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2012年12月29日 (土)

第284回:2012年の終わりに

 総選挙を経て、この12月26日に第2次安倍内閣が発足した。その閣僚名簿(首相官邸のHP参照)を見るだけで、来年以降どうしようもなく辛い状況が続くのは容易く想像がつくが、今後もやれることをやって行くしかない。

 役所も休みに入り、もうこれで一通り年内のイベントは片づいたと思うので、今年も最後にブログのエントリとして今まであまり取り上げて来られなかった話を中心にまとめておきたいと思う。

 まず、制度ユーザーにしか関係ないのでつい後回しになりがちになっているが、商標法と特許法に関して、特許庁から2つパブコメが募集されている。

 1つ目は2013年1月16日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会の報告書「商標制度の在り方について」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。前回の報告書からかなり時間が経っているが、この今回の報告書案(pdf)に書かれていることは、要するに、特許庁が、やはり動き、ホログラム、輪郭のない色彩、位置、音の商標といった非伝統的商標の保護を導入しようとしているということである。どう考えても今後さらに検討すべき実務的な論点は多いが、第8ページで「石焼き芋の売り声や夜鳴きそばのチャルメラの音のように、商品又は役務の取引に際して普通に用いられている音、単音、効果音、自然音等のありふれている音、 又はクラシック音楽や歌謡曲として認識される音からなる『音』の商標については、原則として自他商品役務の識別力を有しないものとする」と書かれている点は重要である。実際の運用次第だが、このように識別性の要件を厳しく取ることができれば音の商標の導入における混乱は多く避けられるだろう。他にもこの報告書案では、地域団体商標の登録主体の範囲を商工会等まで拡大することなども書かれている。

 2つ目は1月18日〆切で募集されている、産業構造審議会・知的財産政策部会・特許制度小委員会の報告書「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて」(案)に対する意見募集(電子政府のHP参照)である。こちらもマニアックな話だが、この報告書案(pdf)に書かれていることは、特許庁が、平成15年法改正で無効審判制度に統合され廃止された特許の異議申立制度を多少の手直しを加えて付与後レビュー制度と称して復活させようとしているということである。制度ユーザーとしてはほぼ元々あった選択肢が復活するというだけの話なので別に悪い話でもないが、ただ、新制度も10年間それなりに問題なく運用されていた中で、本当にこのような法律の再改正が必要かと疑問に思うところもある。この報告書案では、特許出願審査請求の手続期間徒過に対する救済の導入や国内外で発生した大規模災害の被災者の救済規定の整備などについても書かれている。

 これらの特許庁報告書案に対応する法改正はいつになるのか不明だが、次の国会には法案が提出されるのだろうか。

 文化庁に目を向けると、予想通りほぼどうにもなっていないが、文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会で引き続き、間接侵害やパロディの問題について検討が行われている。(cnetの記事も参照。議事要旨だけを公開されても何が検討されているのかさっぱり分からないが、パロディに関してはパロディワーキングチームで検討が行われている。)今年度はもうどうにもならないだろうが、来年以降は、TPPや出版社への隣接権付与の問題もあれば、最高裁での私的録画補償金裁判のメーカー側勝訴確定(時事通信の記事参照)を受けて権利者団体側が補償金制度に関する圧力を強めて来ることも予想され、文化庁での検討がまたかなり荒れ出すのではないかと思う。(なお、文化庁の資料であることを常に念頭において読まなければならないが、国際小委員会の資料も国際的な状況の一部を知る上では一読の価値がある。)

 知財本部では、今年度最初の知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会コンテンツ強化専門調査会とがそれぞれ12月21日と25日に始まっている。今のところ何をしようとして来るのかさっぱり分からないが、自公政権下でまたロクでもないことを言い出すかも知れず、今後の知財本部の議論も要注意だろう。

 今年の7月には、総務省の情報通信審議会・デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会が、B−CAS問題についてほぼ様子見を決め込む形でひっそりと幕を閉じている。ただ、B−CASがほぼ完全にクラックされたこともあり、不正ユーザーの逮捕で表向き小康状態が保たれているようにも見えるが、何かでまた騒ぎになるのは火を見るよりも明らかであり、総務省はそのうち何かしらの形でB−CAS問題に関する検討を再開することを余儀なくされるのではないかと私は予想している。また、総務省では、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会も引き続き開催されている。

