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2012年3月29日 (木)

第267回:去年の韓国の著作権法改正とフェアユース

 日本では実際の法改正案でフェアユースが跡形もなくなってしまったという話のついでに、すぐ隣の国である割には何故かあまり紹介されない韓国での著作権法改正の話をしておきたいと思う。

 去年、韓国では、欧韓FTA及び米韓FTAの妥結を受けて、それぞれに対応する形で2回著作権法の改正をしているが、まず話の前提として、欧韓FTAに含まれている主な著作権関連事項をあげておくと、

  • 著作権の保護期間延長(50年→70年)
  • DRM回避規制(アクセスコントロール回避規制も含む)
  • インターネットサービスプロバイダー(ISP)の責任の制限
  • 権利管理情報の除去・改変規制

となり、また、米韓FTAに含まれている主な著作権関連事項としては、

  • 著作権及び著作隣接権(放送を除く)の保護期間延長(50年→70年)
  • DRM回避規制(アクセスコントロール回避規制も含む)
  • 非親告罪化
  • 法定賠償制度の導入
  • ISPの責任の制限(ノーティスアンドテイクダウンを含む)
  • 権利管理情報の除去・改変規制

があげられるだろうか。(FTA全体について言えば他にも重い条項がいくつもあるが、ここではひとまずおく。)

 これらのFTAの締結のために、去年韓国では2回著作権法改正をやっている訳だが、1つは2011年6月23日に国会で可決、6月30日に公布されており、もう1つは11月22日に可決、12月2日に公布されている。(余談だが、最初の改正案を審議・可決した、6月13日の文化体育観光放送通信委員会議事録(pdf)、6月23日の本会議議事録(pdf)、次の改正案を審議・可決した、11月22日の本会議議事録(pdf)を順に読むと、日本と同じく、国会でほとんど実質的な審議がされておらず、韓国の政府・与党が相当のごり押しで法案を通していることが分かる。)

 韓国議会立法統合知識管理システムページや韓国国家法令情報センターのHPなどで改正条文を確かめることができるが(議案情報1議案情報2現在の条文など参照)、2回分を合わせ、この法改正は大体以下のような内容を含むものとなっている。

  • 著作権及び著作隣接権(放送を除く)の保護期間延長(50年→70年)
  • DRM回避規制の導入(アクセスコントロール回避規制も含む。例外あり)
  • 法定損害賠償制度の導入
  • ISPの責任制限条項の修正(欧米との間のFTAに合わせた形への修正)
  • 権利管理情報の除去・改変規制
  • フェアユースの導入
  • 一時的複製の例外の導入

 この法改正に含まれている内容はほとんど欧米との間のFTAに由来するものだが、FTAの条文に直接由来しない法改正事項としてフェアユースなどの権利制限の拡充も同時に行っているのである。(なお、韓国は以前に営利目的での又は常習的な著作権侵害の場合についての非親告罪化をやってしまっているので、この2011年の改正では公訴に関する第140条についてはほぼテクニカルな修正を入れているだけである。)

 特に、ここで日本にとっても参考になるだろう韓国のフェアユースの条文を訳出しておくと、以下のようになっている。

第35条の3(著作物の公正な利用)
第1項
 第23条から第35条の2まで、第101条の3から第101条の5までの場合の他、著作物の通常の利用を妨げず、著作者の正当な利益を不当に害さない場合には、報道・批評・教育・研究等のために著作物を利用することができる。

第2項 著作物の利用行為が第1項に該当するかどうか判断するときは、次の各号の事項を考慮しなければならない。
第1号 営利性や非営利性など、利用の目的および性質
第2号 著作物の種類と用途
第3号 利用される部分が著作物全体に占める割合とその重要性
第4号 著作物の利用が、その著作物の現在の市場又は価値若しくは潜在的な市場又は価値に及ぼす影響

