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2010年12月15日 (水)

第243回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会「技術的保護手段に関する中間まとめ」に対するパブコメ募集(1月7日〆切)

 今日12月15日、東京都議会で、青少年健全育成条例改正案という名の漫画・アニメ弾圧条例が可決された(都議会録画映像参照)。可決案では、「非実在青少年」という言葉こそ消えたものの、漫画・アニメに狙い撃ちにした架空の性犯罪描写規制とされるなど創作物規制についてはかえって規制範囲は広がった。その他細かな点で言い換えがされているが、携帯・ネット規制等についても、前回の案での懸念が払拭されているとは言い難い。漫画・アニメといった特定の表現に対するいわれのない差別条項をその頂点として、今回の条例改正は内容・制定プロセスの全てにおいて何重にも違憲だろう。ただ、この話は既に無名の個人ブログでどうこうというレベルを遙かに超えてしまっており、ここでくどくどと書くことはしないが、このような異常極まりない条例改正の動きについて粘り強く反対して下さった都議の皆様、また理性的に広く反対して下さっている関係者の方々には心からの感謝と敬意を私も表したいと思う。この問題を追っていた一人として今回の可決は非常に残念だが、法律や条令は可決したらそれで終わりというものではない、さらにいろいろな動きや思惑が入り乱れることは間違いなく、これまでのことを忘れてはならないし、今後も決して気は抜けない。

 来年春には統一地方選も控えており、都条例問題からも目は離せないが、知財絡みの話として1月7日〆切で文化庁からDRM回避規制強化に関するパブコメがかかったので、その紹介をしておきたいと思う(文化庁HP電子政府の該当ページ日経パソコンの記事internet watchの記事参照)。

 今回の報告書「技術的保護手段に関する中間まとめ(pdf)」(概要(pdf))はほぼ結論ありきの薄っぺらなものだが、この報告書に書かれている上っ面の理由はどうあれ、文化庁は、日本版(骨抜き)フェアユース導入の動きに対してどうにか規制強化も一緒にしようと、スジが悪いと知りながら他にネタもなくこのDRM回避規制強化の話を引っ張り出して来ざるを得なかったというのが本当の背景ではないかと個人的に踏んでいる。

 規制強化の内容としては、報告書(pdf)の第2章「技術的保護手段の在り方について」のまとめ(第15ページ)で

○以上の評価をもとに、技術的保護手段の対象となる保護技術について総括すると、現行でも技術的保護手段の対象となっているSCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式等の「フラグ型」技術等に加え、CSS等の「暗号型」技術についても、保護技術の「技術」の側面のみならず、当該「技術」が、契約の実態等とも相まって、社会的にどのように「機能」しているのかという点も含めて評価することにより、技術的保護手段の対象とすることが適当と考えられる。(ただし、「暗号型」技術については、今後、アクセスコントロール「機能」のみを有するような保護技術が多く用いられるようになることが十分に想定され、そのような保護技術については技術的保護手段の対象外となる。)

○また、ゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、ゲームソフトの媒体によっては、複製そのものの防止は行われていないものの、違法に複製され、さらに違法にアップロード(送信可能化、自動公衆送信)されたゲームソフトを、単にダウンロード(複製)するだけでは、当該複製により作成されたゲームソフトの複製物を使用することができず、また、コンテンツ提供事業者(ゲームソフトメーカー)は、こうした違法に行われている複製や送信可能化、自動公衆送信を抑止する意図をもって当該保護技術を用いていると考えられることから、当該保護技術が社会的にどのように「機能」しているかという観点から着目すれば、複製等の抑止を目的とした保護技術と評価することが可能であ
り、技術的保護手段の対象とすることが適当と考える。
 もっとも、上述のとおり、オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていない、アクセスコントロール「機能」のみを有する保護技術については、技術的保護手段の対象とはならないものと考えられる。

○なお、アクセスコントロール「機能」のみを有すると評価されるオンラインゲーム用の保護技術を除くゲーム機・ゲームソフト用の保護技術のうち、とりわけゲームソフトを暗号化していない場合は、当該保護技術の回避によって支分権の対象となる行為が可能となるわけではなく、当該保護技術を技術的保護手段の対象とすることは、結果として著作権法が特定の者のプラットフォームを保護することにつながることから反対であるとする意見があった。
 この点、上述のとおり、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術について、著作権者等の権利の実効性の確保という観点から、著作権等侵害行為を防止又は抑止する手段に係るものを規制対象とし、現行著作権法の技術的保護手段の枠内で捉えようとするものであり、特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではないことは言うまでもない。

と書かれ、第3章の「技術的保護手段の定義規定等の見直し」(第16~17ページ)で、

○一方、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、単に暗号化されたコンテンツやゲームソフトを複製しただけでは、当該複製物を使用できない点において複製の抑止と評価できることから、現行の定義規定中の「抑止」との関係について、どのように評価するか検討する必要があり、必要に応じ、規定の見直しを行うべきと考えられる。

○CSS等の「暗号型」技術の場合には、著作物等そのものを暗号化しており、特定の反応をする信号を著作物等とともに記録媒体に記録又は送信する方式ではなく、そうした技術については現行規定では対応できないため、現行の定義規定中の「方式」の見直しが必要であると考えられる。

○技術的保護手段を施す主体については、実態上、現行用いられている保護技術は著作権者等の意思に基づいて施されていることから、引き続き、著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを技術的保護手段の対象から除くことが適当であると考えられる。

