« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »

2010年12月29日 (水)

第245回:2010年の落ち穂拾い

 非実在キャラクター規制の都条例問題を筆頭に今年もロクでもない1年だったが、一通り年内のイベントは終わったと思うので、今年も最後に落ち穂拾いをしておきたいと思う。

(1)特許法・意匠法・商標法の改正パブコメ
 制度ユーザーにしかほとんど関係のない話が多いが、今現在特許法等の改正についてもパブコメにかかっているので、ここで、少し簡単に法改正事項を拾っておきたい。

 まず、1月4日〆切でパブコメにかかっている特許庁の法改正検討会である特許制度小委員会の報告書案「特許制度に関する法制的な課題について」(案)(pdf)に書かれている各項目から法改正の結論が出ている点を抜き出すと、以下の9項目9点になる(電子政府の該当ページ1参照)。

  • 登録を必要とせず、自ら通常実施権の存在を立証すれば第三者に対抗できる、「当然対抗制度」を導入:「Ⅰ-(1)登録対抗制度の見直し」(第1ページ~)
  • 無効審判又は訂正審判を請求した時期にかかわらず、特許権侵害訴訟の判決確定後に確定した特許無効審判及び訂正審判の審決確定の遡及効等を制限:「Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い」(第23ページ~)
  • 「審決予告」の導入と出訴後の訂正審判請求を禁止:「Ⅱ-(3)無効審判ルートにおける訂正の在り方」(第35ページ~)
  • 無効審判の確定審決の効力のうち、第三者効について廃止:「Ⅱ-(4)無効審判の確定審決の第三者効の在り方」(第40ページ~)
  • 明細書等の一覧性の確保といったわかりやすい公示に一定の配慮をしたうえで、特許無効審判における訂正の許否判断及び審決の確定・訂正審判について、請求項ごとに行うことを前提として制度整備:「Ⅱ-(6)審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方」(第46ページ~)
  • 真の権利者が出願したか否かにかかわらず、特許権設定登録後に、特許権の移転請求を認める制度を導入:「Ⅲ-(2)冒認出願に関する救済措置の整備」(第58ページ~)
  • 外国語書面出願の翻訳文提出手続及び外国語特許出願の翻訳文の提出手続の手続き期間・特許料等の追納期間の期間徒過について、PLTに準拠した救済手続を導入:「Ⅳ-(1)特許法条約(PLT)との整合に向けた救済手続の導入」(第72ページ~)
  • 特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に公表したことによって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明については、その公表態様を問わずに本規定の適用対象となるよう、新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大:「Ⅳ-(3)グレースピリオドの在り方」(第84ページ~)
  • 審査請求料の引下げ/国際出願の調査手数料等の引下げ/中小企業等減免制度の拡充:「Ⅳ-(4)特許料金の見直し」(第89ページ~)

 また、報告書案の項目の内、「Ⅰ-(2)独占的ライセンス制度の在り方」(第11ページ~)、「Ⅰ-(3)特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁」(第13ページ~)、「Ⅱ-(5)同一人による複数の無効審判請求の禁止」(第43ページ~)、「Ⅲ-(1)差止請求権の在り方」(第53ページ~)、「Ⅲ-(3)職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備」(第67ページ~)の5項目については、引き続き検討するとしている。

 現状維持とされたのは、「Ⅱ-(1)特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方」(第15ページ~)、「Ⅳ-(2)大学・研究者等にも容易な出願手続の在り方」(第78ページ~)の2項目の検討事項である。(なお、後者については、現行制度において論文をベースに出願する手法について大学・研究者等に周知するとしている。)

 同時に1月12日と1月13日〆切でパブコメにかかっている、商標制度小委員会「特許法改正検討項目の商標法への波及について(案)(pdf)」と意匠制度小委員会の「特許法改正検討項目の意匠法への波及等について(案)(pdf)」に書かれているように、上のような特許法の改正案に合わせて商標法・意匠法においても以下のような法改正をするとしている。(それぞれ、電子政府の該当ページ2ページ3参照。)