 この韓国のフェアユース条文は、アメリカの条文とベルヌ条約の3ステップテストを組み合わせる形で作っており、読めば分かると思うが、かなり適用範囲の広いものとなっている。国会審議では説明があまり十分ではないのだが、韓国文化体育観光省の説明資料(pdf)も読むと、限定列挙では限界があるので包括的な権利制限規定が必要としており、韓国も権利生制限の一般条項・フェアユースの必要性について正しく認識して、このような権利制限を入れたものと知れる。また、韓国におけるフェアユース規定の導入の背景としては、この法改正もそうだが、以前導入された変形ストライクポリシーなどの行き過ぎた権利保護強化の所為もあるだろう。(韓国のフェアユース導入の背景については、早稲田大学の張睿暎氏のコラム、文化庁の「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書」別冊(pdf)、日経パソコンの趙章恩氏のコラムも参考になる。)

 日本も韓国くらいの形で権利制限の一般条項が入ればまだ様々な類型のすくいようもあったろうが、日本では足かけ5年以上もフェアユースについて検討しているものの、韓国にも完全に先を越され、前回も書いたように、今の日本の法改正案が、パロディやクラウド型サービスはおろかリバースエンジニアリングの問題にも対応できない狭い個別規定の形に落とされてしまったのは残念極まるとしか言いようがない。

 ただし、韓国でフェアユースが導入された背景には、上でも書いたように行き過ぎた権利保護強化の所為もあると考えられ、韓国のFTA自体の評価はここではおくが、フェアユースこそ入ったものの、あまりにも多くの権利保護強化を含むこの韓国の著作権法改正は私としては全く評価できないものである。韓国でもこの法改正の運用はこれからであり、完全な評価はできないが、既存の変形ストライクポリシーに加え、保護期間延長や法定賠償制度の導入、欧米型のDRM回避規制の導入などによる負の影響も今後じりじりと出て来るだろうし、その中で、フェアユースについて韓国の司法がどのような判断を示して行くのかも注目して行く必要があるだろう。例によって他国の話をそのまま取り入れるべきなどと言うつもりは全くないが、韓国の動向もメリット・デメリットの両面で参考になるところがあるに違いないのである。

 米韓FTAのことを持ち出すまでもなく、今後TPP交渉などでアメリカがロクでもない著作権法の強化をごり押ししようとして来るだろうことは目に見えており、また、アメリカが絶対フェアユースを他国に輸出しようとしないことも明らかで、どうにも日本は韓国以上に著作権法について悲惨な状況になるのではないかという不安を拭いきれずにいるが、韓国の話を他山の石として、日本政府には各種の国際交渉で不合理な要求は不合理なものとして毅然としてはね除けもらいたいと私は常に願っている。

 さて、最後に、日本音楽事業者協会の尾木徹会長がダウンロード犯罪化を求めることを明言したという日刊スポーツの記事が、あたかも米韓独でダウンロードの犯罪化がされしかも効果が上がっていると言わんばかりの陋劣な印象操作をやっているので、念のためにここでも突っ込んでおく。韓国についてだが、以前ダウンロード違法化法案を閣議決定したことがあるようだが(internet watchの記事参照)、去年の法改正でもダウンロード違法化は入っていない。韓国はダウンロードをまだ違法化していないし、無論犯罪化もしていないのである。以前twitterで書いたが、韓国で鳴り物入りで導入された変形ストライクポリシーのような対策も目立った効果を上げている訳ではなく、音楽産業の売り上げの伸びも法改正前後で有意な差が出ているということはない(私の一連のツイートについては、「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」でまとめて下さっているので、リンク先を参照頂ければと思う)。また、アメリカも明確な形でのダウンロード違法化・犯罪化をしていないし、単なるダウンロードについて著作権侵害で摘発されたケースはアメリカでも皆無である。ドイツについては何度かこのブログでも取り上げているが、第255回などでも書いているように、ダウンロード違法化・犯罪化以降、訴訟の乱発により混乱したあげく、訴訟の中心を刑事から民事に切り替える法改正をしたものの、やはり情報開示請求と警告状送付が万単位で乱発され、あまり状況は改善せず、消費者団体やネットユーザーから反発を招き、消費者保護のためのさらなる法改正が検討されているという極めてお粗末な現状にある。世界の著作権動向をそれなりに見ているつもりだが、単純にダウンロード違法化・犯罪化やストライクポリシーで音楽・レコード業界(音楽業界≠レコード業界であることにも注意)が持ち直したなどという話は私の知る限り全く見かけない。いつものことは言え、この手の消費者をあまりにもバカにした単純なプロパガンダには私は激しい憤りを覚える。

