第239回:アメリカ・デジタルミレニアム著作権法(DMCA)のDRM回避規制の影響
世間的には知財どころではない雰囲気ではあるが、例によってあまり耳目を集めないながらも、知財について地味にロクでもない検討が続けられている。先週まで東京で開かれていた海賊版対策条約(ACTA)の交渉会合は、条文案についてほぼ合意したとの報道があり(経産省のリリース、朝日の記事、読売の記事、各国政府の共同声明、外務省のリリース参照)、この条約交渉と歩調を合わせるように、文化庁で9月14日から著作権分科会・法制問題小委員会・技術的保護手段ワーキングチームが開催され(議事概要、「Copy & Copyright Diary」のブログ記事参照)、経産省でも、つい先日の9月30日から、産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会が開催されている(開催案内、議事要旨参照。hideharus氏のツイートも参照)。
これらのDRM回避規制を巡る検討は、日本政府がACTA交渉で勝手にどれくらい譲歩したかでキャップがはめられてしまうというというどうしようもない状況にある。相変わらず交渉について人をバカにしたような概要しか日本政府は公表しておらず、現在のACTA条文案も公開されていない現状では、具体的には何とも言いようがないが、いつもの如く、アメリカがこのACTAを自国の制度の押し付けに使って来ているということがあり、日本政府が、日本の法体系に合わないアメリカの制度に沿った条文案を勝手に飲んでしまっている可能性は低くないと私は踏んでいる。
この条文案次第で時期を逸した話になるかも知れないとは言え、今後募集さえるだろうパブコメなどの参考のために、今回は、DRM回避規制についてアメリカの制度は全く褒められたものではないという話をまとめて書いておきたい。
(1)アメリカ著作権法(DMCA)におけるDRM回避規制の概要
アメリカ著作権法のDRM回避規制に関する第1201条以下そのものは、著作権情報センターの訳があるので、ここで繰り返して訳出することはしないが、およそ第1201条(a)(1)(A)でアクセスコントロール回避行為そのものを禁止し、また第1201条(a)(2)と(b)で、アクセスコントロールのようなDRMの回避のために主として設計又は製造された技術、製品、サービス、装置、部品などの製造、輸入、提供などを規制するという構成を取っている。(原文は、アメリカ著作権局のHP参照)
およそ前回紹介した海賊版対策条約(ACTA)のアメリカ提案通り、アクセスコントロール回避自体や、技術・サービスなどまで含めて十把一絡げに規制をかけているが、第1201条(a)(1)(B)(C)でフェアユース的な要素を考慮して連邦議会図書館長がその例外を規則で定められることとし、さらに、第1201条(c)でフェアユースや表現の自由に影響を与えないとが、(d)で図書館や教育機関に対する適用除外が、(e)で政府の活動に対する適用除外が、(f)でリバース・エンジニアリングに対する例外が、(g)で暗号化研究に対する例外が、(h)で未成年用フィルタリングに関する例外が、(i)で個人情報保護のための例外が、(j)でセキュリティ・チェックのための例外が定められているなど、例外もかなり細かく多岐に渡って規定されている。
どのような規制にもメリット・デメリットは必ずあるので、これだけいろいろと制限・例外を作っていても、アメリカのこの規制も様々な萎縮効果をもたらしている。
(2)電子フロンティア財団(EFF)の2010年2月のレポート「予期せざる影響:DMCA下の12年」
このDMCAがもたらした萎縮効果については、EFFが2010年2月に「予期せざる影響:DMCA下の12年(pdf)」というレポートにまとめてくれているので、ここでざっとその内容の概略を紹介しておきたいと思う。(EFFのリリースも参照。)
EFFのレポートにあげられている項目の訳を作ると以下のようになる(括弧内は簡単な事件の紹介)。
1.概要
・DMCAは表現の自由と科学研究を萎縮させている。
・DMCAはフェアユースを脅かしている。
・DMCAは競争とイノベーションを阻害している。
・DMCAは一般的なコンピュータ・アクセス防止法として濫用されている。2.DMCAの立法経緯
3.表現の自由と科学的研究の萎縮
・Bluwikiを脅すアップル(wikiでの単なるiPodのリバースエンジニアリングの議論に対してアップルの弁護士が警告状を送ったという2009年の事件。この事件では、Bluwikiが利用者の言論の自由を守るためにアップルを逆に訴えたところ、アップルが脅しを取り下げたという2009年の事件。)
・SONY-BMGの「ルートキット」脆弱性に関する開示を遅らせたDMCA(有名な2005年のソニーのルートキット事件では、プリンストン大学の研究者による事実の公表がDMCAに関する法的問題のクリアのため数週間遅れた。)
