第277回:ダウンロード犯罪化を含む著作権法改正案の参議院での可決・成立及び今後のこと
残念極まることに、今日2012年6月20日、参議院文教科学委員会及び本会議で、ダウンロード犯罪化を含む著作権法改正案が可決・成立した(参議院インターネット審議中継、ITmediaの記事、internet watchの記事、朝日のネット記事参照)。
今日の参院文科委の審議では、昨日あれほど明確に慎重・反対の意見を表明して下さった森ゆうこ議員が委員から外され、何らの質疑・討論もなく、わずか数分で全会一致の採決が行われた。この法案の審議では、議論を尽くすことなく反対意見を持つ者を公の議論の場から排除してその意見表明を封じ、委員会を無理矢理全会一致にするという実に非民主主義的なプロセスが取られ、本会議での可決まで持って行くということが行われたのである。はっきり言って、これはあのデタラメ極まるダウンロード違法化の時の審議をその非道さにおいて上回っている。
このような非民主主義的な口封じの仕方を推進側を取ったということは、裏を返せば、利用者が抱いていた懸念、国会の審議でも、共産党の宮本たけし議員や民主党の森ゆうこ議員から、また参考人として呼ばれた日弁連の市毛由美子氏やMIAUの津田大介氏から示された懸念は実に正当なものだったと言っているに等しい。今すぐにどうこうできるという話ではないが、このような姑息なやり口で異論を封じ、多様な意見を取り入れて議論を深め最も妥当な結論を導くという民主主義の常道と良識を踏み躙られたからには、今後はこちらもそれをどのようにして乗り越えて行くかを真剣に考えて行かなければならない。
また、少なくとも、このような著作権法改正のロビーをしたのが主としてレコード協会やエイベックス、音事協といったCD中心のビジネスを展開するレコード業界(必ずしも音楽業界とイコールではない)であることを覚えておく必要があるだろうし、次の選挙に向けて、与党内で最後まで反対の意見を持って下さっていた、民主党の森ゆうこ議員や川内博史議員、また検討の途中の民主党部会で慎重な意見を言って下さったという民主党の林久美子議員といった各先生方の名前を覚えておく必要もあるだろう。ここで、共産党が宮本たけし議員を筆頭として強力に反対して下さったということも忘れてはいけない。また、主に法案を強力に推進していた、自民党の馳浩議員や下村博文議員の名前も推進側の議員の名前として記憶しておかなければならないだろうが、自民党については、検討の過程において、世耕弘成議員や山本一太議員が慎重な意見を表明していたことに注意しておく必要があるだろう。さらに、公明党の池坊保子議員がダウンロード犯罪化修正案の主たる提案者となっているが、一丸となってダウンロード犯罪化を強力に推進していた節がある公明党は本当に党全体として危険だと思っておいた方がいい。
さらに、参議院での本会議で反対票を投じて下さった12名の議員として、民主党の森ゆうこ議員、共産党の井上哲士議員・市田忠義議員・紙智子議員・田村智子議員・大門実紀史議員・山下芳生議員、社民党の福島みずほ議員・又市征治議員・山内徳信議員・吉田忠智議員、無所属の糸数慶子議員の名前をここでもあげておく(参議院の本会議投票結果参照)。
実際には、警察・検察の捜査能力が無限大ということはあり得ず、また現実的に考えれば捜査能力が即座に大幅に増強されるということもないので、法改正の施行後すぐにどうこうなるということはないだろうが、立法プロセス中で法案の問題点が明確にされ懸念が解消されるという機会はもはや失われ、ほぼそのまま恣意的な運用が可能なままに行政・司法に丸投げされたのである、ダウンロード犯罪化の検討過程において示された懸念は規模の大小こそ読めないが現実化して行くだろうし、今後このような規制の存在が日本における法規制とビジネスのあり方を順当に歪めて行き続けるに違いない。
このような非民主主義的かつ姑息なやり口で可決された法律を守れという気は私はさらさらないし、私的違法ダウンロード罪の犯罪としての構成要件は不明確極まるので、インターネットの利用を止めでもしない限り守ろうとしても守れないだろうが、こう言っては何だが政治家を始めとして警察・検察に特にマークされやすい方は特にネット利用に注意した方が良いだろう。
