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2011年2月22日 (火)

番外その28:サイバー犯罪条約とウィルス作成罪他

 しばらく番外として海外のコンピュータ犯罪関連法制のことを取り上げて行きたいと思っているが、その前に、共謀罪等から切り離した形で国会へ提出される予定らしいウィルス作成罪法案の前提として、今回は、サイバー犯罪条約と前の刑法改正案の問題について書いておきたいと思う。

 外務省のHPにある通り、サイバー犯罪条約は2001年11月に採択されたものである。その後、2003年4月から8月まで関連法改正について法務省の法制審議会・刑事法(ハイテク犯罪関係)部会で議論され、2004年2月に刑法改正案が国会が提出され(法務省のHP参照)、2004年4月に条約については国会で承認されたが、関連法改正案はセットにされていた共謀罪に関する審議の紛糾の結果廃案となり、条約は今に至るも未批准となっている。

(1)サイバー犯罪条約のウィルス作成罪関連規定
 このサイバー犯罪条約のウィルス作成に関する規定は以下のようなものである。(以下は、外務省の仮訳(pdf)からの引用。)

第二条 違法なアクセス
 締約国は、コンピュータ・システムの全部又は一部に対するアクセスが、権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このようなアクセスが防護措置を侵害することによって行われること、コンピュータ・データを取得する意図その他不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第三条 違法な傍受
 締約国は、コンピュータ・システムへの若しくはそこからの又はその内部におけるコンピュータ・データの非公開送信(コンピュータ・データを伝送するコンピュータ・システムからの電磁的放射を含む。)の傍受が、技術的手段によって権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、このような傍受が不正な意図をもって行われること又は他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムに関連して行われることをこの犯罪の要件とすることができる。

第四条 データの妨害
 締約国は、コンピュータ・データの破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいが権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。

 締約国は、1に規定する行為が重大な損害を引き起こすことをこの犯罪の要件とする権利を留保することができる。

第五条 システムの妨害
 締約国は、コンピュータ・データの入力、送信、破損、削除、劣化、改ざん又は隠ぺいによりコンピュータ・システムの機能に対する重大な妨害が権限なしに故意に行われることを自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。

第六条 装置の濫用
 締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
 第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、次のものを製造し、販売し、使用のために取得し、輸入し、頒布し又はその他の方法によって利用可能とすること。
i 第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を主として行うために設計され又は改造された装置(コンピュータ・プログラムを含む。)
ii コンピュータ・システムの全部又は一部にアクセス可能となるようなコンピュータ・パスワード、アクセス・コード又はこれらに類するデータ
 第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うために使用されることを意図して、ai又はiiに規定するものを保有すること。締約国は、自国の法令により、これらのものの一定数の保有を刑事上の責任を課するための要件とすることができる。

 この条の規定は、1に規定する製造、販売、使用のための取得、輸入、頒布若しくはその他の方法によって利用可能とする行為又は保有が、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うことを目的としない場合(例えば、コンピュータ・システムの正当な試験又は保護のために行われる場合)に刑事上の責任を課するものと解してはならない。

 締約国は、1の規定を適用しない権利を留保することができる。ただし、その留保が1aiiに規定するものの販売、頒布又はその他の方法によって利用可能とする行為に関するものでない場合に限る。

 読めば分かるように、サイバー犯罪条約が求めているのは、違法なアクセス・違法な傍受・データの妨害・システムの妨害を目的として主としてそのために設計された装置・プログラムの製造・販売・頒布等の犯罪化である上、この点については留保も可能とされており(条文上留保できないとされているのはパスワードの販売等のみである)、コンピュータ・システムの正当な試験又は保護のために行われる場合等にまで刑事責任を課すことは求められていないとも明記されているのである。外務省の説明書(pdf)では、この条約の締結により我が国は「コンピュータ・ウィルスの製造」等一定の行為を犯罪として定める義務を負うとあっさり書かれているが、これは必ずしも正しくない。どこで日本政府として不正プログラムの製造の刑罰化について留保しないという結論を出したのか知らないが、ミスというにはあまりにも大きい点なので、これも役所によるポリシーロンダリングの例と見て間違いないのではないかと私は思う。

 留保を最大限活用して例外も含め条約の規定をそのまま条文化すればかなりマシな案ができていただろうが、条約の採択後、どのような理由・経緯で、これが、前の法改正案のように、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」の「作成」等を犯罪化するという曖昧極まる案となったかは不明である。審議会への最初の諮問(第1回議事概要参照)の時点でそう書かれているので、恐らく法務省内の検討で、担当者の技術的知識の欠如からか、自分たちに都合良くなるべく曖昧で恣意的に運用可能な法律を作ろうとする規制官僚の本能からか、このような案が出てきたのではないかと私は考えているが。(当時の法務官僚の真意は不明だが、既に現行刑法の第246条の2に電子計算機使用詐欺罪が規定されており、素直にミニマムで法改正案を作るとなると、他省庁も絡む不正アクセス禁止法や通信関連法に、それぞれ不正アクセスプログラムや通信傍受プログラムに関する規定をバラして入れることになるので、他省庁との間で権限争いになることを嫌い、法務省で全権限を取り込もうと刑法だけにまとめて入れようとしたのかも知れない。)

 法務省の審議会の議事録などからも、当時からウィルス作成罪等について批判があったと知ることができるが、その後、この曖昧な定義やポリシーロンダリングの問題については審議会でも国会でもほとんど何ら議論されることなく今に至っている。

 そして、最近の報道(共同通信の記事毎日の記事など)によると、法務省は、今度の法改正案で「正当な理由なく」といった除外要件を付けることを考えているようで、前のウィルス作成罪の条文案にこのような除外要件を付加することで多少問題の是正はできるかも知れないが、犯罪の構成要件の本質的な曖昧さの解決にはならないだろう。ウィルス作成罪については、一般刑法以外の法律による対応も考えるべきで、審議会を再度開催して、パブコメも取るべきであり、その要件についてはより具体的に、せめて条約レベルには限定する必要があるだろうと私は思っている。(私も使っているOS・プログラムに自分の意に沿わない動作をされてイライラすることが日々あるが、だからこそ、そうしたOS・プログラムを作った会社・人間を犯罪者扱いしても良いなどという話はバカげているとしか思えない。当たり前の話だが、刑法の話なので、その要件は罪刑法定主義にのっとり非常に厳格に定められなくてはならない。なお、時事通信の記事でも書かれている猥褻メールの送信規制についてはサイバー犯罪条約とは別の文脈から出て来たものなので今回は省略するが、前の法改正案に含まれていた、わいせつな電磁的記録頒布罪の規定をそのまま持ち込もうとしているのではないかと思う。機会があれば別途取り上げたいと思うが、この猥褻メールの送信規制も今更何の必要があるのか良く分からないものである。)

 こういう検討をする場合、役所が、国際動向と称する調査を間々作るが(大体ロクでもない結論の後押しのため恣意的にまとめられれるが)、法務省がそれすらサボっているのかウィルス作成罪等に関してはそのような調査は見かけないので、次回以降、各国の関連法制の紹介をして行きたいと思っている。主要な国をざっと見た感じでは法務省案と同じくらいバカげた形の規定は見かけないが、欧州評議会のHPに、サイバー犯罪条約の留保リストもあり、何かしら参考になりそうと思える国から順にその法規定を紹介して行くつもりである。

 また、ウィルス作成罪については、最近報道で取り上げられたこともあり、他の専門家のブログ等でも様々に取り上げられているので、いろいろと調べてみることをお勧めする。

 ウィルス作成罪についてはこれだけで良いのだが、このサイバー犯罪条約に絡み様々な法改正が問題になり続けると思うので、ついでに他の問題箇所についても、以下、少し取り上げておく。