・研究者を脅すSunComm(プリンストン大学の研究者が、CDのコピー制限技術の脆弱性に関するレポートの公表について、DMCAに基づいてその開発会社に脅された2003年の事件。この事件では、批判を浴びて会社が脅しを取り下げた。)
・研究における萎縮効果について注意するサイバー・セキュリティ皇帝(2002年、ホワイトハウスのサイバーセキュリティチーフが、正当なコンピュータセキュリティの研究を萎縮させているとして、DMCAの改正を呼びかけたという話。)
・フェルトン教授の研究チームに対する脅迫(プリンストン大学の研究チームによるウォーターマークの除去に関する研究に対して、DMCAに基づく警告状が送られ、研究チームが学会での論文公表を断念したという2000年の事件。研究者が反対に訴えることで、ようやく脅しは取り下げられ、研究の一部が公表された。)
・SNOsoftを脅すヒューレット・パッカード(ヒューレット・パッカードのUNIX系OSのTru64の脆弱性を公表した団体が、DMCAに基づいて脅された2002年の事件。この事件でも、広く批判を浴び、脅しは取り下げられたが、なお研究団体は自己責任で脆弱性について公表するようにという嫌がらせのようなメッセージを受け取る。)
・セキュリティ研究者を脅すBlackboard(BlackboardのIDカードに関する脆弱性について学会で公表しようとした学生に警告状が送られ、その公表が妨げられた2003年の事件。)
・出版社から避けられたXboxハックに関する本(XBoxの脆弱性に関する研究者の本の出版計画が、DMCAによる訴えを恐れた出版社によって断念された2003年の事件。研究者は数ヶ月の交渉の後に本を自己出版、さらに過大な法律相談の後にこの本は出版された。)
・邪魔をされたフィルタリングソフトに関する研究(フィルタリングソフトの脆弱性に関するいくつかの研究がDMCAにより阻害されたという話。)
・Dmitry Sklyarovの逮捕(Adobeのe-Book形式をPDF形式に変換するAdavanced e-Book Processorというプログラムの開発に携わったとして、ロシアのプログラマーがアメリカの学術会議での講演の後で逮捕され、5ヶ月間拘留されたという2001年の事件。)
・科学者とプログラマーが研究を断念(多くの研究者がDMCAによる潜在的な理由により研究の公表などを断念しているという話。)
・外国の科学者がアメリカを忌避(プログラマーの逮捕などを受けて、プログラマーにアメリカへの渡航を取りやめるようロシアが呼びかけたという話や、アメリカ以外での開催を検討する学会が出てきたという話など。)
・DMCAと取っ組むIEEE(コンピュータ関連の学術雑誌を多く抱えることで有名な学会のIEEEも、DMCAに関する懸念を抱くに至っているという話。)
・雑誌「2600」の検閲(CSS回避プログラムのDeCSSへのリンクをそのサイトに載せていた雑誌が、映画会社によって出版を差し止められた事件。2001年に巡回控訴審が差し止めを認める下級審判決を支持したというもの。)
・CNETのレポーターが萎縮感を吐露(CNETのレポーターが、DMCAから萎縮を感じ、アメリカの交通安全局のサイト上の暗号化文書を匿名ソースからのパスワードを使って開けられなかったという2002年の話。)
・計算機愛好家を狙うテキサス・インスツルメンツ(テキサス・インスツルメンツの画像プロセッサのリバース・エンジニアリングの成功に関してコメントしたブロガーらが脅されたという2009年の事件。ブロガーらは一旦削除するが、EFFの支援を受けその内容を再掲。)
・スラッシュドットを脅すマイクロソフト(Kerberosという名の公開セキュリティ基準のマイクロソフト独自実装に関する情報を削除するよう、マイクロソフトがスラッシュドットに要求したという2000年の事件。)
・DMCAでセキュリティ研究者を脅かすGameSpy(GameSpyのオンラインサービスの脆弱性に関する詳細をそのサイトで公開したイタリアのセキュリティ研究者に対して、DMCAに基づく警告状が送られたという2003年の事件。)
・TiVoに関する議論を検閲するAVSforum.com(デジタル録画機TiVoからPCへのビデオのムーブを可能とするソフトに関する全ての議論が、掲示板AVSforum.comで検閲されたという2001年の事件。)
・iTunes Music Storeに関する議論を検閲するMac Forum(Macに関する掲示板が、iTMSで買った楽曲のコピー・プロテクト回避に関する全ての議論を検閲したという2003年の事件。)4.囲い込まれるフェアユース
・コピーコントロールCDとオンライン音楽におけるDRM(DRMは、海賊行為を抑制するというより、楽曲を買った後も長く合法的な消費者を害しているだけだという話。)
