第274回:内閣府「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(第2次)」(素案)に対する提出パブコメ
もう〆切は過ぎているが、第272回で紹介した、内閣府の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(第2次)」(素案)に対するパブコメも提出しているので、今までに書いて来たものと大きくは変わらないが、念のため、資料としてここに載せておく。
(以下、提出パブコメ)
(1)5つの方針について
本計画素案第4〜5ページの「第1 3.施策実施において踏まえるべき考え方」において、5つの考え方が記載されている。これらの考え方についてはネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきという基本に立つものとして高く評価できる。今後様々な施策を検討して行くにあたっては、この考え方を是非きちんと守ってもらいたい。
(2)リテラシー指標について
本基本計画素案第8ページの「第2 2. (4)インターネットリテラシーに関する指標策定の取組」において、新たにインターネットリテラシー指標の策定について記載されている。ここで、情報リテラシーはそもそも情報の多様性を前提とした判断力の養成を問題にするものであることから、策定するにしてもこのような指標の適用がかえって画一的な見方の押し付けになるようなことが決してないよう、ユーザーやインターネット関連企業含め多くの関係者の意見を聞きつつ慎重に検討を進めてもらいたい。
(3)フィルタリングについて
本計画素案の多くの項目においてフィルタリングに関する言及があり、特に、第10〜11ページの「第3 1.(3)望ましいフィルタリング提供の在り方を判断するための基準の普及」においてフィルタリングに関する基準に関する記載が加えられている。ここで、フィルタリングに関する各種検討について、一部の者の一方的な思い込みによって安易に方針を示すことなく本当の問題点を把握した上で検討を進めるべきであり、例えばこのような基準が強制的なものとして押し付けられるようなことがないよう、フィルタリングについてもユーザーやインターネット関連企業含め多くの関係者の意見を聞きつつ特に注意して検討を進めてもらいたい。
また、東京都等の地方自治体が推し進めている携帯フィルタリングの実質完全義務化のような行き過ぎた規制強化は、青少年ネット規制法の精神に反するものであり、地方自治体法第245条の5に定められている都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられ、同じく不適切なその他の情報規制推進についても合わせ、このような規制強化について総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。
(4)インターネット・ホットラインセンターについて
本基本計画素案第12ページの「第3 4.フィルタリング提供事業者による閲覧制限対象の把握の支援」及び第15ページの「第5 2.(1)インターネット・ホットラインセンターを通じた削除等の対応依頼推進」において、インターネット・ホットラインセンターについて記載されている。しかし、サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害・違法と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。
(5)児童ポルノサイトブロッキングについて
本基本計画素案第15ページの「第5 2.(2)事業者や民間団体の効果的な閲覧防止策の支援」において、児童ポルノサイトブロッキングに関する言及がある。ここで、既に、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等が行われている。しかし、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキングは、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりないブロッキングのような規制の推進ではない。海外サイトについても、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得ないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、情報に関する国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは即刻排除するべきであり、そのためのアドレスリスト作成管理団体として設立された、インターネットコンテンツセーフティ協会は即刻その解散が検討されてしかるべきである。児童ポルノ規制法に関して真に検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。
(6)基本計画素案全体について
青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。本基本計画素案で法改正の検討について言及している第19ページの「第6 4.基本計画の見直し等」において、今後、青少年ネット規制法の廃止を速やかに検討すると明記してもらいたい。
また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち、各種の地道な教育・啓発に関する施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
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