(2)児童ポルノ関連規定
 サイバー犯罪条約の児童ポルノ関連規定は、以下のようなものである。

第九条 児童ポルノに関連する犯罪
 締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
 コンピュータ・システムを通じて頒布するために児童ポルノを製造すること。
 コンピュータ・システムを通じて児童ポルノの提供を申し出又はその利用を可能にすること。
 コンピュータ・システムを通じて児童ポルノを頒布し又は送信すること。
 自己又は他人のためにコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを取得すること。
 コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に児童ポルノを保有すること。

 1の規定の適用上、「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
 性的にあからさまな行為を行う未成年者
 性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
 性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像

 2の規定の適用上、「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。もっとも、締約国は、より低い年齢(十六歳を下回ってはならない。)の者のみを未成年者とすることができる。

 締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

 児童ポルノ単純所持罪と取得罪については留保が可能であり、外務省の説明書(pdf)でも日本は留保するとされており、このような整理を守り続けるよう、引き続き役所や議員に意見を伝えて行く必要があると私は思っているが、このサイバー犯罪条約で留保可能とされている条項などから分かる重要なことは、国際的に、例え児童ポルノだとしても、情報の単純所持や取得の規制が2001年でコンセンサスになっていたということはなく、今もなっていないということである。また、外見上未成年のように見えるだけの者のポルノについても留保が可能とされていることや、未成年者の定義で16歳未満まで年齢を引き下げることも可能なことも注意しておいて良いだろう。

(3)コンピュータ・データの保全・押収関連
 サイバー犯罪条約のコンピュータ・データの保全・押収関連の規定は以下のようになっている。

第十六条 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全
 締約国は、特に、自国の権限のある当局がコンピュータ・システムによって蔵置された特定のコンピュータ・データ(通信記録を含む。)が特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合には、当該権限のある当局が当該コンピュータ・データについて迅速な保全を命令すること又はこれに類する方法によって迅速な保全を確保することを可能にするため、必要な立法その他の措置をとる。

 締約国は、ある者が保有し又は管理している特定の蔵置されたコンピュータ・データを保全するよう当該者に命令することによって1の規定を実施する場合には、自国の権限のある当局が当該コンピュータ・データの開示を求めることを可能にするために必要な期間(九十日を限度とする。)、当該コンピュータ・データの完全性を保全し及び維持することを当該者に義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。締約国は、そのような命令を引き続き更新することができる旨定めることができる。

 締約国は、コンピュータ・データを保全すべき管理者その他の者に対し、1又は2に定める手続がとられていることについて、自国の国内法に定める期間秘密のものとして取り扱うことを義務付けるため、必要な立法その他の措置をとる。

 この条に定める権限及び手続は、前二条の規定に従うものとする。

第十七条 通信記録の迅速な保全及び部分開示
 締約国は、前条の規定に基づいて保全される通信記録について、次のことを行うため、必要な立法その他の措置をとる。
 通信の伝達に関与したサービス・プロバイダが一であるか二以上であるかにかかわらず、通信記録の迅速な保全が可能となることを確保すること。
 当該サービス・プロバイダ及び通信が伝達された経路を自国が特定することができるようにするために十分な量の通信記録が、自国の権限のある当局又は当該権限のある当局によって指名された者に対して迅速に開示されることを確保すること。

 この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

(中略:提出命令関連部分)

第十九条 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収
 締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の領域内において次のものに関し捜索又はこれに類するアクセスを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。
 コンピュータ・システムの全部又は一部及びその内部に蔵置されたコンピュータ・データ
 コンピュータ・データを蔵置することができるコンピュータ・データ記憶媒体

 締約国は、自国の権限のある当局が1aの規定に基づき特定のコンピュータ・システムの全部又は一部に関し捜索又はこれに類するアクセスを行う場合において、当該捜索等の対象となるデータが自国の領域内にある他のコンピュータ・システムの全部又は一部の内部に蔵置されていると信ずるに足りる理由があり、かつ、当該データが当該特定のコンピュータ・システムから合法的にアクセス可能であるか又は入手可能であるときは、当該権限のある当局が当該他のコンピュータ・システムに関し捜索又はこれに類するアクセスを速やかに行うことができることを確保するため、必要な立法その他の措置をとる。

 締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2の規定に基づきアクセスしたコンピュータ・データの押収又はこれに類する確保を行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。これらの措置には、次のことを行う権限を与えることを含む。
 コンピュータ・システムの全部若しくは一部又はコンピュータ・データ記憶媒体の押収又はこれに類する確保を行うこと。
 当該コンピュータ・データの複製を作成し及び保管すること。
 関連する蔵置されたコンピュータ・データの完全性を維持すること。
 アクセスしたコンピュータ・システムの内部の当該コンピュータ・データにアクセスすることができないようにすること又は当該コンピュータ・データを移転すること。

 締約国は、自国の権限のある当局に対し、1又は2に定める措置をとることを可能にするために必要な情報を合理的な範囲で提供するようコンピュータ・システムの機能又はコンピュータ・システムの内部のコンピュータ・データを保護するために適用される措置に関する知識を有する者に命令する権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。

 この条に定める権限及び手続は、第十四条及び第十五条の規定に従うものとする。

 読めば分かる通り、条約のこの部分の規定も、別に令状主義に穴を開けろなどと言っている訳ではなく、権限を有する当局がデータの保全命令を出せることや、捜索等の対象となるデータが合法的にアクセス可能な他のコンピュータ・システムの内部に蔵置されていると信ずるに足りる理由がある場合にその押収等を可能とすることを求めているに過ぎないが、これが、法務省の手にかかると、「差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる」刑事訴訟法改正案の第99条第2項)、「捜査については、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、九十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう求めることができる」(同第197条第3項)と、昨今のインターネットの状況を考えると差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強い、また、裁判所の許可無く捜査機関が通信履歴の電磁的記録の保全要請をすることが出来るとするような、捜査機関による濫用の懸念が強く、通信の秘密やプライバシー、場所及び物を明示する令状がない限り、捜索等を受けない権利といった憲法上の国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招きかねない規定となるのは不可解と言う他ない。

 今度の改正法案に保全・押収関連の規定まで組み込まれるという話はまだ聞かないが、このような点についてもやはり注意しておくに越したことはないだろう。

 また他に、当局によるコンピュータ・データのリアルタイム収集や通信傍受関連の規定が含まれている点でも、このサイバー犯罪条約は要注意であり、やはりポリシーロンダリングのためのものとしか思えないこの条約も基本的に日本として批准するべきではないと私は考えている。

 やはりネットユーザ等から反発を受けているスペインの海賊対策法についてもどこか落ち着いたところで紹介しようかと思っているが(abcnews.go.comの記事publico.esの記事(スペイン語)参照)、上でも書いた通り、しばらく、番外シリーズとして、主要各国のコンピュータ犯罪関連法制の紹介をして行くつもりである。

(2011年2月22日夜の追記:上の文章に少し手を入れた。また、昨日21日に経産省の審議会でDRM回避規制強化の報告書が前と同じ内容のまま取りまとめられたとのことなので、経産省のリリースと電子政府のパブコメ結果ページへのリンクをここにも張っておく(internet watchの記事も参照)。このパブコメ結果の回答も要領を得ず、報告書の内容もそのままであり、経産省も相変わらずであると知れる。

 また、ついでに書いておくと、サイバー犯罪条約の署名・批准リストを見ると良く分かるが、この条約は欧州各国を除けば実際に批准まで行っているのはアメリカしかなく、この条約はほとんど欧州の欧州による欧州のための条約と言って差し支えないものである。このような条約のためにいまだに日本国内がゴタつきそうなのは実にバカバカしい。)

(2011年2月23日の追記:1カ所誤記を訂正した(「欧州理事会」→「欧州評議会」)。ややこしいが、欧州理事会(European Council)と欧州評議会(Council of Europe)は別の機関なので、念のため。)

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2011年2月 9日 (水)

第251回:ウィキリークスで公開された模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)関連アメリカ公電

