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2011年8月18日 (木)

第255回:ドイツの消費者団体の著作権法改正に関するポジションペーパー(日独のダウンロード違法化・犯罪化問題)

 今回はまた著作権問題を取り上げたいと思うが、ダウンロード違法化に刑事罰をつけようとする動きが出て来るなど(津田大介氏のツイート参照)、著作権界隈も相変わらずロクでもない話ばかりである。

 ダウンロード違法化・犯罪化が有害無益なのはドイツでほぼ立証済みの話だろうに、この期に及んでこのような規制強化案を持ち出して来る著作権団体ロビイストの悪逆非道な厚顔無恥にはほとほと呆れるしかない。

 今後のことを考えて行く上で何かの参考になるかも知れないと思うので、今回はドイツの現状を少しまとめて紹介したいと思うが、まず取り上げたいと思うのは、ドイツの混乱した状況を良く示しているだろう、この5月に公表されたドイツ中央消費者団体連合の、以下のような内容の著作権法改正に関するポジションペーパー(pdf)である(同連合のリリースも参照)。(いつも通り翻訳は拙訳。)

Statt fur Klarheit haben die zuruckliegenden Novellen des Urheberrechtes eher fur Verwirrung gesorgt und die Balance zwischen den Interessen der Urheber, der Rechteinhaber und der Nutzer zu Ungunsten der Nutzer aus dem Gleichgewicht gebracht. Der Verbraucherzentrale Bundesverband (vzbv) sieht den Trend, dass die Nutzungsmoglichkeiten von urheberrechtlich geschutzten Inhalten immer starker eingeschrankt werden.

Notwendig aus Sicht des vzbv ist eine grundsatzliche Reform des Urheberrechtes, um die vielseitigen Chancen der digitalen Welt zu nutzen, aber auch deren Herausforderungen zu bewaltigen. Das Urheberrecht und die Interessen der Urheber sind als Motor fur die Kreativwirtschaft und damit die kulturelle Vielfalt essentiell. Sie mussen gesichert und gefordert werden. Gleichzeitig ist es zwingend erforderlich, im Rahmen einer Neuausrichtung des Urheberrechtes auch die Bedurfnisse der Nutzer zu berucksichtigen. Ziel muss ein ausgewogenes Verhaltnis zwischen den Interessen der Nutzer, Urheber und der Rechteinhaber sein.

Aus Verbrauchersicht sollten folgende Aspekte uberdacht und im Rahmen einer Reform des Urheberrechtes berucksichtigt werden:

1. Die Interessen der Nutzer berucksichtigen

Die Nutzerinteressen sind als schutzwurdiges Ziel im Urheberrechtsgesetz zu erfassen. Der Name des Urheberrechtsgesetzes macht bereits deutlich, dass dieses gegenwartig in erster Linie den Urheber schutzt. Die Nutzerinteressen werden bislang nur im Rahmen von Ausnahmeregelungen zum Verwertungsrecht des Urhebers berucksichtigt. Diese Nutzungsmoglichkeiten werden oft durch Vertragsbedingungen und/oder den Einsatz technischer Schutzmasnahmen seitens der Urheber oder Rechteinhaber ausgeschlossen.

2. Privatkopie als wesentlichen Grundgedanken verankern
Das Recht auf Privatkopie ist rechtlich zu verankern. Es sollte ein wesentlicher Grundgedanke des Urheberrechtes sein, dass Nutzer zu privaten Zwecken eine Kopie anfertigen konnen. Dieses Recht darf nicht durch den Einsatz von Kopierschutzprogrammen oder durch Allgemeine Geschaftsbedingungen ausgehebelt werden. Der Inhalt der Regelung zur Privatkopie muss klar und verstandlich formuliert sein. Die derzeitige Regelung ist fur die Nutzer kaum noch verstandlich. Regelungen, die von den Adressaten nicht verstanden werden, konnen auch nicht befolgt werden.