等と書かれ、第4章の「技術的保護手段の見直しに伴う回避規制の在り方」で、回避機器規制と回避行為規制の範囲については現行と同等とされている通り、まだ曖昧なところはあるものの、この文化庁報告書の考え方は、およそ、規制される行為自体は大きく変えないものの、規制対象となる技術に、現行のフラグ付加型のコピーコントロール技術だけでなく、コピーコントロール機能を有すると見える暗号型のアクセスコントロール技術も追加して広げるというものと分かる。

 このような規制強化によって具体的に新たにどのような行為類型が著作権法の規制対象となるかというと、主に、

  1. 暗号型のアクセスコントロール技術を解除して私的に複製する行為(ただし、刑事罰はなし。要するに、DVDリッピング・暗号解除をともなうゲームROMの吸い出し等の明確な違法化である。)
  2. アクセスコントロール回避機器又はプログラムの公衆譲渡・貸与目的での製造等(刑事罰あり)

の2つということになるだろう。(権利者団体は常に無茶を言い続けるだろうが、当たり前の話で、報告書にも書かれている通り、マジコンでゲームをプレイすること自体等、著作権法上の複製を行っている訳ではない行為類型は著作権法の規制対象とはなり得ないだろう。なお、ニンテンドーDSで用いられているフラグ付加型の保護技術は現行でも技術的保護手段に該当し、このような技術を回避してROMを吸い出すことの可能なマジコンは現行の著作権法でもその譲渡等が刑事罰の対象となり得るのではないかと私は考えているが、何故かこの報告書では、ほとんど何の検討もなく、これが現行の著作権法上の技術的保護手段に入らないかの如き書きぶりがされている。あまりに曖昧なため、上のような整理と見て私は今回のエントリを書いたが、全体を通して技術の評価が非常に曖昧なこの報告書は本当に始末に困る。)

 しかし、そもそもアクセスコントロール技術については、平成11年のDRM回避規制導入時や平成18年文化審議会報告書の検討時においても、著作権法の規制対象に含めないとされていたものであり、当時と比べて特別な立法事実の変化が生じている訳ではない。例えばマジコン被害について、CESAの「違法複製ゲームソフトの使用実態調査報告書(pdf)」(CESAのリリース)を引用しているが、このような突っ込みどころしかないようなデタラメな実態調査が法改正の前提とされることなどおよそあり得ない話だろう。この点で、アクセスコントロール回避規制を何も考えずに著作権法に入れてしまい混乱しているだけの欧米の法制が参考になるということもない。

 また、ここでは何度も繰り返していることだが、ダウンロード違法化しかり、1のように捕捉不可能な家庭内の私的複製行為を規制しようとする発想自体間違っているし、2のアクセスコントロール回避機器等への規制にしても、既にDVDリッピングソフトもアクセスコントロール回避機器としてのマジコンも不正競争防止法でその譲渡等が規制対象となっているので、著作権法で二重に網をかける意味に甚だ乏しい。(アクセスコントロール回避機器等の条件付きでの製造規制、その譲渡等への罰則付加については議論の余地がなくはないだろうが、不正競争防止法の枠内で議論すれば済む話である。)

 さらに言えば、アクセスコントロール技術をコピーコントロール機能を有するか否かという観点からきちんと評価することが可能かどうかからして怪しい。報告書ではあっさり、オンラインゲームのアクセスコントロールだけを取り上げ、「オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていないものについては、アクセスコントロール『機能』のみを有する保護技術と考えられ、技術的保護手段の対象として位置付けることは適当でないものと考えられる」としているが、オンラインゲームのアクセスコントロールにしても送信データのコピーを抑止していないとできるかどうか疑問であるし、動画配信等も含め、暗号化のみのDRMによりデータを送信する場合にそれがアクセスをコントロールするものであるのか、コピーをコントロールするものであるのかの評価は非常に難しく、実質全ての暗号技術が著作権法上の技術的保護手段に含まれることとなりかねず、将来的に著作権法の本来の法目的に照らして規制すべきでない物や行為にまで規制が及ぶ恐れがあるだろう。(また、単にアクセスコントロールといった時には暗号化だけでなくパスワード等によるコントロールも含まれることになるのであり、今のところ文化庁などはそこまでは全く想定していないようだが、このような点でも不当に規制の範囲が広がることのないよう十分気をつける必要がある。)

 今回の報告書に書かれていることは文化庁にしては比較的おとなしめではあるが、検討メンバーから見ても、技術的なことも含めて本当にきちんとした議論がなされたとは思えず、例によって、ほとんど規制強化の結論ありきで屁理屈をこねているとしか思えない、法改正の前提とするには到底足らないお粗末なものである。

 今週末12月17日の経産省の「技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会」(第3回開催案内)でとりまとめると思われる、不正競争防止法上のDRM回避規制強化も合わせて見ないとならないのが厄介なところだが、海賊版対策条約(ACTA)のことなども含め、不合理な法改正に反対するという内容のパブコメを私は出すつもりである。

 どこかでまた少し内容を紹介したいと思っているが、知財関係では、特許庁から、特許法等の改正に関するパブコメもかかっているので、ここにリンクを張っておく(電子政府の該当ページ1該当ページ2該当ページ3)。

(2010年12月16日夜の追記:フラグ付加型の技術的保護手段を回避してソフトのコピーを可能とするタイプのマジコンは、不正競争防止法の規制対象となっているだけでなく、現行でも著作権法の規制対象となり得ると私は考えているが、この点を踏まえてどう考えられるかということが少し分かりにくかったかと思うので、上の文章に少し手を入れた。)

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