 ウィキリークスの一連のアメリカ公電リークで海賊版対策条約(ACTA)関連のものが公開されないかと思っていたが、最近ようやく少し関連するものが出て来た(laquadrature.netの記事ars technicaの記事「ウィキリークス・ウォッチ・ジャパン」のブログ記事「電子書籍、ヴォーカロイド、そしてコンピュータ将棋」のブログ記事参照)。今回は、ACTAの検討経緯を知る上で第一級資料と言って良い、その関連公電の内容を一通り紹介したいと思う。

 他の点についても言いたいことがない訳ではないが、主に知財関連の公電(大体KIPRというタグが付けられているようである)から、海賊版対策条約(ACTA)に関する記述のある10通の公電の関連部分を、以下に時系列順に訳出する。(いつも通り翻訳は拙訳。赤字強調は全て私が付けたもの。より正確には直接リンク先の原文を当たってみることをお勧めする。)

(1)2006年6月28日の東京発公電

主題:日本は海賊版対策条約(ACTA)の提案を支持

1.要約:似た考えを持つ選ばれた国々の間で高水準のスタンダードの海賊版対策条約を模索することにより、模倣品と海賊版の拡散を抑止する世界的枠組みを推進するという日本の目指す目標に対するアメリカ通商代表部の修正提案を、日本の外務官僚は、異論なく支持すると表明。日本側は、アメリカがこの条約に正確には何を入れようとし、どのようなスタンダードをアメリカが必須と考えているのかについてより学びたいという。

(背景)
2.スタンフォード・マッコイ米通商代表部知財執行主席交渉官が、6月13・14日に、日本外務省と経産省と知財本部の官僚と会談。他の国々が参加したがるような、知財執行の「ゴールド・スタンダード」を似た考えを持つ少数の国の間で確立することを目的としている、この多国間のTRIPSプラスのACTAに関するアメリカ通商代表部のコンセプトについて、両会談でマッコイが説明。これは、そこでは高水準のスタンダードを確立することが難しいだろうG8やOECDのような国際グループとは何ら関係のない、独立の条約であるべきとマッコイは強調。マッコイは、最近交渉した自由貿易協定(FTA)の一部としてなど(執行に関する要素を別としても)高水準のスタンダードの知的財産権に関する協定の交渉の経験をアメリカは多く有していると指摘。この条約の考えられるパートナーは、オーストラリア、シンガポール、韓国、ニュージーランド、スイス、モロッコ、ヨルダン、EU諸国、メキシコ、カナダ。中国に対するあり得る知的財産に関するWTO提訴についてのマッコイと同じ職員らとの議論については別途報告。

(日本政府は、海賊版対策条約の修正提案を歓迎)
3.日本の官僚たちは、アメリカ通商代表部の提案した海賊版対策条約を支持し、異論なく感激していた。彼らは驚いていたが、強力なカウンターの提案でアメリカが答えたことについて喜んでいた。(日本の官僚たちによると、今までのところ、フランスだけが彼らの先の海賊版対策条約のアイデアについて喜んで答えてきたという。)彼らは提案をさらに研究し、ワシントンの日本大使館を通じて質問を送ると約束。毛利忠敦外務省国際貿易課主席課長補佐は、小泉首相が条約を提唱したG8の中でこの件を提起し続けることを日本政府は望んでいたが、何故それが独立の条約でなければならないのかということに関するアメリカの主張を聞き入れる意志があると発言。日本の官僚たちは、OECD職員の専門知識を生かし海賊版対策条約の起草・交渉についてその手を借りたいと考えていたが、アメリカ通商代表部にはこの分野における十分な専門知識があり、OECDや他の国際機関を巻き込む必要はないというマッコイの明言に納得した模様。

4.日本の外務省、経産省と知財本部の官僚たちは皆、アメリカ政府が提案条約についてどのようなスタンダードと中核コンセプトを必須と考えているかについてより知りたいという。荒井知財事務局長は、条約の条文案又は少なくとも最近アメリカが交渉したFTAの知財セクションのコピーを提供してくれるようアメリカ通商代表部に要請。マッコイは、主要事項に関する相互理解への到達のための日米間のさらなる検討に合意。マッコイは、日本がこの条約に関して、アメリカをそのパートナーとして、引き続きリーダーシップを取り続ける必要があり、日本の官僚らは外交的下働きを多くしなければならないだろうと指摘。

5.日本の官僚の何人かは、条約交渉のスケジュールを気にしていた。荒井知財事務局長は、条約交渉に1年、その発効までもう1年という日米目標を提案。荒井は、交渉国が条約に何が含まれるべきかということに関するお互いの議論に足を取られて立ち往生したら、これは状況を改善させることなく海賊たちを愉快がらせるだけであり、恥になるだろうと注意。この理由のため、彼は、アメリカ政府で既に何がしかのコンセンサスがあるTRIPSプラスのスタンダードについて集中的に検討するべきと助言。荒井はまた、アメリカとEUが、地理的表示のような脇の問題で紛糾しないことを望んだ。

(コメント)
6.日本の官僚たちは、アメリカの良く練られたカウンターの提案を受け取ったことについて心から喜び驚いているようだったが、どのように先に進むかについて不確かなようだった。明らかに日本政府の官僚たちは、条約の起草についてOECDの専門家の手を借りることを期待しており、提案の他国との共有について日本がアメリカとともにリードすることをアメリカは期待すると数度指摘されることとなった。

7.この公電は、スタンフォード・マッコイ米通商代表部知財執行主席交渉官のクリアを受けた。日本の経産・外務官僚らは、似た考えを持つ選ばれた国々の間で高水準のスタンダードの海賊版対策条約を模索することにより、模倣品と海賊版の拡散を抑止する世界的枠組みを促進するという日本の目指す目標に対するアメリカ通商代表部の修正提案を、何の反対もなく支持すると表明。日本側は、アメリカがこの条約に正確には何を入れようとし、どのようなスタンダードをアメリカが必須と考えているのかについてより学びたいという。

(2)2006年7月20日の東京発公電

主題:日本の小泉首相のアドバイザーが知財に関する両国間の議題を提案

1.要約:荒井寿光知的財産戦略推進本部事務局長は、7月14日、経済担当公使の別れの挨拶の際に、知財に関する両国間の協力のための野心的な議題を提示。次回の日米首脳会合で知的財産権についての協力に関する共同声明を出し、年末までに海賊版対策条約を妥結し、特許の相互承認制を確立することを提案。彼は、日米が知的財産権について中国に統一メッセージを発することを希望。小泉首相の知財問題に関する主なアドバイザーである荒井は、次の日本の主な首相候補はともに知的財産権の強力な保護を支持していると断言。

(中略)

(海賊版対策条約)
5.荒井は、似た考えを持つ国々の間で海賊版対策条約(ACTA)の条文について合意に達することはそれほど難しくないと信じており、年末までに議論を終えることを目標とすべきという。日本にはこのような条約に対する強力な支持があり、荒井は、与野党の議員の中から、安岡興治(自民党)、甘利明(自民党)、弁理士でもある菅直人(民主党)らの名を強力な知財保護の支持者としてあげた。

6.荒井は、我々は可能な限り速く動くべきであって、この条約の内容は中国やロシアやブラジルのような第三国の知財問題に向けられるべきで、似た考えを持つ国々の間で対立する利害の交渉をするべきでないことに留意すべきと強調。この新たな条約は、中国やロシアのような国々の市場経済の状態を測る尺度となるだろう。

(後略)

(3)2006年10月5日東京発

主題:日本の知財官僚たちは、「ゴールド・スタンダード」条約に肯定的他

1.要約:日本の政府と産業界は、9月21-22日のクリス・ムーア米次官補との東京会合で、海賊版対策条約(ACTA)に対する強力な支持を表明、ただし、アメリカの交渉官によって提案された知財執行の「ゴールド・スタンダード」の全ての事項に合わせて日本の国内法を改正することについては非楽観的。日本政府の官僚たちは、例えそのような法改正が可能だとしても、国内の合意に達するにはそのお役所仕事のために時間がかかり、ACTAを大幅に遅らせるだろうという。(中略)