3. Weiterverkauf von digitalen Inhalten ermoglichen
Nutzer mussen die Moglichkeit erhalten, legal erworbene digitale Inhalte weiter zu verkaufen. Die gegenwartige Situation fuhrt wegen der Ungleichbehandlung von "korperlichen" (z.B. ein Buch) und "unkorperlichen" (digitalen) Werken zu unangemessenen Folgen fur die Verbraucher. Aus Sicht der Verbraucher macht es keinen Unterschied, ob sie beispielsweise ein Buch oder ein eBook erwerben. Verbraucher bezahlen fur den Erwerb des Werkes und dafur, dass sie dauerhaft und frei hieruber verfugen konnen.

4. "Kreativitat der Masse" zulassen
Verbraucher sind in der digitalen Welt nicht nur Nutzer, sondern schaffen auch zunehmend eigene kreative Inhalte (user generated content). Oft werden hierfur urheberrechtlich geschutzte Inhalte verwendet. Die gegenwartigen Regelungen im Urheberrechtsgesetz sind nicht geeignet, dieses Phanomen der "Kreativitat der Masse" zu regeln. Hier mussen gesetzliche Losungen gefunden werden, um diesen Formen der Gestaltung und diesen Kulturpraktiken einen angemessenen Raum zu geben.

5. Abmahnkosten fur Verbraucher begrenzen
Die Begrenzung der Abmahnkosten auf 100 Euro muss sich explizit auch auf Abmahnungen aufgrund von Urheberrechtsverletzungen in Tauschborsen beziehen. Die Erfahrung zeigt, dass Urheberrechtsverletzungen im Internet auch nach der Einfuhrung der Regelung zur Begrenzung der Abmahnkosten immer noch mit unverhaltnismasig hohen zivilrechtlichen Forderungen sanktioniert werden. Ein Grund ist, dass der dringendste Fall von massenhaften Abmahnungen - Verletzungen von Urheberrechten in Tauschborsen - nicht ausdrucklich in den Gesetzesmaterialien genannt wird. Auserdem muss die Begrenzung auch fur Personen gelten, die die Rechtsverletzung selbst nicht begangen haben, aber als sogenannter Storer haften. Klassischerweise sind dies die Eltern, die als "Anschlussinhaber" fur ihre Kinder haften.

6. Vielfalt von Online-Inhalten fordern
Die Vielfalt von legalen Angeboten mit Online-Inhalten (Musik, Filme etc.) sollte gefordert werden, um den Verbrauchern einen Zugang zu einer breiten Palette von Inhalten anbieten zu konnen. Dabei sollten Verbraucher die Moglichkeit haben, diese Inhalte grenzuberschreitend, zu jeder Zeit, zu fairen Preisen und transparenten Nutzungsbedingungen zu nutzen. Hierfur muss die Moglichkeit fur gewerbliche Anbieter vereinfacht werden, grenzuberschreitende Lizenzen zu erwerben.

著作権の今までの改正は、その合理化になっておらず、混乱をもたらしており、著作者・権利者の利益と利用者の利益の間で、そのバランスは利用者にとって不利な形で均衡を失している。ドイツ中央消費者団体連合は、著作権の保護を受けるコンテンツの利用可能性が一層制限されて行くという傾向を見ている。

デジタル社会における様々なチャンスを利用可能として、なおその挑戦を乗り越えるためには、著作権の根本的な改正が必要不可欠と、我々ドイツ消費者団体連合は見ている。著作権と著作者の利益は創造的経済の原動力であり、文化的な多様性も必須のものである。同時に、著作権の改正方針において、利用者の要求も考慮に入れることが絶対に必要である。利用者の利益と、著作者・権利者の利益の間の正しいバランスの回復が目的とされなくてはならない。

消費者から見て、次の観点が考察され、著作権法の改正検討において考慮されるべきである:

1.利用者の利益の尊重

 著作権法において、利用者の利益を保護に値する法益として規定するべきである。著作権法という名前により、既に、この法律が現在まず第一に著作者の保護をするものであることは明確に示されている。利用者の利益は、今までのところ著作者の利用権の例外規則の枠内でしか考慮されていない。著作者又は権利者による契約条件及び/又は技術的保護手段の導入のために、この利用権が排除されてしまっていることが多い。

