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2010年10月27日 (水)

第241回:スペインの私的複製録音録画補償金制度を欧州著作権指令に照らして違法とした欧州司法裁判所の判決

 日本でも裁判にまで発展しているが、欧州でも私的録音録画補償金に関する争いは各国で止むことなく続いている。細かな動向まで紹介していると切りがなくなるので最近はあまり取り上げていなかったが、この10月21日に、スペインの裁判所からの私的複製補償金に関する質問に対する回答を示す欧州司法裁判所の判決が出された(abc.esの記事(スペイン語)publico.esの記事(スペイン語)arstechnica.comの記事参照)。これにより私的複製の制限と補償金の問題は欧州全域にわたり再燃するものと予想され、この判決は欧州における私的複製問題に関する今後の動向を見る上で極めて重要なものと思うので、ここでその内容を紹介しておきたいと思う。

 その判決文(スペイン語)にも書かれている通り、この裁判は、欧州における補償金裁判のお決まりのパターンでスペインの音楽著作権団体がCD-RやDVD-Rなどを販売していた会社に補償金の支払いを求めて訴えというものである。第1審の商事裁判所では販売会社が負けたが、控訴審であるバルセロナ高裁は、私的複製補償金と欧州著作権指令の関係について欧州司法裁判所に以下のような質問を投げていた。(以下、翻訳は全て拙訳。翻訳には基本的にスペイン語の原文を用いつつ、適宜他の言語も参照している。なお、各国語の判決文は、欧州司法裁判所のHPで読むことができる。また、

1.欧州著作権指令2001/29第5条第2項(b)の「公正な補償」の概念は、複製権に対する私的複製の例外の導入によって影響を受ける知的財産権の権利者の「公正な補償」の権利のために適切と考えられる徴収制度を選択する加盟国の権能を超え、その調和を意味しているのか?

2.各加盟国によって公正な補償を決定するために用いられている制度がどのようなものであるにせよ、それは、私的複製の権利制限によって影響を受け、この公正な補償の債権者となる知的財産権の権利者と、その支払いについて直接又は間接の義務を負う者という、関係者間の正当なバランスを守らなければならないのか?そして、このバランスが公正な補償の合理化によってもたらされるものだとして、それは私的複製の権利制限によってもたらされる害を軽減するか?

3.加盟国がデジタル複製機器及び媒体に補償金を課す制度を採用している場合に、そのデジタル複製機器及び媒体が私的複製に使われ、他の用途に使われないということが想定可能な場合にのみ賦課の適用が正当化されるというように、この(私的複製の公正な補償の)賦課は、欧州著作権指令2001/29第5条第2項(b)の追求する目的とこの規定の内容により、私的複製の権利制限の利益を受ける複製を実現するというこれらの機器及び媒体の想定される用途に必ず結びつけられていなければならないか?

4.加盟国が私的複製「補償金」制度を採用している場合に、明らかに私的複製以外の目的のためにデジタル複製機器及び媒体を入手した就業者又は企業にも無差別にこの「補償金」を適用することは、「公正な補償」の概念と一致するか?

5.あらゆる形式のデジタル複製機器及び媒体に私的複製補償金を賦課しているスペインが採用している制度は、公正な補償とそれを正当化する私的複製の権利制限の間に適切な対応がないため、経済的補償を正当化する権利制限の存在しない様々な状況まで広く拡大してそれが適用されることとなるために、欧州著作権指令2001/29に違反するか?

 長くなるので前置きは飛ばすとして、この質問に対して欧州司法裁判所の判決で示されている判断を訳出すると以下のようになる。(細かなことが気になるようであれば、欧州の著作権指令における私的複製補償金関連規定については第11回を、スペインの私的複製補償金関連規定については第156回をそれぞれお読み頂ければと思う。)

(前略:第1の質問について、この欧州著作権指令は各国の国内法を参照するものでなく、その解釈は欧州司法裁判所の権限内である等。)

第2の質問

(38)第2の質問によって、スペイン法廷は、本質的に、関係者間で守られるべき「正しいバランス」とは、私的複製の例外の採用の結果としてもたらされる害を基準として計算されるということを意味しているかと聞いている。また、影響を受ける著作者以外に、この「正しいバランス」が守られるべき関係者は誰かということが問われている。

(39)まず、公正な補償の計算についての著作者が受ける害の基準に関しては、欧州著作権指令2001/29序文の段落35と38を考慮すると、この公正な補償とは、その許可なくなされるその著作物の利用に対し「適正に」著作者を補償するものであることは明らかである。この公正な補償の量を決めるためには、「有用な基準」として、「最小の・・・害」は支払いの義務を発生させないけれども、問題の複製が著作者に「与えるだろう」害が考慮される。したがって、私的複製の例外は、「受けた害によって権利者を補償する」制度を含み得る。

(40)このような規定から、公正な補償の概念と量が、許可なく行われる私的利用目的での著作物の複製によってもたらされる害と結びついていることは明らかである。この観点から、公正な補償は、著作者の受ける害に対する代償であると考えられなくてはならない。

(41)さらに、欧州著作権指令2001/29の序文の段落35と38に現れている「補償」という語は、特定の補償制度を導入するというEUの立法者の意図を反映しており、その採用は、権利者に対する害の発生に始まり、この害が補償の義務を発生させる。

(42)ここから、公正な補償は、私的複製の例外の導入により著作権者に対してもたらされる害を基準として必ず計算されなければならないことが導かれる。

(43)第2に、欧州著作権指令2001/29の序文の段落31は、「正しいバランス」に関係する者について、この公正な補償を受ける権利者の利益と、著作物の利用者の利益の間で「正しいバランス」が取られなければならないということを想定している。

(44)そして、その個人の権限でなされる自然人の複製の実行は、問題の著作物の著作権者に害を与え得るものと考えられる。

(45)したがって、誰が複製権の排他的所有者に害をなすかというと、その私的利用のために、権利者の事前許諾を求めることなく著作物の複製を実行した者である。つまり、原則として、この者が、権利者への補償の支払いにより、このような複製からもたらされる害を補償する者である。

(46)上記のことから出発するが、私的利用者を特定し、この者によってもたらされる害について権利者に対する支払い義務を負わせることには現実的には困難性があり、欧州著作権指令2001/29序文の段落35の最終文に書かれているように、各々の私的利用からもたらされる害は個々には最小のものであり得、つまり、支払い義務を発生させないものであり得ることも考慮に入れ、加盟国は、公正な補償の課金のために、関係する私人ではなく、デジタル複製機器及び媒体を所有し、その権限により、法的に又は実質的に、私人にこの機器を入手可能とするか、複製サービスとともに提供する者に課される「私的複製補償金制度」を導入することができる。この制度において、このように機器を所有する者が、私的複製補償金を支払う。

(47)第3に、このようなタイプの制度においては、一見、著作物の利用者は公正な補償の支払い義務を負わず、著作権指令2001/29序文の段落31を考えた時に求められていることと反する。

