第288回:内閣府・「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対するパブコメ募集(5月8日〆切)
みんなの党の山田太郎議員(twitter)が非常にありがたいことにそのブログで反対の立場を表明して下さっているが、自民党の高市早苗政調会長が単純所持規制を含む児童ポルノ規制改正法を自ら説明して回っている。このような動きも大いに注意すべきなのは無論のことだが、直接の関係はないものの、内閣府からも「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対するパブコメが5月8日〆切でかかったので、ここで取り上げておきたい。(内閣府の募集ページ、電子政府の募集ページ参照。)
この「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)(pdf)(概要(pdf))について、意見募集要項(pdf)には、児童ポルノ排除総合対策ワーキンググループで平成22年の総合対策(pdf)を改定して新たに第2次素案を取りまとめたと書いている。大体内閣府の児童ポルノ排除総合対策のHPを見ても議事詳細は全く公開されておらず、どのような議論からこのような改定案に至ったのかというのがさっぱり分からないところからして人をバカにしているとしか思えないが、このパブコメも重要なものには違いないので、変更点に気をつけつつ、ざっとこの素案を見て行きたいと思う。(前回の児童ポルノ排除総合対策については第228回参照。その際の提出パブコメは第229回に載せた。)
まず、「1 児童ポルノの排除に向けた国民運動の推進」で、第1ページに、
① 協議会の開催
児童ポルノの排除に向けた国民運動を官民一体となって推進するため、関係府省庁、教育関係団体、医療関係団体、事業者団体、NPO等で構成する協議会を開催し、国民運動の推進方策について協議するとともに、相互の情報を交換して連携・協力を推進する。(内閣府)
と書かれている。児童ポルノ排除対策推進協議会の開催自体を中止しろというつもりもないが、その第3回(平成24年11月)の議事概要を読めば分かるように、そこでECPAT/ストップ子ども買春の会のような団体が単純所持規制の導入を求めているなど、このような場が要注意であるのは間違いないだろう。
その次の、
② 国民運動の効果的な推進
児童ポルノを排除するため、国民の理解を深めるための公開シンポジウムを開催するなどして国民運動の効果的な推進を図る。また、地方公共団体やNGO等関係団体が主催する児童ポルノ排除に向けた取組を積極的に支援する。
さらに、法務省の人権擁護機関において、「子どもの人権を守ろう」を啓発活動の年間強調事項の一つとして掲げ、1 年を通して全国各地で、児童ポルノ問題を含む子どもの人権問題について、啓発冊子の配布等の啓発活動を実施する。(内閣府、警察庁、法務省等)
という項目は以前かなり簡単に書かれていたもので多少文章を増やしているが、ここで書かれているシンポジウムも、その概要(第1回、第2回、第3回)だけからでもすぐ分かるように、明らかに偏った人選がなされているという非道さである。
また、「⑥ 「女性に対する暴力をなくす運動」における取組」という、児童の問題と女性の問題を混同している項目も残されたままとなっている。
それに対し、第2ページの、
⑧ 国際的取組への参画
我が国が2005年に締結した「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」の規定に基づき、児童の権利委員会に提出した政府報告に対する同委員会の最終見解の趣旨を踏まえ、同選択議定書の実施の確保に努める。(外務省、警察庁)
という項目は大分短くなり、リオ宣言に対する言及がなくなった。修正の経緯は不明だが、多少状況が変わったので文章を変えたのだろうか。(なお、国連児童の権利委員会からの最終見解などは外務省の児童の権利条約のHPに掲載されている。)
第2ページからの「2 被害防止対策の推進」の「(1) 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備」で、分かりにくいのだが、その「① 青少年インターネット環境整備法に基づく総合的な被害防止対策の推進」という項目では、その記載の中の「フィルタリング」の部分が「スマートフォンの無線LAN回線に係るフィルタリング等を含めたフィルタリング」とされ、スマホの無線LAN回線フィルタリングの話が明記された。同じく、「③ フィルタリングの普及促進等のための施策」でも、「フィルタリングの普及促進のため、関係団体等と連携し、携帯電話事業者・販売代理店等に対し、スマートフォンの無線LAN回線に係るフィルタリングやアプリの起動等を制限する機能制限アプリ等の情報を保護者に説明する取組を支援する。」という文章が追加されるなどしている。「(2) 情報モラル等の普及の促進」の「① インターネットの危険性及び適切な利用に関する広報・啓発活動」でも同様の記載が追加されている。児童ポルノ対策としては本筋ではないが、これは総務省が最近の取り組みの記載を追加したのだろう。(なお、このような修正は、総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会の提言(第258回参照)などを踏まえたものだろう。)