 農水省では、地理的表示保護制度研究会が開催されており、8月に「我が国において、特別(sui generis)な地理的表示保護制度を新たに導入し、地理的表示を活用して、多くの経済的・社会的効果が発揮されるよう取り組んでいくべき」とまとめようとする報告書骨子案(pdf)を作っている。地理的表示保護制度が本当に導入されれば知財政策的にかなり大きな話になるが、商標法での地域団体商標制度との関係を含めまだまだ整理すべき課題が多いのはこの報告書骨子案にも書かれている通りだろう。農水省もそう簡単に整理をつけられなかったのか、この研究会の取りまとめが行われたという話は聞かないが、いつか検討を再開するのだろうか。

 警察庁では、総合セキュリティ対策会議で「サイバー犯罪捜査の課題と対策について」という検討テーマを追加して、遠隔操作ウィルスによる冤罪発生事件を受けた検討を11月から開始している。第1回の議事要旨(pdf)を見ると、検討の視点は「民間事業者との連携」、「国際連携の推進」、「広報啓発」の3点ということで、即座にネット規制強化案が出て来るとは見えないのだが、警察庁のことなので、自公政権が成立したのをいいことに、冤罪事件の反省もどこへやら、ロクでもない規制強化に全力で突っ走ることも考えられ、恐らく直近で最も注意すべきは警察庁の検討ではないかと私は考えている。

 今年はダウンロード犯罪化を含む著作権法改正の可決・施行や海賊版対策条約(ACTA)の可決・批准を筆頭に日本の知財政策面では惨憺たる一年だったが、上で書いた通り、今後もちょっと考えるだけで、TPP問題や出版社への隣接権付与の問題、私的録音録画補償金問題など様々な問題で権利者団体の圧力が強まるのは間違いなく、残念ながら来年も極めて辛い年になるだろう。そのため、今年も到底良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

 国内では当分どうしようもない状態が続くだろうが、国外に目を転じれば、欧州議会での海賊版対策条約(ACTA)の否決やオランダ議会でのダウンロード違法化計画再否決(TorrentFreakの記事参照)などに端的に表れているように、世界的に見れば行き過ぎた規制強化によって知財政策が大きな岐路に立たされているのは間違いない。細々とした話はtwitterでも書き留めているが、詳しく書きたい話も多くあり、今後もこのブログは続けて行くつもりである。

(2013年1月3日の追記:上で書き忘れていたが、知財関係としては、他にも特許庁の産業構造審議会・知的財産政策部会・意匠小委員会で、意匠の国際出願に関するハーグ協定ジュネーブアクトへの加盟と画面デザインの保護の拡充についての検討も進められている。この意匠に関する検討についてだが、かなりややこしい論点を含む話なので、どこか切りの良いところでもう少し補足を書きたいと思っている。)

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2012年12月 3日 (月)

番外その36:著作権・情報・表現規制問題に関する注目選挙区リスト(2012年衆院選版)

 各候補が議員として今まで何をして来たかは前々回前々々回も参照頂ければと思うが、著作権・情報・表現規制問題の観点から今回の衆議院選挙で私が特に注目している選挙区の立候補予定者リストをここに載せる。ただし、12月3日時点の情報を元に書いているので今後変動があるかも知れないことにご注意頂きたい。

 どうしてもマイナーな問題たらざるを得ない著作権・情報・表現規制問題ではわずかな数の議員の当落が今後の行方に大きく影響して来る。どのような観点から票を入れるにせよ、是非一人でも多くの人に選挙に行ってもらいたいと思う。