(48)しかしながら、まず、この義務を負う者の行為、つまり、私的利用者に複製機器及び媒体を入手可能とすること又は複製サービスとともにこれらを提供することは、自然人が私的複製を行うために必要な前提条件となっていることが考えられなくてはならない。また、このような支払い義務を負う者が、この私的複製補償金を、複製機器及び媒体の入手価格又は提供される複製サービスの価格に転嫁することを止めるものはない。このような状況において、複製機器及び媒体を入手した者又は複製サービスの利用者は、実際、公正な補償の「間接的な債務者」と考えられる。

(49)したがって、この制度は、債務者に私的複製補償金の費用を私的利用者に転嫁することを可能とするものであり、そのため、この私的利用者が私的複製補償金を負担すると考えられるものであるから、著作者と著作物の利用者の間の「正しいバランス」と合致するものと考えられる。

(50)このような考察から、第2の質問に対する回答は、欧州著作権指令の第5条第2項(b)は、関係者間で守られるべき「正しいバランス」とは、私的複製の例外の導入の結果として著作物にもたらされる害を基準として必ず計算されなければならないという意味に解釈される。デジタル複製機器を所有し、そのことに基づいて、法的に又は実質的に、これらの機器を私的利用者に入手可能とするか又は複製サービスとともに提供する者が、この者がこのような支払いの実負担を私的利用者に転嫁できる限りにおいて、公正な補償の債務者となるとすることは、「正しいバランス」と合致する。

第3と第4の質問

(51)第3と第4の質問によって、これらは一緒に検討されることが適切であるが、スペイン法廷は、本質的に、欧州著作権指令2001/29の第5条第2項(b)の下で、デジタル複製機器及び媒体に関する公正な補償の支払いに当てられる補償金の適用と、私的複製を行うという想定される用途の間との間に結びつきが必要とされるかを聞いている。同時に、特に明らかに私的複製以外の目的に当てられる複製機器及び媒体に関して、無差別に私的複製補償金を適用することは、欧州著作権指令2001/29に合致するかということが問われている。

(52)まず、公正な補償の支払いの制度は、この判決の段落46と48に書いたように、問題の複製機器及び媒体が私的複製のために使われ得、結果として、著作権者に害を与えるだろう場合にのみ、「正しいバランス」の要件に合致することに注意しなければならない。すなわち、このような要件の考慮から、デジタル複製機器及び媒体に関して、私的複製補償金の適用とこれらの機器等の私的複製のための利用の間には必ず結びつきがなければならない。

(53)したがって、スペイン法廷がはっきりと言及しているような、明らかに私的複製以外の目的のために自然人以外の者によって入手された対象も含め、あらゆるタイプのデジタル機器及び媒体に対する私的複製補償金の無差別な適用は、欧州著作権指令2001/29の第5条第2項(b)に合致しないこととなる。

(54)一方、問題の機器がその私的利用目的のために自然人に入手可能とされた場合に、実際にそれを用いて私的複製が行われたかということや、その結果として実際に著作権者に害をもたらしたかということが何かの形で確認されることは必要とされない。

(55)実際、この自然人はこのような入手の全体的利益を受けると想定され、つまり、複製を含め、この機器の有する機能を十分に利用すると考えられるのである。

(56)ここから、このような機器等が複製を行う機能を有しているというだけでは、私的複製補償金の適用を正当化するに足らず、この機器等が私的利用者である自然人に入手可能とされることが常に必要である。

(57)この解釈は、欧州著作権指令2001/29の序文の段落35の趣旨にも支持されている。これは、公正な補償の量を決定するための有用な基準として、単に「害」ではなく、与えている「だろう」害と書いている。著作者に対してもたらされる害の潜在的性質は、私的複製の実際の実行を必要とすることはないが、複製を可能とする機器等を自然人に入手可能とするという必要な前提条件の充足にかかっている。

(58)さらに、当裁判所は、著作権法について、ホテルがテレビ信号を得られるようにしたが実際に旅客に対して実際に著作物へのアクセスを提供したのではない時に、ホテルの旅客がテレビ媒体で放送著作物を見たという事件では、最終利用者の単なる可能性の多寡が考慮されるべきと判断している。

(59)上記の考察を踏まえて、第3と第4の質問に回答すると、欧州著作権指令2001/29の第5条第5項(b)は、デジタル複製機器及び媒体について公正な補償の支払いに当てられる補償金の適用と、その想定される私的複製を行うという用途の間には、結びつきが必要である。よって、特に私的利用者に入手可能とされず、明らかに私的複製以外の用途に当てられるデジタル複製機器及び媒体に関する、私的複製補償金の無差別な適用は、欧州著作権指令2001/29に合致しないということになる。

第5の質問

(60)第5の質問により、スペイン法廷は、本質的に、あらゆるタイプのデジタル複製機器及び媒体に私的複製補償金を、その用途とは無関係に無差別に課している、スペインによって採用されている制度が、欧州著作権指令2001/29と合致するものであるかどうかを聞いている。

(61)この点で、不履行による上訴の場合を除き、各国法とEU法の間の整合性について当裁判所が判断することはできない。それは、この場合、質問の付託によって、このEU法について必要な範囲と解釈を得た後、各国裁判所の権限に属する(C-347/87の判決文の段落16参照)。

(62)したがって、スペイン法廷が、最初の4つの質問について回答に照らして、スペインの私的複製補償金制度と欧州著作権指令2001/29の間の整合性を判断するべきである。

 よって、当裁判所が第5の質問に答える必要はない。

(中略:費用について)

これらの理由に基づき、当裁判所(第3部)は、以下の通り判決する:

1.欧州著作権指令2001/21の第5条第2項(b)の「公正な補償」の概念は、EU法独自の概念であり、EU法によって、特にこの指令によって課される制限内で、この公正な補償の形式、課金及び徴収の様式、並びに金額を決める加盟国の権能を超え、私的複製の権利制限を採用している全ての加盟国で統一的に解釈されるべきものである。

2.欧州著作権指令2001/21の第5条第2項(b)は、関係者間で守られるべき「正しいバランス」とは、私的複製の例外の導入の結果として著作権者にもたらされる害を基準として公正な補償が必ず計算されなければならないという意味に解釈されなければならない。デジタル機器及び媒体を所有し、そのことに基づいて、法的に又は実質的に、その機器を私的利用者に入手可能とするか又は複製サービスとともに提供する者がこの公正な補償に資金を出す責任を有するとすることは、この者がこのような課金の実負担を私的利用者に転嫁することができる限りにおいて、この「正しいバランス」の要件に合致する。

3.欧州著作権指令2001/21の第5条第2項(b)は、公正な補償に当てられる、デジタル複製機器及び媒体に関する補償金の適用は、その機器等の私的複製という想定される用途と結びついていなければならないという意味に解釈されなければならない。したがって、特に、私的利用者に入手不可能で私的複製以外の用途に明らかに当てられるようなデジタル複製機器及び媒体に関する、私的複製補償金の無差別な適用は、欧州著作権指令2001/21に合致しない。

 欧州ではこの判決について相も変わらず利権団体の様々なポジショントークが交錯しているが、本当に重要なことは、この判決で、欧州司法裁判所が、(1)私的複製補償金制度はEU法の対象であること、(2)私的複製補償金の実負担者は消費者であること、(3)補償金の適用範囲は私的複製という用途と結びついていなければならず、その範囲には自ずと制限があるべきこと、(4)補償金の額は私的複製が権利者に与える害から計算されなければならないことを明確にしたということである。

