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2010年12月29日 (水)

第245回:2010年の落ち穂拾い

 非実在キャラクター規制の都条例問題を筆頭に今年もロクでもない1年だったが、一通り年内のイベントは終わったと思うので、今年も最後に落ち穂拾いをしておきたいと思う。

(1)特許法・意匠法・商標法の改正パブコメ
 制度ユーザーにしかほとんど関係のない話が多いが、今現在特許法等の改正についてもパブコメにかかっているので、ここで、少し簡単に法改正事項を拾っておきたい。

 まず、1月4日〆切でパブコメにかかっている特許庁の法改正検討会である特許制度小委員会の報告書案「特許制度に関する法制的な課題について」(案)(pdf)に書かれている各項目から法改正の結論が出ている点を抜き出すと、以下の9項目9点になる(電子政府の該当ページ1参照)。

  • 登録を必要とせず、自ら通常実施権の存在を立証すれば第三者に対抗できる、「当然対抗制度」を導入:「Ⅰ-(1)登録対抗制度の見直し」(第1ページ~)
  • 無効審判又は訂正審判を請求した時期にかかわらず、特許権侵害訴訟の判決確定後に確定した特許無効審判及び訂正審判の審決確定の遡及効等を制限:「Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い」(第23ページ~)
  • 「審決予告」の導入と出訴後の訂正審判請求を禁止:「Ⅱ-(3)無効審判ルートにおける訂正の在り方」(第35ページ~)
  • 無効審判の確定審決の効力のうち、第三者効について廃止:「Ⅱ-(4)無効審判の確定審決の第三者効の在り方」(第40ページ~)
  • 明細書等の一覧性の確保といったわかりやすい公示に一定の配慮をしたうえで、特許無効審判における訂正の許否判断及び審決の確定・訂正審判について、請求項ごとに行うことを前提として制度整備:「Ⅱ-(6)審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方」(第46ページ~)
  • 真の権利者が出願したか否かにかかわらず、特許権設定登録後に、特許権の移転請求を認める制度を導入:「Ⅲ-(2)冒認出願に関する救済措置の整備」(第58ページ~)
  • 外国語書面出願の翻訳文提出手続及び外国語特許出願の翻訳文の提出手続の手続き期間・特許料等の追納期間の期間徒過について、PLTに準拠した救済手続を導入:「Ⅳ-(1)特許法条約(PLT)との整合に向けた救済手続の導入」(第72ページ~)
  • 特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に公表したことによって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明については、その公表態様を問わずに本規定の適用対象となるよう、新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大:「Ⅳ-(3)グレースピリオドの在り方」(第84ページ~)
  • 審査請求料の引下げ/国際出願の調査手数料等の引下げ/中小企業等減免制度の拡充:「Ⅳ-(4)特許料金の見直し」(第89ページ~)

 また、報告書案の項目の内、「Ⅰ-(2)独占的ライセンス制度の在り方」(第11ページ~)、「Ⅰ-(3)特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁」(第13ページ~)、「Ⅱ-(5)同一人による複数の無効審判請求の禁止」(第43ページ~)、「Ⅲ-(1)差止請求権の在り方」(第53ページ~)、「Ⅲ-(3)職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備」(第67ページ~)の5項目については、引き続き検討するとしている。

 現状維持とされたのは、「Ⅱ-(1)特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方」(第15ページ~)、「Ⅳ-(2)大学・研究者等にも容易な出願手続の在り方」(第78ページ~)の2項目の検討事項である。(なお、後者については、現行制度において論文をベースに出願する手法について大学・研究者等に周知するとしている。)

 同時に1月12日と1月13日〆切でパブコメにかかっている、商標制度小委員会「特許法改正検討項目の商標法への波及について(案)(pdf)」と意匠制度小委員会の「特許法改正検討項目の意匠法への波及等について(案)(pdf)」に書かれているように、上のような特許法の改正案に合わせて商標法・意匠法においても以下のような法改正をするとしている。(それぞれ、電子政府の該当ページ2ページ3参照。)

  • 特許法と同様に、商標権・意匠権侵害訴訟の判決確定後の無効審決等の遡及効等を一律に制限
  • 特許法と同様に、商標無効審判・意匠登録無効審判等の確定審決の第三者効を廃止
  • 商標登録無効審判の審決又は登録異議の申立ての決定の確定を、指定商品又は指定役務ごとに行うことを前提として制度整備
  • 商標・意匠制度の権利の回復規定についても、特許制度と同様の主観的要件・期間を導入
  • 特許庁長官による博覧会指定がなくとも、一定の基準に適合する博覧会については、不登録事由の対象とし、また出願時の特例の主張を可能とするよう、商標法における博覧会に関する例外規定を拡充
  • 特許法と同様に、冒認意匠出願について真の権利者が出願したか否かにかかわらず、意匠権設定登録後に、意匠権の移転請求を認める制度を導入
  • 意匠登録料について、重い後年度登録料負担を軽減

 また、商標法については、「商標権消滅後1年間の他人の商標登録排除規定の見直しについて(案)(pdf)」という報告書案も同時にパブコメにかけられており、これには以下のような法改正事項が書かれている。

  • 商標権消滅後1年間の他人の商標登録排除規定を見直し、異議申立ての決定や、無効審判若しくは取消審判の審決の確定又は申請による放棄によって先行商標の商標権が消滅した場合は、後に出願された同一又は類似の商標は登録できるようにする