2.私的複製を重要な権利として保障すること
 私的複製の権利を法的に保障するべきである。利用者が私的な目的のためにコピーを作成できることは、著作権において重要かつ基本的なこととして認められなければならない。この権利は、コピー保護プログラムの導入又は一般的な契約条件によって排除され得るものであってはならない。私的複製に関する規則の内容は、明確に良く分かる形で規定すること。現在の規則は、利用者にとってほとんど理解し難い。対象とする者に理解できない規則は、守られようがない。

3.デジタルコンテンツの再販売要求の可能化
 利用者は、合法的に入手したデジタルコンテンツの再販売を求めることができなければならない。昨今の状況において、「有体物」(例えば、本)の作品と「無体物」(デジタルの)の作品の間の不公平のために、消費者にとって不適当な結果がもたらされている。消費者から見たとき、例えば、本を手に入れたか電子ブックを手に入れたかで区別はない。作品を入手するために消費者は支払っているのであって、したがって、消費者はその作品を長期間、自由に使えるべきである。

4.集団的創作の許容
 消費者は、デジタル世界にあっては、利用者であるだけでなく、独自の創作的コンテンツ(User Generated Content)をますます作成している。そのために、著作権によって保護されるコンテンツを利用することも多い。著作権法における現在の規則は、この「集団的創作」という現象を規定するのに不適切である。ここで、この形式とこの文化的現象に適切な場を与えるために、法的解決が図られなくてはならない。

5.利用者に課される警告費用の限定
 100ユーロへの警告費用の制限とファイル交換における著作権侵害を理由とした警告との関係が明確にされなければならない。警告費用制限の規則の導入後、バランスを欠くほどに高額の民事的要求によって、やはりなおインターネットにおける著作権侵害が罰されていることが経験的に示されている。大量の警告という緊急事態-ファイル交換における著作権の侵害-が、法令において明確に想定されていないことが1つの理由である。さらに、自ら権利侵害を行った訳ではないが、このいわゆる侵害について責任を持つ者に対する限定もなされるべきである。原則的には、親が、「加入者」として、子供についても責任を有しているのである。

6.合法的なオンライン・コンテンツの多様化
 コンテンツの幅広い選択肢へのアクセスが消費者に提供されるよう、オンライン・コンテンツ(音楽、映画等々)の合法的な提供の多様化がなされるべきである。そこにおいて、このコンテンツは、国境なく、常に、公正な価格、透明な利用条件で、消費者に利用可能とされるべきである。そのため、商業的な提供者に国境を越えたライセンスが容易に入手可能とされなくてはならない。

 より細かなことが気になるようであれば法的な問題をまとめた詳細版(pdf)を読むことをお勧めするが、上のポジションペーパーを読んでもそれなりに分かるように、要するに、ドイツは、2007年に、ダウンロード違法化・犯罪化を世界に先駆けて行ったものの、刑事訴訟の乱発を招き、裁判所・警察・検察ともに到底捌ききれない状態に落ち入ったため、2008年に再度法改正を行い、民事的な警告を義務づけ、要求できる警告費用も限定したが、やはり情報開示請求と警告状送付が乱発され、あまり状況は改善せず、消費者団体やユーザーから大反発を招いているという状態にあるのである。(2008年の法改正については、第97回など参照。ドイツにおける民事警告の現状については、著作権警告対策組合がまとめてくれているが(その2010年のまとめ参照)、ここでまとめられているだけでも、ドイツでは、500から1000ユーロ程度を要求する警告状が年約60万人のユーザーに送付されるというかなりどうしようもない状態にあることが分かる。また、ISP団体の報告によると、月に30万のユーザー情報の開示が行われているらしい(pressemitteilungen-online.deの記事参照)。裁判所や弁護士事務所、ISPや権利者団体がこれだけの数のケースを処理しているとなると、中には本当に著作権侵害をしているのかどうか疑わしいものが相当数混じっているのではないかと私は思う。)