 ほとんど全て自明のことと言って良いが、これらの点を欧州司法裁判所が明確にした意味は大きい。これらのことを全て無視して権利者団体の野放図な要求に従って各国政府がデタラメに課金の範囲と額を拡大し続けて来たことが、欧州各国における補償金制度に関する今のバカげた混乱を招いたといって差し支えないのである。結果としてここで欧州司法裁判所のこのような介入を招いたことは、ほとんど権利者団体の自業自得と言って良い。

 日本の裁判に影響することはないだろうが、この欧州司法裁判所の判決は、今も連綿と続いている欧州各国の私的録音録画補償金を巡る法廷内外の争いに確実に影響するだろう。この判決は補償金について具体的にどのような範囲と額が適切であるのかまでを示すものではなく、欧州委員会の合理化の検討の再開により、この判決の解釈を巡り、また必要となる法改正の検討で、欧州では今後も相当長期にわたり泥沼の闘争が繰り広げられることだろう。またいくつもの裁判事件が欧州司法裁判所と各国裁判所の間で行ったり来たりを繰り返すのではないかとも思う。

 課金の対象範囲と額のデタラメな拡大により今まで混乱を招くだけ招いて来た欧州各国の私的複製補償金制度の問題は、この判決で再び炎上するに違いなく、その混乱がいつどのように収まるのかはちょっと見当もつかない。最後に今一度繰り返しておくが、私的録音録画補償金制度に関する限り、欧州は単なる反面教師でしかない。

(2010年10月27日夜の追記:いくつか誤記等を修正した。)

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2010年10月26日 (火)

目次8

 単なる目次のエントリその8である。(この変わり映えのしないブログを読んで下さっている方々に感謝。)

(以下、目次)

第211回:児童ポルノ流通防止協議会「児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体運用ガイドライン(案)」に対する意見募集(1月28日〆切)への提出パブコメ(2010年1月18日)

第212回:内閣府「ハトミミ.com」(集中受付期間2月17日〆切)への提出パブコメ(2010年1月26日)

第213回:知財本部・新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集(2月15日〆切)への提出パブコメ(2010年2月 3日)

第214回:表現の自由の一般論(その2:表現の自由に関する違憲基準)(2010年2月11日)

第215回:表現の自由の一般論(その3:情報アクセスに対する規制への表現の自由に関する違憲基準の適用)(2010年2月19日)

第216回:リークされた模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)のインターネット関連部分(2010年2月22日)

第217回:知財本部のDRM回避規制強化・プロバイダーの責任制限(ストライクポリシー)・海賊版対策条約(ACTA)に関する検討資料(2010年3月 2日)

第218回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(インターネット関連部分)(2010年3月 3日)

第219回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(民事エンフォースメント関連部分)(2010年3月14日)

第220回:新たにリークされた文書から見る模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に対する日本政府のスタンス(税関取り締まり関連部分)(2010年4月 6日)

第221回:知財本部で了承された知的財産推進計画2010骨子案(2010年4月 9日)

第222回:イギリス下院を通過したデジタル経済法(イギリス版ストライクアウト法)(2010年4月20日)

第223回:知財本部ワーキンググループの資料と文化庁小委員会の資料(ストライクポリシー・リンクによる間接侵害・法定賠償・フェアユース関連)(2010年4月30日)

第224回:総務省・「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言(案)に対する提出パブコメ(2010年5月 7日)

第225回:内閣府・「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」に対する提出パブコメ(2010年5月 8日)

第226回:ハトミミ.com・情報公開制度の改正の方向性についての提出パブコメ(2010年5月13日)

第227回:文化庁・法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(日本版フェアユース)についてのパブコメ募集(2010年5月26日)

第228回:内閣府・ 児童ポルノ排除総合対策案パブコメ募集(6月7日正午〆切)(2010年5月28日)

第229回:内閣府・ 児童ポルノ排除総合対策案に対する提出パブコメ(2010年6月 6日)

第230回:知財計画2010の文章の確認(2010年6月 8日)

第231回:文化庁・法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(日本版フェアユース)に対する提出パブコメ(2010年6月17日)

第232回:主要政党の参院選マニフェスト案比較(知財・情報政策関連)(2010年6月23日)

第233回:総務省・情報通信審議会第7次中間答申「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」に対する提出パブコメ(2010年8月 2日)

第234回:総務省・ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集に対する提出パブコメ(その1:知財・著作権規制関連)(2010年8月14日)

第235回:総務省・ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集に対する提出パブコメ(その2:一般的な情報・表現・ネット規制関連)(2010年8月14日)

第236回:内閣府・第3次男女共同参画基本計画に盛り込むべき施策に関する提案募集に対する提出パブコメ(2010年8月27日)

第237回:海賊版対策条約(ACTA)交渉の行方(7月版のリーク条文案)(2010年9月 5日)

第238回:8月25日版の海賊版対策条約(ACTA)リーク条文案(2010年9月 8日)

第239回:アメリカ・デジタルミレニアム著作権法(DMCA)のDRM回避規制の影響(2010年10月 5日)

第240回:10月2日時点の海賊版対策条約(ACTA)条文案と国内におけるDRM回避規制強化の検討(2010年10月12日)

<番外目次>
番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載(2010年2月27日)

番外その23:青少年健全育成条例改正案についての都の見解に対する個人的見解(2010年3月21日)

番外その24:日弁連の児童ポルノ規制法改正に関する意見書について(2010年3月27日)

番外その25:情報・表現規制問題に関する注目候補リスト(2010年参院選版)(2010年6月23日)

番外その26:情報・表現規制問題に関する注目候補当落結果リスト(2010年参院選版)(2010年7月13日)

番外その27:「児童の性的搾取を防止・根絶するためのリオデジャネイロ宣言及び行動への呼びかけ」(2008年11月)の全訳(2010年8月24日)

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2010年10月12日 (火)

第240回:10月2日時点の海賊版対策条約(ACTA)条文案と国内におけるDRM回避規制強化の検討

 翻訳はおろか、今度は概要や報道発表すらついておらず、およそ人をバカにしているとしか思えないが、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の10月2日時点の条文案(pdf)が、日本政府から正式に公開されたので、今回は、日本との国内法との関係で特に問題となるそのDRM回避規制関連部分について取り上げる。(同じくユーザ・消費者から見て気になる部分として、プライバシー保護、少量品、法定賠償やプロバイダー責任制限関連部分もあるが、これらの部分は8月時点のリーク条文案とほとんど変わりはないので、特に気になるようであれば、前々回のエントリをお読み頂ければと思う。)

 海賊版対策条約(ACTA)でDRM回避規制を規定する第2.18条中の第5項から第8項までは、10月2日時点の条文案では以下のような形になっている。(MIAUの訳を参照した。)

5. Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by authors, performers or producers of phonograms in connection with the exercise of their rights in, and that restrict acts in respect of, their works, performances, and phonograms, which are not authorized by the authors, the performers or the producers of phonograms concerned or permitted by law.