(ACTAに対する強力な政治的サポート)
2.田辺よしお外務省審議官(訳注:当時外務省の審議官をしていた田辺靖雄氏?)は、ムーア次官補に、ACTAの共同条文案が1月程度で用意できることを期待していると告げた。日本の官僚らは皆、安倍晋三新首相は、前官房長官として、知財関連事項に関して興味を持ち十分な情報を受けており、提案されている条約について支持していたと強調。安倍は多くの内閣官房の知的財産権に関する会議を多く主宰していたという。しかし、法的な問題は残る。

3.荒井寿光内閣知財本部事務局長は、職権取り締まり・非親告罪化、法定賠償と判決ガイドラインに関する法改正に日本政府としてコミットするのは非常に難しいと注意。荒井は個人的にはこれらの全ての措置を支持していたが、日本のお役所仕事の中でこれらの改正を試みるのは非常に時間と手間がかかるという。もしアメリカがこれらの法改正にこだわるようなら、実際に遅れが生じるだろうと彼は考えていた。判決ガイドラインについては、判決を個々の裁判官に委ねている日本国憲法に違反するとして法務省が理念的に反対している。職権取り締まり・非親告罪化に関しては、商標については認められているが、日本政府内の議論において、著作権侵害の非親告罪化は、著作権法を見ている文化庁によって10年、20年越し否定され続けている。職権取り締まり・非親告罪化の当局として主導権を握っている文化庁か関税局かにいつ圧力がかけられたかについては、荒井は知らなかった。

4.以前と同じく、海賊版と模倣品がせわしく稼ぎをあげている中で、その対策に責任を持つ我々の間の条約の立ち往生で時間を浪費すべきでないと荒井は主張。もしアメリカと日本がほぼ他の全てのことについて合意したなら、残り5%でプロセスを止めるべきではないという。知財保護のために必要な最も高い最も必須のスタンダードはどのようなものかという点で国の間に多少違いがあることが制約になると荒井は付加。例えば、欧州は地理的表示について何かを得ようとするだろう。知財先進国が合意できる最も必須のスタンダードのコンセンサスに基づいて速やかに動くスケジュールを設定することがより重要と荒井は主張。彼は、知財保護は動く目標であって、全ての問題を一気に片付けることはできないのだから、新しい知財問題が毎年持ち上がって来ていると認めるより広い戦略の採用を彼は推奨。

5.ムーア次官補は、ACTAにより新しい世界水準を規定することが決定的に重要なことであり、アメリカもその法律を改善しその執行を強化して来たと説明。必要な場合は法改正を行い、この問題について参加する機会を得られることについて議会も歓迎していると彼は追加。ムーアは、早急だが、効果的で高水準のスタンダードの条約を前進させることについてアメリカは熱心であると強調。似た考えの他の国々にともに働きかけて行く上で、その知財執行法制の改善を日本が真剣に考えることは必須であると彼は発言。

6.それは難しく時間もかかるため、ゴールド・スタンダードのためのアメリカ政府提案と合わせるために国内法を変えなければならないことを日本政府は好まないと田辺は簡単に述べ、日本外務省はこの問題についてよりソフトなアプローチを取るという。それは日本政府内でと利害関係者との間での長い検討を要すると彼は考えていた。アメリカ側でも知財保護執行の有効性の問題に集中することを田辺はアメリカ側に促した。相馬弘尚外務省知的財産室長は、8省庁を集めた先週の日本政府内会合で、国内法改正の余地もあり、皆その可能性を排除しなかったと発言。

(ACTAに関するG8と他の国へのアプローチ)
7.外務省の相馬は、日本政府が最初にこのことを提唱した場であり、日本政府はなおG8の参加国を含めてACTAの議論を進めたいと思っていると発言。さらに、発展途上国を含めた各国にとってのイノベーションとクリエイティビティが発達する雰囲気を作る必要性を強調し、日本政府は知財をG8における議題として押し続けたいと思っているという。経産省の中富は、それに対し、最近のロシア訪問においてACTAの議論をしたが進展はなかったと発言。G8でACTAを提起することは非常に難しいと彼は同意、不可能でないにしても、ロシアのために反対は避けがたいだろうという。

8.欧州をACTAに参加させることについて多少微妙な見解があった。外務省の相馬は、EUに細々とアプローチする前に各加盟国に集中するのが最善であるという点でムーア次官補に同意。経産省の豊田正和通商政策局長と中富道隆審議官はともに、どうあれEUにおいてこの問題について権限を持っている欧州委員会は遅くではなく早くACTAの議論に参加させなければならないとムーアに告げた。さもなければ、欧州が降りるような問題となるだろうと。ただし中富は、例えば欧州委員会がACTAの全議論を、ムーアがアメリカにとって出発点とならないとする、地理的表示と結びつけに来るかも知れないことから、まず各加盟国にアプローチすることについてのアメリカの利害に理解を示した。注意深いマネジメントが必要とされる点で両者は一致。

9.日本政府は、最初の交渉国候補には、フランス、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドとシンガポールが考えられると見ている。日本政府は、イタリアとカナダを第2にアプローチされるべきグループと見ているが、ムーア次官補は、カナダとの潜在的困難性を説明し、最初の候補としてヨルダンやモロッコのような発展途上国も入れることを押した。これらの国々は、アメリカとのFTAで高い水準の知財スタンダードを受け入れた。

(中略)

18.この公電はムーア次官補のクリアを受けた。日本の政府と産業界は、9月21-22日のクリス・ムーア次官補との東京会合で、海賊版対策条約(ACTA)に対する強力な支持を表明、ただし、アメリカの交渉官によって提案された知財執行の「ゴールド・スタンダード」の全ての事項に合わせて日本の国内法を改正することについては非楽観的。日本政府の官僚たちは、例えそのような法改正が可能だとしても、国内の合意に達するにはそのお役所仕事のために時間がかかり、ACTAを大幅に遅らせるだろうという。(後略)

(4)2006年12月1日ローマ発

主題:海賊版対策条約(ACTA):イタリア

(要約)
1.イタリア政府は、ACTAをさらに議論することに関心を寄せているが、(WTOやEUのような)既存の多国間組織や条約の枠組みでイタリアは動くこととしていると強調し、これらの条約以外の条約への参加には念入りな評価が必要という。イタリアは、ワシントンでのACTA準備会合への参加に関心を寄せている。

2.経済担当公使が、11月17日、スピネッティ伊外務省経済担当部長とジャンニ次官に、経済開発省でACTAについて提起。ECMINは、ACTAは似た考えを持つ国々にとって知的財産権(IPR)対策を劇的に前進させるツールとして使えるものであり、世界知的所有権機関(WIPO)や世界協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)あるいはG8で高水準のスタンダードの国々がぶつかるだろう政治的困難をほぼ避けられると概要を述べた。

3.スピネッティとジャンニは大体経済担当公使に同意し、ACTA提案に興味を示し、ACTAの提案する目標にイタリアも同意すると示唆。スピネッティとジャンニはともに、イタリアはACTAの検討作業に参加すべきとも示唆し、スピネッティは、イタリアはワシントンで始まる会合に参加できるだろうとも示唆。しかしながら、スピネッティとジャンニは、WIPOやEUのような多国間組織とG8へのコミットメントを強調し、イタリア政府はこれらの枠組みの外に踏み出すことには慎重でなければならないと強調。

4.スピネッティは、「この条約は国際的な知財保護に関するWIPOの主導的役割を減じる恐れがある」というWIPOのACTAに対する懸念を聞いたと経済担当公使に告げた。