 次回もついでとして、中国の話を書ければと思っている。

(2012年3月29日の追記:内容は変えていないが、少し文章に手を入れた。)

(2012年3月29日夜の追記:内容は変えていないが、少し文章に手を入れた。)

(2012年4月3日の追記:日刊スポーツの記事への突っ込みとして私は各国それぞれ数行で済ませてしまったが、「P2Pとかその辺のお話@はてな」で「違法ダウンロード刑事罰化:日刊スポーツが音事協のプロパガンダを垂れ流してる件」、「違法DL刑事罰化:韓国レコード市場は規制強化のお陰で回復したのか」として米独韓の著作権とレコード市場を巡る情勢に関する詳細な解説エントリを書いて下さっているので、関心のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

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2012年3月18日 (日)

第266回:写り込みに関する権利制限やDRM回避規制の強化を含む著作権法改正案

 この3月9日に写り込みに関する権利制限やDRM回避規制の強化を含む著作権法改正案が閣議決定を受けて国会に提出された。(衆議院の議案経過ページ、文部科学省のHPinternet watchの記事ITproの記事参照。)

 今までさんざん日本版フェアユースがどうこうと言われて来たが、文化庁の検討を経た結果、実際に提出された著作権法改正案では、権利制限の一般条項(フェアユース)は完全に影も形もなくなり、その関係では、いつも通りいくつか狭い権利制限が作られるだけに終わった。そして、国立国会図書館や国立公文書館における利用に対する権利制限については評価できるものの、何故か前から入れるとしていたリバースエンジニアリングに関する権利制限の導入は今回も見送られ、同時に文化庁としてはどうにも権利制限だけを行うことがしたくないのか、例えばDVDの私的なリッピングを明確に違法とするようなDRM回避規制の強化も入れられている。

 文化庁(文部科学省)の作った概要(pdf)や公開された新旧対照条文(pdf)を見てもらえば良いのだが、ここでも条文の問題点を指摘しておきたいと思う。

(1)写り込み等に関する権利制限
 まず、写り込み等に関する権利制限については、この改正案は以下のような条文を追加するとしている。

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(検討の過程における利用)
第三十条の三 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)
第三十条の四 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。

(情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用)
第四十七条の九 著作物は、情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合であつて、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは、その必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。

 条文上これらの権利制限を上位概念化して一般条項を作り、同じく狭いにしてもその中で類型をあげる形にすればまだ今後の展開も少し違って来たかも知れないが、このようにいつも通り狭い個別条項を作ったのでは、この条文からの検討で権利制限の一般条項へつなぐことは不可能と言って良いだろう。

 知財本部知財計画2008(pdf)で既に包括的な権利制限規定に関する言及があることからも分かる通り、ほとんど足かけ5年以上にわたるフェアユース・権利制限の一般条項の検討を文化庁がこのような形で幕引きにしようとしていること自体私は非常に残念でならず、この体たらくでは、もはやいつのことになるか分からないが、やはり権利制限の一般条項は必要だと今後も言い続けるしかない

 これらの個々の権利制限もないよりはあった方が良いものであるのは確かだが、例えば、第30条の2の写り込みに関する権利制限の対象は写真の撮影、録音又は録画のみに限られるため、写生やスケッチなどは入らず、写り込んでいる著作物の部分が写真等において軽微である必要があり、駄目押しに著作権者の利益を不当に害さないことというスリーステップテストの条件までついているという狭さである。