6. In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least against:
(a) to the extent provided by its law:
(i) the unauthorized circumvention of an effective technological measure carried out knowingly or with reasonable grounds to know; and
(ii) the offering to the public by marketing of a device or product, including computer programs, or a service, as a means of circumventing an effective technological measure; and

(b) the manufacture, importation, or distribution of a device or product, including computer programs, or provision of a service that:
(i) is primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(ii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.
...

8. In providing adequate legal protection and effective legal remedies pursuant to paragraphs 5 and 7, each Party may adopt or maintain appropriate limitations or exceptions to measures implementing paragraphs 5, 6 and 7. Further, the obligations in paragraphs 5, 6 and 7 are without prejudice to the rights, limitations, exceptions, or defenses to copyright or related rights infringement under a Party's law.

第5項 その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家又はレコード製作者によって用いられ、その著作物、実演及び録音に関して、著作権者、実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。

第6項 そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、各締約国は、少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:
(a)その国内法により規定される限りにおいて:
(ⅰ)故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する手段としての、コンピュータ・プログラムを含め、機器若しくは製品又はサービスの市場における公衆への提供の申し出;そして

(b)コンピュータ・プログラムを含め、以下の機器又は製品の製造、輸入又は頒布、又は以下のサービスの提供:
(ⅰ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅱ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的しか持たないもの。

(中略:第7項は、著作権管理情報に関する規定。)

第8項 第5項及び第7項に書かれている適切な保護及び効果的な法的救済を規定するに際し、各締約国は、第5項、第6項及び第7項に書かれている措置の実施において適切な制限又は例外を採用又は維持できる。さらに、第5項、第6項及び第7項の義務が、締約国の国内法における、権利、制限、例外、又は著作権若しくは著作隣接権侵害に対する抗弁に影響を与えることはない。

 ここで、条文上の記載が単に有効な技術的手段とされて明文のアクセスコントロールへの言及がなくなり、アメリカの初期提案の形のようにアクセスコントロール回避そのものの規制が完全な義務とされなかったことは不幸中の幸いだが、日本政府の勝手なアメリカへの譲歩により、DRM回避装置とプログラムの製造、DRM回避サービスの提供までの規制が必要とされているままなのは非常に痛い。

 文化庁なり経産省なり外務省なりが国民にどこまでこの条約交渉を用いたポリシーロンダリングを隠すつもりか知らないが、今文化庁と経産省で進んでいるDRM回避規制の強化の検討で、ある程度このACTAの条文案に沿った内容の規制強化案が出されて来るのは間違いないだろう。(現行法との比較で考えた時の分析がメチャクチャなのでその点では全くお話にならないが、どこかの官庁の官僚が出所と思われる文化庁のDRM回避規制強化の検討に関する先日の産経の記事で言及されている規制強化の内容が、このACTAの条文案とピタリと符号しているのは決して偶然ではないに違いない。)

 そもそもこのような国益を無視したポリシーロンダリング自体全く気にくわない上、重複検討もいい加減にしてくれと思うが、今までの知財本部の検討や、現行の法規制とACTA条文案の比較を考えると、文化庁や経産省の検討で俎上にあがる論点は大体以下の5点になると予想される。(現行の法規制については、第36回参照。)

  1. アクセスコントロール回避自体を規制するかどうか。
  2. 「のみ」、「専ら」などの現行法の機能の限定を改めるか。
  3. DRM回避装置とプログラムの製造規制をどうするか。
  4. DRM回避サービスの規制をどうするか。
  5. 刑事罰の範囲をどうするか。

 1のアクセスコントロール回避自体の規制まで、この機会に乗じて権利者団体は狙ってくるだろうが、ACTAの現在の条文案においてすらこのような規制を必須とすることは落とされたのであり、さらに、何度も書いている通り、著作権法によるせよ不正競争防止法によるせよ、このようなアクセスコントロール回避自体の規制には、そのそもそもの法目的から来る無理が存在している。過去のDRM回避規制導入の検討経緯については第45回で取り上げているが、個人的なアクセスコントロール回避まで規制することは、不正競争防止法ではその公正な競争の確保・取引秩序の維持という目的をはるかに超える異常規制となるだろうし、著作権法はそもそも情報アクセスそのものを規制するための法律ではないのである。

 2について、現行のDRM回避機能「のみ」を有する機器、DRM回避を「専ら」その機能とする機器といった条文の限定を、ACTA条文案のように改めることも検討されるのではないかと思うが、これも実務的に意味があるかどうか甚だ疑わしい。現行法の規定でも、マジコン等は違法と解釈されているのであり(番外その15参照)、現時点でいたずらに条文を変えることはかえって法的な不安定性を増すだけのことになるのではないかと私は思っている。

 3のDRM回避機器・プログラムの製造規制も、著作権法によるにせよ不正競争防止法によるにせよ、特に企業や大学等における研究・開発との関係で極めて大きな問題を孕む。不正競争防止法の場合、第19条第1項第7号として試験・研究に対する適用除外が定められており、この適用除外を拡大することも考えられるだろうが、著作権法にはそのような例外はなく、例によって文化庁と権利者団体は全力で一般的な例外の導入に抵抗しながらデタラメな規制強化をごり押ししようとすると容易く予想されるので非常に危ない形で検討が進められるだろう。また、当たり前の話だが、試験・研究を例外とすれば多少の問題の緩和になるにしても、それで問題の全てが片付くということはない。そして、ここでも、何故製造行為を規制する必要があるのかということを少し考えてみれば、その立法事実たる根拠はACTAのポリシーロンダリングを除けば極めて薄弱であることに誰でも気づくことだろう。(大体、DRMの開発自体を萎縮させることに対して、権利者団体・ゲーム業界も全く利益は見出せないはずだが、省庁の検討に出て来るような、規制ありきで壊れたレコードのように同じことを繰り返すロビイストにはその程度の見識を求めることすら難しいだろう。情けない話だが。)

 4のDRM回避サービス規制も非常に危うい。どうせ政府や権利者団体は何も考えていないのだろうが、今の著作権法か不正競争防止法の規制に単純にサービスの提供という語を加えて広汎に規制をかけてしまうと、本来正当なものとして認められなければならない情報アクセス・複製を確保するためにすらDRM回避手段を合法的に入手することがほとんど不可能になる可能性が高い。図書館における資料保存や教育と、障害者等のためなど一般的な公益目的でのDRM回避は不可能ではないが、その手段を合法的に入手することができないという状況は誰でもバカバカしさの極みだと思うことだろう。また、サービスの提供という語自体かなり範囲は広く、直接的なサービスの提供だけではなく、間接的なサービスの提供まで含まれるとなるとその範囲が途方もなく広がることになるだろう。(「業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った者」は刑罰の対象となるとされている現行の著作権法第120条の2第2項でサービスの提供の規制を読み込むことが可能かも知れないが、政府が現時点でどのような案を考えているかはよく分からない。この規定にしても、「業として公衆から」とい う語を「他人から」と変えることが考えられているとしたら、ほぼ同じことである。)