5.そして、経済担当参事官は、11月22日、内閣次官エンリコ・レッタのチーフ・スタッフであるファブリチオ・パガーニと面会。パガーニは、イタリアにおいてG8の知財問題に関する実務レベルの統括をしており、ACTAのイタリア政府担当者である。最近のモスクワでのG8の実務レベル知財会合でクリストファー・ムーア次官補と既にACTAについて議論したと経済担当参事官に告げた。現在イタリア政府は既存の多国間組織に強くコミットしており、もし欧州委員会も交渉テーブルに着いていてくれればよりやり易いだろうと付加。それでも、イタリアは強い興味を提案に持っており、ワシントンの準備会合に参加できるだろうとパガーニは発言。そう言って、パガーニはイタリア政府が関心を持っている次のような事項について概略を述べた。交渉における欧州委員会の役割:パガーニは、欧州委員会が知財に関する排他的権限を持っていないと考えており、欧州委員会もテーブルに着けることはEU加盟国にとって交渉を何かしら容易にするだろうと考えていた。知財執行が弱い国々のための役割:知財制度が弱い国々(例えば、中国やロシア)を含めないことは合理的と彼は理解したが、パガーニは、イタリアはさらにこれらの国々の排除について議論したいと思っていることを示唆。ドイツのG8知財への注力:ドイツがG8議長国として知財保護を最優先事項に強く押している中で、ACTAを追求するのは政治的に微妙な問題となり得るともパガーニは懸念を表明。

6.しかし、経済担当参事官が、上のことが全て考慮されたら、イタリアは実際にACTA交渉に参加できるかと直接訊ねたところ、彼は、もしそれがイタリア自身の利益になるならイタリアはそうするだろうと回答。

(5)2007年2月12日ローマ発

主題:海賊版対策条約(ACTA):イタリアの懸念

1.要請公電。4.参照。

2.ファブリチオ・マッツァ伊外務省知的財産課長が、海賊版対策条約(ACTA)の提案に関し大使館に接触。2つのソース(1つはアメリカ通商代表部、もう1つはブラッセルの(不明))が、日米共同ACTA提案をアメリカ政府がブラッセルの欧州委員会に提示したと彼に伝えてきたという。EUを含めて合意に達するのはかなり難しいだろうと思い、また、欧州委員会ではなく直接各加盟国と交渉する方が好ましいとアメリカ政府は考えていると理解していたため、マッツァは混乱し、関心を寄せている。

(コメント)
3.ACTAについて非常に大きな関心がイタリア政府にある。本国が本国大使館にアメリカの政府見解を可能な限りの範囲で通知することを要請する。

(要請)
4.次の事項の要請:ACTA提案に関する現状の説明、それは欧州委員会に既に示されているのか、ACTA交渉における欧州委員会の役割がEU各国の参加に与える影響に関するアメリカ政府の見解の説明。

(6)2007年9月6日リスボン発

(前略)

(海賊版対策条約(ACTA))
5.ドンネリー(米通商代表補)は、海賊版対策条約(ACTA)のことを持ち出し、EU各国は直接ACTA交渉に当たるべきとのイタリア政府の見解に言及。貿易だけではなく、知的財産権、税関、法律と執行、そして司法に絡む複雑な問題に他ならず、EU加盟国の権限の議論に巻き込まれたくないとするワシントンの希望を彼は強調。エスカリア(ポルトガル首相の経済アドバイザー)は、ポルトガル政府も議論に気づき、この問題での欧州委員会の主導をリスボンが喜んでいるという。マシエイラ(ポルトガル外務省欧州担当審議官)も同意し、議論の進展に従い、EU各国はその対話に入れられるべきと強調。ルシオ(ポルトガル経済省経済活動担当審議官)は、ACTAのカバーする領域は非常に重要であり、透明な形で取り組むべきで、この事の可視化を支援すると強調。

(後略)

(7)2007年12月メキシコ発

(前略)

(要約とコメント)
1.(中略)メキシコの知財官僚たちは、海賊版対策条約(ACTA)交渉参加への意志と、国際的な保険機構において知財の弱体化を図ろうとするブラジルの圧力への対抗を強調し、その国際舞台における役割の増大を喧伝することに熱心だった。(中略)

(国内の様子)
8.(中略)2007年、メキシコは知財執行強化のための海賊版対策条約交渉への参加に同意。(後略)

(8)2008年11月5日ローマ発

(前略)

1.要約:ファブリチオ・マッツァ外務省知的財産課長は、(中略)ACTA交渉で2008年末までに条文案ができることはないだろうと予測。

(中略)

(ACTA交渉により時間をかけるよう求めるEU諸国)
8.マッツァは、年末までに海賊版対策条約(ACTA)の条文案ができるとは予想していない。合意条文案のできるのは最短で2009年の夏か終わりだろうという。彼の見解によると、条約交渉における欧州委員会の関与への反対、交渉の機密レベルに対する不満、条約からの地理的表示の除外などから、交渉により時間をかけることを欧州諸国は求めようとしている。

9.EU加盟国は刑事執行に関係する事項を欧州委員会が交渉することに反対していると、マッツァは発言。この点は順に回されるEU議長国によって交渉されるより、この分野においてはEU加盟国の権限による方が適切であると彼は見ていた。イギリスとスカンジナビア諸国がこの点における欧州委員会の関与に特に激しく反対しているが、イタリアも反対しているという。

10.このACTA交渉における機密レベルは、通常の非安全保障条約より高いレベルに設定されている。マッツァによると、この機密レベルでは、EU加盟国は知財の利害関係者と議会と必要な議論を進めることもできない。次のACTA会合の前に、この点が再検討されなければならないと彼は発言。

11.マッツァによると、欧州諸国はACTAを事実上の「TRIPSプラス」と見ているが、ACTAはまだTRIPSに含まれている地理的表示を含んでいない。このTRIPSのアップグレードは、アメリカの主要問題の海賊版と模倣品は含まれているが、欧州の主要問題の地理的表示を無視していると欧州代表が指摘するのは「時間の問題」だという。この除外は、交渉を決裂させるものではないだろうが、遅らせるだろうと彼は示唆。

(後略)

(9)2009年11月24日ストックホルム発

主題:スウェーデンのACTA交渉と知財に関する懸念

1.要約:スウェーデンのメディアとブロガーらは、進行中のACTA(海賊版対策条約)交渉について、3ストライクポリシーが求められるとの報道を受け、他の多くの国々で見られたのと同様の秘密性とインターネット章についての懸念を表明。今年の前半、スウェーデン法務省がEUのために交渉していたことから、これは政府の国内批判につながった。メディア報道から、スウェーデン政府は、スウェーデンの国内法改正を必要とするようなACTAの規定にはスウェーデンは同意しないと公式に言う羽目になった。一方、The Pirate Bayサイトは、トラッカーを削除せよという差し止め判決を受け、スウェーデンからサーバーを移している。同一のトラッカーがそのすぐ後に別のサイトに現れた。IPRED(知的財産執行指令)による法改正が、法的に可能な限り早く記録を破棄する傾向をインターネット・サービス・プロバイダーに与えたことで、スウェーデンで犯罪の訴追・解決が難しくなっているという批判に耳を傾け始めているという。(中略)

(ACTA)
2.スウェーデンがEU議長国である間、EUのACTA交渉代表をしていたステファン・ヨハンソンにポストが接触。秘密性の問題がスウェーデンにおける交渉を取り巻く雰囲気に大ダメージを与えたと彼は我々に告げた。全野党が、議会で、政府は知財の執行を強化しようとしていると迫って来た。これらのグループにとって、ACTA文書の公開拒否は、交渉の背後にある政治的意図について憶測を逞しくする素晴らしい政治的ツールとなった。もしこのことが世界知的所有権機関(WIPO)内で交渉されたらと批判者は言う、WIPO事務局は最初の条文案を公開しただろうと。

3.ヨハンソンの意見では、交渉にまつわる秘密性により、全プロセスの正当性に疑念をもたらす結果となった。このことと、アメリカ提案のインターネット章の口頭提案を要約した欧州委員会のリーク文書が合わさり、法務大臣マグヌス・グラナーがスウェーデン政府は現在のスウェーデン法の変更を必要とするようなACTAの条項に同意することはないと今月頭に確約して、吹き荒れる批判をなだめる羽目になった。