 また、第30条の3の検討の過程における利用は著作権者の許諾を得ている場合の利用なのでそもそも著作権法上の問題になることが考えづらいケースであるし、第30条の4の技術開発試験のための利用の条文では、単に「著作物の利用に係る技術の開発」ではなく「著作物の『録音、録画その他の利用』に係る技術の開発」とその対象技術を主として録音、録画関係と明示的に絞っているのが非常にイヤらしい。(そのため、リバースエンジニアリングなどはこの権利制限の対象外と考える方が妥当だろう。)

 第47条の9は分かりにくいが、対応する文化審議会著作権分科会の平成23年の報告書(pdf)概要(pdf))で、「ネットワーク上で複製等を不可避的に伴う情報ネットワーク産業のサービス開発・提供行為」と書かれている類型に相当するものだろう。この第47条の9は、多少解釈の余地があるものの、条文上、円滑かつ効率的な情報提供の「準備」のための「電子計算機による情報処理」に必要な限りにおいて「記録又は翻案」が認められるだけなので、実際には、各種情報サービスにおける準備としての技術開発のためや提供データの一時保存・バックアップ・キャッシュのため以上に広がりを持たせることは難しいのではないかと思う。(大体、情報処理関係だけでも、現行法の第47条の5の通信障害防止のための権利制限から、第47条の6の検索エンジンのための権利制限、第47条の7の情報解析のための権利制限、第47条の8の通信・コンピュータにおける一時的複製のための権利制限に加え、さらにこの権利制限までと、どうにも理解に苦しむ細かい権利制限がずらずら並ぶというのは、条文構成としてもどうかと思う点である。)

 これらの権利制限では、平成21年当時の文化審議会報告書から入れるべきとされていたリバースエンジニアリングは無論のこと、今後さらに大きく取り上げられることが予想される、パロディやクラウド型サービスの問題にも対応できないのは明らかである。このように、狭く使いにくい「権利制限の個別規定」が追加されるということが繰り返される限り、私は権利制限の一般条項・フェアユースが必要であると言い続けることだろう。

(2)DRM回避規制の強化
 今回の著作権法改正案で最も微妙な改正点が、DRM回避規制の強化の部分である。この部分の改正条文は、以下のようになっている。(以下、下線部が追加部分。)

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
二十  技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号及び第百二十条の二第一号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
(略)

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(略)
 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
(略)

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した送信可能化する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。)をした
 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行つた者
(略)

 DRM回避規制の条文については不正競争防止法も合わせて読まないと何がどう規制されているのか分からないので、非常にややこしいのだが、第240回で引用した表を少し整理してアクセスコントロールとコピーコントロールに関する規制が概略どう変わるのかを示すと、
Drm_table3 となるだろう。(赤字部分がこの著作権法改正案による変更部分である。)

 あらかじめ言っておくが、パブコメなどでは前から書いている通り、私は、このような改正を是とするに足る立法事実は何一つないと考えているし、著作権法でアクセスコントロール回避について規制するべきではない上、そもそも私的領域におけるDRM回避行為に対する規制である第30条第1項第2号自体撤廃するべきだと思っていることに変わりはない。

 その上で、条文上の細かな問題をあげつらうならば、まず、既に刑事罰まで付加してしまった不正競争防止法に加えて、このような著作権法によるDRM回避規制の強化を必要とする理由が全く不明な上、このような改正がなされるとすると、著作権法上の「技術的保護手段」と不正競争防止法上の「技術的制限手段」との区別はほぼなくなり、何故著作権法と不正競争防止法という2つの法律によりDRM回避に関する規制をしなければならないのかという理由が完全に不明になると言わざるを得ない。(無論マニアックな法律屋にとってはなお2つの法律間の規制の区別はあるだろうが、一般ユーザーにとってほとんど理解不能と言って良いレベルである。)