  • 特許法と同様に、商標権・意匠権侵害訴訟の判決確定後の無効審決等の遡及効等を一律に制限
  • 特許法と同様に、商標無効審判・意匠登録無効審判等の確定審決の第三者効を廃止
  • 商標登録無効審判の審決又は登録異議の申立ての決定の確定を、指定商品又は指定役務ごとに行うことを前提として制度整備
  • 商標・意匠制度の権利の回復規定についても、特許制度と同様の主観的要件・期間を導入
  • 特許庁長官による博覧会指定がなくとも、一定の基準に適合する博覧会については、不登録事由の対象とし、また出願時の特例の主張を可能とするよう、商標法における博覧会に関する例外規定を拡充
  • 特許法と同様に、冒認意匠出願について真の権利者が出願したか否かにかかわらず、意匠権設定登録後に、意匠権の移転請求を認める制度を導入
  • 意匠登録料について、重い後年度登録料負担を軽減

 また、商標法については、「商標権消滅後1年間の他人の商標登録排除規定の見直しについて(案)(pdf)」という報告書案も同時にパブコメにかけられており、これには以下のような法改正事項が書かれている。

  • 商標権消滅後1年間の他人の商標登録排除規定を見直し、異議申立ての決定や、無効審判若しくは取消審判の審決の確定又は申請による放棄によって先行商標の商標権が消滅した場合は、後に出願された同一又は類似の商標は登録できるようにする

 著作権問題と違って一般ユーザーにまで影響する話はあまりないので細かな話は省くが、来年の特許法などの改正もかなりの大改正になることが予想される。

 新しいタイプの商標に関してはパブコメにかかっていないが、これについては特許庁は来年度の法改正は見送るつもりなのだろうか。ただ、役所が何を考えているかは大体良く分からないので、新しいタイプの商標についても引き続き注意しておくに越したことはないだろう。

(2)不正競争防止法に基づく刑事裁判での営業秘密の秘匿の可能化
 不正競争防止法については、前回取り上げたDRM回避規制の強化だけでなく、法務省と経産省の検討会である、営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会において要項(骨子)(pdf)という形で報告書もとりまとめられている。

 法改正の内容は経産省リリースの概要に書かれている通り、

・裁判所は、被害者等の申出に応じて、営業秘密の内容を公開の法廷で明らかにしない旨の決定(秘匿決定)をすることができるものとする
・裁判所は、秘匿決定をした場合には、営業秘密の内容を特定させることとなる事項につき、呼称等の定めを行うことができるものとする
・秘匿決定がなされた場合において、一定の要件が認められるときは、公判期日外において証人等の尋問及び被告人質問を行うことができるものとする

とトリッキーな形で刑事裁判においても営業秘密の秘匿を認めるとするものである。これは営業秘密を秘匿しつつ裁判を提起したい企業にとっては悪い話ではない。しかし、憲法上の刑事裁判公開原則にかかわる話であり、これについては個人的に多少言いたいことがなくもないのだが、営業秘密関係に関してはパブコメは去年で募集済みという整理なのだろうか。

(3)半導体集積回路法の改正(輸出規制の追加)
 これも恐らくパブコメにかかっていないと思うが、財務省の関税・外国為替等審議会・関税分科会・企画部会の11月26日の資料「回路配置利用権侵害物品に係る輸出規制の導入(pdf)」や12月1日の「平成23年度関税改正に関する論点整理(pdf)」で、「本年10月に大筋合意した模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)の最終的な条約案文において、回路配置利用権侵害物品の流通経路への流入に対する規制が要請されているところ、経済産業省において、半導体集積回路の回路配置に関する法律の改正の要否について検討がなされている」と書かれ、「半導体集積回路の回路配置に関する法律において回路配置利用権侵害物品の輸出規制が明記された場合には、他の知的財産侵害物品同様、回路配置利用権侵害物品を関税法上の輸出禁止品に追加することが適当」と書かれている通り、来年は恐らく半導体集積回路法の改正も行われるのではないかと思える。単に輸出規制の追加であれば特に反対する理由はないが、海賊版対策条約(ACTA)に関する検討の影響として、このような法改正も検討されていることを知っておいても良いのではないかと思う。

(4)種苗法告示案・省令案改正パブコメ
 また、種苗法の告示案・省令案についてパブコメがかかっている。1つは、「第2条第7項の規定に基づく重要な形質を定める件の一部を改正する告示案について」(1月14日〆切。電子政府の該当ページ4参照)であり、もう1つは「種苗法施行規則の一部を改正する省令案について」(1月14日〆切。電子政府の該当ページ5参照)である。これらは、国際植物新品種保護同盟(UPOV)のガイドラインに日本の規則等を合わせるためのテクニカルな告示・省令改正だが、マイナーとは言え種苗法も知財法の1つなので、合わせ紹介しておく。