4.ヨハンソンは彼の意見として、交渉グループ中に、最終的な案に影響を与えられる余地がある内にACTAの交渉条文案を公開すべきという立場に対する強い支持があると発言。彼はさらに、交渉の過程で同じような意見の共有がEUにできない内に、アメリカ政府がアメリカの産業界と緊密に意見交換していることについての欧州委員会の懸念を告げた。

5.EU各国の代表が、アメリカ提案のインターネット章についてさらに議論し、その立場を進めて調整するため11月25-26日に集まる。もちろん、議長国がスペインへ回る来たる2010年1月以降ヨハンソンがEU名代として交渉することはない。しかしながら、年の後半になるかも知れないが、2010年の間に交渉が妥結されることを期待するとヨハンソンは我々に告げた。我々は交渉すべき主な事項から言語の問題を切り離し、どこから始めるべきかについてすぐにはっきりさせる必要があると彼は発言。今まで、中核事項を切り離すことで交渉の効率化を図って来なかったという。

(後略)

(10)2010年2月16日マドリッド発

(前略)

18.ウィルソン米通商代表部補は、メキシコのグアダラハラでの最近の海賊版対策条約(ACTA)会合でスペインの官僚らが非常に積極的で親切な役割を果たしたことを賞賛。スペインのリーダーシップのおかげで、交渉官らは条約の刑事関連章で進展を見ることができた。ボネット(スペイン貿易長官)は、欧州議会がACTAについてその透明性の欠如を批判し、疑念を抱いていると言及。

(後略)

 訳していて腹が立って来るが、案の定、これらの公電から浮かび上がって来るのは、荒井寿光知財本部事務局長(当時)を筆頭として、知財本部や外務省や経産省の日本の官僚たちのデタラメな暴走ぶりである。恐らく関連公電はこれで全てではないだろうが、これだけでも、初っ端から、何の考えもなく諸手をあげてアメリカの提案に賛同していたり、大した腹案も持たないままスケジュールだけを気にして条文案作成をアメリカに任せていたり、それでいて世界に規制強化を主導的に押し付ける汚れ役はお前らでやれと言われても分からず喜んでいたり、著作権侵害の非親告罪化や法定賠償などの法改正圧力がかけられると一応少し慎重な意見も示すものの法改正の余地もあると勝手に言ったり、アメリカの外交官の前で省庁間の方針の不統一をそのまま口にするなど、彼らが外交としては完全にアウトのデタラメをやりたい放題やっていたと知れる。

 既に役所を辞めてしまっている者もいるだろうが、これらの公電に出て来る官僚たちの名前は全て覚えておいた方が良い。文化庁と経産省で報告書がまとめられ、国会への法案提出が想定されている著作権法と不正競争防止法でのアクセスコントロール回避規制強化など、今日本が訳も分からずロクでもない法改正をやる羽目になっているのは、こいつらの責任と言って良いのである。アメリカの外交官に対して恥がどうとか言っていたようだが、こいつらこそ日本の恥であると私は断言して憚らない。そう簡単に官僚のタチが変わるとも思えず、この体たらくでは、日本の官僚たちは世界の外交官にてんでバカにされ続けることだろう。

 またさらに関連公電が出て来るようなら、その都度、ここでも翻訳・紹介したいと思っているが、知財問題に限らず、このウィキリークスのリーク公電はアメリカ政府の動向を知る上で第一級資料と言って良い。ウィキリークスの真価はこのような政策的なリーク情報の公開にあるのであって、その政治的意味は大きく、このようなインターネットを通じた情報共有システムの政治的重要性は今後も増して行くだろう。それにつけても、ウィキリークスについてそのシステムの重要性を理解せず面白おかしくゴシップ的に書き立てるのが日本の報道の主流と見えるのは個人的にはかなり残念である。

(2月10日の追記:一番上に参考記事へのリンクを追加し、少し文章に手を入れた。)

(2月10日夜の追記:誤記の訂正をし、少し文章に手を入れた。)

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2011年2月 4日 (金)

第250回:「知的財産推進計画2011」の策定に向けた意見募集(2月7日〆切)への提出パブコメ

 2月7日〆切の「『知的財産推進計画2011』の策定に向けた意見募集(知財本部のHP参照)も書いて提出したので、ここに載せておく。去年の私の提出パブコメや知財計画2010の内容については第213回第230回を御覧頂ければと思うが、今年は、去年と同じような事柄に加え、さらに前々回前回と取り上げたTPPなどのEPAに関する検討や、今なお続く東京都青少年健全育成改正を巡るゴタゴタなども著作権・コンテンツ政策上の大課題となるだろうと考えて記載を追加している。個人的にはもう知財本部自体役割を終えているのではないかと思っているが、コンテンツ政策を含め知財に関するこのようなフリースタイルのパブコメの機会は多くはないので、各種の知財問題に関心を寄せている方でまだパブコメを出していない方は是非提出を検討頂ければと思う。

(以下、提出パブコメ)

《要旨》
アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入すること及びダウンロード違法化条項の撤廃を求める。何ら国民的コンセンサスを得ていない海賊版対策条約の署名・批准、有害無益なインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権の保護期間延長、補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大に反対する。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2010を見ても、このような本当に政策的な決定は全く見られない。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 例年通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討するべきである。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2010」の「戦略2 コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進」について:
a)一般フェアユース条項の導入について

 第22ページに書かれている、一般フェアユース条項の導入について、ユーザーに対する意義からも、可能な限り早期に導入することを求める。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。

 最近とりまとめられた文化庁・文化審議会・著作権分科会の報告書において、写真の写り込みや許諾を得て行うマスターテープ作成、技術検証のための複製など、形式的利用あるいは著作物の知覚を目的とするのでない著作物の不可避的・付随的利用に対してのみ、しかも要件に「社会通念上、著作者の利益を不当に害しない利用であること」と加えるという極めて限定的な形でのみフェアユースを規定しようとしているが、これほど限定したのでは、これはもはや権利制限の一般規定の名に値しない。これでは、仮に導入されたところで、いつも通り権利者団体にとってのみ都合の良い形で新たに極めて狭く使いにくい「権利制限の個別規定」が追加されるに過ぎず、著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であることを考えれば、形式的利用あるいは著作物の知覚を目的とするのでない著作物の不可避的・付随的利用に限るといった形で不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。ただし、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならない。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきである。

b)保護期間延長問題について
 保護期間延長問題についても、第22ページに記載されているが、権利者団体と文化庁を除けば、延長を否定する結論が出そろっているこの問題について、文化庁が継続検討としていること自体極めて残念なことである。これほど長期間にわたる著作権の保護期間をこれ以上延ばすことを是とするに足る理由は何一つなく、知財計画2011では、著作権・著作隣接権の保護期間延長の検討はこれ以上しないとしてもらいたい。特に、流通事業者に過ぎないレコード製作者と放送事業者の著作隣接権については、保護期間を短縮することが検討されても良いくらいである。また今年は、環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)交渉に絡み、保護期間延長などについて外国から不当な圧力がかけられる恐れもあるが、今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など論外であり、そのような要求は不当なものとして毅然としてはねのけるべきである。

c)海賊版対策条約(ACTA)について
 今年度、文化庁と経産省でDRM回避規制について極めて拙速かつ危険な法改正の検討が同時に行われているが、その背景には、第20ページなどに書かれている模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の検討があるものと私には思える。このように、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない規制強化条項を含む条約交渉を、何ら国民的なコンセンサスを得ない中で、一部の者の都合から政府が勝手に行うなどおよそ論外であり、私は一国民として、このACTAの署名・批准に反対する。

d)著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について
 第22ページには「間接侵害」の明確化についても記載されている。セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。知財計画2011においては、著作権法の間接侵害の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると明記してもらいたい。