 5の刑事罰の範囲については、ACTAの今の条文案とは全く関係ないが、普段の振る舞いから考えて、この点でも文化庁や経産省、権利者団体は便乗して範囲の拡大を狙って来ることだろう。立法事実や過去の法改正の経緯を完全に無視して、不正競争防止法で刑事罰を導入する話が出て来たり、私的にコピーコントロールを回避して複製する行為の規制(著作権法第30条第1項第2号)に刑事罰を課すべきだといったバカげた話が出て来る恐れもあり、決して油断はできない。

 本当にミニマムでACTAの現在の条文案のDRM回避規制を国内法に導入することを考えると、他の点を全て条約と現行法の条文解釈の問題に落として、一般的な試験研究目的の適用除外も一緒に拡大する形で不正競争防止法にDRM回避機器の製造規制を刑事罰の導入なしで入れるという形になると思うが、そのようなある程度無難なところに今の検討が落ち着くとは考え難い。いつものように権利者団体と官僚たちは、この条約交渉に便乗して、これを最大限に利用して可能な限りの規制強化・既得権益拡大を狙って来るだろうし、縦割りと政治力のせめぎ合いの中、ねじれにねじれることが予想されるこのDRM回避規制の検討がどこにどう落ち着くのかは甚だ読み辛い。この検討はどこをどうやっても斜め上の方向に行き、前回紹介したようなアメリカのDMCAを巡るロクでもない混乱を、全部でないにしても、無理矢理輸入させられることになるのではないかという強い懸念を私は抱いている。

 大体、海賊版条約(ACTA)はその全体を見渡しても日本にとっての批准のメリットが私には全く見えない。ほとんど各国政府の役人のメンツ保持のためにやっつけで作ったとしか見えないメリットのない条約の妥結・署名・批准のための検討など、国民の情報アクセスに対する不当な規制としかなりようのないDRM回避のさらなる規制強化の検討など即刻止めるべきであるとパブコメで私は書くつもりである。

(10月14日の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。)

(10月14日夜の追記:各者の主張は大体予想通りだが、9月30日に開催された技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の第1回の配布資料議事要旨)が経産省HPで公開されているので、ここにリンクを追加しておく。その開催案内によるとこの小委員会の次回開催は10月19日の予定である。

 DRM回避規制については、非常にややこしい現行の法規制がどうなっているかということをまず理解してから話をしないと必ず頓珍漢なことになるが、経産省の参考資料の参考資料我が国における「技術的手段」に係る規制の概要(pdf)の下のような表が一目で見ようとするには良いかも知れない。

Drm_table

 いずれにせよ分かりにくいことに違いはないのだが、人によっては文化庁の平成18年の文化審議会・著作権分科会報告書(pdf)の下のような図の方が見やすいと思う方もいるかも知れないので、一緒に引用しておく。

Drm_table2

 普通DRM回避規制と聞いて端的に思い浮かぶのは、いわゆるDVDリッピングとマジコンのことだと思うが、今の法規制でも、主としてアクセスコントロールと考えられる DVDのDRM(CSS)の回避専用プログラム(DeCSSなど)の販売や提供は不正競争防止法で既に違法(ただし刑事罰はなし)とされ、アクセスコントロールと同時にコピーコントロールも行っているゲーム機のDRM回避のためのほぼ専用機器であるマジコンの販売や提供はまず間違いなく著作権法と不正競争法の両方で違法とされ、著作権法では刑事罰の対象ともなり得るだろうという、既に十分以上に規制がかかっている状態にあるということをまず押さえておかないと、この話は大体訳が分からなくなる。(さらに、いろいろと解釈の問題があるので、この問題は本当にややこしい。現行の法規制のさらに細かな点については、第36回などをお読み頂ければと思う。)

また、フランスの3ストライク法の現状について、マイコミジャーナルが非常に良くまとまった記事を書いてくれているので、ここで一緒にリンクを張っておく。)

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2010年10月 5日 (火)

第239回:アメリカ・デジタルミレニアム著作権法(DMCA)のDRM回避規制の影響

 世間的には知財どころではない雰囲気ではあるが、例によってあまり耳目を集めないながらも、知財について地味にロクでもない検討が続けられている。先週まで東京で開かれていた海賊版対策条約(ACTA)の交渉会合は、条文案についてほぼ合意したとの報道があり(経産省のリリース朝日の記事読売の記事各国政府の共同声明、外務省のリリース参照)、この条約交渉と歩調を合わせるように、文化庁で9月14日から著作権分科会・法制問題小委員会・技術的保護手段ワーキングチームが開催され(議事概要、「Copy & Copyright Diary」のブログ記事参照)、経産省でも、つい先日の9月30日から、産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会が開催されている(開催案内議事要旨参照。hideharus氏のツイートも参照)。

 これらのDRM回避規制を巡る検討は、日本政府がACTA交渉で勝手にどれくらい譲歩したかでキャップがはめられてしまうというというどうしようもない状況にある。相変わらず交渉について人をバカにしたような概要しか日本政府は公表しておらず、現在のACTA条文案も公開されていない現状では、具体的には何とも言いようがないが、いつもの如く、アメリカがこのACTAを自国の制度の押し付けに使って来ているということがあり、日本政府が、日本の法体系に合わないアメリカの制度に沿った条文案を勝手に飲んでしまっている可能性は低くないと私は踏んでいる。

 この条文案次第で時期を逸した話になるかも知れないとは言え、今後募集さえるだろうパブコメなどの参考のために、今回は、DRM回避規制についてアメリカの制度は全く褒められたものではないという話をまとめて書いておきたい。

(1)アメリカ著作権法(DMCA)におけるDRM回避規制の概要
 アメリカ著作権法のDRM回避規制に関する第1201条以下そのものは、著作権情報センターの訳があるので、ここで繰り返して訳出することはしないが、およそ第1201条(a)(1)(A)でアクセスコントロール回避行為そのものを禁止し、また第1201条(a)(2)と(b)で、アクセスコントロールのようなDRMの回避のために主として設計又は製造された技術、製品、サービス、装置、部品などの製造、輸入、提供などを規制するという構成を取っている。(原文は、アメリカ著作権局のHP参照)

 およそ前回紹介した海賊版対策条約(ACTA)のアメリカ提案通り、アクセスコントロール回避自体や、技術・サービスなどまで含めて十把一絡げに規制をかけているが、第1201条(a)(1)(B)(C)でフェアユース的な要素を考慮して連邦議会図書館長がその例外を規則で定められることとし、さらに、第1201条(c)でフェアユースや表現の自由に影響を与えないとが、(d)で図書館や教育機関に対する適用除外が、(e)で政府の活動に対する適用除外が、(f)でリバース・エンジニアリングに対する例外が、(g)で暗号化研究に対する例外が、(h)で未成年用フィルタリングに関する例外が、(i)で個人情報保護のための例外が、(j)でセキュリティ・チェックのための例外が定められているなど、例外もかなり細かく多岐に渡って規定されている。

 どのような規制にもメリット・デメリットは必ずあるので、これだけいろいろと制限・例外を作っていても、アメリカのこの規制も様々な萎縮効果をもたらしている。

(2)電子フロンティア財団(EFF)の2010年2月のレポート「予期せざる影響:DMCA下の12年」
 このDMCAがもたらした萎縮効果については、EFFが2010年2月に「予期せざる影響:DMCA下の12年(pdf)」というレポートにまとめてくれているので、ここでざっとその内容の概略を紹介しておきたいと思う。(EFFのリリースも参照。)