 著作権問題と違って一般ユーザーにまで影響する話はあまりないので細かな話は省くが、来年の特許法などの改正もかなりの大改正になることが予想される。

 新しいタイプの商標に関してはパブコメにかかっていないが、これについては特許庁は来年度の法改正は見送るつもりなのだろうか。ただ、役所が何を考えているかは大体良く分からないので、新しいタイプの商標についても引き続き注意しておくに越したことはないだろう。

(2)不正競争防止法に基づく刑事裁判での営業秘密の秘匿の可能化
 不正競争防止法については、前回取り上げたDRM回避規制の強化だけでなく、法務省と経産省の検討会である、営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会において要項(骨子)(pdf)という形で報告書もとりまとめられている。

 法改正の内容は経産省リリースの概要に書かれている通り、

・裁判所は、被害者等の申出に応じて、営業秘密の内容を公開の法廷で明らかにしない旨の決定(秘匿決定)をすることができるものとする
・裁判所は、秘匿決定をした場合には、営業秘密の内容を特定させることとなる事項につき、呼称等の定めを行うことができるものとする
・秘匿決定がなされた場合において、一定の要件が認められるときは、公判期日外において証人等の尋問及び被告人質問を行うことができるものとする

とトリッキーな形で刑事裁判においても営業秘密の秘匿を認めるとするものである。これは営業秘密を秘匿しつつ裁判を提起したい企業にとっては悪い話ではない。しかし、憲法上の刑事裁判公開原則にかかわる話であり、これについては個人的に多少言いたいことがなくもないのだが、営業秘密関係に関してはパブコメは去年で募集済みという整理なのだろうか。

(3)半導体集積回路法の改正(輸出規制の追加)
 これも恐らくパブコメにかかっていないと思うが、財務省の関税・外国為替等審議会・関税分科会・企画部会の11月26日の資料「回路配置利用権侵害物品に係る輸出規制の導入(pdf)」や12月1日の「平成23年度関税改正に関する論点整理(pdf)」で、「本年10月に大筋合意した模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)の最終的な条約案文において、回路配置利用権侵害物品の流通経路への流入に対する規制が要請されているところ、経済産業省において、半導体集積回路の回路配置に関する法律の改正の要否について検討がなされている」と書かれ、「半導体集積回路の回路配置に関する法律において回路配置利用権侵害物品の輸出規制が明記された場合には、他の知的財産侵害物品同様、回路配置利用権侵害物品を関税法上の輸出禁止品に追加することが適当」と書かれている通り、来年は恐らく半導体集積回路法の改正も行われるのではないかと思える。単に輸出規制の追加であれば特に反対する理由はないが、海賊版対策条約(ACTA)に関する検討の影響として、このような法改正も検討されていることを知っておいても良いのではないかと思う。

(4)種苗法告示案・省令案改正パブコメ
 また、種苗法の告示案・省令案についてパブコメがかかっている。1つは、「第2条第7項の規定に基づく重要な形質を定める件の一部を改正する告示案について」(1月14日〆切。電子政府の該当ページ4参照)であり、もう1つは「種苗法施行規則の一部を改正する省令案について」(1月14日〆切。電子政府の該当ページ5参照)である。これらは、国際植物新品種保護同盟(UPOV)のガイドラインに日本の規則等を合わせるためのテクニカルな告示・省令改正だが、マイナーとは言え種苗法も知財法の1つなので、合わせ紹介しておく。

(5)私的録音録画補償金裁判でのメーカー勝訴の地裁判決
 12月27日には、私的録音録画補償金裁判でメーカーに補償金支払い義務なしとする東芝勝訴の地裁判決が出され、私的録画補償金管理協会(SARVH)が翌日控訴した(internet watchの記事PC onlineの記事毎日のネット記事参照)。

 地裁判決の細かなところが気にならなくはないが、この裁判も問答無用で最高裁まで行くと思うので、今の時点でどうこう言うことにあまり意味はないだろう。私的録音録画補償金制度は最初から非常に脆い建て付けになっているので一旦揉めたらとことんまで揉めるしかなく、この問題はまだまだ尾を引くだろうと思うし、今後の行方に大いに注目している。

 著作権問題についても引き続き注意が必要であることに加え、都条例問題もそう簡単に収まりがつく話ではなく、また、各地方で児童ポルノの単純所持を含む有害無益な規制強化の検討が進められていることや児童ポルノを理由としたサイトブロッキング、実質的なネット検閲についても引き続き危険な状態が続くだろうことなどを考えると、来年も混乱と迷走の年になることは間違いなく。今年も簡単に良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

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コメント

保守を語る自民党が公明党と組み戦時中のごとき日本国民を弾圧する表現規制は大変ゆるしがたい蛮行であります。選挙投票の際ですが自民党の規制反対者と民主党の規制賛成者が立候補した場合(この二人の選択肢になった場合)どう投票したら良いか教えていただきたい。

投稿: sach | 2011年1月 4日 (火) 21時07分

sach様

コメントありがとうございます。都条例問題では寡聞にして規制反対派の自民都議がいるという話は聞いたことがありませんが、表現規制問題において、おっしゃるようなステレオタイプな条件設定に意味があるとは個人的にはあまり思いません。ネットに限らず様々な情報を集め、個々の候補・政党の主張・動向を普段から注視し、選挙に足を運び、自らの判断で自分の選挙区で最も適切と思える候補・政党に投票下さい。

投稿: 兎園 | 2011年1月 6日 (木) 01時45分

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