・DVDコピーツールというフェアユースツールの追放(DVDリッピングソフトに関するアメリカの訴訟の話。なお、AV Watchの記事にある通り、この訴訟は2010年3月に和解で終わってしまっているため、DVDの私的なリッピングとDMCA・フェアユースとの関係の問題の決着は完全には付いていない。)
・Advanced e-Book Processorとe-Books(ロシアのプログラマーが釈放された後、今度はロシアのプログラミング会社がこのソフトについて刑事告訴されたが、2002年に無罪の判断が下されている。)
・タイムシフトとストリーミング・メディア(2000年に、インターネット上のストリーミング・メディアをタイムシフトする製品に対する差し止めが認められたことがあるという話。)
・Agfa Monotypeとフォント(フォント中の埋め込みデータを変える、大学生の非商用プログラムや、AdobeのAcrobatをDMCAに基づきフォント会社が脅したという2002年や2005年の事件。対Adobe裁判で、埋め込みビットは効果的にアクセスをコントロールしておらず、Acrobatは主として回避のために設計されていないと裁判所は判断。)
・Load-’N-Goとスペースシフト(消費者が買ったDVDをiPodに移すというサービスを行っていた小さな会社を映画会社が訴えたという2006年の事件。2007年に和解。)5.イノベーションと競争に対する脅威
・App StoreにiPhoneを縛り付けるのにDMCAを使うアップル(iPhoneのジェイルブレイクが違法であるという理由にアップルはDMCAを持ち出していたという話。)
・携帯電話をキャリアに縛り付けるのにまず使われ、それから携帯電話販売店を叩きのめすのに使われるDMCA(SIMロック解除を違法とする理由にもDMCAが持ち出されていたという話。)
・Psystarを狙ってOS Xをハードに結び付けるアップル(アップルのOSの合法コピーを仕入れて安いPCとともに売っていた会社がアップルに訴えられたという事件。2009年にアップルに有利な判断を裁判所が示し、後に両者は和解。)
・HarmonyについてRealを脅すアップル(Realがそのダウンロードストアからの楽曲をiPodで聞くことを可能とする技術を告知した時、アップルがDMCAを使って脅したという2004年の事件。)
・ゲーム改造を阻止するため訴えるテクモ(そのゲームソフトの改造コードを公開しているウェブサイトをテクモが訴えたという2005年の事件。サイトの削除後、訴訟は取り下げれられ、和解の交渉が行われた。)
・Adobeをブロックするニコンの生データ暗号化(2005年に、AdobeのPhtoshopの作成者が、ニコンがPhotoshopと互換性が取れないように生データの一部を暗号化しているということを公表。最終的にニコンとAdobeは取り決めを交渉。)
・独立サービスベンダーをブロックしようとするStorageTek(ストレージハードウェアの販売・メンテナンスサービスを行っていた会社が、自社のストレージの補修にはパスワードがソフトのパスワードが必要なはずと言って他の独立メンテナンス会社を訴えた2005年の事件。この事件では著作権侵害はないとして差し止めは認められず。)
・トナー・カートリッジについて訴えるLexmark(インクカートリッジの非正規詰め替え品に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的に控訴審で判決は修正されるが、19ヶ月の法廷闘争の間に非正規品は市場から駆逐。)
・ガレージの扉の開閉装置メーカーを訴えるChamberlain(ガレージの扉の開閉装置の非正規遠隔開閉装置に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的にChamberlainは敗訴。)
・ConnectixとBleemを訴えるソニー(プレイステーションのエミュレータを作成した会社をソニーが訴えた1999年の事件。対ソニー裁判の訴訟費用を出すことはできず、エミュレータ会社は製品を断念。)
・Aibo愛好家を脅すソニー(Aiboを踊らせる自己プログラムを公開した愛好家にソニーがDMCAを持ち出した事件。最終的には、批判を受け、ソニーがプログラムの一部の公開を認める。)
・プレイステーションの改造チップを攻撃するソニー(プレイステーションで正規ソフト以外のソフトの動作を可能とするModチップの販売者をソニーが訴えているという話。)
・bnetd.orgを訴えるBlizzard(正規のゲームソフト所持者にインターネット上でそのゲームのプレイを可能とした愛好家グループによるサイトが、ゲーム会社に訴えられた2005年の事件。ゲーム会社が勝訴している。)
・小売店での工夫に難癖を付けるアップル(Mac所有者に、アップルのソフトを修正するパッチを配布した小売店がアップルにDMCAに基づいて脅されたという2002年の事件。)