 また、アクセスコントロール方式(著作物等の利用に際し、これに用いられる機器が特定の変換を必要とするよう著作物等に係る音又は影像を変換して記録媒体に記録又は送信する方式)による場合の技術的保護手段が防止又は抑止する行為とは何であるのか、今一度考える必要もあるだろう。ここで、条文上は技術的保護手段は著作権を侵害する行為の防止又は抑止をする手段とされているが、著作権法が規制する行為はあくまで複製行為であって視聴行為ではないということを踏まえて、技術的保護手段とは何で、技術的保護手段の回避とはどのようなことを意味するのかを明確にしておかなければならないのである。(この点を明確にしないと、著作権法があたかもアクセスコントロール一般や視聴まで規制するようなことになりかねず、実質的にあらゆる情報の変換・暗号化及びその復元・復号の合法性・適法性が権利者の意思にかかるといった珍妙な解釈による萎縮が発生しかねない。個人的には合理的な説明は不可能だろうと考えているが、あくまで法律の話なので、あまり良いやり方ではないものの、アクロバティックな解釈による解決もあり得なくはない。)

 そして、刑事罰規定から不正競争防止法にならって「専ら」を取り、「当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る」という括弧書きをつける形に改めているが、正直このような変更も具体的にどのような意味があるのか良く分からない。

 今一度繰り返しておくが、私は改正案のこの部分は完全に棄てるべきと、かえって第30条第1項第2号自体撤廃するべきと思っていることに変わりはない。国会で著作権法のそもそもの立法趣旨や不正競争防止法との関係を含む今までの全ての検討経緯にまで踏み込んだ審議がされることを期待したいが、今の国会の混迷ぶりを見るにつけどうにも期待薄なのが残念でならない。条文上かなり不明な点の残る、技術的保護手段としてのアクセスコントロールとその回避の著作権法上の意味を明確化する審議だけでもしてくれれば良いが、どうなることかかなり不安である。

(3)国会図書館による配信、国立公文書館における利用に関する規定
 国会図書館による配信や国立公文書館における利用のための権利制限に文句を言う人間はさすがに一部の著作権団体を除いてあまりいないのではないかと思う。ここでは全ての条文をあげることはしないが、例えば、第31条第3項として、

(図書館における複製等)
第三十一条
(中略)
 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等において公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、当該図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、自動公衆送信される当該著作物の一部分の複製物を作成し、当該複製物を一人につき一部提供することができる。

という規定を、また、第42条の3として、

(公文書管理法等による保存等のための利用)
第四十二条の三 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十五条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により歴史公文書等を保存することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該歴史公文書等に係る著作物を複製することができる。

 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により著作物を公衆に提供し、又は提示することを目的とする場合には、それぞれ公文書管理法第十九条(同条の規定に基づく政令の規定を含む。以下この項において同じ。)に規定する方法又は公文書管理条例で定める方法(同条に規定する方法以外のものを除く。)により利用をさせるために必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。

という規定を追加し、この著作権法改正案で、絶版資料の国会図書館から各図書館への配信や、国立公文書間における保存・提示目的での利用などを著作権法上明確に合法化しようとしていることを私は高く評価したい。

 細々と問題点などを書いて来たが、今回の内閣提出の著作権法改正案が今後国会審議にかかるにあたり一番の懸案となりそうなのは、何と言っても自公と一部の権利者団体が狙っているダウンロード犯罪化との関係ではないかと私は考えている。並行してダウンロード犯罪化法案が提出されることになるのかも知れないが、この内閣提出の著作権法改正案の審議の中でも自公の議員がダウンロード犯罪化を求めてロクでもないことを言い出して来るだろうことは目に見えており、混迷する政治情勢の中、何がどうなるのか読めないところもあるが、様子を見て、今後も可能な限り与野党の国会議員に意見を伝えて行かなければならないと私も思っている。

(3月19日の追記:内容は変えていないが、文章に少し手を入れた。)

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