 また、ドイツ音楽産業協会が、音楽産業統計として以下のような図を出しているが(ドイツ音楽産業協会のHP参照)、この図を見ても分かるように、ドイツでも、ほぼCDなどの販売の減少とデジタル配信の増加という世界的に見られる傾向が順当に出ているだけであり、過去の法改正による有意な差は見られない。(ドイツでも著作権団体ロビイストは、デジタル配信の伸びを法改正に結びつけようとしている節はあるが、ドイツの著作権法改正もトリッキー過ぎて一般ユーザーの理解を超えているので、法改正などより、DRM撤廃や配信カタログの充実などの法的以外の環境改善や経済情勢の方がこのデジタル配信の増加には圧倒的に効いているだろう。仮に彼らの言う通り、法改正が大きな影響をもたらしていると仮定したら、この2007年から2010年の間の著作権法の朝令暮改でかなり大きな動揺があって良いはずだが、そのような変動は見られない。)
Abb1umsatzdigitalverkaeufe
 同じくドイツ音楽産業協会が、CD-R等に関する調査2010(pdf)において、違法ダウンロードが減ったという宣伝をしているが、これも単なるアンケートによるもので、日本の権利者団体のものと同じく、「無料=違法」といった完全に間違った理解に基づいて結果をまとめていたり、別の報告(同協会のリリース参照)では被害は増えると言っていたりとあまり信頼のできるものとはなっていない。(ただし、上で書いたようにドイツにおける警告送付の現状はほとんどP2Pユーザーに片っ端から送っているような状態ではないかと思うので、P2P利用自体に対する萎縮が発生している可能性はあるが、それはそれで間違っているだろう。なお、このアンケート結果も、よく見ると、P2Pを利用するという回答こそ減っているが、ホームページから無料でダウンロードするといった回答はかえって増えていたり、音楽のダウンロード自体が全体として減っているように見えたりと、著作権団体が恣意的に抜き出した部分以外まで含めて見るとなかなか興味深いところもある。)

 さらに、日独の比較で言えば、ドイツのダウンロード違法化・犯罪化が要するにP2P対策としてなされたもので、元から公衆送信権又は公衆送信可能化権で対応できている日本とは状況が異なることにも注意する必要がある。ドイツでも、P2P以外での単なるダウンロード、本当の意味での単なるダウンローダーが逮捕・刑事告訴されたケースや民事訴訟を起こされたケースは1件もないのである。(ここでは何度も書いているのであまり繰り返さないが、単なるダウンロード・情報アクセスは基本的に他人が知り得ない情報であり、ダウンロード違法化・犯罪化には本質的にエンフォース不能という乗り越えがたい問題が存在している。)

 3年以上前に、国際動向として、「ダウンロードを明確に違法化し、かつそれを無理にでも法規範たらしめようとしている国はドイツくらいであり、それも全くうまくいっていない」と書いたが、今でもダウンロード違法化・犯罪化を巡る国際的な状況はあまり変わっていない。ドイツが、ダウンロード違法化・犯罪化後に刑事訴訟回避のための法改正を経てもなお混乱を重ね、上で取り上げたポジションペーパーにも書かれているように消費者・利用者保護が大々的に唱えられ、ドイツ連邦議会のインターネット委員会がダウンロード合法化を提言するなどspiegel.deの記事参照)、ダウンロード合法化の話まで出て来ている中で、日本国として、ダウンロードを犯罪化するなどと、わざわざドイツが最初につまづいたところに自ら踏み込もうとするとは私には正気の沙汰とは思われない。

 ダウンロード違法化を決定した、平成19年12月18日の文化庁の文化審議会・著作権分科会・私的録音録画小委員会でも(小委員会の議事録参照)、当時座長だった中山信弘先生が、この問題について、