 なお、繰り返しになるが、政党としては、リストにあげるまでもなく規制強化を党として一貫して推進している公明党が一番危険であり、自民党は候補によって立場に違いがあるが党としてはほぼお話にならないレベルで規制強化に凝り固まっており、民主党は候補によって規制強化にかなり反対・慎重な立場を示すものの全体としては政権与党として官僚に流され、民主党の中でも規制強化に特に慎重な立場を示した多くの候補が日本未来の党に移っており、社民党と共産党がかなり明確に党として規制強化に慎重な立場を示しているということを念のため前置きとして書いておく。(自民党の危険性は、都条例問題の際にかなり強烈な強力効果論から規制強化を支持していた赤枝恒雄氏を東京ブロックの比例候補にあげていることにも見て取れる。)

(以下、注目選挙区リスト。各種情報規制に推進の立場を取る候補の名前を赤で、慎重な立場を取る候補の名前を青で示す。)

○宮城2区
斎藤やすのり候補<未来>(HPtwitterwiki):ACTAに反対
・福島かずえ候補<共産>(HPtwitter
・今野東候補<民主>(HPwiki
・秋葉賢也候補<自民>(HPtwitterwiki
・菊地文博候補<みんな>(HPtwitter
・中野正志候補<維新>(HPtwitterwiki

○秋田3区
京野公子候補<未来>(HPtwitterwiki):ACTAに反対
・さとう長右衛門候補<共産>
・三井マリ子候補<民主>(HPwiki
・御法川信英候補<自民>(HPwiki
・村岡としひで候補<維新>(HPtwitter

○茨城3区
小泉俊明候補<未来>(HPwiki):ACTAに反対
・小林きょうこ候補<共産>(twitter
・前田よしなり候補<維新>(HPtwitter
葉梨康弘候補<自民>(HPwiki):前回の児童ポルノ規制法改正案国会審議で最も危険な違憲発言を繰り返していた危険人物

○埼玉5区
枝野幸男候補<民主>(HPwiki):前回の児童ポルノ規制法改正案国会審議での立役者の一人
・大石ゆたか候補<共産>
・牧原秀樹候補<自民>(HPwiki

○千葉4区
三宅雪子候補<未来>(HPtwitterwiki):ACTAに反対
・さいとう和子候補<共産>(HPtwitter
野田佳彦候補<民主>(HPwiki):現首相
・藤田幹雄候補<自民>(HPwiki

○東京6区
・佐藤なおき候補<共産>(HPtwitter
・越智隆雄候補<自民>(HPtwitterwiki
小宮山洋子候補<民主>(HPwiki):前回の児童ポルノ規制法改正案国会審議で規制派であることを暴露
・落合貴之候補<みんな>(HPtwitter
・花輪ともふみ候補<維新>(HP

○東京11区
・橋本久美候補<未来>(HPtwitter
・須藤武美候補<共産>(HPtwitter
・太田順子候補<民主>(HP
・いのたかし候補<維新>
下村博文候補<自民>(HPwiki):自民党文部科学部会長、ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人

○神奈川13区
橘秀徳候補<民主>(HPtwitterwiki):ACTAに反対
・宮応かつゆき候補<共産>(HPtwitter
甘利明候補<自民>(HPwiki):出版隣接権導入勉強会参加メンバーの一人
・菅原直敏候補<みんな>(HPtwitter
・太田ゆうすけ候補<維新>(HP

○神奈川16区
・池田博英候補<共産>(HPtwitter
・後藤祐一候補<民主>(HPwiki
義家弘介候補<自民>(HPwiki):情報・表現規制問題では有名な規制派の一人、青少年健全育成基本法プロジェクトチーム座長

○石川1区
・熊野盛夫候補<未来>
・黒崎きよのり候補<共産>
・奥田建候補<民主>(HPwiki
・小間井俊輔候補<維新>(HPtwitter
馳浩候補<自民>(HPwiki):ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人

○三重2区
・中野たけし候補<共産> (HP
・島田佳和候補<自民>(HP
中川正春候補<民主>(HPwiki):出版隣接権導入勉強会の座長
・ちんどう直人候補<維新>(HPtwitter

○大阪15区
大谷啓候補<未来>(HPtwitterwiki):ACTAに反対
・ため仁史候補<共産>
・竹本直一候補<自民>(HPwiki
・うらの靖人候補<維新>(HPtwitter

