第249回:知的財産権の側面から見た各国の自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)の概況
前回の続きで、やはり非常にマニアックな話になるが、知的財産権の側面から見た各国の自由貿易協定(FTA)・経済連携協定についてざっと書いておきたいと思う。(言葉の定義上は、FTA(Wiki)が貿易の自由化に関する協定で、EPA(Wiki)がそれより広い範囲での経済連携を目指すものとなっているようだが、FTAと称するものには知的財産権に関する規定がないかというとそんなこともないので、ここではあまり区別しない。)
各国間の貿易協定は世界貿易機構(WTO)に通知されることになっているので、WTOのHPを見れば、大体世界各国でどのように協定が結ばれているかを見ることができる。これに加えて、日本の外務省HP、財務省HP、経産省HP、農水省HP、国家戦略室HP、他国だと主立ったところで、アメリカ政府のHP、欧州連合(EU)のHP1、HP2、中国政府のHP、韓国政府のHP、オーストラリア政府のHP、カナダ政府のHPなども参考になる。
知財はほとんどの国のFTA・EPAで大体おまけのような扱いで、上のリンク先に載っている、日本が今まで結んで来たEPAでも、知的財産権に関しては、一般原則や協力の促進、既存の条約の確認レベルの話がほとんどであり、取り立ててどうこうということはあまりない。(多少細かなところで言いたいことがなくもないが。)
ただ、今までの協定がそうだったからと言って、今後の検討についてまでこのようなレベルの話に落ち着くことが保証されるなどということはなく、特に、前回も書いたように、TPP交渉にアメリカが参加していること、また、日本政府として日欧EPA交渉のための検討を開始するとしていることが、著作権問題に対して非常に大きな意味を持って来る可能性があると私は思っている。
例えば、アメリカが今まで結んで来たFTAなどの内容は、上のリンク先などで確認できるが、オーストラリア、バーレーン、ドミニカ共和国、チリ、コロンビア、韓国、モロッコ、オマーン、パナマ、ペルー、シンガポールと、ヨルダンを除きあらゆる国との間のEPAに著作権保護期間を少なくとも70年とする規定を入れ込むなど、アメリカは例によってEPAを通じても他国への知財規制の強化の押しつけに並々ならぬ熱を入れていると容易く見て取れるのである。(オマーンに対しては95年という不当に長い法人の著作権保護期間まで押しつけている。)
また、これに比べると欧州はおとなしめではあるが、つい最近の欧韓EPAで著作権保護期間を少なくとも70年とする規定を入れて来ており、やはり欧州もこうした規制強化の押しつけに熱心であると知れる。
日本政府は、他にも、オーストラリア、インド、ペルー、モンゴル、GCCなどとEPA交渉を進めているようだが、保護期間延長問題との絡みでは、オーストラリア・チリ間のFTAにも著作権保護期間を少なくとも70年とする規定が含まれており、オーストラリアとのEPA交渉でも保護期間延長問題が取り沙汰される可能性があるかも知れない。
FTA・EPAを通じた知財規制の強化・著作権の保護期間延長の押しつけに何と言っても熱心なのがアメリカで、欧州がそれに次ぐというのが、私が見たところのFTA・EPAと知的財産政策を巡る今現在の概況である。EPAなりの交渉を通じて欧米が日本に対して何を言い出して来るかは不明だが、今までの協定の内容から見て、恐らく、著作権保護期間延長、DRM回避規制強化、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の間接侵害責任/ノーティス&テイクダウン制度、法定賠償制度といったところが今後知財絡みで特に問題となって来るのではないかと思う。(米韓FTAと欧韓EPAの内容を見ると、韓国は欧米の極めて厳しい知財規制の強化を丸呑みしている。これで韓国の著作権法がかなり悲惨なことになっているのは想像に難くなく、その影響は今後じりじりと出て来るだろう。)
前回も書いたことだが、EPA交渉も海賊版対策条約(ACTA)と同じく国際交渉として、やはり秘密裏にポリシーロンダリング・国際マッチポンプのために使われる恐れがある。このようなEPA交渉について、全体として日本にどうメリットをもたらし、そのために関税という利権の塊を政治的にどう整理するつもりなのかどう見てもさっぱり分からず、今年延々騒ぐだけ騒いだあげく欧米とのEPA交渉に関する検討は国内的に頓挫するのではないかと個人的には踏んでいるが、その渦中に知財問題が巻き込まれる恐れも十分にあり、パブコメなどの機会をとらえて政府に釘を差しておいた方が良いと私は考えている。
次回は、知財計画パブコメの提出エントリをじきに載せるつもりである。
(2月2日の追記:twitterでコメントをもらったので、少し上の文章に手を入れた(「70年」→「少なくとも70年」)。一通り各国のFTAを見ると、その国に保護期間延長を押しつけたということでは必ずしもないが、アメリカとのFTAに圧倒的に多く著作権保護期間規定が含まれているということである。)
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