・アナログビデオのデジタル化についてSimaを訴えるマクロビジョン(ビデオのアナログ信号からのデジタル化を助ける製品を売っていたSimaが、アナログビデオのコピー制御で有名なマクロビジョンから訴えられた2006年の事件。最終的に和解。)
・World of WarcraftのGliderをブロックするBlizzard(オンラインゲームにおけるbotの使用が、DMCA違反とされた2009年の事件。控訴中。)
・DMCAとサイト上の利用契約で競争を抑止しようとする車のデザイン会社(ウェブサイトの利用契約が技術的保護手段であると主張して、車のデザイン会社が自社のウェブサイトに対する競合他社によるキャプチャソフトの使用を止めようとした2008年の事件。最終的に和解。)6.コンピュータアクセス防止法と肩を並べるDMCA
・不正なネットワークアクセスだとDMCAに基づいて以前の契約プログラマーを訴えた会社(離れたところから仕事を行うために、会社のコンピュータ・システムへのアクセスにVPNを用いた契約プログラマーを、関係が悪くなり契約を破棄した後で、DMCAなどに基づいて会社が訴えた2003年の事件。)
・CAPTCHAの回避についてRMGを訴えるTicketmaster(歪んだ文字によるアクセス制限であるCAPTCHAを回避するサービスを行うサイトについて、DMCAに基づく訴えが通った2007年の事件。)
・ケーブルのデジタルフィルタをブロックするケーブル会社(ペイ・パー・ビュー信号をカットするフィルタについて、DMCAに基づく訴えが通るとされた2008年の事件)7.結論
詳しくはレポート本文をご覧頂ければと思うが、アメリカが訴訟社会であるという側面もあるとは言え、ここまで多くの問題が発生している理由としては、アメリカが立法時にあまり考えずに、著作権法でアクセスコントロールの回避そのものを規制してしまったことと、技術やサービスといった曖昧なものまで規制対象として、製造などまで規制するとしてしまったことが大きいだろう。
(3)アメリカ連邦議会図書館によるiPhoneのジェイルブレイク合法化
また、「P2Pとかその辺のお話」でも取り上げられているが、法律上で連邦議会図書館が3年毎に定めるとしている著作権の例外について、ついこの7月にも新しい規則が出されている。
アメリカの連邦議会図書館著作権局のHPに載っている、この新たな規則で例外の対象となる著作物は、以下のようなものである。(えらく長いが、同じページに載っている図書館の決定(pdf)や勧告(pdf)も非常に興味深い。)
(1) Motion pictures on DVDs that are lawfully made and acquired and that are protected by the Content Scrambling System when circumvention is accomplished solely in order to accomplish the incorporation of short portions of motion pictures into new works for the purpose of criticism or comment, and where the person engaging in circumvention believes and has reasonable grounds for believing that circumvention is necessary to fulfill the purpose of the use in the following instances:
(i) Educational uses by college and university professors and by college and university film and media studies students;
(ii) Documentary filmmaking;
(iii) Noncommercial videos.(2) Computer programs that enable wireless telephone handsets to execute software applications, where circumvention is accomplished for the sole purpose of enabling interoperability of such applications, when they have been lawfully obtained, with computer programs on the telephone handset.
