第258回:総務省・利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言」
この10月28日に、総務省から、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言~スマートフォン時代の青少年保護を目指して~」(pdf)(概要(pdf))が公表された(総務省のリリース参照。)
これまでの提言はかなり非道いものだったが、今回の提言は、総務省のリリースで、「本提言においては、主な内容として、青少年のインターネット環境整備について5つの基本方針を確立するとともに、スマートフォン等の多様なインターネット接続可能機器への対応等についてはフィルタリング提供義務規定を改正する等の法律による対応ではなく、民間による自主的な取組に期待するとされています」と書かれていることからも分かるように、全体的に表現の自由や通信の秘密を意識し、かなりまともで謙抑的な内容となっており、また、重要な論点を多く含んでいるので、ここでもざっとその内容を紹介しておきたいと思う。
まず、この提言(pdf)の5つの基本方針は、以下のようなものである。(赤字強調は私が付けたもの。以下同様。)
1.リテラシー向上と閲覧機会の最小化のバランス
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境を整備するため、あらゆる機会を利用して、青少年のインターネットを適切に活用する能力の向上を図る施策を行う。これを補完するため、青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための施策を行う。2.受信者側へのアプローチ
青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための施策は、インターネット上の自由な表現活動を確保する観点から、受信者側へのアプローチを原則とする。3.保護者及び関係者の役割
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境を整備する役割を担い、権利を持つのは、一義的にはその青少年を直接監護・教育する立場にある保護者である。ただし、保護者が単独でその役割を全うすることは困難なため、関係者は連携協力して保護者を補助する各々の役割を果たさなければならない。4.民間主導と行政の支援
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に当たっては、まずは、民間による自主的かつ主体的な取組を尊重し、これを更に行政が支援する。5.有害性の判断への行政の不干渉
いかなる情報が青少年有害情報であるかは、民間が判断すべきであって、その判断に国の行政機関等は干渉してはならない。
この5つの基本方針はごくごく当たり前のことを書いているに過ぎないが、この当たり前のことすら守れず、国でも地方でも、自分の気に食わない情報を勝手に有害として、この自分の気に食わない情報を潰すために情報統制・検閲を正当化しようと暴走する馬鹿な議員や官僚、首長が跡を絶たないのは本当に残念と言う他ない。
以下、さらにいくつか興味深い記載をピックアップして行くと、例えば、否定的な側面についても書いてはいるが、SNSについて、
SNSに代表されるCGMサービスは、青少年の自由な表現活動の場やコミュニケーション手段を提供するものであり、表現活動等の体験を通じて青少年の健全な育成にも寄与し得ると積極的に評価できる側面を有している。(第3ページ)
と、肯定的な側面も強調している点は、最近の行政の報告書としては珍しいように思う。
また、リテラシーが十分でない保護者への対応として、
リテラシーが十分でない保護者によって、安易なフィルタリングの不使用/解除がなされているとの指摘がある。こういった状況に対応するため、保護者の判断の制限(フィルタリング解除理由の制限や解除理由書の提出等)が検討され、一部地方公共団体の条例で規定されているところ、法律でも規定すべきとの指摘がある。
こういった取組は、フィルタリング普及に一定の効果をあげていると考えられる。しかしながら、基本方針に沿えば、まずは保護者の判断を尊重すべきであり、保護者が自らの教育方針等に基づきフィルタリング解除が適切と判断しても解除ができない場合があり得るというデメリットが生じることを斟酌すれば、当該取組は各地方の実態に鑑みた例外的な措置として捉えるべきである。なお、たとえ各地方の実態に鑑みた例外的な措置であっても、保護者の判断を完全に制限する取組(フィルタリング完全義務化)は、過度に保護者の判断を制限しており、行うべきではない。
もちろん、リテラシーが十分でない保護者が、十分な判断材料に基づかずにフィルタリングの解除を安易に判断するリスクへの対策は積極的に検討されるべきである。実際、フィルタリングをかけない場合の危険性についての認識やフィルタリングをかけた場合にもカスタマイズ等の選択肢があることについての認識がない事例はかなり多いと考えられる。しかしながら、対策は、保護者の判断権を必要以上に制限するのではなく、各関係者が保護者による判断を適切にサポートすることによって図られるべきである。(第22~23ページ)
と、逃げ道こそ残しているものの、最近、地方の青少年条例改正案で良く見かけるフィルタリング完全義務化について総務省がかなり否定的な見解を示している点は重要である。(総務省は地方自治も所管しており、各地方のパブコメなどでこの提言について言及して行くのも1つの手である。)
保護者による、青少年のインターネットの利用履歴の閲覧についても、
保護者には、法第6条において、青少年のインターネット利用状況を把握する責務が課せられているが、特に携帯電話インターネットについてはそのパーソナル性から、外出先や個室での利用等、保護者が利用状況を把握することが困難な場合がある。これを容易にするために、青少年本人の同意を前提として、保護者に対して、ウェブサイトの閲覧履歴やメールの送受信履歴を簡便に閲覧できるツールを利用可能にすべきとの指摘がある。
しかしながら、当該ツールは利用状況の把握に強力な効果を持つ一方、青少年の携帯電話インターネット利用に強い制約をもたらし、青少年のプライバシーへの強い制限となるため、当該ツールを直ちに利用可能とすることや、保護者に対して利用履歴の確認を奨励することは、適当ではないと考えられる。そもそも、保護者によるインターネット利用状況の把握は、青少年との会話によって本人から説明させることや、インターネット端末を利用している様子を家庭内で見守ることを基本とすることが適切である。(第23ページ)
と、否定的な見解を取り、ミニメール確認について、
通信の秘密の重要性、また通信の秘密の侵害に対する通信当事者の意思が通信ごとに変更しうる可能性に鑑みれば、通信の秘密の侵害に対する同意は、当事者が予測可能な範囲に限って有効である。これをミニメールという通信の形態について当てはめて考えてみれば、当事者の意思がミニメール一通毎に異なる可能性があること及びミニメールの内容確認が表現の自由やプライバシーに及ぼす影響にも鑑みて、ミニメールの内容確認に対する同意は、原則として通信ごと(ミニメール送信ごと)に取得する必要があると考えられる。よって、CGM運営者においては、ミニメール一通毎に発信時の画面表示にて通信当事者の有効な同意を取得した上で、ミニメールの内容確認を行うことが必要である。具体的には、ミニメール一通ごとに、ミニメールの内容確認により通信の秘密が侵害される態様の概要につき分かり易く通信当事者に対して表示した上で、同意を取得し、ミニメールの内容確認を行うことが望ましい。(第43ページ)
と、内容確認のためには原則としてメール1通毎に通信当事者の有効な同意を取得する必要があることを強調している点も評価できる。(第2次提言の整理に基づくデフォルトオンでのミニメール確認には問題があると私は考えてはいるが(第224回参照)。)
青少年ネット規制法そのものの是非についてまで踏み込めておらず、個人的に残念に思うところもない訳ではないが、上で抜粋した部分以外にも重要な論点が多く含まれているので、青少年ネット規制法問題について関心のある方は、この報告書も是非全文を読んでもらいたいと思う。
省庁にもよるが、ネットに関して行政が比較的まともな内容の報告書も出すようになって来ていることは、ネットの重要性が相対的に増して来たことを示しているのではないかと私は考えている。ネットと規制を巡る問題についてはおよそロクな動きがないが、必ずしも悪い話ばかりではない。全てはまだこれからである。
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