 EFFのレポートにあげられている項目の訳を作ると以下のようになる(括弧内は簡単な事件の紹介)。

1.概要
・DMCAは表現の自由と科学研究を萎縮させている。
・DMCAはフェアユースを脅かしている。
・DMCAは競争とイノベーションを阻害している。
・DMCAは一般的なコンピュータ・アクセス防止法として濫用されている。

2.DMCAの立法経緯

3.表現の自由と科学的研究の萎縮
・Bluwikiを脅すアップル(wikiでの単なるiPodのリバースエンジニアリングの議論に対してアップルの弁護士が警告状を送ったという2009年の事件。この事件では、Bluwikiが利用者の言論の自由を守るためにアップルを逆に訴えたところ、アップルが脅しを取り下げたという2009年の事件。)
・SONY-BMGの「ルートキット」脆弱性に関する開示を遅らせたDMCA(有名な2005年のソニーのルートキット事件では、プリンストン大学の研究者による事実の公表がDMCAに関する法的問題のクリアのため数週間遅れた。)
研究者を脅すSunComm(プリンストン大学の研究者が、CDのコピー制限技術の脆弱性に関するレポートの公表について、DMCAに基づいてその開発会社に脅された2003年の事件。この事件では、批判を浴びて会社が脅しを取り下げた。)
・研究における萎縮効果について注意するサイバー・セキュリティ皇帝(2002年、ホワイトハウスのサイバーセキュリティチーフが、正当なコンピュータセキュリティの研究を萎縮させているとして、DMCAの改正を呼びかけたという話。)
・フェルトン教授の研究チームに対する脅迫(プリンストン大学の研究チームによるウォーターマークの除去に関する研究に対して、DMCAに基づく警告状が送られ、研究チームが学会での論文公表を断念したという2000年の事件。研究者が反対に訴えることで、ようやく脅しは取り下げられ、研究の一部が公表された。)
・SNOsoftを脅すヒューレット・パッカード(ヒューレット・パッカードのUNIX系OSのTru64の脆弱性を公表した団体が、DMCAに基づいて脅された2002年の事件。この事件でも、広く批判を浴び、脅しは取り下げられたが、なお研究団体は自己責任で脆弱性について公表するようにという嫌がらせのようなメッセージを受け取る。)
・セキュリティ研究者を脅すBlackboard(BlackboardのIDカードに関する脆弱性について学会で公表しようとした学生に警告状が送られ、その公表が妨げられた2003年の事件。)
・出版社から避けられたXboxハックに関する本(XBoxの脆弱性に関する研究者の本の出版計画が、DMCAによる訴えを恐れた出版社によって断念された2003年の事件。研究者は数ヶ月の交渉の後に本を自己出版、さらに過大な法律相談の後にこの本は出版された。)
・邪魔をされたフィルタリングソフトに関する研究(フィルタリングソフトの脆弱性に関するいくつかの研究がDMCAにより阻害されたという話。)
・Dmitry Sklyarovの逮捕(Adobeのe-Book形式をPDF形式に変換するAdavanced e-Book Processorというプログラムの開発に携わったとして、ロシアのプログラマーがアメリカの学術会議での講演の後で逮捕され、5ヶ月間拘留されたという2001年の事件。)
・科学者とプログラマーが研究を断念(多くの研究者がDMCAによる潜在的な理由により研究の公表などを断念しているという話。)
・外国の科学者がアメリカを忌避(プログラマーの逮捕などを受けて、プログラマーにアメリカへの渡航を取りやめるようロシアが呼びかけたという話や、アメリカ以外での開催を検討する学会が出てきたという話など。)
・DMCAと取っ組むIEEE(コンピュータ関連の学術雑誌を多く抱えることで有名な学会のIEEEも、DMCAに関する懸念を抱くに至っているという話。)
・雑誌「2600」の検閲(CSS回避プログラムのDeCSSへのリンクをそのサイトに載せていた雑誌が、映画会社によって出版を差し止められた事件。2001年に巡回控訴審が差し止めを認める下級審判決を支持したというもの。)
・CNETのレポーターが萎縮感を吐露(CNETのレポーターが、DMCAから萎縮を感じ、アメリカの交通安全局のサイト上の暗号化文書を匿名ソースからのパスワードを使って開けられなかったという2002年の話。)
・計算機愛好家を狙うテキサス・インスツルメンツ(テキサス・インスツルメンツの画像プロセッサのリバース・エンジニアリングの成功に関してコメントしたブロガーらが脅されたという2009年の事件。ブロガーらは一旦削除するが、EFFの支援を受けその内容を再掲。)
・スラッシュドットを脅すマイクロソフト(Kerberosという名の公開セキュリティ基準のマイクロソフト独自実装に関する情報を削除するよう、マイクロソフトがスラッシュドットに要求したという2000年の事件。)
・DMCAでセキュリティ研究者を脅かすGameSpy(GameSpyのオンラインサービスの脆弱性に関する詳細をそのサイトで公開したイタリアのセキュリティ研究者に対して、DMCAに基づく警告状が送られたという2003年の事件。)
・TiVoに関する議論を検閲するAVSforum.com(デジタル録画機TiVoからPCへのビデオのムーブを可能とするソフトに関する全ての議論が、掲示板AVSforum.comで検閲されたという2001年の事件。)
・iTunes Music Storeに関する議論を検閲するMac Forum(Macに関する掲示板が、iTMSで買った楽曲のコピー・プロテクト回避に関する全ての議論を検閲したという2003年の事件。)

4.囲い込まれるフェアユース
・コピーコントロールCDとオンライン音楽におけるDRM(DRMは、海賊行為を抑制するというより、楽曲を買った後も長く合法的な消費者を害しているだけだという話。)
・DVDコピーツールというフェアユースツールの追放(DVDリッピングソフトに関するアメリカの訴訟の話。なお、AV Watchの記事にある通り、この訴訟は2010年3月に和解で終わってしまっているため、DVDの私的なリッピングとDMCA・フェアユースとの関係の問題の決着は完全には付いていない。)
・Advanced e-Book Processorとe-Books
(ロシアのプログラマーが釈放された後、今度はロシアのプログラミング会社がこのソフトについて刑事告訴されたが、2002年に無罪の判断が下されている。)
・タイムシフトとストリーミング・メディア(2000年に、インターネット上のストリーミング・メディアをタイムシフトする製品に対する差し止めが認められたことがあるという話。)
・Agfa Monotypeとフォント(フォント中の埋め込みデータを変える、大学生の非商用プログラムや、AdobeのAcrobatをDMCAに基づきフォント会社が脅したという2002年や2005年の事件。対Adobe裁判で、埋め込みビットは効果的にアクセスをコントロールしておらず、Acrobatは主として回避のために設計されていないと裁判所は判断。)
・Load-’N-Goとスペースシフト(消費者が買ったDVDをiPodに移すというサービスを行っていた小さな会社を映画会社が訴えたという2006年の事件。2007年に和解。)