(5)私的録音録画補償金裁判でのメーカー勝訴の地裁判決
 12月27日には、私的録音録画補償金裁判でメーカーに補償金支払い義務なしとする東芝勝訴の地裁判決が出され、私的録画補償金管理協会(SARVH)が翌日控訴した(internet watchの記事PC onlineの記事毎日のネット記事参照)。

 地裁判決の細かなところが気にならなくはないが、この裁判も問答無用で最高裁まで行くと思うので、今の時点でどうこう言うことにあまり意味はないだろう。私的録音録画補償金制度は最初から非常に脆い建て付けになっているので一旦揉めたらとことんまで揉めるしかなく、この問題はまだまだ尾を引くだろうと思うし、今後の行方に大いに注目している。

 著作権問題についても引き続き注意が必要であることに加え、都条例問題もそう簡単に収まりがつく話ではなく、また、各地方で児童ポルノの単純所持を含む有害無益な規制強化の検討が進められていることや児童ポルノを理由としたサイトブロッキング、実質的なネット検閲についても引き続き危険な状態が続くだろうことなどを考えると、来年も混乱と迷走の年になることは間違いなく。今年も簡単に良い年をと言う気にはならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年12月25日 (土)

第244回:経産省・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)」に対するパブコメ募集(1月21日〆切)

 DRM回避規制については、著作権法だけではなく常に不正競争防止法についても合わせて見なければならないのがややこしいこと極まりないが、そうは言ってもどうしようもない、前回取り上げた文化庁の方のパブコメに続き、経済産業省の方のDRM回避規制強化検討会である産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の報告書案についても、1月21日〆切でパブコメにかかった(電子政府の該当ページ参照)。

 この経産省の方の報告書案「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)(pdf)」は、文化庁のまとめよりは体裁を取り繕っている点でマシとは言えるかも知れないが、やはり規制強化の根拠が薄弱であることに変わりはない。

 細かなことは直接元の報告書案を見てもらいたいと思うが、この報告書案の「Ⅱ 『のみ要件』の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について」(第4ページ~)で「『のみ』要件を見直すに当たっては、『専ら』要件の方向で検討を進めることが妥当」とされ、「Ⅲ 技術的制限手段の回避行為に対する規制の在り方について」(第10ページ~)で「個々の技術的制限手段の回避行為そのものを不正競争防止法における規制の対象とするかどうかについては、引き続き消極に解することが適当」とされ、「Ⅳ 技術的制限手段の回避サービスの提供行為に対する規制の在り方について」(第12ページ~)で「技術的制限手段回避サービスの提供行為につき不正競争防止法において独立して規制の対象とするかどうかについては、消極に解することが適当」とされ、「Ⅴ 技術的制限手段回避装置等の製造行為に対する規制の在り方について」(第15ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の製造行為については、既存の法令によって一定程度の対応が可能であり、今後とも回避装置等の国内での製造実態とこれに伴う影響等を注視しながら対応を検討することが適当」とされ、「Ⅵ 技術的制限手段回避装置等の提供行為に対する刑事罰の導入について」(第17ページ~)で「一定の悪質な行為に限定して刑事罰の対象とする方向で検討することが適切」とされ、「Ⅶ 技術的制限手段回避装置等に対する水際措置の導入について」(第22ページ~)で「技術的制限手段回避装置等の国境をまたがる流通への対策の実効性を高める観点からは、当該装置等についても水際措置を導入することが極めて有効」とされている通り、この報告書案で考えられているDRM回避機器等に対する規制強化をまとめると以下の3点となるだろう。

  1. 現行のDRM(コピーコントロールとアクセスコントロール)回避機器等の規定における「のみ」要件の「専ら」要件への変更(回避機能「のみ」を有する機器又はプログラムという規定を回避機能を「専ら」有すると変えるイメージだろうか。)
  2. 「不正の利益を得る目的又は技術的制限手段を用いる者に損害を加える目的」という主観的要件を付加して限定し、DRM回避機器・プログラムの提供行為に刑事罰を付加(法人処罰・法人重課あり)
  3. DRM回避機器等を関税法の輸入禁止品に追加し、水際措置を導入

 ここで、1の「のみ」要件の「専ら」要件への変更も、特にピンポイントで問題とされているマジコンのような機器について不競法の規制の対象外とする判決が出されたというのならまだ分からなくもないが、マジコンが規制対象になるという地裁判決が出されている中で、このような規定の変更をする意味は私には良く分からない。このような変更はかえって規制対象を不明確にする恐れもあるだろう。(マジコン地裁判決については、番外その15参照。)