○大阪17区
辻惠候補<未来>(HPtwitterwiki):民主党案の提案者の一人
・吉岡たかよし候補<共産>
・西哲史候補<民主>(HPtwitter
・岡下信子候補<自民>(HPwiki
・馬場伸幸候補<維新>(HP

○奈良2区
中村哲治候補<未来>(HPtwitterwiki):児童ポルノ法規制の強化に慎重
・中野あけみ候補<共産>
・百武威候補<民主>(HPtwitter
高市早苗候補<自民>(HPwiki):児童ポルノ法改正自公案の提出者の一人
・なみかわ健候補<維新>(HP

○岡山3区
・ふるまつ国昭候補<共産>
・西村啓聡候補<民主>(HP
あべ俊子候補<自民>(HPtwitterwiki):国会審議で単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正を求める
・平沼赳夫候補<維新>(HPwiki

○山口3区
・五十嵐ひとみ候補<共産>
・中屋大介候補<民主>(HPtwitterwiki
河村健夫候補<自民>(HPwiki):元文部科学大臣、ダウンロード犯罪化修正案の提案者の一人、出版隣接権導入勉強会参加メンバー

○鹿児島1区
川内博史候補<民主>(HPtwitterwiki):ダウンロード犯罪化に慎重
・山口ひろのぶ候補<共産>
・渡辺信一郎候補<未来>
・保岡興治候補<自民>(HPwiki
・山之内つよし候補<維新>(twitter

(2012年12月3日の追記:1カ所誤記を修正した。公認情報を見て追記を行った。)

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2012年12月 2日 (日)

第283回:主要政党の2012年衆院選マニフェスト(政権公約)案比較(知財政策・情報・表現規制問題関連)

 主要政党の衆議院マニフェスト(政権公約)案がほぼ出そろったので、ここで知財・情報関連に絞って比較をしておきたいと思う。(実際には公示日以降に配られるものが正式版となるが、大して変わることはないだろう。)

 一通り、

を読み比べたところで、案の定、知財政策に関してはどの党もほとんど記載はないに等しく、情報・表現規制問題に関して自民党が突出して危険であることを露骨に示し、公明党がやはり危険な児童ポルノの単純所持規制の導入を求める一方で、社民党と共産党が児童ポルノ規制の強化にかなり慎重な立場を表明している他は知財政策・情報・表現規制問題に関しては取り立てて見るべきところはあまりないという状況だが、以下、念のために関連部分の記載を取り上げて行く。

(1)知財関連

<民主党>
○国内外のイベント開催、クールジャパン番組の海外放送などにより、日本の映像、ファッション、伝統文化、食などの発信を高め、クールジャパン関連の市場規模を9.3兆円(2016年度)に拡大する。

<自民党>
30「国富」を生み出す知財戦略
 資源に乏しいわが国にとって「知的財産」はまさに、「国富」を生み出す一つの手段であり、確固たる知財戦略を構築する必要があります。巨額な費用と時間をかけて生み出された「財産」を保護し、それを利用してさらなる「国富」を生み出すことは持続発展可能な経済にとっては不可欠なことです。知財の取得・活用を国家戦略としてサポートするため、まずは、研究開発の成果物が迅速に知的財産として保護されるよう「審査の迅速化」を進めます。特に、別の国においても早期に審査が受けられる体制も併せて進めます。
 また、大学等の研究機関が専門的知識と経験を有する知財人材を十分に確保できる支援体制の整備に努めます。
 一方、わが国で確立された最先端の技術が知的財産として保護されることなく流出することは、国益を大きく損ねることになるため、技術流出を防止する制度をさらに強化していきます。

