第282回:ダウンロード犯罪化施行(2012年10月1日)以降、インターネット利用にあたって気をつけておくべきこと〜冤罪や詐欺の被害者とならないために〜
9月6日の衆議院本会議で海賊版対策条約(ACTA)が可決され、残念ながら本質的な問題点についての議論が何らされないまま日本におけるACTAの批准が決まった。国内法的にどうこうという話はすぐには何もないだろうが、世界的に見て注目度の高いこの問題で、日本は無様に世界に恥を晒した。
ACTAについても言いたいことはまだまだあるが、10月1日のダウンロード犯罪化施行まで後1週間しかない中で、文化庁のHPに掲載されているQ&Aを読んでも、質問主意書への政府回答(第281回参照)を読んでも、レコード業界団体が中心となって作った宣伝ページを読んでも、警察庁の通達(国民の生活が第一のはたともこ議員のツイートまたは森ゆう子議員のブログ記事参照)を読んでも、結局何をどうしたら良いのか具体的なことがさっぱり分からないので、ここで、ダウンロード犯罪化時代のインターネット利用時の注意点をなるべく具体的に書いておきたいと思う。
前も書いた通り(第277回参照)、このように非民主主義的かつ姑息なやり口で可決された法律を守れという気は私はさらさらない。しかし、非道な法律の無茶な運用によって被害に遭う者はなるべく少ないに越したことはなく、他の国での著作権法の運用なども含めて考えると、日本でも最低限以下のようなことに気をつけておいた方が良いのではないかと私は思っている。
(1)P2Pファイル共有ソフトは法律的なことと技術的なことをある程度理解してから使用すること
P2Pファイル共有自体が違法や犯罪であるということにはなり得ないが、著作権法上ダウンロードが違法になっただけでなく犯罪となった中で、P2Pファイル共有ソフト利用のリスクはこの上なく高まっている。各種P2Pファイル共有ソフトの法律的・技術的な問題に今回深入りすることはしないが、余計なトラブルを避けるために、P2Pファイル共有ソフトを使うのであれば、使おうとするソフトが技術的にどのようなことを行っているのか、それが法律的にどのように考えられるのかについてできるだけ知っておいた方が良い。ダウンロード犯罪化で違法ファイル共有の摘発数が劇的に増えるということも考えがたいが、警察はダウンロード犯罪化の最初の摘発対象・スケープゴートとしてアップロードとダウンロードを同時に行う違法ファイル共有ユーザーを狙って来るだろうと考えられるのである。
(2)家庭で無線LANを使う場合は必ず暗号化を施すこと、軽い気持ちで他人にインターネット回線を貸さないこと
最近「P2Pとかその辺のお話」でアメリカにおける無線LANただ乗りの民事ケースについて翻訳記事を書かれているが、ダウンロード犯罪化について警察がどのような運用をして来るか読めない中で、無線LANを暗号化なしで使うことほど危険なことはない。また、インターネット回線を軽い気持ちで他人に貸すべきでもない。他人の行為で、警察が我が家に家宅捜索に来て痛くもない腹を探られるような事態を避けるためには、家庭で無線LANを使う場合必ず暗号化を施すことを忘れないようにし、また、基本的に他人にインターネット回線を貸すようなことをしないよう気をつけておいた方が良い。さらに言えば、暗号化方式の強度もなるべく高い方が良いだろう。(なお、2010年のzeit.de(ドイツ語)の記事などを読めば分かる通り、ドイツでも無線LANただ乗りの問題は最高裁に行くほど顕在化しており、今回やはり深入りはしないが非常にややこしい問題である。)
(3)子供のインターネット利用に気を配ること
やはり「P2Pとかその辺のお話」でフランスにおける同居人の行為に対する3ストライク法の適用のケースについて翻訳記事を書かれているが、恐らく同居人として一番気を配るべきは子供だろう。子供が勝手にインターネットでファイル共有ソフトなどを使ってしまい著作権団体や警察の網に引っかかるリスクは常にあるのである。子供のインターネット利用を親が全て監視するべきだなどと言うつもりもなく、無意味に子供を脅すこともないだろうが、子供には基本的にP2Pファイル共有ソフトを使わせないくらいのことはしておいた方が良いのではないかと思う。(なお、これらも民事ケースだが、ドイツでも配偶者や子供などの著作権侵害行為と回線契約者の責任との関係について裁判沙汰になるほどの問題になっていることからも分かるように(heise.deの記事(ドイツ語)、e-recht24.deの記事(ドイツ語)、golem.deの記事(ドイツ語)など参照)、これも非常にややこしい問題である。)
(4)サイト管理者は書き込みやリンクの掲載などに気をつけること
幇助による摘発の可能性も考えると、何かしら書き込みを可能としているサイトの管理者は書き込みやリンクの掲載に常に気をつけておく必要がある。普通ほとんどの場合で問題になるとは思えないが、警察と権利者団体が何をして来るか分からない中で、警察に目をつけられているだろう各種サイトや権利者団体に目をつけられているだろうP2P・ダウンロード関係サイトなどの管理者は特に気をつけておいた方が良いだろう。
(5)著作権侵害を使って脅すようなメールなどについてはまず詐欺やウィルスの可能性を疑うこと
これも他の国で例でかなり見かけるが、著作権侵害を使って脅すようなメールやサイト表示はまず詐欺やウィルスの可能性を疑った方が良い。ダウンロード違法化でも多少見られたが、このような詐欺・ウィルスはダウンロード犯罪化でさらに増えると思えるのである。とにかく、そのようなものを見ても慌てないこと。ただし、日本でも権利者団体による著作権侵害警告のような取組は行われており、本物の警告である場合もあることには注意しておいた方が良い。警告に関する法律的なことが良く分からなければ、専門家への相談を考えること。(弁護士などでも良いが、そこまでの話でなければ、担当省庁の文化庁著作権課や警察庁・各県警のサイバー犯罪担当課、あるいはP2Pに対する警告メールの取組をやっているファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会へ直接確認してみれば良いのではないかと思う。)
(6)インターネットを今まで通りに使い必要以上に萎縮しないこと
以上多少注意点について書いてきた訳だが、ダウンロード犯罪化のような非道な法律はいくら言われたところで守りようがない。最低限の注意以上のことはやりようがなく、必要以上にネット利用について萎縮することはない。もとから大して知られていないのであまりLマークとの関係で萎縮を心配することはないだろうが、Lマークも、ごく一部のサイトでしか利用されていないもので、日本レコード協会などと正規ライセンスが結ばれていることを示す意味しか持っておらず(レコ協の解説ページ参照)、あらゆるサイト・コンテンツの合法違法の区別をするものではないということを正しく理解して、その意味以上に気にしないことである。
上で書いたリスクは基本的にアップロードやダウンロード違法化との関係で今までも多少はあったリスクだろうが、ダウンロードも犯罪化されることでインターネット利用のリスクが飛躍的に高まるのは間違いない(今まではダウンロードについて最大限民事訴訟のリスクだったのが、突然警察が家にやって来る可能性が出て来ると言えばそのリスクの大きさが分かってもらえるだろうか)。
非道な法律の無茶な運用によって被害に遭う者はなるべく少ないに越したことはないと考えて、ここでも多少の注意を書いたが、どう考えても法改正に関する周知が不十分な中で、施行前後でかなりの混乱が予想されるのは非常に残念である。このブログはこのまま続けて行くつもりだが、できることならこのようなダウンロード犯罪化に関する注意を書く日が来なければ良かったのにと私は今も思っているし、今後もこのような法改正は間違いであると言い続けて行くだろう。
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