 さらに付言すれば、2011年1月のまねきTV事件最高裁判決などを受け、間接侵害についてさらに政府内で検討が進められるものと思うが、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのまねきTVのようなタイプのサービスまでカラオケ法理により著作権法上違法とすることは社会通念に照らしてあまりに厳しい。今の文化庁案の権利制限条項でこのようなサービスをすくい上げることなど到底不可能であり、このような最高裁判決をオーバーライトし、著作権者の保護と公正な利用との間での正しいバランスを回復するためにも、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入するべきである。

e)DRM回避規制について
 第21ページに、「アクセスコントロール回避規制の強化」という項目があり、文化庁と経産省においてそれぞれ著作権法と不正競争防止法の改正の検討が進められているが、2008年7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴した事件で、2009年2月にゲームメーカー勝訴の判決が出ていることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 知財計画2011では、文化庁と経産省における不合理極まる今までの検討を白紙に戻し、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化は検討しないとされるべきである。

 DRM回避規制に関しては、このような有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。

f)インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の責任について
 第21ページに、「現行のプロバイダ責任制限法の検証を図った上で、実効性を担保するための制度改正の必要性について検討し、2010年度中に結論を得る」と書かれ、総務省においてプロバイダ責任制限法に関する検討が進められているが、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件や、1対1の信号転送機器を利用者からほぼ預かるだけのサービスが放送局に訴えられ、最高裁判決で違法とされた「まねきTV」事件等を考えても、今現在、カラオケ法理の適用範囲はますます広く曖昧になり、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態がなお続いている。間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 ISPの責任の在り方の検討について、知財計画2011に書き込む場合には、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

g)ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル交換対策について
 やはり第21ページに、インターネット上の侵害コンテンツに対する新たな対策措置について書かれているが、このようなネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル共有対策について、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を進めることを明記してもらいたい。この点においても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、このような教育や公開情報の検索を行うクローリングと現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

h)二次創作(パロディ)の権利処理ルールパロディについて
 第15ページに、「二次創作(パロディ含む)やネット上の共同創作の権利処理ルールを明確化する」と書かれているが、パロディなどの二次創作は、それ自体高い文化的意義・価値を有する独自の創作たり得るものであり、文化の発展を本来の目的とする著作権法によって完全に封殺されるべきものではない。今まで日本において、ジャンルによりかなり緩やかな二次創作ルールが慣習として存在し、このような慣習的な表現の自由度により表現の多様性が十分に確保され文化の発展がより促されて来たという事実があることを考え、検討においてそのルールが必要以上に規制的なものとなり文化の発展をかえって阻害することがないよう十分留意するとここに明記するべきである。

 また、フランスなどでパロディに関する著作権法上の権利制限が存在していることからも分かるように、世界的に見ても、パロディなどの文化的意義・価値が認められていないなどということは決してない。政府・与党の検討にあっては、このような二次創作の文化的意義・価値をきちんと認めるべきであり、この点からも、どのような著作権法上のルールの検討も文化庁によって不当に規制的なものとされ文化の発展をかえって阻害しているという今の惨状を多少なりとも緩和するべく、アメリカ等と比べて遜色の無い範囲で一般フェアユース条項を導入し、同時にパロディなどについてもすくい上げられるようにするべきである。

i)コンテンツに関する規制緩和について
 第10ページなどに、アジア市場のコンテンツに関する規制緩和を促していくことが重要と書かれている。このようなことも無論重要であるが、今現在、東京都の青少年健全育成条例改正問題に代表されるように、児童ポルノ法の改正検討や、各地方自治体の青少年条例の改正検討などにより、今の日本のコンテンツ業界に不当な規制圧力が加えられている状態にあるということをそれ以上に重く見るべきである。児童ポルノ規制法と青少年条例改正のそれぞれの問題点については、下に改めて詳しく書くが、これらの規制圧力は、場合によっては今の日本のコンテンツ産業に壊滅的なダメージを与えかねないものである。一方でコンテンツ強化を核とした成長戦略の推進と言いながら、その一方でこのような表現弾圧の動きが政治・行政、特に警察庁を中心として激化している現状は片腹痛いとしか言いようがない。このような百害あって一利ない表現規制の動きは、日本の文化と経済の健全な発展のために到底看過できるものではない。政府・与党にあっては、民主主義の根本たる表現の自由すら脅かしている現在の不当な表現規制圧力について速やかに排除・緩和するための検討を開始するべきである。

(2)その他の知財政策事項について:
a)ダウンロード違法化問題について

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、2009年の6月12日に、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」は私的複製に当たらないとする、いわゆるダウンロード違法化条項を含む、改正著作権法が成立し、2010年の1月1日に施行されたが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において、中国政府の検閲ソフト「グリーン・ダム」導入計画に等しい、日本レコード協会による携帯電話における著作権検閲の提案が取り上げられ、最近の文化庁のパブコメでも、やはり日本レコード協会が、罪刑法定主義や情報アクセス権を含む表現の自由などの憲法に規定される国民の基本的な権利を踏みにじり自己の利益のみを最大化しようと、外形的に違法性の区別がつかないこのような私的行為に対して刑事罰を付加するようにと意見を出すなど、既に弊害は出始めている。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような不合理極まる規制強化・著作権検閲に対する懸念は、文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このようなさらなる有害無益な規制強化・著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化は始めからなされるべきではなかったものである。文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除するべきである。

b)私的録音録画補償金問題について
 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではない。

 文化庁の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、今に至るも文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金については既に私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展している。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後2年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

c)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2011では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

d)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 まだ実施されてはいないが、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において、携帯電話においてダウンロードした音楽ファイルを自動検知した上でそのファイルのアクセス・再生制限を行うという、日本レコード協会の著作権検閲の提案が取り上げられており、今現在、このような著作権検閲の提案が政府レベルで検討されかねない危険な状態にあるが、通信の秘密という基本的な権利の適用は監視の位置がサーバーであるか端末であるかによらないものであること、特に、機械的な処理であっても通信の秘密を侵害したことには変わりはないとされ、通信の秘密を侵害する行為には、当事者の意思に反して通信の構成要素等を利用すること(窃用すること)も含むとされていることを考えると、このような日本レコード協会が提案している著作権対策は、明らかに通信の秘密を侵害するものである。

 また、本来最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行うことは、それ自体プライバシー権を侵害するものであり、プライバシーの観点からも、このような措置は導入されるべきでない。

 最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行う日本レコード協会が提案している違法音楽配信対策は、技術による著作権検閲に他ならず、憲法に規定されている表現の自由(情報アクセス権を含む)や検閲の禁止に明らかに反するものであり、通信の秘密や検閲の禁止、表現の自由、プライバシーといった個人の基本的な権利をないがしろにするものである、このような対策は絶対に導入されるべきでなく、また技術支援・実証実験等として税金のムダな投入がなされるべきではない。

 同じく、フランスで今なお揉めているネット切断型のストライクポリシー類似の、ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策の検討が、警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われ、さらにネット切断までを含むストライクポリシーを著作権団体が求めているが、このような検討も著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、2009年6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。ネット切断に裁判所の判断を必須とする形で導入された変形ストライク法も何ら効果を上げることなく、フランスでは今なおストライクポリシーについて大揉めに揉めている。日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることが担保されなくてはならない。

 これらの提案や検討からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

e)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入について
 また、WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

f)天下りについて
 最後に、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

g)環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)に関する検討について
 今年は、環太平洋経済連携協定(TPP)などの経済連携協定(EPA)交渉に絡み、著作権の保護期間延長、DRM回避規制強化、ISPの間接侵害責任、法定賠償制度などについて外国から不当な圧力がかけられる恐れもあるが、上で書いた通り、今ですら不当に長い著作権保護期間のこれ以上の延長など論外であり、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていない法定賠償のような日本に全くそぐわない制度の導入や、責任制限を通じた実質的検閲のISPに対する押しつけや、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化など断じてなされるべきでなく、そのような要求は明らかに不当なものとして毅然としてはねのけるべきである。

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 前々回の知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されたが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、この出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 インターネット協会の児童ポルノ流通防止対策専門委員会などにおいて、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等を行うとする検討が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。このような非人道的な検討しか行い得ない児童ポルノ流通防止対策専門委員会などは即刻解散されるべきである。

 サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。DVD販売サイトなどの海外サイトについても、本当に児童ポルノが販売されているのであれば、速やかにその国の警察に通報・協力して対処すべきだけの話であって、それで対処できないとするに足る具体的根拠は全くない。警察自らこのような印象操作で規制強化のマッチポンプを行い、警察法はおろか憲法の精神にすら違背していることについて警察庁は恥を知るべきである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものであり、児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、欧米では既にブロッキングについてその恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、2009年に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、ドイツで児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、その施行は見送られ、現在完全廃止に向け検討が進められていること(http://www.zdnet.de/news/digitale_wirtschaft_internet_ebusiness_bundestag_beraet_ueber_abschaffung_des_internetzensurgesetzes_story-39002364-41545723-1.htm参照)なども注目されるべきである。スイスの2009年の調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 自民党・公明党から、危険極まりない単純所持規制を含む児童ポルノの改正法案が国会に提出されているという危険な状態が今なお続いているが、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

c)東京都青少年健全育成条例他、地方条例の改正による情報規制問題について
 東京都でその青少年健全育成条例の改正が検討され、非実在青少年規制として大騒ぎになったあげく、2010年12月に、当事者・関係者の真摯な各種の意見すら全く聞く耳を持たれず、数々の問題を含む条例案が、都知事・東京都青少年・治安対策本部・自公都議の主導で都議会で通された。通過版の条例改正案も、非実在青少年規制という言葉こそ消えたものの、かえって規制範囲は非実在性犯罪規制とより過度に広汎かつ曖昧なものへと広げられ、有害図書販売に対する実質的な罰則の導入と合わせ、その内容は違憲としか言わざるを得ない内容のものである。また、この東京都の条例改正にも含まれている携帯フィルタリングの実質完全義務化は、青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制である。さらに、大阪や京都などでは、児童ポルノに関して、法律を越える範囲で勝手に範囲を規定し、その単純所持等を禁止する、明らかに違憲な条例案の検討まで進められている。

 これらのような明らかな違憲条例の検討・推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。また、当事者・関係者の意見を完全に無視した東京都における検討など、民主主義的プロセスを無視した極めて非道なものとしか言いようがなく、今後の検討においてはきちんと民意が反映されるようにするため、地方自治法の改正検討において、情報公開制度の強化、審議会のメンバー選定・検討過程の透明化、パブコメの義務化、条例の改廃請求・知事・議会のリコールの容易化などの、国の制度と整合的な形での民意をくみ上げるシステムの地方自治に対する法制化の検討を速やかに進めてもらいたい。また、各地方の動きを見ていると、出向した警察官僚が強く関与する形で、各都道府県の青少年問題協議会がデタラメな規制強化騒動の震源となることが多く、今現在のデタラメな規制強化の動きを止めるべく、さらに、中央警察官僚の地方出向・人事交流の完全な取りやめ、地方青少年問題協議会法の廃止、問題の多い地方青少年問題協議会そのものの解散の促進についても速やかに検討を開始するべきである。

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2011年2月 2日 (水)

第249回:知的財産権の側面から見た各国の自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)の概況

 前回の続きで、やはり非常にマニアックな話になるが、知的財産権の側面から見た各国の自由貿易協定(FTA)・経済連携協定についてざっと書いておきたいと思う。(言葉の定義上は、FTA(Wiki)が貿易の自由化に関する協定で、EPA(Wiki)がそれより広い範囲での経済連携を目指すものとなっているようだが、FTAと称するものには知的財産権に関する規定がないかというとそんなこともないので、ここではあまり区別しない。)

 各国間の貿易協定は世界貿易機構(WTO)に通知されることになっているので、WTOのHPを見れば、大体世界各国でどのように協定が結ばれているかを見ることができる。これに加えて、日本の外務省HP財務省HP経産省HP農水省HP国家戦略室HP、他国だと主立ったところで、アメリカ政府のHP欧州連合(EU)のHP1HP2中国政府のHP韓国政府のHPオーストラリア政府のHPカナダ政府のHPなども参考になる。

 知財はほとんどの国のFTA・EPAで大体おまけのような扱いで、上のリンク先に載っている、日本が今まで結んで来たEPAでも、知的財産権に関しては、一般原則や協力の促進、既存の条約の確認レベルの話がほとんどであり、取り立ててどうこうということはあまりない。(多少細かなところで言いたいことがなくもないが。)

 ただ、今までの協定がそうだったからと言って、今後の検討についてまでこのようなレベルの話に落ち着くことが保証されるなどということはなく、特に、前回も書いたように、TPP交渉にアメリカが参加していること、また、日本政府として日欧EPA交渉のための検討を開始するとしていることが、著作権問題に対して非常に大きな意味を持って来る可能性があると私は思っている。

 例えば、アメリカが今まで結んで来たFTAなどの内容は、上のリンク先などで確認できるが、オーストラリア、バーレーン、ドミニカ共和国、チリ、コロンビア、韓国、モロッコ、オマーン、パナマ、ペルー、シンガポールと、ヨルダンを除きあらゆる国との間のEPAに著作権保護期間を少なくとも70年とする規定を入れ込むなど、アメリカは例によってEPAを通じても他国への知財規制の強化の押しつけに並々ならぬ熱を入れていると容易く見て取れるのである。(オマーンに対しては95年という不当に長い法人の著作権保護期間まで押しつけている。)

 また、これに比べると欧州はおとなしめではあるが、つい最近の欧韓EPAで著作権保護期間を少なくとも70年とする規定を入れて来ており、やはり欧州もこうした規制強化の押しつけに熱心であると知れる。

 日本政府は、他にも、オーストラリア、インド、ペルー、モンゴル、GCCなどとEPA交渉を進めているようだが、保護期間延長問題との絡みでは、オーストラリア・チリ間のFTAにも著作権保護期間を少なくとも70年とする規定が含まれており、オーストラリアとのEPA交渉でも保護期間延長問題が取り沙汰される可能性があるかも知れない。

 FTA・EPAを通じた知財規制の強化・著作権の保護期間延長の押しつけに何と言っても熱心なのがアメリカで、欧州がそれに次ぐというのが、私が見たところのFTA・EPAと知的財産政策を巡る今現在の概況である。EPAなりの交渉を通じて欧米が日本に対して何を言い出して来るかは不明だが、今までの協定の内容から見て、恐らく、著作権保護期間延長、DRM回避規制強化、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の間接侵害責任/ノーティス&テイクダウン制度、法定賠償制度といったところが今後知財絡みで特に問題となって来るのではないかと思う。米韓FTA欧韓EPAの内容を見ると、韓国は欧米の極めて厳しい知財規制の強化を丸呑みしている。これで韓国の著作権法がかなり悲惨なことになっているのは想像に難くなく、その影響は今後じりじりと出て来るだろう。)

 前回も書いたことだが、EPA交渉も海賊版対策条約(ACTA)と同じく国際交渉として、やはり秘密裏にポリシーロンダリング・国際マッチポンプのために使われる恐れがある。このようなEPA交渉について、全体として日本にどうメリットをもたらし、そのために関税という利権の塊を政治的にどう整理するつもりなのかどう見てもさっぱり分からず、今年延々騒ぐだけ騒いだあげく欧米とのEPA交渉に関する検討は国内的に頓挫するのではないかと個人的には踏んでいるが、その渦中に知財問題が巻き込まれる恐れも十分にあり、パブコメなどの機会をとらえて政府に釘を差しておいた方が良いと私は考えている。

 次回は、知財計画パブコメの提出エントリをじきに載せるつもりである。

(2月2日の追記:twitterでコメントをもらったので、少し上の文章に手を入れた(「70年」→「少なくとも70年」)。一通り各国のFTAを見ると、その国に保護期間延長を押しつけたということでは必ずしもないが、アメリカとのFTAに圧倒的に多く著作権保護期間規定が含まれているということである。)

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