39世界へ向けた情報発信力の強化、デジタルコンテンツ市場の拡大
 「クール・ジャパン戦略」を推進し、日本のものづくり技術と世界に誇る日本のアニメを掛け合わせた他の追随を許さない真のJAPANオリジナルコンテンツの創造や東京国際映画祭のグリーンカーペットをアジアのステイタスとするための環境整備(大規模展示会場の建設等)、世界のコンテンツのメッカとして秋葉原を街ごとバジョンアップさせる等、観光資源としてだけでなく世界的イベントのホスト国となる機会を増やすための取り組みを進めます。文化・伝統(衣食住)などわが国の持つ魅力(ソフトパワー)を積極的に海外に発信します。特に、世界に広がりをみせる放送コンテンツの海外展開や電子書籍・電子雑誌の流通促進、電子看板(デジタルサイネージ)の推進などにより、デジタルコンテンツ市場の拡大を支援し、地域を含めたわが国社会経済の活力を増大させます。JAPANブランド委員会を設立し、国をあげて、日本の伝統工芸品を新しいかたちで世界へ向けて飛躍させるとともに、アニメ・マンガ・ゲームなどのコンテンツ作成だけではなく、「イベント創造」「営業方法」など、利益を生むトータルでのシステム構築を支援します。あわせて、文化・感性商品としての特性を有する日本の生活支援ロボットなどロボット製造技術の活用・育成に繋げていきます。
 また、海賊版・模造品対策を一層強化します。

91イノベーションの実現に向けた制度改革
 新たな産業や雇用を創出するため、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現するとともに、イノベーションを妨げる各種規制を官邸=司令塔主導で抜本改革します。
 研究開発税制やエンジェル税制の対象拡充等の税制改革や、ベンチャー支援の充実等の制度改革、特許等の知的財産の迅速な保護及び円滑な利活用を促進するための知的財産制度の改革、イノベーションの隘路となっている規制や社会制度等の改革を強力に推進します。国際標準の獲得を目指す各国の動きが一層活発化していることから、特に、アジア諸国等との連携・協力の促進を念頭に置いて、官民協働による戦略的な国際標準化活動を抜本的に強化します。
 わが国が優れた先端技術を持つ基幹インフラについて、建設から運用、人材養成への寄与までを一体システムとしてとらえ、官民協働による海外輸出・展開活動を大幅に強化します。

<公明党>
○国内外で人気が高い日本のアニメやファッション、食など、グローバルにビジネス展開できる文化の産業化および海外展開を一層推進するために、海外でビジネス展開できる人材の育成・活用や、日本国内に利益を還元する仕組みを構築します。

○マンガ、ゲーム、アニメ、映画、デザイン・ファッションなど、価値を生産するコンテンツ(クリエイティプ)産業を日本経済の一翼を担う産業として位置付け、抜本的な支援強化に取り組みます。
 ・著作権取引支援システムの構築
 ・プロデュース人材の育成や事業化支援
 ・コンテンツ技術開発の促進
 ・ファイナンスや販路開拓等海外展開支援
 ・国際共同製作案件への支援、コンテンツ取引市場作り支援
 ・人材流出防止や海賊版防止

○ゲーム・ソフトウエアなどさまざまな知的資産によって、国外への情報発信を応援します。

○研究力・開発力・信用力の向上など中小企業の経営基盤の強化に資する知的財産の活用を促進するため、法整備や税制措置などのインフラ整備を戦略的に行い、創造・活用・保護など知的財産活用促進のための総合的支援を強化します。

○経営基盤の弱い事業者による知的財産の創造のため総合的な支援策を講じるとともに、技術およびビジネスモデル等における知的財産権の獲得と確保に向けた軽減措置に取り組みます。

○知的財産権の発掘・強化・拡大に向けた産学連携モデル事業の推進を図るとともに、共同研究の成果を迅速に事業化に結びつける仕組みを整備します。

<みんなの党>
○メディアコンテンツ、ファッション、食、観光等を輸出産業として育成するため、カテゴリーを横断した日本文化産業全体のブランドコンセプトを創出。重点地域市場における現地支援プラットフォームを設立(市場調査、現地パートナーの紹介・交渉、共同流通網の構築等シェアドサービス的機能を提供)、関連産業の再編と強いブランドポートフォリオの形成。これを可能とするファンド機能とマネジメントチームを組成する。

<社民党>
○日本が持つアニメ・漫画などのコンテンツ、商業デザイン、クリエーターの感性をいかした情報発信や海外展開など、中小零細企業が主導する「クールジャパン」事業を拡大し、雇用環境の整備も実施します。