 2の刑事罰付加についても、その理由としてあげられているのは露店販売とネットショップへの対応が民事救済だけでは困難ということだが、露店販売やネットショップが本当にどこまで被害をもたらしているのか、ネット販売についてプロバイダーとの協力体制の構築やプロバイダー責任制限法を用いた対応も含めて本当に対応が難しいのか、今まで民間事業者がこの権利行使のためにどれほどのコストをかけてきてそれが本当に事業者にとって不当な負担と言えるほどのものになっているのかといった点での検討は極めて不十分である。この点も法改正の根拠が本当にあるのかということをよくよく考えるとかなり怪しい。(そもそもソフトメーカーはいざ知らず、ゲーム機のハードメーカーは任天堂、ソニー、マイクロソフトの世界的大企業3社の寡占状況にあるので、そのコスト負担能力を考えると今の規定で対応が困難と言えるほどの状況にあるとはにわかに信じがたい。)

 また、3の水際措置の導入については単独であれば特に反対する理由はないのだが、経産省の財務省への平成23年度関税制度改正要求要望書(pdf)の中で、「ある物品を関税法において輸入禁制品とする場合には、当該物品の所持・提供・輸入行為等について、国内法令において関税法と同程度の刑事罰の対象とすることが求められている」と書かれている通り、今のところ何故か刑事罰の導入が水際措置の導入の前提として考えられているということから、やはり慎重な検討が必要と私は考えている。(法律の間のバランスを考えた役所間の取り決めなのだろうが、水際措置の導入に刑事罰が必要とする合理的理由はないだろう。なお、アクセスコントロール回避機器等への水際措置の導入については、著作権法の改正がされた場合という条件で、文部科学省(文化庁)も同様に要望書(pdf)を財務省に出している。また、関税法の改正については、財務省の関税審議会・企画部会でも同様の検討がされている。)

 これらも、現時点ではほとんど規制強化のためのみの規制強化としか思えず、文化庁と同じく、海賊版対策条約(ACTA)についての意見も含め、私はこちらのパブコメも出すつもりである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年12月15日 (水)

第243回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会「技術的保護手段に関する中間まとめ」に対するパブコメ募集(1月7日〆切)

 今日12月15日、東京都議会で、青少年健全育成条例改正案という名の漫画・アニメ弾圧条例が可決された(都議会録画映像参照)。可決案では、「非実在青少年」という言葉こそ消えたものの、漫画・アニメに狙い撃ちにした架空の性犯罪描写規制とされるなど創作物規制についてはかえって規制範囲は広がった。その他細かな点で言い換えがされているが、携帯・ネット規制等についても、前回の案での懸念が払拭されているとは言い難い。漫画・アニメといった特定の表現に対するいわれのない差別条項をその頂点として、今回の条例改正は内容・制定プロセスの全てにおいて何重にも違憲だろう。ただ、この話は既に無名の個人ブログでどうこうというレベルを遙かに超えてしまっており、ここでくどくどと書くことはしないが、このような異常極まりない条例改正の動きについて粘り強く反対して下さった都議の皆様、また理性的に広く反対して下さっている関係者の方々には心からの感謝と敬意を私も表したいと思う。この問題を追っていた一人として今回の可決は非常に残念だが、法律や条令は可決したらそれで終わりというものではない、さらにいろいろな動きや思惑が入り乱れることは間違いなく、これまでのことを忘れてはならないし、今後も決して気は抜けない。

 来年春には統一地方選も控えており、都条例問題からも目は離せないが、知財絡みの話として1月7日〆切で文化庁からDRM回避規制強化に関するパブコメがかかったので、その紹介をしておきたいと思う(文化庁HP電子政府の該当ページ日経パソコンの記事internet watchの記事参照)。

 今回の報告書「技術的保護手段に関する中間まとめ(pdf)」(概要(pdf))はほぼ結論ありきの薄っぺらなものだが、この報告書に書かれている上っ面の理由はどうあれ、文化庁は、日本版(骨抜き)フェアユース導入の動きに対してどうにか規制強化も一緒にしようと、スジが悪いと知りながら他にネタもなくこのDRM回避規制強化の話を引っ張り出して来ざるを得なかったというのが本当の背景ではないかと個人的に踏んでいる。