(3) Computer programs, in the form of firmware or software, that enable used wireless telephone handsets to connect to a wireless telecommunications network, when circumvention is initiated by the owner of the copy of the computer program solely in order to connect to a wireless telecommunications network and access to the network is authorized by the operator of the network.
(4) Video games accessible on personal computers and protected by technological protection measures that control access to lawfully obtained works, when circumvention is accomplished solely for the purpose of good faith testing for, investigating, or correcting security flaws or vulnerabilities, if:
(i) The information derived from the security testing is used primarily to promote the security of the owner or operator of a computer, computer system, or computer network; and
(ii) The information derived from the security testing is used or maintained in a manner that does not facilitate copyright infringement or a violation of applicable law.(5) Computer programs protected by dongles that prevent access due to malfunction or damage and which are obsolete. A dongle shall be considered obsolete if it is no longer manufactured or if a replacement or repair is no longer reasonably available in the commercial marketplace; and
(6) Literary works distributed in ebook format when all existing ebook editions of the work (including digital text editions made available by authorized entities) contain access controls that prevent the enabling either of the book’s read-aloud function or of screen readers that render the text into a specialized format.
(1)回避に関わる者が、その回避が以下の場合の利用目的を満たすために必要であると考えるか、またそうと考えるに足る合理的な理由がある場合であって、動画の短い部分を批評又は注釈の目的で新たな著作物に組み入れることを実現するためにのみ回避を実行する場合の、合法的に作成・入手され、コンテンツ・スクランブル・システム(CSS)で保護されたDVD上の動画:
(ⅰ)大学教授と大学の映画・メディア研究学生による教育的利用;
(ⅱ)ドキュメンタリー映画の作成;
(ⅲ)非商用ビデオ。(2)携帯電話端末におけるコンピュータ・プログラムとともに、アプリケーションが合法的に入手された場合の、そのようなアプリケーションの相互運用性を実現するためにのみ回避を実行する、携帯電話端末におけるソフトウェア・アプリケーションの実行を可能とするコンピュータ・プログラム。
(3)そのネットワークへのアクセスがネットワーク管理者によって許可され、無線通信ネットワークに接続するためにのみコンピュータ・プログラムのコピーの所有者によって回避が開始される場合の、携帯電話端末から無線通信ネットワークへの接続を可能とする、ファームウェア又はソフトウェアの形式での、コンピュータ・プログラム。
(4)以下の場合であって、セキュリティ上の欠陥又は脆弱性の、善意の検査、調査又は修正のためのみに回避が実行される場合の、合法的に入手された著作物へのアクセスを制限する技術的保護手段によって保護された、パーソナル・コンピュータでアクセス可能なビデオ・ゲーム:
(ⅰ)セキュリティ検査から得られる情報が主として、コンピュータ、コンピュータ・システム又はコンピュータ・ネットワークの所有者のセキュリティを向上させるために用いられる場合であって;