5.イノベーションと競争に対する脅威
・App StoreにiPhoneを縛り付けるのにDMCAを使うアップル(iPhoneのジェイルブレイクが違法であるという理由にアップルはDMCAを持ち出していたという話。)
・携帯電話をキャリアに縛り付けるのにまず使われ、それから携帯電話販売店を叩きのめすのに使われるDMCA(SIMロック解除を違法とする理由にもDMCAが持ち出されていたという話。)
・Psystarを狙ってOS Xをハードに結び付けるアップル(アップルのOSの合法コピーを仕入れて安いPCとともに売っていた会社がアップルに訴えられたという事件。2009年にアップルに有利な判断を裁判所が示し、後に両者は和解。)
・HarmonyについてRealを脅すアップル(Realがそのダウンロードストアからの楽曲をiPodで聞くことを可能とする技術を告知した時、アップルがDMCAを使って脅したという2004年の事件。)
・ゲーム改造を阻止するため訴えるテクモ(そのゲームソフトの改造コードを公開しているウェブサイトをテクモが訴えたという2005年の事件。サイトの削除後、訴訟は取り下げれられ、和解の交渉が行われた。)
・Adobeをブロックするニコンの生データ暗号化(2005年に、AdobeのPhtoshopの作成者が、ニコンがPhotoshopと互換性が取れないように生データの一部を暗号化しているということを公表。最終的にニコンとAdobeは取り決めを交渉。)
・独立サービスベンダーをブロックしようとするStorageTek(ストレージハードウェアの販売・メンテナンスサービスを行っていた会社が、自社のストレージの補修にはパスワードがソフトのパスワードが必要なはずと言って他の独立メンテナンス会社を訴えた2005年の事件。この事件では著作権侵害はないとして差し止めは認められず。)
・トナー・カートリッジについて訴えるLexmark(インクカートリッジの非正規詰め替え品に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的に控訴審で判決は修正されるが、19ヶ月の法廷闘争の間に非正規品は市場から駆逐。)
・ガレージの扉の開閉装置メーカーを訴えるChamberlain(ガレージの扉の開閉装置の非正規遠隔開閉装置に対する訴えにDMCAが使われた2003年の事件。最終的にChamberlainは敗訴。)
・ConnectixとBleemを訴えるソニー(プレイステーションのエミュレータを作成した会社をソニーが訴えた1999年の事件。対ソニー裁判の訴訟費用を出すことはできず、エミュレータ会社は製品を断念。)
・Aibo愛好家を脅すソニー(Aiboを踊らせる自己プログラムを公開した愛好家にソニーがDMCAを持ち出した事件。最終的には、批判を受け、ソニーがプログラムの一部の公開を認める。)
・プレイステーションの改造チップを攻撃するソニー(プレイステーションで正規ソフト以外のソフトの動作を可能とするModチップの販売者をソニーが訴えているという話。)
・bnetd.orgを訴えるBlizzard(正規のゲームソフト所持者にインターネット上でそのゲームのプレイを可能とした愛好家グループによるサイトが、ゲーム会社に訴えられた2005年の事件。ゲーム会社が勝訴している。)
・小売店での工夫に難癖を付けるアップル(Mac所有者に、アップルのソフトを修正するパッチを配布した小売店がアップルにDMCAに基づいて脅されたという2002年の事件。)
・アナログビデオのデジタル化についてSimaを訴えるマクロビジョン(ビデオのアナログ信号からのデジタル化を助ける製品を売っていたSimaが、アナログビデオのコピー制御で有名なマクロビジョンから訴えられた2006年の事件。最終的に和解。)
・World of WarcraftのGliderをブロックするBlizzard(オンラインゲームにおけるbotの使用が、DMCA違反とされた2009年の事件。控訴中。)
・DMCAとサイト上の利用契約で競争を抑止しようとする車のデザイン会社(ウェブサイトの利用契約が技術的保護手段であると主張して、車のデザイン会社が自社のウェブサイトに対する競合他社によるキャプチャソフトの使用を止めようとした2008年の事件。最終的に和解。)

6.コンピュータアクセス防止法と肩を並べるDMCA
・不正なネットワークアクセスだとDMCAに基づいて以前の契約プログラマーを訴えた会社(離れたところから仕事を行うために、会社のコンピュータ・システムへのアクセスにVPNを用いた契約プログラマーを、関係が悪くなり契約を破棄した後で、DMCAなどに基づいて会社が訴えた2003年の事件。)
・CAPTCHAの回避についてRMGを訴えるTicketmaster(歪んだ文字によるアクセス制限であるCAPTCHAを回避するサービスを行うサイトについて、DMCAに基づく訴えが通った2007年の事件。)
・ケーブルのデジタルフィルタをブロックするケーブル会社(ペイ・パー・ビュー信号をカットするフィルタについて、DMCAに基づく訴えが通るとされた2008年の事件)

7.結論

 詳しくはレポート本文をご覧頂ければと思うが、アメリカが訴訟社会であるという側面もあるとは言え、ここまで多くの問題が発生している理由としては、アメリカが立法時にあまり考えずに、著作権法でアクセスコントロールの回避そのものを規制してしまったことと、技術やサービスといった曖昧なものまで規制対象として、製造などまで規制するとしてしまったことが大きいだろう。

(3)アメリカ連邦議会図書館によるiPhoneのジェイルブレイク合法化
 また、「P2Pとかその辺のお話」でも取り上げられているが、法律上で連邦議会図書館が3年毎に定めるとしている著作権の例外について、ついこの7月にも新しい規則が出されている。

 アメリカの連邦議会図書館著作権局のHPに載っている、この新たな規則で例外の対象となる著作物は、以下のようなものである。(えらく長いが、同じページに載っている図書館の決定(pdf)勧告(pdf)も非常に興味深い。)

(1) Motion pictures on DVDs that are lawfully made and acquired and that are protected by the Content Scrambling System when circumvention is accomplished solely in order to accomplish the incorporation of short portions of motion pictures into new works for the purpose of criticism or comment, and where the person engaging in circumvention believes and has reasonable grounds for believing that circumvention is necessary to fulfill the purpose of the use in the following instances:
(i) Educational uses by college and university professors and by college and university film and media studies students;
(ii) Documentary filmmaking;
(iii) Noncommercial videos.

(2) Computer programs that enable wireless telephone handsets to execute software applications, where circumvention is accomplished for the sole purpose of enabling interoperability of such applications, when they have been lawfully obtained, with computer programs on the telephone handset.

(3) Computer programs, in the form of firmware or software, that enable used wireless telephone handsets to connect to a wireless telecommunications network, when circumvention is initiated by the owner of the copy of the computer program solely in order to connect to a wireless telecommunications network and access to the network is authorized by the operator of the network.

(4) Video games accessible on personal computers and protected by technological protection measures that control access to lawfully obtained works, when circumvention is accomplished solely for the purpose of good faith testing for, investigating, or correcting security flaws or vulnerabilities, if:
(i) The information derived from the security testing is used primarily to promote the security of the owner or operator of a computer, computer system, or computer network; and
(ii) The information derived from the security testing is used or maintained in a manner that does not facilitate copyright infringement or a violation of applicable law.