 一番大事なのはやはり利用者の保護であり、不意打ちをくらうということがないという配慮が必要でしょう。情を知ってとか故意という要件が入るので、それは恐らく一番大きな利用者保護になるでしょうし、実際の訴訟を考えてみますと、警告をするといったって警告するときはダウンロードは終わっていますから、合法なダウンロードは警告で違法になることはないわけですね。ずっと継続的にやっているような人に対しては警告の意味があるかもしれませんけれども。そうなると余り訴訟としてどれぐらい使えるかという問題の疑問はあるのですけれども、先ほどどなたかおっしゃいましたけれども、違法にすることによる国民の意識の変化は期待できるかもしれませんし。
 恐らく一番大きな問題は、You Tubeのような投稿サイト等、あれいくら違法な投稿を削ったってまずなくならでしょう、絶対不可能なんですけれども、ああいうものを合法のほうに取り込んでいくかという場合、ダウンロードを違法としておくことは意味があるのかなとか。そういう広い意味はあろうかと思いますけれども。恐らく個々の国民がこれでひどい目に遭うということは多分ないだろうと思います。刑事罰もついておりません。アップした人には刑事罰が科せられますがダウンロードには刑事罰がついておりませんので、まあこれに関しては一般のユーザーはそれほどひどい目には遭わないだろうという感じはしております。

と述べているが、裏を返して言えば、ダウンロード違法化に刑事罰がつくと一般ユーザーがひどい目に会う可能性があるということである。無意味にユーザーをひどい目に合わせたい方はそれで良いかも知れないが、ひどい目に合わされる方はたまらない。日本の知的財産法学界の重鎮にしてこの発言があるのであり、軽々なダウンロードの犯罪化は日本の法学界の顔にも泥を塗ることになる。刑事罰をつけるということは、それまで民事的な解決を図れば良いとしていたところについて、そのエンフォースのコストを行政・税金に転嫁し、人を犯罪者にすることを意味するのであり、この刑事罰の問題は非常に重い。各省庁の検討などを見ても、最近は刑事罰の付加が軽く取り扱われ過ぎているように思うが、この問題は決して軽々に取り扱って良いものではない。(ダウンロード違法化問題において、インターネット利用者を皆犯罪者予備軍にするつもりかと、津田大介氏が言われていた記憶があるが、ダウンロード犯罪化は、インターネット利用者を全員犯罪者にすることに等しいだろう。実際に誰を捕まえ訴追するかは、権利者団体と警察・検察の手に委ねられ、恣意的に決定されることになる。)

 人の一生を恣意的に左右することになりかねないこのような重大な問題に対して、ロビー活動をしている日本レコード協会などがどう考えているかというと、今年の7月7日の文化庁の法制問題小委員会でも、抑止効果がどうとか相変わらず法改正の理由たり得ないことをぼつぼつ言っていたようであり(hideharus氏のツイート参照)、その法律的な不見識には呆れるばかりである。大体、権利者として、民事訴訟すら一件も起こさないまま、さらに刑事罰の付加を求めること自体おかしいだろう。

 ダウンロード違法化問題があれだけ大きな注目を集めて以降、日本レコード協会などは、今度は公開の場での議論を回避しようと、国会議員へのロビー活動でこそこそと議員立法によるダウンロードの犯罪化を狙っているようだが、国民的な議論を避け、法学界の顔にすら泥を塗り、ほぼ全国民を犯罪者に仕立て上げられるようにしようとは、どちらが犯罪的だか知れたものではない。かえって、過去の法改正における過ちを是正するべく、ダウンロード合法化の議論こそ早急に開始するべきと私は考えているくらいで、個人的には、ダウンロード犯罪化ようなロクでもない法改正が永遠になされないことを願っている。ただ、国会議員の先生方の良識に期待したいところで、今の混沌とした政治情勢では、どうにも先が読めないのが不安である。

(2011年8月19日の追記:少しだけ文章を整えた。)

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2011年8月 9日 (火)

第254回:民主党の新たな児童ポルノ法改正案全文の転載

 最近の動きについては「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」などを読んでもらえれば十分だとは思うが、念のため、ここでも民主党の新たな児童ポルノ法改正案(衆議院HPの経緯議案参照)を転載しておく。

