第244回:経産省・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)」に対するパブコメ募集(1月21日〆切)
DRM回避規制については、著作権法だけではなく常に不正競争防止法についても合わせて見なければならないのがややこしいこと極まりないが、そうは言ってもどうしようもない、前回取り上げた文化庁の方のパブコメに続き、経済産業省の方のDRM回避規制強化検討会である産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の報告書案についても、1月21日〆切でパブコメにかかった(電子政府の該当ページ参照)。
この経産省の方の報告書案「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)(pdf)」は、文化庁のまとめよりは体裁を取り繕っている点でマシとは言えるかも知れないが、やはり規制強化の根拠が薄弱であることに変わりはない。
細かなことは直接元の報告書案を見てもらいたいと思うが、この報告書案の「Ⅱ 『のみ要件』の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について」(第4ページ~)で「『のみ』要件を見直すに当たっては、『専ら』要件の方向で検討を進めることが妥当」とされ、「Ⅲ 技術的制限手段の回避行為に対する規制の在り方について」(第10ページ~)で「個々の技術的制限手段の回避行為そのものを不正競争防止法における規制の対象とするかどうかについては、引き続き消極に解することが適当」とされ、「Ⅳ 技術的制限手段の回避サービスの提供行為に対する規制の在り方について」(第12ページ~)で「技術的制限手段回避サービスの提供行為につき不正競争防止法において独立して規制の対象とするかどうかについては、消極に解することが適当」とされ、「Ⅴ 技術的制限手段回避装置等の製造行為に対する規制の在り方について」(第15ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の製造行為については、既存の法令によって一定程度の対応が可能であり、今後とも回避装置等の国内での製造実態とこれに伴う影響等を注視しながら対応を検討することが適当」とされ、「Ⅵ 技術的制限手段回避装置等の提供行為に対する刑事罰の導入について」(第17ページ~)で「一定の悪質な行為に限定して刑事罰の対象とする方向で検討することが適切」とされ、「Ⅶ 技術的制限手段回避装置等に対する水際措置の導入について」(第22ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の国境をまたがる流通への対策の実効性を高める観点からは、当該装置等についても水際措置を導入することが極めて有効」とされている通り、この報告書案で考えられているDRM回避機器等に対する規制強化をまとめると以下の3点となるだろう。
- 現行のDRM(コピーコントロールとアクセスコントロール)回避機器等の規定における「のみ」要件の「専ら」要件への変更(回避機能「のみ」を有する機器又はプログラムという規定を回避機能を「専ら」有すると変えるイメージだろうか。)
- 「不正の利益を得る目的又は技術的制限手段を用いる者に損害を加える目的」という主観的要件を付加して限定し、DRM回避機器・プログラムの提供行為に刑事罰を付加(法人処罰・法人重課あり)
- DRM回避機器等を関税法の輸入禁止品に追加し、水際措置を導入
ここで、1の「のみ」要件の「専ら」要件への変更も、特にピンポイントで問題とされているマジコンのような機器について不競法の規制の対象外とする判決が出されたというのならまだ分からなくもないが、マジコンが規制対象になるという地裁判決が出されている中で、このような規定の変更をする意味は私には良く分からない。このような変更はかえって規制対象を不明確にする恐れもあるだろう。(マジコン地裁判決については、番外その15参照。)
2の刑事罰付加についても、その理由としてあげられているのは露店販売とネットショップへの対応が民事救済だけでは困難ということだが、露店販売やネットショップが本当にどこまで被害をもたらしているのか、ネット販売についてプロバイダーとの協力体制の構築やプロバイダー責任制限法を用いた対応も含めて本当に対応が難しいのか、今まで民間事業者がこの権利行使のためにどれほどのコストをかけてきてそれが本当に事業者にとって不当な負担と言えるほどのものになっているのかといった点での検討は極めて不十分である。この点も法改正の根拠が本当にあるのかということをよくよく考えるとかなり怪しい。(そもそもソフトメーカーはいざ知らず、ゲーム機のハードメーカーは任天堂、ソニー、マイクロソフトの世界的大企業3社の寡占状況にあるので、そのコスト負担能力を考えると今の規定で対応が困難と言えるほどの状況にあるとはにわかに信じがたい。)
また、3の水際措置の導入については単独であれば特に反対する理由はないのだが、経産省の財務省への平成23年度関税制度改正要求要望書(pdf)の中で、「ある物品を関税法において輸入禁制品とする場合には、当該物品の所持・提供・輸入行為等について、国内法令において関税法と同程度の刑事罰の対象とすることが求められている」と書かれている通り、今のところ何故か刑事罰の導入が水際措置の導入の前提として考えられているということから、やはり慎重な検討が必要と私は考えている。(法律の間のバランスを考えた役所間の取り決めなのだろうが、水際措置の導入に刑事罰が必要とする合理的理由はないだろう。なお、アクセスコントロール回避機器等への水際措置の導入については、著作権法の改正がされた場合という条件で、文部科学省(文化庁)も同様に要望書(pdf)を財務省に出している。また、関税法の改正については、財務省の関税審議会・企画部会でも同様の検討がされている。)
これらも、現時点ではほとんど規制強化のためのみの規制強化としか思えず、文化庁と同じく、海賊版対策条約(ACTA)についての意見も含め、私はこちらのパブコメも出すつもりである。
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