(5) Computer programs protected by dongles that prevent access due to malfunction or damage and which are obsolete.  A dongle shall be considered obsolete if it is no longer manufactured or if a replacement or repair is no longer reasonably available in the commercial marketplace; and

(6) Literary works distributed in ebook format when all existing ebook editions of the work (including digital text editions made available by authorized entities) contain access controls that prevent the enabling either of the book’s read-aloud function or of screen readers that render the text into a specialized format.

(1)回避に関わる者が、その回避が以下の場合の利用目的を満たすために必要であると考えるか、またそうと考えるに足る合理的な理由がある場合であって、動画の短い部分を批評又は注釈の目的で新たな著作物に組み入れることを実現するためにのみ回避を実行する場合の、合法的に作成・入手され、コンテンツ・スクランブル・システム(CSS)で保護されたDVD上の動画:
(ⅰ)大学教授と大学の映画・メディア研究学生による教育的利用;
(ⅱ)ドキュメンタリー映画の作成;
(ⅲ)非商用ビデオ。

(2)携帯電話端末におけるコンピュータ・プログラムとともに、アプリケーションが合法的に入手された場合の、そのようなアプリケーションの相互運用性を実現するためにのみ回避を実行する、携帯電話端末におけるソフトウェア・アプリケーションの実行を可能とするコンピュータ・プログラム。

(3)そのネットワークへのアクセスがネットワーク管理者によって許可され、無線通信ネットワークに接続するためにのみコンピュータ・プログラムのコピーの所有者によって回避が開始される場合の、携帯電話端末から無線通信ネットワークへの接続を可能とする、ファームウェア又はソフトウェアの形式での、コンピュータ・プログラム。

(4)以下の場合であって、セキュリティ上の欠陥又は脆弱性の、善意の検査、調査又は修正のためのみに回避が実行される場合の、合法的に入手された著作物へのアクセスを制限する技術的保護手段によって保護された、パーソナル・コンピュータでアクセス可能なビデオ・ゲーム:
(ⅰ)セキュリティ検査から得られる情報が主として、コンピュータ、コンピュータ・システム又はコンピュータ・ネットワークの所有者のセキュリティを向上させるために用いられる場合であって;
(ⅱ)セキュリティ検査から得られる情報が、著作権侵害が適用される法の侵害を助長しないような形で用いられ、保持される場合。

(5)誤動作又は損傷によってアクセスを制限する、廃れたドングルによって保護されたコンピュータ・プログラム。それがもはや製造されていないか、無理なく市場で交換又は修理を行うことが不可能である場合に、ドングルは廃れたものとする;そして

(6)その作品の全ての存在する電子ブック版(権利者によって入手可能とされた電子テキスト版を含む)が、その本の読み上げ機能又はそのテキストを特定の形式へ変更する画面リーダーの使用を不可能とするようなアクセス・コントロールを含む場合の、電子ブック形式で頒布された文芸作品。

 2006年版の規則(著作権局のHP参照)と比べてみると分かるが、特に新しいのは、(1)の教育を目的としたDVDリッピングの合法化、(2)の相互運用性を目的とした携帯電話のDRM回避の合法化と(4)のセキュリティ検査のためのDRM回避の合法化である。前からあるものではあるが、(3)でSIM解除が合法化されており、(6)で電子ブックのDRM回避が合法化されていることも注目に値する。このような教育目的でのDVDリッピングやiPhoneのジェイルブレイク合法化などは問題の多少の緩和には役立つだろうが、これだけではDMCAの問題がおよそ解決されるとするにはほど遠い。

 例によって条約などで自国の規制を押し付けようとしているアメリカも、DRM回避規制についてはご覧の有様であり、このようなアメリカの法制度は、良いものとは全く思えない上、そのまま日本に持ち込もうとした場合、ほとんど破綻するに違いないと私には思えるのである。アクセスコントロールの私的な回避自体を著作権法や不正競争法で規制することにはそもそもの法目的から来る無理が存在しているし、技術やサービスといった曖昧なものにまで規制対象を拡大すると対象範囲があまりにも広がりすぎ、本来正当なものとして認められるべき著作物へのアクセスまで阻害されることになるだろうし、製造まで規制されるとなると、必然的に企業や大学等における研究・技術開発まで不当に阻害されることになるだろう。

 一般的な形も含めて適正な制限・例外を随時作ることによる問題解決の可能性を完全に否定することはできないが、これだけ詳細に制限・例外を作っているアメリカにおいてすら、有効にそれが機能しているとは言い難い状態にある上、日本の文化庁や経産省などの役所における検討で広く一般的な制限・例外を作ることが極度に忌避されるという現状では、このような制限・例外による問題解決はほとんど不可能と私は考えている。今検討されている非常に狭い日本版フェアユース条項で、一般的な研究や技術開発が救われることなど無論なく、アメリカでは議会図書館がiPhoneのジェイルブレイク合法化を認める規則を作っているが、日本の文化庁がこのような規則を作ることなどその普段の振る舞いから考えて絶対にあり得ないと断言できる。

 文化庁の検討会にも、経産省の検討会にも、一応メーカー代表が参加しているので、新たな技術開発を完全に萎縮させるようなバカげた規制強化がすんなりと通るという可能性はそれなりに低いと思うが、メーカーも情報収集力などの点で頼りないところがある上、日本のメーカーの独特の論理で動くので、今後の検討の行方はかなり不安である。場合によっては、また不合理な規制強化で、長年に渡って日本の経済と文化の正常な発展が阻害されることになりかねないと私は強く危惧している。

 最近のニュースとしては、「P2Pとかその辺のお話」で取り上げられているように、フランスで司法判断を必要とするタイプの3ストライク法が予定を大幅に遅れてようやく動き始めたということや(関連エントリ参照)、欧州議会で知財保護の強化を訴えるギャロ・レポートが採択されたことなどがあり(関連エントリ参照)、また、ACTAについての記事も紹介されているので、興味のある方是非リンク先をご覧頂ければと思う。

 すぐにACTAの現在の条文案が公開されるようなら、また問題箇所の翻訳紹介をしたいと思っているが、そうすぐに公開される気もしないので、次回は、また別の話になるのではないかと思っている。

(2010年10月5日夜の追記:内容は変えていないが、少し文章を整えた。また、外務省からもACTA交渉会合に関するリリースがあったので一番上の参照リンクに追加した。)

(2010年10月7日の追記:バラバラにしておく意味はもうあまり無い気がするので、このブログにもtwitterのつぶやきを表示するようにしてみた。

 経産省から技術的制限手段小委員会の議事要旨が公開されたので、上の参照中にもリンクを追加した。また、twitterのつぶやきにも書いているが、公式公開より先に10月2日版のACTAの条文案がリークされたので(keionline.orgの記事、オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事参照)、次回も続けてACTAの話を書きたいと思う。)

(2010年10月9日の追記:10月6日付けで外務省HPに海賊版対策条約の現在の条文案(pdf)が載せられていたようなので、念のため、ここにもリンクを張っておく。よほど国民にとって不都合がことが書いてあるのか、人を心底バカにしているのか知らないが、今度の条文案公開には報道発表も概要もついていない。)

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