の内容も踏まえ、不当な規制強化とならないよう謙抑的な形で進めてもらいたい。
 なお、出会い系サイト規制法の改正も、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

(6)「官民の情報共有、ポータルサイトによる情報提供の推進」について
 前回の総合対策にあった「2(1)③ 官民の情報共有、ポータルサイトによる情報提供の推進」という項目が削除されているが、このようなネットを利用した政府の情報提供は重要である。第2次対策素案では、この項目を復活させるとともに、例えば非常に重要なことを検討しているにもかかわらず今現在極めてお粗末な形でしか情報公開がなされていない児童ポルノ対策関連の各種会議の議事についてその詳細を即時公開するなど情報公開の充実を図ると記載してもらいたい。

(7)「3① 違法情報の排除に向けた取組の推進」(第4ページ)について
 この項目でインターネット・ホットラインセンターについて言及されているが、サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除やブロッキングが行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除などを要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきであり、この項目においては、インターネット・ホットラインセンターの廃止を検討すると明記するべきである。

(8)「3 インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の推進」中のブロッキング関連項目(②、④、⑤)(第4〜6ページ)について
 既に、警察などが提供するサイト情報に基づき統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいてブロッキングが行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。ファイル共有に対するブロッキングについても同様である。
 これらの項目については全て削除し、代わりにリスト作成・管理団体であるインターネットコンテンツセーフティ協会を即刻解散し、ブロッキングを止めるとここでは明記するべきである。
 なお、その透明性について管理団体のHPには統計情報すら掲載されていないという惨憺たる状況でブロッキングが有効だの成果だのと主張されても全くお話にならない。現状で本素案のようにブロッキングそのものを目的として全面的に推進することは、緊急避難として違法性阻却が認められる限界を超えているとしか言いようがない。このようなブロッキングを主導している警察官僚及びこれに加担している者には電気通信事業法第179条の通信の秘密侵害罪の適用が検討されて良いくらいである。
 またなお、ブロッキングに関する広報・啓発を行う必要があるとすれば、現時点では権力側によるその濫用の防止が不可能であり表現の自由や通信の秘密といった憲法に規定された国民の基本的な権利に照らして問題のない運用を行うことが不可能であるという問題の周知にのみ努めるべきである。

(9)「5② 悪質な関連事業者に対する責任追及の強化」(第8ページ)について
 この項目において、サイト管理者、サーバー管理者といった直接的な提供者ではない関連事業者に対する刑事責任等について書かれているが、インターネットにおいて例えば単なるリンク行為まで幇助罪を適用することなどは極めて大きな問題を含む。この項目において、幇助罪のインターネットにおける適用に問題があることを明確に認め、警察はインターネットの利用を萎縮させないような法運用に努めると明記してもらいたい。

(10)「6③ 児童ポルノに関わる規制についての検討に資するための調査 」(第9ページ)について
 ここでG8について言及されているが、児童ポルノはG8のみの問題ではなく、「G8を中心とした」という記載を削除するべきである。
 特に、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。欧米においても情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識が高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じており、アメリカにおいても2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2011年6月に連邦最高裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されており、ドイツでも児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、最終的に完全に廃止されている(http://www.zdnet.de/news/41558455/bundestag-hebt-zensursula-gesetz-endgueltig-auf.htm参照)。スイスの2009年の調査でも、児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されている(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない。2012年6月にスウェーデンで漫画は児童ポルノではないとする最高裁判決が出されたことも注目されるべきである(http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8111654_po_02550012.pdf?contentNo=1参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

(11)児童ポルノ排除対策ワーキングチームと本意見募集について
 本対策案を作った児童ポルノ排除対策ワーキングチームは議事録の公開が不十分であり、どのような議論からこのような総合対策の改定に至ったのか全く分からない。その下のワーキンググループに至っては議事概要すら公開していない。今回の対策案に対するパブコメの期間も実質10日程度とあまりにも短い上大型連休と完全に重なる形で募集されるなど、到底国民の意見を聞く気があるとは思えない形で行われている。このワーキングチームあるいはグループは議事録、議事の進め方、対策のとりまとめ方等あらゆる点で不透明であり、このような問題だらけのワーキングチームで表現の自由を含む国民の基本的権利に関わる重大な検討が進められることなど論外である。実際今回の意見募集の対象となっている第2次対策素案にも、ブロッキングを中心として有害無益かつ危険な規制強化の項目が含まれており、このような検討しかなし得ない出来レースの密室政策談合ワーキングチーム・ワーキンググループは即刻解散するべきである。
 このワーキングチームは即刻解散するべきであるが、さらに今後児童ポルノ規制について何かしらの検討を行うのであれば、その検討会は下位グループまで含めて全て開催の度数日以内に速やかに議事録を公表する、一方的かつ身勝手に危険な規制強化を求める自称良識派団体代表だけで無く、表現の自由に関する問題に詳しい情報法・憲法の専門家、児童ポルノ法の実務に携わりその本当の問題点を熟知している法律家、規制強化に慎重あるいは反対の意見を有する弁護士・団体等も呼ぶ、危険な規制強化の結論ありきで報告書をまとめる前にきちんとパブコメを少なくとも1月程度の募集期間を設けて取るなど、児童ポルノ規制の本当の問題点を把握した上で検討が進められるようにするべきである。

(12)児童ポルノの単純所持・取得規制等について
 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては例え児童ポルノにせよ情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害する。意図に関する限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も何ら危険性を減らすものではない。例えそれが児童ポルノであろうと情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
 自民党及び公明党から、また危険極まりない単純所持規制を含む児童ポルノの改正法案が国会に提出されようとしているが、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。今後児童ポルノ法の改正を検討するのであれば、与野党の間で修正協議と称して密室協議に入ることなく、きちんと公開される国会の場で、現行法の問題点についても含め、徹底的な議論をするべきである。

(13)児童ポルノを理由とした創作物規制について
 さらに言えば、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。
 なお、実写と見紛うCGの規制については、確かに実在の児童が絡む事件の捜査の妨げになる可能性があるが、今の所捜査の妨げになっているとの事実はなく、その規制の検討も時期尚早である。

(14)その他報告書全体について
 最後に書いておくが、私が言いたいのは、民間の自主的な取り組みといった言葉で上辺を取り繕い、国民の情報の自由に関する基本的権利に対して重大な侵害を行ってでも利権を作ろうとすることは今後一切止めろということである。この点について私は誤解などしていないし、今後の検討の参考にするなどといった役人の遁辞などそれこそ全く求めていない。児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。
 特に、児童ポルノ規制問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、サイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。
 現行以上に規制を強化するべきとするに足る明確かつ具体的な根拠は何1つ示されておらず、児童ポルノ規制法に関して検討すべきことがあるとしたら、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化、上で書いた通り、危険な規制強化を止める逆規制、リスクを考慮した幇助罪の適用の謙抑的運用、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制の排除の国際的な働きかけのみである。
 今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、情報に関する各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、教育・啓発等に関する地道な施策のみに注力する検討が進められることを期待する。

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