<共産党>
 日本の芸術・文化の発展のうえで各ジャンルの専門家の役割はきわめて重要です。ところが、その専門家の権利や社会保障がないがしろにされています。こうした状態を改め、著作権者の権利を守ることや、専門家の低収入、社会保障の改善にとりくみます。
 著作権は、表現の自由を守りながら権利者を守る制度として文化の発展に役立ってきました。ところが、映画の著作物はすべて製作会社に権利が移転され、映画 監督やスタッフに権利がありません。実演家もいったん固定された映像作品への権利がありません。国際的には視聴覚実演に関する条約が作成されるなど、実演家の権利を認める流れや、映画監督の権利充実をはかろうという流れが生まれています。著作権法を改正し、映画監督やスタッフ、実演家の権利を確立します。
 一部の大企業は、私的録音録画補償金制度への協力義務を非難するだけでなく、実際に放棄してしまいました。こうした横暴を許さず、著作物を利用することで利益を得るメーカーに応分の負担を求め、作家・実演家の利益をまもります。

<新党改革>
○日本には閉塞感が渦巻いていますが、世界に向けて発信している産業には活気が満ち溢れています。その代表といえるのが、アニメとファッションです。1990年代後半から海外進出が急拡大しました。日本の文化(アニメ、ファッション、アートなど)を海外に積極的に発信し、その競争優位性を高めることで、ビジネスとしての文化戦略を実行していきます。

 これらの記載を読むと多少自民党や公明党が文章を長めに書いており多少力を入れているように見えなくもないが具体的な内容にかかわる言及は何もなく、どこの党も知財政策については何も書いていないに等しい。そのため、残念ながら選挙の結果がどうあれ、知財政策については今後も今と同じような状況が続くのではないかと私は考えている。特に今まで自公と文化庁がこぞって危険な規制強化を強力に推進して来たことを考えると、総選挙の結果次第で、またぞろ出版社への隣接権付与やダウンロード違法化・犯罪化の範囲の拡大、保護期間延長など各種の規制強化で日本の知財制度が大きく歪められる可能性が高まることになるのだろう。

(ここでついでに書いておくと、共産党の私的録音録画補償金問題に関する理解はどうにも頂けない。前回の著作権法改正の国会審議で共産党がダウンロード犯罪化に反対してくれたのは非常にありがたいのだが。)

(2)情報・表現規制関連

<自民党>
44サイバーセキュリティの対策強化
 頻発するサイバー犯罪から国民を守るため、さらに各省の連携を強化し、総合力を発揮できる体制を整備するとともに、官への投資と民間転用を呼び水に経済成長へ貢献します。
 特に、警察庁や防衛省、海上保安庁において、米国並みの動的防御システムやバックアップシステムを早急に構築します。また、政府機関の全ての情報機器や複合機を厳密なセキュリティ監視下におくための措置を早急に整備します。これらの施策と共に、最高度のセキュリティ技術を製品/サービス化し政府機関に納入するとともに、民間へ転用するための拠点を構築する事を呼び水として、わが国の高度情報セキュリティ産業を創出し、10万人規模の新規雇用を創出して経済成長へ貢献します。

183総合的な治安対策の強化
 平成20年に策定した「世界一安全な国をつくる8つの宣言」により、犯罪に強いまちづくりの推進、振り込め詐欺の撲滅、犯罪被害者の支援、生活の安全・安心を脅かす事案への対処、凶悪犯罪への対処、インターネット利用を含めたサイバー空間の安全確保、組織犯罪対策、銃器・薬物対策、客観的証拠の収集方法の整備、さらに死因究明体制の強化等を一層推進します。そして、国際的なテロなどに対処するために必要な資機材を整備し、情報収集・分析の為の体制を強化・拡充します。

188家族の絆を深め、家庭基盤を充実させ、全員参加型社会の実現へ
 社会の基礎単位である家族を大切にするという視点に立ち、家族の絆を深め、家庭基盤の充実を図ります。また、家庭や地域社会の機能を引き出し、老若男女が生きがいを持って働き続けられる社会整備を進めます。特に、家庭資産の形成がはかれるような税制の改正、三世代同居・近居の優遇、質の高い持家・借家制度等を進めます。
 地域、職場、家庭などあらゆる場面で、年齢や性別、障害の有無に関わらず活躍できる社会環境づくりを推進します。
 そして、配偶者からの暴力の根絶に向けた取り組みを図るため、DV被害者に対する相談体制の強化や、婦人相談所等での夜間・土日対応の強化について推進します。
 また、青少年の健全な成長に資する「青少年健全育成基本法案」の法整備など総合的な施策を推進します。