 既に今日から衆議院法務委員会での審議に入っており、今後の動向に気をつけて行かなければならないが、この民主党の新たな法改正案は、定義の問題こそ多少残るものの、実質2ストライク法案だった前の改正案(第162回参照)と比べて、

  1. 取得罪の要件が、「有償で又は反復して取得」から「対償を供与し又はその供与の約束をして反復して取得」とされた点(「有償又は反復」か「有償かつ反復」かで条件は大きく異なる。)
  2. 「架空のものを描写した漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等」が児童ポルノ法の規制対象外であることが条文上明確にされた点、
  3. 「専ら医学その他の学術研究の用に供するもの」に対する適用除外が設けられた点、
  4. 附則で、児童ポルノの取得・所持等を処罰する地方条例規定の失効を規定した点、
  5. 製造罪において、複製して製造する場合が除かれた点(マニアックな点なので、あまり騒がれていなかったが、製造罪において「姿態をとらせ」の要件を除く場合、このように複製を除かないと、単なる複製が製造とされ得るため、製造罪で実質的に単純所持・取得罪と同じ行為が処罰されるということになりかねない。)

で格段に良くなっている。民主党の先生方が、このかなり特殊な法律の問題点を理解して、このような案をまとめて下さったことを私も有り難く思う。(自公案については、前と同じで全くお話にならないが。)

 震災後の延長国会で何故児童ポルノ法の改正を審議をするのかという根本的な疑問は拭えないが、審議するのであれば、与野党の間で修正協議と称して密室協議に入ることなく、きちんと公開される国会の場で、現行法の問題点についても含め、徹底的な議論がなされることを願っている。今日の衆議院法務委員会(衆議院のインターネット審議中継参照)は主旨説明だけだったが、今後の各党の動向や次回以降の法務委員会の審議には、本当に要注意である。

(以下、法改正案の転載。)

(1)理由
 児童ポルノに係る問題により適切に対処するため、児童ポルノの定義を明確化するとともに、みだりに児童ポルノを有償でかつ反復して取得すること等を処罰する規定を設けることとし、あわせて心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策を推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

(2)要綱
第一 児童ポルノの定義の明確化等

 児童ポルノ等の定義からの学術研究の用に供するものの除外(第二条第三項並びに新第七条第一項及び第三項関係)
 児童ポルノ及びこれに係る電磁的記録等の定義から「専ら医学その他の学術研究の用に供するもの」を除くこと。

 児童ポルノの定義の明確化(第二条第三項第二号及び第三号関係)
 いわゆる二号ポルノの定義を「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって殊更に性欲を興奮させ又は刺激するもの」に、いわゆる三号ポルノの定義を「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、殊更に性欲を興奮させ又は刺激するもの」に改めること。

第二 適用上の注意規定の明確化等
 適用上の注意規定の明確化(第三条第一項関係)
 この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならないものとすること。

 解釈規定の新設(第三条第二項関係)
 この法律のいかなる規定も、架空のものを描写した漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等を規制するものと解釈してはならないものとすること。

第三 児童ポルノ等取得罪の新設等
 児童ポルノ等取得罪の新設(新第七条第一項及び第十条関係)
 みだりに、児童ポルノを対償を供与し又はその供与の約束をして反復して取得した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとすること。みだりに、これに係る電磁的記録等を対償を供与し又はその供与の約束をして反復して取得した者も、同様とすること。
 1に係る国民の国外犯は、これを処罰するものとすること。

 児童ポルノ製造罪の処罰範囲の拡大(新第七条第四項関係)
 提供目的以外の児童ポルノの製造の罪について、意図的に児童に一定の姿態をとらせて製造した場合に限らず、盗撮等の場合にも処罰範囲を拡大すること。

第四 心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する制度の充実及び強化
 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を講ずる主体及び責任の明確化(第十五条関係)
 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を講ずる主体として、厚生労働省、法務省、都道府県警察、児童相談所及び福祉事務所を例示し、措置を講ずる主体及び責任を明確化すること。