今から丁度3年前に私はダウンロード違法化の可決の際に一億層海賊時代の到来と書いたが(第177回参照)、今度の法改正によりついに一億総犯罪者時代に突入することが目前に迫った。ダウンロード違法化法成立後後3年を経て、かくしてパンドラの箱は完全に開いた。が、恐らくその底に希望は残されていない。
法律は作れば終わりというものではなく、私は、何があろうとダウンロード違法化・犯罪化条項は削除するべきものと言い続けるつもりであり、このブログも続けて行くつもりであるが、上でも書いたように今後どうして行くかを真剣に考えなければならない時が来ていると私は思っている。
(2012年6月22日の追記:一箇所誤記を修正した。)
(2012年7月3日の追記:参議院HPで文教科学委員会の6月20日の議事録が公表されているので、念のため、ここにリンクを張っておく。)
(2012年8月5日の追記:参議院文教科学委員会の6月20日の議事録が国会図書館のHPの方に移されたのでリンクを追加しておく。)
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コメント
こんにちは。著作権改正案について、ツイッターをたどるうちに、こちらのブログにたどり着きました。
私は、一般のネットユーザーに過ぎませんが。
今からでも、自民党、民主党の政治家に、違法化、罰則化の項を削除してもらう旨、メール等で訴えることに、多少なりと効果はありますでしょうか?
参議院での流れ、反対意見は相当送られていたであろうにも関わらず、ああいう結果になってしまったことを見ると……。 やらないよりマシなら、やっておこう、かえって逆効果なら、やめておこうという気持ちなのですが、管理人様のご意見を聞かせて頂ければ幸いです。
投稿: 憂 | 2012年6月21日 (木) 14時06分
憂様
コメントありがとうございます。
国会議員の先生方へ自分の言葉で丁寧にメール等を今書くことが逆効果となることはないでしょうが、それで今現在目に見えて何か効果が上がるということもないでしょう。
政策決定を覆すことには本当に時間とコストがかかります。もし本当にこうした問題に懸念をお持ちでしたら、一時的にメール等を出すだけで喉元過ぎればといった対応で終わることなく、引き続き問題をフォローし続け、どのように行動したら良いかを是非お考え下さい。
このような問題については私以外にも沢山の方がいろいろなことを書かれています。どのように行動すべきかは、憂様も是非ご自分で様々な情報を集めご自分でご判断下さい。
投稿: 兎園 | 2012年6月22日 (金) 00時22分
兎園様
お返事、ありがとうございました。
専門用語が多くて、難しいのですが、自分なりに勉強してみようと
思います。
投稿: 憂 | 2012年6月22日 (金) 13時07分
いろんなサイトから流れてここにたどり着きました。どうもはじめまして羅郭らかくと申します。
今回の改正法案の件には日本がいよいよ沈没末期への最終段階に到達した気分となり、ビジネス、生活等含めて海外への進出を決めるきっかけとなりそうです。そもそも前回のダウンロード法案自体が馬鹿げた内容だけに、今回の内容も酷なものになるのだろうと考えていましたが、酷いありさまですね。これでは個人の意見なんて到底通らない非民主主義の成れの果てです。
明確な判断基準や、詳細内容を守るべき国民に対して提示しないも不思議ですしね。
また今回のごり押しな法案可決に対しても不快感というか、独裁的側面もあり日本が過去に手本としたドイツ政治を思わせる強引ぶりでもはや国を信じろと言われてももう無理です。
投稿: 羅郭 | 2012年6月23日 (土) 17時39分
羅郭様
コメントありがとうございます。
著作権法はあくまで一部の話ですが、他も含め全体的に見てひどいものです。私としてはことさら絶望感を煽るつもりはないのですが、本気で海外に行こうとする人が沢山出てきてもおかしくない状況で、海外への進出・移住もあり得る1つの選択だと思います。もし本気で考えておられるようでしたら、是非お気をつけて、羅郭様の海外での成功を祈念しております。
投稿: 兎園 | 2012年6月24日 (日) 00時05分