第252回:知財計画2011の文章の確認
今現在何と言っても気になるのは参議院法務委員会でのウィルス作成罪創設を含むサイバー刑法(コンピュータ監視法案)の審議の行方だが、今年も、知的財産推進計画2011(本文(pdf)、概要(pdf))が知財本部で決定されている。もはやこの計画も本部も存在意義が良く分からなくなっているとは言え、この知財計画は、例によって政府内で今年何が検討されるのかということを見る分には便利な資料なので、個人的に気になるところを確認しておきたいと思う。
今年の知財計画(pdf)では、「Ⅰ 時代の大きな変化と知財イノベーションの必要性」(第2ページ~)でほとんど意味不明のお題目が書かれた後、「Ⅱ グローバル・ネットワーク時代の新たな挑戦を支える4つの知的財産戦略」(第8ページ~)で、いつも通り検討項目がいろいろ並んでいる。
今年かなりの大改正をやってしまった所為か、地道な運用改善か、さもなくばそこまで害になるとも思えないがあまり役に立つとも思えない施策の並ぶ特許の話はここではおくとして、まず気になるのは、第16ページの、
・意匠の保護対象拡大
3Dデジタルデザインを含む意匠の保護対象拡大について検討し、結論を得る 。(短期)(経済産業省)・商標の保護対象拡大
音や動きを含む新たな商標への保護対象拡大について検討し、速かに結論を得る。 (短期)(経済産業省)
という部分だろうか。相変わらず法改正ニーズも良く分からないまま、商標や意匠の保護範囲の拡大が今後も検討されると見える。(商標と意匠のことなので、担当省庁は特許庁だろう。)
第23ページ以下の「3.最先端デジタル・ネットワーク戦略」で、電子書籍の市場整備の加速化や知的資産のアーカイブ化なども今の状態ではなるべく役所が介入しない方がかえってうまく行くのではないかと思うが、第25~27ページ中に、
・クラウド型サービスの環境整備
我が国におけるコンテンツのクラウド型サービスの環境整備を図るため、法的リスクの解消も含め、著作権制度上の課題について整理し、必要な措置を講ずる。(短期)(文部科学省)・インターネット上の著作権侵害抑止
インターネット上でグローバルに流通する著作権侵害コンテンツを抑止する観点から、正当な権利者に関する情報を共有する仕組みを構築するため、国際的枠組での検討を進める。(短期)(文部科学省、経済産業省)
著作権侵害が多発する海外のサイトに監視、民間企業の自主的な措置も含め、総合的な対策を検討し、結論を得る。(短期)(総務省、文部科学省、経済産業省)
二国間政府協議や知的財産保護官民合同代表団(政府と国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)により構成)の派遣を通じ、侵害発生国に対して著作権侵害コンテンツ対策の強化を働きかける。また、海外のプロバイダーに対し、著作権侵害コンテンツを削除させるため、民間企業によるー般社団法人コンテツ海外流通促進機構(CODA)の活用を促進する。(短期)(経済産業省 、文部科学省、総務省)・創作基盤としての二次創作の円滑化
パロディに関する法的課題を検討するとともに、インターネット上の共同創作や二次創作の権利処理ルールの明確化のための取組を勧める。(短期)(文部科学省、経済産業省)・デジタルコンテンツの活用促進
インターネット上で、個人が既存のコンテンツの一部を紹介することや二次創作を円滑化し、デジタルコンテンツの活用を促進するため、包括契約のベストプラクティスを紹介するとともに、権利侵害についての民間コンセンサスの形成に向けた取組を支援する。(短期)(文部科学省)
といった項目が並んでいるのは見逃せない。クラウド型サービスやパロディに関する法的整理はできればやった方がいいことには違いないのだが、その検討をするのが文化庁(文化審議会著作権分科会)になるだろうことを忘れてはいけない。今のところ規制強化を前提とする書き方はされていないが、文化庁での検討はまずもってロクでもない規制強化に流れる恐れが強く、恐らく3ストライクポリシーなどが蒸し返されるだろうインターネット上の著作権侵害防止策の検討と合わせて、文化庁中心に進むだろうこれらの検討について注意しておくに越したことはない。
第28ページ以下の、「4.クールジャパン戦略」では、クールジャパン関連産業が2009年の4.5兆円から2020年に17兆円になるという数字も謎だが、ほとんどどうでも良い項目が並ぶ中で、制度的な話として、第32ページに
・地理的表示保護制度の導入検討
高品質な我が国の農林水産物や食品について、そのブランドイメージを保護し、その輸出促進を図るため、農林水産物・食品に係る地理的表示(Geographical Indications、GI)の保護制度の導入に向けた検討を行い、結論を得る。(短期)(農林水産省、経済産業省)
と地理的表示保護制度導入の話が、第33ページに、
・ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称))の参加促進
ブランドの価値を国際的に守るため、アジアをはじめとする諸外国に対し、ACTAの参加拡大を促す。(短期・中期)(外務省、経済産業省、文部科学省、総務省、法務省、財務省)
と例によって海賊版対策条約の話が載っていることは注意しておくべきだろう。
また、同じ第33ページで、
・クールジャパンに関する諸外国の規制緩和・撤廃
アジア市場をはじめとする諸外国におけるコンテンツや食に関する規制の緩和・撤廃を強く働きかけ、実現する。(短期・中期)(外務省、経済産業省、総務省、文部科学省、農林水産省)
と書かれているのは良いとしても、コンテンツ規制ということでは、諸外国以前に、まず国内での児童ポルノや青少年を理由とした訳の分からない規制強化の動きを止めることの方が先決だろう。
クールジャパンということでは、一緒に公表されているクールジャパン推進に関するアクションプラン(本文(pdf)、概要(pdf))で、「クールジャパンの推進は、東日本大震災からの日本の復興を加速させるために重要である。コンテンツ、ファッション、各地の祭りといったクールジャパンは、日本全体を覆いかねない自粛ムードや負のイメージを打ち破り、国内外の人々を明るく元気にする力を持っている」(第2ページ)と言うこと自体は良いのだが、日本政府が実際にやっていることは、コンテンツで日本を元気にしようとするどころか、児童ポルノを理由とした情報規制の強化(警察庁の実質的な押しつけにより、4月から実質的な検閲に他ならない民間ブロッキングが開始)、ウィルス作成罪創設を含むサイバー刑法(コンピュータ監視法案)の審議のごり押し(法務省が法案作成を主導。参議院法務委員会で審議中)、青少年を理由とした表現規制の強化(改正東京都青少年条例が7月に本格施行。これも推進しているのは実質的に警察官僚)と正反対の表現弾圧・情報統制の強化なので、どうしようもない。
今回の知財計画は、前回と比べて規制強化的な項目がさらに減っていること自体は良いとしても、国としての戦略はやはりないに等しく、今年もまた知財・情報政策については迷走の年になるとしか思えない。本当の意味で情報・知財に関する問題点の認識が浸透し、政策決定にまで反映されるようになるまでには、残念ながら、まだまだ時間がかかるのだろう。
これも前の提言案と比べると格段に規制強化的な色彩が落ちているが、総務省から、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」提言(案)に対する意見募集(電子政府の該当ページ参照)が7月7日〆切でかかっているので、最後に一緒に紹介しておく。
(2012年5月30日の追記:誤記を1カ所見つけたので修正した。(「デジタルザイン」→「デジタルデザイン」))
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