(ⅱ)セキュリティ検査から得られる情報が、著作権侵害が適用される法の侵害を助長しないような形で用いられ、保持される場合。(5)誤動作又は損傷によってアクセスを制限する、廃れたドングルによって保護されたコンピュータ・プログラム。それがもはや製造されていないか、無理なく市場で交換又は修理を行うことが不可能である場合に、ドングルは廃れたものとする;そして
(6)その作品の全ての存在する電子ブック版(権利者によって入手可能とされた電子テキスト版を含む)が、その本の読み上げ機能又はそのテキストを特定の形式へ変更する画面リーダーの使用を不可能とするようなアクセス・コントロールを含む場合の、電子ブック形式で頒布された文芸作品。
2006年版の規則(著作権局のHP参照)と比べてみると分かるが、特に新しいのは、(1)の教育を目的としたDVDリッピングの合法化、(2)の相互運用性を目的とした携帯電話のDRM回避の合法化と(4)のセキュリティ検査のためのDRM回避の合法化である。前からあるものではあるが、(3)でSIM解除が合法化されており、(6)で電子ブックのDRM回避が合法化されていることも注目に値する。このような教育目的でのDVDリッピングやiPhoneのジェイルブレイク合法化などは問題の多少の緩和には役立つだろうが、これだけではDMCAの問題がおよそ解決されるとするにはほど遠い。
例によって条約などで自国の規制を押し付けようとしているアメリカも、DRM回避規制についてはご覧の有様であり、このようなアメリカの法制度は、良いものとは全く思えない上、そのまま日本に持ち込もうとした場合、ほとんど破綻するに違いないと私には思えるのである。アクセスコントロールの私的な回避自体を著作権法や不正競争法で規制することにはそもそもの法目的から来る無理が存在しているし、技術やサービスといった曖昧なものにまで規制対象を拡大すると対象範囲があまりにも広がりすぎ、本来正当なものとして認められるべき著作物へのアクセスまで阻害されることになるだろうし、製造まで規制されるとなると、必然的に企業や大学等における研究・技術開発まで不当に阻害されることになるだろう。
一般的な形も含めて適正な制限・例外を随時作ることによる問題解決の可能性を完全に否定することはできないが、これだけ詳細に制限・例外を作っているアメリカにおいてすら、有効にそれが機能しているとは言い難い状態にある上、日本の文化庁や経産省などの役所における検討で広く一般的な制限・例外を作ることが極度に忌避されるという現状では、このような制限・例外による問題解決はほとんど不可能と私は考えている。今検討されている非常に狭い日本版フェアユース条項で、一般的な研究や技術開発が救われることなど無論なく、アメリカでは議会図書館がiPhoneのジェイルブレイク合法化を認める規則を作っているが、日本の文化庁がこのような規則を作ることなどその普段の振る舞いから考えて絶対にあり得ないと断言できる。
文化庁の検討会にも、経産省の検討会にも、一応メーカー代表が参加しているので、新たな技術開発を完全に萎縮させるようなバカげた規制強化がすんなりと通るという可能性はそれなりに低いと思うが、メーカーも情報収集力などの点で頼りないところがある上、日本のメーカーの独特の論理で動くので、今後の検討の行方はかなり不安である。場合によっては、また不合理な規制強化で、長年に渡って日本の経済と文化の正常な発展が阻害されることになりかねないと私は強く危惧している。
最近のニュースとしては、「P2Pとかその辺のお話」で取り上げられているように、フランスで司法判断を必要とするタイプの3ストライク法が予定を大幅に遅れてようやく動き始めたということや(関連エントリ参照)、欧州議会で知財保護の強化を訴えるギャロ・レポートが採択されたことなどがあり(関連エントリ参照)、また、ACTAについての記事も紹介されているので、興味のある方是非リンク先をご覧頂ければと思う。
すぐにACTAの現在の条文案が公開されるようなら、また問題箇所の翻訳紹介をしたいと思っているが、そうすぐに公開される気もしないので、次回は、また別の話になるのではないかと思っている。
(2010年10月5日夜の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。また、外務省からもACTA交渉会合に関するリリースがあったので一番上の参照リンクに追加した。)
(2010年10月7日の追記:バラバラにしておく意味はもうあまり無い気がするので、このブログにもtwitterのつぶやきを表示するようにしてみた。
経産省から技術的制限手段小委員会の議事要旨が公開されたので、上の参照中にもリンクを追加した。また、twitterのつぶやきにも書いているが、公式公開より先に10月2日版のACTAの条文案がリークされたので(keionline.orgの記事、オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事参照)、次回も続けてACTAの話を書きたいと思う。)
(2010年10月9日の追記:10月6日付けで外務省HPに海賊版対策条約の現在の条文案(pdf)が載せられていたようなので、念のため、ここにもリンクを張っておく。よほど国民にとって不都合がことが書いてあるのか、人を心底バカにしているのか知らないが、今度の条文案公開には報道発表も概要もついていない。)
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