 心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等(新第十七条関係)
 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとすること。
 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議の厚生労働大臣又は関係行政機関に対する意見具申及び意見具申があった場合の厚生労働大臣又は関係行政機関が講ずる措置に関する規定を置くこと。

第五 施行期日等
 施行期日(附則第一条関係)
 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行すること。

 罰則に関する経過措置(附則第二条関係)
 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によること。

 条例との関係(附則第三条関係)
 地方公共団体の条例の規定で、児童ポルノを取得し、又は所持する行為、これに係る電磁的記録等を取得し、又は保管する行為等を処罰する旨を定めるものの当該行為に係る部分は、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとすること。
 1により条例が効力を失う場合において、当該地方公共団体が条例で別段の定めをしないときは、その失効前にした行為の処罰については、なお従前の例によること。

 その他
 その他所要の規定の整備を行うこと。

(3)法改正案(赤字強調部分が追加部分)
(前略)

(定義)
第二条
 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの(専ら医学その他の学術研究の用に供するものを除く。)をいう。
 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって殊更に性欲を興奮させ又は刺激するもの
 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、殊更に性欲を興奮させ又は刺激するもの

(適用上の注意)
第三条  この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。

(適用上の注意等)
第三条 この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。

2 この法律のいかなる規定も、架空のものを描写した漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等を規制するものと解釈してはならない。

(中略)

(児童ポルノ取得、提供等)
第七条 みだりに、児童ポルノを対償を供与し又はその供与の約束をして反復して取得した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。みだりに、電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録(専ら医学その他の学術研究の用に供するものを除く。次項及び第五項において同じ。)を対償を供与し又はその供与の約束をして反復して取得した者も、同様とする。

 児童ポルノみだりに、児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線みだりに、電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。

 前項に掲げる行為の目的で、みだりに、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録(専ら医学その他の学術研究の用に供するものを除く。第六項において同じ。)を保管した者も、同様とする。

 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係るみだりに、児童ポルノを製造(これを複製して製造する場合を除く。)した者も、第一項第二項と同様とする。

 児童ポルノみだりに、児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線みだりに、電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

 前項に掲げる行為の目的で、みだりに、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

 第四項第五項に掲げる行為の目的で、みだりに、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

(中略)

(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条まで、第六条、第七条第二項から第七項まで及び前条の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

(国民の国外犯)
第十条  第四条から第六条まで、第七条第一項から第五項第六項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三条 の例に従う。

(中略)

(教育、啓発及び調査研究)
第十四条 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの取得、提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ鑑み、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの取得、提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
第十五条 関係行政機関厚生労働省、法務省、都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。

 関係行政機関は、前項前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。

(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
第十七条 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。

2 社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。

3 厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な措置を講ずるものとする。

(国際協力の推進)
第十七条第十八条 国は、第四条から第八条までの罪に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。

(4)附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。

(経過措置)
第二条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(条例との関係)
第三条 地方公共団体の条例の規定で、この法律による改正後の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下この項において「新法」という。)第二条第三項に規定する児童ポルノを取得し、若しくは所持する行為、新法第七条第一項に規定する電磁的記録その他の記録を取得し、若しくは保管する行為又は新法第七条第四項の規定に違反する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。

 前項の規定により条例の規定がその効力を失う場合において、当該地方公共団体が条例で別段の定めをしないときは、その失効前にした違反行為の処罰については、その失効後も、なお従前の例による。

(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部改正)
第四条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)の一部を次のように改正する。
 第三十五条及び第三十五条の二中「第七条」を「第七条第二項から第七項まで」に改める。

(厚生労働省設置法の一部改正)
第五条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
 第七条第一項第四号中「(昭和二十二年法律第百六十四号)」の下に「、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)」を加える。

(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正)
第六条 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。
 別表第七十号中「第七条第四項から第六項まで」を「第七条第五項から第七項まで」に改める。

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