 規制強化の内容としては、報告書(pdf)の第2章「技術的保護手段の在り方について」のまとめ(第15ページ)で

○以上の評価をもとに、技術的保護手段の対象となる保護技術について総括すると、現行でも技術的保護手段の対象となっているSCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式等の「フラグ型」技術等に加え、CSS等の「暗号型」技術についても、保護技術の「技術」の側面のみならず、当該「技術」が、契約の実態等とも相まって、社会的にどのように「機能」しているのかという点も含めて評価することにより、技術的保護手段の対象とすることが適当と考えられる。(ただし、「暗号型」技術については、今後、アクセスコントロール「機能」のみを有するような保護技術が多く用いられるようになることが十分に想定され、そのような保護技術については技術的保護手段の対象外となる。)

○また、ゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、ゲームソフトの媒体によっては、複製そのものの防止は行われていないものの、違法に複製され、さらに違法にアップロード(送信可能化、自動公衆送信)されたゲームソフトを、単にダウンロード(複製)するだけでは、当該複製により作成されたゲームソフトの複製物を使用することができず、また、コンテンツ提供事業者(ゲームソフトメーカー)は、こうした違法に行われている複製や送信可能化、自動公衆送信を抑止する意図をもって当該保護技術を用いていると考えられることから、当該保護技術が社会的にどのように「機能」しているかという観点から着目すれば、複製等の抑止を目的とした保護技術と評価することが可能であ
り、技術的保護手段の対象とすることが適当と考える。
 もっとも、上述のとおり、オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていない、アクセスコントロール「機能」のみを有する保護技術については、技術的保護手段の対象とはならないものと考えられる。

○なお、アクセスコントロール「機能」のみを有すると評価されるオンラインゲーム用の保護技術を除くゲーム機・ゲームソフト用の保護技術のうち、とりわけゲームソフトを暗号化していない場合は、当該保護技術の回避によって支分権の対象となる行為が可能となるわけではなく、当該保護技術を技術的保護手段の対象とすることは、結果として著作権法が特定の者のプラットフォームを保護することにつながることから反対であるとする意見があった。
 この点、上述のとおり、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術について、著作権者等の権利の実効性の確保という観点から、著作権等侵害行為を防止又は抑止する手段に係るものを規制対象とし、現行著作権法の技術的保護手段の枠内で捉えようとするものであり、特定の者によるプラットフォームの保護を認めるという観点に立つものではないことは言うまでもない。

と書かれ、第3章の「技術的保護手段の定義規定等の見直し」(第16~17ページ)で、

○一方、CSS等の「暗号型」技術やゲーム機・ゲームソフト用の保護技術については、単に暗号化されたコンテンツやゲームソフトを複製しただけでは、当該複製物を使用できない点において複製の抑止と評価できることから、現行の定義規定中の「抑止」との関係について、どのように評価するか検討する必要があり、必要に応じ、規定の見直しを行うべきと考えられる。

○CSS等の「暗号型」技術の場合には、著作物等そのものを暗号化しており、特定の反応をする信号を著作物等とともに記録媒体に記録又は送信する方式ではなく、そうした技術については現行規定では対応できないため、現行の定義規定中の「方式」の見直しが必要であると考えられる。

○技術的保護手段を施す主体については、実態上、現行用いられている保護技術は著作権者等の意思に基づいて施されていることから、引き続き、著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを技術的保護手段の対象から除くことが適当であると考えられる。

等と書かれ、第4章の「技術的保護手段の見直しに伴う回避規制の在り方」で、回避機器規制と回避行為規制の範囲については現行と同等とされている通り、まだ曖昧なところはあるものの、この文化庁報告書の考え方は、およそ、規制される行為自体は大きく変えないものの、規制対象となる技術に、現行のフラグ付加型のコピーコントロール技術だけでなく、コピーコントロール機能を有すると見える暗号型のアクセスコントロール技術も追加して広げるというものと分かる。

 このような規制強化によって具体的に新たにどのような行為類型が著作権法の規制対象となるかというと、主に、

  1. 暗号型のアクセスコントロール技術を解除して私的に複製する行為(ただし、刑事罰はなし。要するに、DVDリッピング・暗号解除をともなうゲームROMの吸い出し等の明確な違法化である。)
  2. アクセスコントロール回避機器又はプログラムの公衆譲渡・貸与目的での製造等(刑事罰あり)