<公明党>
○子どもの福祉の観点から、児童ポルノ禁止法を改正し、児童ポルノの所持等を禁止するとともに、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等を処罰する罰則を新設します。

○青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするため、全国で青少年のリテラシー(情報の理解力・発信力)を向上させる活動やインターネットが青少年に与える影響の調査を踏まえた的確な対策、違法・有害情報の検出等に資する技術開発への積極的な支援を行います。

<社民党>
○児童ポルノは子どもの性的虐待の記録です。被害者は、インターネット等による膨大広範な流布等に対する不安と恐怖に一生苦しめられます。児童ポルノの深刻さを国民に広く知らせるとともに、子どもの権利保護の観点から、ブロッキング(撮影された画像が人目に触れないようにする)の導入に必要な支援を行います。
○先進諸国は児童ポルノに対して厳しい規制を行っています。日本においても、子どもの人権を守る観点から子ども買春の根絶と児童ポルノの規制強化に向け、「児童買春・児童ポルノ禁止法」の改正に取り組みます。なお、この際、表現の自由を侵したり、表現者に過度の萎縮をもたらす強権的なものとならないように留意します。

<共産党>
児童ポルノ禁止法改定問題について……子どもを性的対象とする児童ポルノは、子どもにたいする最悪の虐待行為であり、その非人間的な行為を日本共産党は絶対に容認することはできません。1人の被害者も出さない社会をつくりだすことは、大人社会の重大な責任です。
 同時に、児童ポルノそのものの作成・流通・販売をきびしく禁止し、取り締まることと、「単純所持」を法的に禁止することは厳密に区別する必要があると考えます。
 現在、インターネット上などで流布されている児童ポルノは、そのほとんどが現行法によって取り締まることが可能です。児童ポルノ法第7条では、「児童ポルノを提供し」、それを目的として「製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者」にたいして、「三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」がかけられることになっています。これを厳格に運用するなら、ネット上に流れているほぼすべての児童ポルノを一掃することが可能となります。
 一方、児童ポルノ法で単純所持を一律に規制したり、漫画・アニメーションなどの創作物も規制対象に加えたりすることは、児童ポルノ問題の解決に役に立たないだけでなく、逆に、人権の侵害や表現の自由の萎縮につながりかねません。
 第1に、たとえ単純所持を法律で一律に規制したとしても、児童ポルノの流出の効果的な歯止めにならないことは、単純所持を禁止しているはずの欧米各国の実態からも明りょうです。よく、「主要8カ国のなかで児童ポルノの単純所持を規制していないのは、日本とロシアだけだ」と指摘されます。しかし、現にインターネット上に流出している児童ポルノ(児童虐待)の動画像は、単純所持を禁止している欧米諸国からのものが圧倒的に多数です。たとえば、イタリアに本拠をおく児童保護団体の「虹の電話」による調査(2010年1月発表)では、2009年に確認された児童ポルノのサイトは4万9393件とされ、そのうち日本は、0.1%の54件となっています。一方、上位5位はドイツ(1万9488件、39.5%)、オランダ(1万277件、20.8%)アメリカ(8411件、17.0%)、ロシア(7118件、14.4%)、キプロス(1688件、3.4%))となっており、この5カ国だけで全体の95%を占めます。このうち、上位3カ国はいずれも児童ポルノの単純所持が禁止されています。このことをとっても単純所持の禁止や規制が、児童ポルノ流出の歯止めにならないことは明らかです。
 第2に、ネット上に流出していないにもかかわらず、単純所持を規制し、それを処罰するという場合、どのようにして単純所持を証明・把握するのかという問題があります。このことは、「憶測」や「疑惑」の段階から取り締まりを可能にすることにつながりかねず、結果として、捜査当局の恣意的な捜査を招く危険があります。また、表現の自由や、家庭生活上の写真などと児童ポルノとの関係なども考慮しなければなりません。
 なお、本来あってはならないことですが、万一被害にあった子どもがいる場合、そのプライバシーを最大限に尊重しながら、その後、社会生活を安心して送り健やかに成長できるよう、万全の保証をする必要があります。

 情報・表現規制問題に関しては、具体的にどうするという記載こそないものの、今まで様々な危険な規制強化を推進してきた自民党が、サイバーセキュリティの強化や総合的な治安対策の強化、青少年健全育成基本法案の推進などをあげている点は要注意だろう。前回の総選挙の時と同様、公明党が児童ポルノの単純所持規制の導入をあげている点も要注意であり、インターネットが青少年に与える影響の調査を踏まえて対策をすると書いていることも気をつけておかなければならない。また、社民党がブロッキングの導入を支援するとしている点は今ひとつ頂けないが、対照的に、社民党と共産党が児童ポルノ規制の強化について慎重な姿勢を示してくれているのは大変ありがたい。

 ここで、最も注意すべきは自民党の政権公約が憲法改正を含んでいることだろう。自民党のゴミクズ以下の憲法改正案(自民党のHP参照)についてここで事細かに突っ込む気はないが、この改正案は表現の自由に関する第21条第1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。」に「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」という第2項を追加しようとしているなど、明らかに自民党はこの憲法改正で実質的に国民からの基本的人権の剥奪を狙っているのである。少しでも法律を勉強したことのある人間ならこのような条文の変更がどれほど危険なことかすぐに分かると思うが、他の条項に関しても軒並み非道いものであり、総選挙の結果次第でこのような改正案がそれなりに現実感をもって国会で議論されることになるかと思うと私は心底慄然たるものを感じる。

 なお、日本維新の会も自主憲法の制定について触れており、具体的な内容の言及こそないものの、あの石原慎太郎元都知事が代表をやっている時点でどのようなものが出て来るかは推して知るべきだろう。維新も憲法改正については自民と同じかそれ以上に危険である。

(3)TPP関連
 知財政策・情報・表現規制問題に関して取り立てて見るべきところはあまりないのは残念だが、さすがにTPP参加問題に関してはマニフェストの記載でも以下の通り賛成反対が明確に分かれているのは分かりやすい。

<民主党>:政府が判断(→参加推進)
<自民党>:政府が聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対(→参加推進)
<公明党>:国会に調査会又は特別委員会を設置し審議できる環境をつくるべき(→参加推進)
<みんなの党>:参加推進
<日本維新の会>:参加推進
<社民党>:参加反対
<共産党>:参加反対
<日本未来の党>:参加反対
<みどりの風>:参加反対
<国民新党>:交渉参加を慎重に検討
<新党改革>:マニフェストに記載なし(党首討論会で参加反対と表明)
<新党日本>:ASEAN+6で自由貿易協定を結び、その後アメリカと協調
<新党大地>:参加反対

 民自公は態度をはっきり示していないようにも見えるが、支持団体の問題もあるので推進と言い切れないだけで、今までして来たことを考えると、今の民自公はどこでも政権与党になったところで即座に推進側に振れるだろう。それぞれの党の方針を考えれば当たり前ではあるが、加えてみんなの党と日本の維新の会が明確に参加推進で、その他は全て反対・慎重という極めて分かりやすい構図となっている。

 今回も著作権問題が選挙の争点になっていないのは個人的には非常に残念なのだが、前も書いた通り、著作権問題に関してはTPPに参加すればそのままアメリカに引っ掻き回されることは必至なので、TPPへの賛成が著作権規制の強化に直結すると見てTPPに関する賛否から判断して投票すれば大きく外れることはないだろうと私は考えており、この観点から見る限り民主党・自民党・公明党・みんなの党・日本維新の会は完全に論外であり、個人的には投票先として他の政党しか選択肢はないと考えている。

(2012年12月3日の追記:公明党がより詳細な政策集を出したので追記を行い、また、共産党の補償金問題に関する記載を見逃していたのでこれも追記した。)

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