また、ここから、前にはあった「官民の情報共有、ポータルサイトによる情報提供の推進」という項目が消えている。削除の理由は不明だが、このような大した利権にならない地道な取り組みには政府はあまり乗り気でないということだろうか。
さらに、第4ページからの「3 インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の推進」で、
① 違法情報の排除に向けた取組の推進
サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンターに寄せられた通報を通じ、児童ポルノに係る違法情報の把握に努め、取締りを推進するとともに、サイト管理者等に対し、警察及びインターネット・ホットラインセンターから削除依頼等を実施する。また、インターネットを利用した児童ポルノ事犯の被疑者を検挙した場合等に、当該違法情報が掲載された掲示板のサイト管理者等に対し、当該違法情報の削除の要請及び同種事案の再発防止に努めるよう申入れ又は指導を行うほか、非行防止教室や情報セキュリティに関する講習等の場において、インターネット・ホットラインセンターの取組を紹介するなどして、インタ ーネット上からの児童ポルノの削除の更なる促進を図る。(警察庁)
という、半官検閲センターであるインターネット・ホットラインセンターに関する項目もそのまま残されている。
そして、前回の総合対策が児童ポルノ自主規制ブロッキング導入の契機になったことを考えても当然のことだが(その経緯は児童ポルノアドレスリスト作成・管理団体であるインターネットコンテンツセーフティ協会のHPに書かれている通りである)、この素案で最も大きく書き直されたのは、最大の問題点であるブロッキングに関する部分であり、以下のようになっている。
② 事業者団体によるガイドライン等の運用の支援
事業者団体((社)電気通信事業者協会、(社)テレコムサービス協会、(社)日本インターネットプロバイダー協会及び(社)日本ケーブルテレビ連盟)により策定された、削除すべき児童ポルノの判断基準等を含む「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」及び児童ポルノのブロッキングに関する規定等を含む「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」の適切な運用を支援する。(総務省)(中略:③ 違法・有害情報相談センターの運営の支援)
④ ブロッキングの実効性向上に向けた諸対策の推進
インターネット上の児童ポルノについては、児童の権利を著しく侵害するものであり、インターネット・ホットラインセンターが把握した画像について、サイト管理者等への削除要請や警察の捜査・被疑者検挙が行われた場合等でも、実際に画像が削除されるまでの間は画像が放置されるところであり、児童の権利を保護するためには、サーバーの国内外を問わず、画像発見後、速やかに児童ポルノ掲載アドレスリストを作成し、ISP等による閲覧防止措置(ブロッキング)を講ずる必要がある。平成23年4月から、ISP等の関連事業者が自主的にブロッキングを実施しているところであるが、このようなブロッキングについて、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさない運用にも配意しつつ、ISP等の関連事業者がブロッキングを自主的に導入するに当たってその実効性の向上が可能となるよう、下記の対策を講ずる。(警察庁、総務省、内閣府、経済産業省)ⅰ ブロッキングの実効性向上に向けた環境整備
警察庁及びインターネット・ホットラインセンターからの情報提供並びに児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体からのプロバイダ等へのアドレスリストの提供のプロセスがより迅速に行われ、実効性のあるブロッキングを実施できるよう支援する。
また、現在、主として行われているブロッキング方式では、児童ポルノ画像以外のものに対してもブロッキングをしてしまうという問題(オーバーブロッキング)があるためにブロッキングが実施されない場合もある一方で、他の方式では事後的にブロッキングの回避が容易となる等の問題がある等、各ブロッキング方式には一長一短がある中で、ISP等がより実効的にブロッキングを実施できるよう、児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体と連携し、必要な環境整備に向けた取組を行う。ⅱ ISPによる実効性のあるブロッキングの自主的導入の促進
ISPに対し、インターネット上の児童ポルノの流通を防止するためのブロッキングの重要性、有効性等について理解を求め、実効性のあるブロッキングの自主的導入を一層促進する。ⅲ 一般ユーザーに対するブロッキングの趣旨、重要性等についての広報・啓発
インターネットの一般ユーザーに対し、ブロッキングの趣旨、重要性等について幅広く広報・啓発し、理解を求めるとともに、インターネット上の流通・閲覧防止対策に対する国民意識の醸成を図る。⑤ ファイル共有ソフトネットワーク上の流通・閲覧防止対策の推進
ファイル共有ソフト利用の児童ポルノ事犯が急激に増加しているが、ファイル共有ソフトにはブロッキングの効果が及ばないことから、通信の秘密に不当な影響を及ぼさない運用等にも配意しつつ児童の権利を保護するとの観点から、関連事業者と連携して、ファイル共有ソフトネットワーク上の流通・閲覧防止対策を検討し、取組を推進する。(警察庁、総務省)
前の総合対策ではまだ押さえ気味だった記載がこの素案では大きく前のめりになり、自主規制という建前もどこへやら、導入を受けて警察庁が全力をあげてブロッキングの拡大を図っていると知れるのである。通信の秘密や表現の自由、オーバーブロッキングに関する問題なども認識していながら、そのことに関する具体的な検討は何らなく、問答無用でブロッキング実施前提で書いているあたり、日本の警察にとって市民の基本的な権利などどうでも良いのだろう。ブロッキングの問題をここで全て繰り返すことはしないが、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさないようにブロッキングを透明性・公平性・中立性を確保した形で運用することは不可能であり、自主規制と称しようがしまいが、現状でブロッキングはどこをどうやっても検閲にしかなりようがないのである。(なお、児童ポルノ自主規制ブロッキングの運用実態の透明性についてだが、2011年4月の導入後、2011年11月に一度統計情報がわずかに公表されているものの(internet watchの記事1、記事2参照)、その後どうなっているのかは全く不明であり、管理団体であるはずのインターネットコンテンツセーフティ協会のHPには何一つ情報が(一度目の統計情報すら)掲載されていないという惨憺たる状況である。この有様でブロッキングが有効だの成果だのと主張されても全くお話にならないとしか言いようがない。)
ここで、ファイル共有対策として流通を超えて「閲覧」の防止対策が謳われているのは極めて意味深である。詳細は不明だが、同じく警察庁の総合セキュリティ対策会議の方でTorブロッキングの話が出ているということも合わせて考えると(ガジェット通信の記事参照)、警察庁はファイル共有についてもブロッキングの導入を検討をしようとしているのではないだろうか。当然のように警察の目指すところはあらゆる情報を監視・統制下に置く一大ネット検閲国家にあるのだろうが、それが国全体にとって良いこととは私には到底思えない。(なお、これもその後の状況は不明であり、ここの記載とどう絡んでいるのかも分からないが、2012年2月にファイル共有に対して警告メールを送るという取り組みを始めたという報道があった(internet watchの記事3参照)。)
第8ページの「5 児童ポルノ事犯の取締りの強化」で、その「② 悪質な関連事業者に対する責任追及の強化」という項目もそのままであり、幇助罪との関係は注意しておくべきだろう。
最後の第9ページの「6 諸外国との協力体制の構築と国際連携の強化等」には、
③ 児童ポルノに関わる規制についての検討に資するための調査
児童ポルノに関わる規制についての検討に資するよう、引き続き、我が国における児童ポルノ事犯の実態を調査するほか、G8を中心とした諸外国における児童ポルノ関連法規制について在外公館を通じて調査を行ってきているところ、法規制に関する動向等についての調査を継続し、定期的に結果を取りまとめる。(警察庁、外務省、法務省、内閣府)
と書かれているが、このようにG8にこだわり続けている点もやはり要注意である。いつものことだが、このような政府調査で恣意的に国を選択して国際動向を作り上げ、規制強化プロパガンダに使って来る可能性が高いのである。
相変わらず意見募集期間が実質10日程度しかないと国民の意見を聞く気があるとは到底思えないものだが、このパブコメが非常に重大な内容を含んでいることは間違いないので、このような問題に関心のある方には是非提出を検討することを私はお勧めする。
(なお、私も他の問題と合わせてついでに法改正の動きにも触れるつもりではいるが、このパブコメは自民党の児童ポルノ規制法改正の動きとは直接関係ないことを念頭において書いた方が良いと思う。)
(2013年4月28日夜の追記:児童の権利委員会、総務省の研究会、ブロッキングの透明性、警告メールの取り組みについて、それぞれ括弧に入れ4つのなお書きを上の文章中に追加した。)
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