の2つということになるだろう。(権利者団体は常に無茶を言い続けるだろうが、当たり前の話で、報告書にも書かれている通り、マジコンでゲームをプレイすること自体等、著作権法上の複製を行っている訳ではない行為類型は著作権法の規制対象とはなり得ないだろう。なお、ニンテンドーDSで用いられているフラグ付加型の保護技術は現行でも技術的保護手段に該当し、このような技術を回避してROMを吸い出すことの可能なマジコンは現行の著作権法でもその譲渡等が刑事罰の対象となり得るのではないかと私は考えているが、何故かこの報告書では、ほとんど何の検討もなく、これが現行の著作権法上の技術的保護手段に入らないかの如き書きぶりがされている。あまりに曖昧なため、上のような整理と見て私は今回のエントリを書いたが、全体を通して技術の評価が非常に曖昧なこの報告書は本当に始末に困る。)

 しかし、そもそもアクセスコントロール技術については、平成11年のDRM回避規制導入時や平成18年文化審議会報告書の検討時においても、著作権法の規制対象に含めないとされていたものであり、当時と比べて特別な立法事実の変化が生じている訳ではない。例えばマジコン被害について、CESAの「違法複製ゲームソフトの使用実態調査報告書(pdf)」(CESAのリリース)を引用しているが、このような突っ込みどころしかないようなデタラメな実態調査が法改正の前提とされることなどおよそあり得ない話だろう。この点で、アクセスコントロール回避規制を何も考えずに著作権法に入れてしまい混乱しているだけの欧米の法制が参考になるということもない。

 また、ここでは何度も繰り返していることだが、ダウンロード違法化しかり、1のように捕捉不可能な家庭内の私的複製行為を規制しようとする発想自体間違っているし、2のアクセスコントロール回避機器等への規制にしても、既にDVDリッピングソフトもアクセスコントロール回避機器としてのマジコンも不正競争防止法でその譲渡等が規制対象となっているので、著作権法で二重に網をかける意味に甚だ乏しい。(アクセスコントロール回避機器等の条件付きでの製造規制、その譲渡等への罰則付加については議論の余地がなくはないだろうが、不正競争防止法の枠内で議論すれば済む話である。)

 さらに言えば、アクセスコントロール技術をコピーコントロール機能を有するか否かという観点からきちんと評価することが可能かどうかからして怪しい。報告書ではあっさり、オンラインゲームのアクセスコントロールだけを取り上げ、「オンラインゲーム用の保護技術のうち、ゲームソフトの複製やインターネット上での送信の防止・抑止が行われていないものについては、アクセスコントロール『機能』のみを有する保護技術と考えられ、技術的保護手段の対象として位置付けることは適当でないものと考えられる」としているが、オンラインゲームのアクセスコントロールにしても送信データのコピーを抑止していないとできるかどうか疑問であるし、動画配信等も含め、暗号化のみのDRMによりデータを送信する場合にそれがアクセスをコントロールするものであるのか、コピーをコントロールするものであるのかの評価は非常に難しく、実質全ての暗号技術が著作権法上の技術的保護手段に含まれることとなりかねず、将来的に著作権法の本来の法目的に照らして規制すべきでない物や行為にまで規制が及ぶ恐れがあるだろう。(また、単にアクセスコントロールといった時には暗号化だけでなくパスワード等によるコントロールも含まれることになるのであり、今のところ文化庁などはそこまでは全く想定していないようだが、このような点でも不当に規制の範囲が広がることのないよう十分気をつける必要がある。)

 今回の報告書に書かれていることは文化庁にしては比較的おとなしめではあるが、検討メンバーから見ても、技術的なことも含めて本当にきちんとした議論がなされたとは思えず、例によって、ほとんど規制強化の結論ありきで屁理屈をこねているとしか思えない、法改正の前提とするには到底足らないお粗末なものである。

 今週末12月17日の経産省の「技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会」(第3回開催案内)でとりまとめると思われる、不正競争防止法上のDRM回避規制強化も合わせて見ないとならないのが厄介なところだが、海賊版対策条約(ACTA)のことなども含め、不合理な法改正に反対するという内容のパブコメを私は出すつもりである。

 どこかでまた少し内容を紹介したいと思っているが、知財関係では、特許庁から、特許法等の改正に関するパブコメもかかっているので、ここにリンクを張っておく(電子政府の該当ページ1該当ページ2該当ページ3)。

(2010年12月16日夜の追記:フラグ付加型の技術的保護手段を回避してソフトのコピーを可能とするタイプのマジコンは、不正競争防止法の規制対象となっているだけでなく、現行でも著作権法の規制対象となり得ると私は考えているが、この点を踏まえてどう考えられるかということが少し分かりにくかったかと思うので、上の文章に少し手を入れた。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »