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2010年9月 5日 (日)

第237回:海賊版対策条約(ACTA)交渉の行方(7月版のリーク条文案)

 他の話のために後回しになっていたが、今回は海賊版・模倣品拡散防止条約(ACTA)のことを取り上げる。

 海賊版対策条約(ACTA)については、4月時点で条文案が公開されたとは言え、その後は公式の条文案の公開はなく、会合毎に日本政府から要領を得ない概要は公開されているが、やはり各国のスタンス等全て不明のまま交渉が続けられている。

 8月の交渉に用いられた文書のリーク情報があればと思っていたが、このリークはまだないようなので、ここではユーザーとして特に注意が必要と考えている部分について、7月時点でのリーク条文案(laquadrature.netの記事参照)から翻訳して行く。(なお、翻訳にあたっては、4月公開版の条文案のMIAU翻訳も参照した。)

(1)プライバシー保護関連
 4月時点ではまだ作った方が良いという文章でしかなかったが、7月時点の条文案では、プライバシー保護関連の条項は、第1章中で以下のような条文とされている。

ARTICLE 1.4: PRIVACY AND DISCLOSURE OF INFORMATION

Nothing in this Agreement shall require any Party to disclose information the disclosure of which would be contrary to its law or its international agreements, including laws protecting right of privacy or confidential infomation the disclosure of which would prejudice law enforccement or the legitimate commercial interests of paticular enterprises, public or private, or otherwise be contrary to public interest.

第1.4条:プライバシーと情報開示

この条約のいかなる条項によっても、締約国に、プライバシーの権利又は秘密情報を保護する法律等、その国内法または国際条約に反する情報の開示、特定の公的若しくは私的な企業の正当な商業的利益又は公益に反するような、情報の開示を求めてはならない。

 これは第2章第2節第2.X条(少量品に関する規定)の「締約国は、旅行者の私的な荷物に含まれる、[NZ/豪/加/シンガ/韓/日:又は小口貨物で送られる、]非商業的な性質の少量の物品を本節の適用から除外することができる。」という税関での検査に関する条項との関係で必要だと思うが、総務省などへのパブコメでも書いている通り、プロバイダーの責任制限等についての条項との関係でユーザーの情報アクセスに関する基本的な権利が不当に侵害される恐れがあり、プライバシーの保護に関する条項だけでは不十分と、国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利である情報アクセスの権利等の情報の自由に関する権利を守るということも条約に書き込むべきと私は考えている。

(2)法定賠償関連
 法定賠償については、7月時点の条文案で、第2章第1節第2.2条第3項に以下のようにそのまま残されている。

ARTICLE 2.2: DAMAGES

3. [US: At least with respect to works, phonograms, and performances protected by copyright or related rights, and in cases of trademark counterfeiting e] [E]ach Party shall also establish or maintain a system that provides for:

(a) pre-established damages, or
(b) presumptions for determining the amount of damages sufficient to compensate the right holder for the harm caused by the infringement, or
(c) at least for copyright additional damages.

第2.2条:損害賠償

第3項 [米:少なくとも著作権又は著作隣接権によって保護される著作物、録音と実演に関しては、及び商標権侵害のケースにおいては、]各締約国は、以下のことを規定する法制を整備又は維持しなければならない:

(a)予め決められた損害賠償、又は
(b)権利者に侵害によって生じた損害を完全に補償するのに十分な損害賠償額の推定、又は
(c)少なくとも著作権について、追加の損害賠償。

 ここの(a)で言及されている法定賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものである。選択肢の形になってはいるため必ず法定賠償制度の国内法への導入が必要になるという解釈を取ることはできないと思うが、国内でこのような不合理な制度の導入を求めている一部の者によって、国内法改正の検討の際に不当に利用される恐れも強く、この法定賠償に関する部分も要注意と私は思っている。

(3)プロバイダー責任制限関連
 プロバイダー責任制限関連については、7月時点の、第2章第4節第2.18条第3項では以下のようになっている。

ARTICLE 2.18 [ENFORCEMENT PROCEDURES IN THE DIGITAL ENVIRONMENT]

3. Each Party shall [CH:may] provide at least

(a) that online service providers shall not be held liable or shall not be subject to monetary remedies for at least civil copyright or related rights infringements that occur by any of following:
(i) automatic technical processes [J: that keep the provider from taking mesasures to prevent infringement, such as those] as part of transmission of material when the online service provider did not initiate the transmission, did not select or modify the material, and did not select the recipients of the material;
(ii) the aoutomatic, intermidiate, and temporary storage of material made available online by a person other than the online provider and transmitted by the online service provider to its users without modification of the material; or
(iii) [storage of material provided by a user of the online service provider [US/Can: or][EU: and including] referring or linking users to an online location containing infringing material or activity.]

(b) that the application of the provision of subparagraph (a)(ii) is conditioned on an online service provider [J: take appropriate measures] expeditiously [Can: or within a defined period of time][J: such as those to remove or disable] removing or disabling access to material upon [J: obtaining actual knowledge of the infringement or having reasonable grounds to know that the infringement is occuring] receipt of a legally sufficient notice of alleged infringement concerning material that has previously been removed from the originating site.

(c) that the application of the provisions of subparagraph (a)(iii) is conditioned on
[US: (i)] an online service provider not receiving a financial benefit directly attributable to the infringing activity, in a case in which the service provider has the right and ability to control such activity; and]
[(i) [US: (ii)]] an online service provider [J: taking appropriate measures] expeditiously [J: such as those to remove or disable] removing or disabling access to material
(A) upon abtaining actual knowledge that the material or an activity using the material is infringing, such as [US/Aus: for example] upon receipt of a legally sufficient notice of alleged infringement, [US/Aus: and] in the absence of a legally sufficient response from the relevant alleged infringer indicating that the result of mistake or misidentification;]
(B) in the absense of actual knowlwdge, when the online service provider [J: has reasonable grounds to know that the infringement is occurring] is aware of facts or circumstances from which infringing activity is apparent.[Can: or]
(iii) [Can: the service provider not knowing of a decision of a court of competent jurisdiction that the hosted materials are infringing]

3 bis No Party's legislation may condition the limitations in subparagraph (a) on an obligation that the online service provider monitors its services or [CH: in any other way] actively or affirmatively seeks facts indicating that infringing activity is occurring.

[J: 3 ter. Each Party shall ensure that its judicial authorities habe the authority to order an online service provider to expeditiously disclose the information of the relevant subscriber to right holders, who have given legally sufficient claim with valid reasons to be infringing their trademarks or copyright or related rights.

3 quater. Each Party shall endeavor to promote the development of mutually supportive relationships between online service providers and right holders to deal effectively with patent, industrial design, trademark and copyright or related rights infringement which takes place by means of the Internet, including the encouragement of establishing guidelines for the actions which should be taken.]

第2.18条:[デジタル環境における知財執行手続き]

第3項 各加盟国は、少なくとも以下のことを規定しなければならない[加:できる]:

(a)以下の場合に発生する、少なくとも著作権又は著作隣接権の民事的な侵害行為について、オンライン・サービス・プロバイダーが、責任を負うとされず、金銭的な救済の対象とならないこと:
(ⅰ)オンライン・サービス・プロバイダーがその通信を開始せず、そのマテリアルを選択又は変更せず、そのマテリアルの受信者を選択しない場合の、通信の一部として、[日:そのようなものとして、侵害を抑止する手段を取ることがオンライン・サービス・プロバイダーにできない]技術的な自動プロセス;
(ⅱ)オンライン・サービス・プロバイダー以外の者によって入手可能とされ、マテリアルの変更なくその利用者にオンライン・サービス・プロバイダーによって通信される、マテリアルの自動的、仲介的かつ過渡的な蓄積;又は
(ⅲ)[侵害マテリアル又は行為を含むオンラインの場所の利用者への参照の提供又はその場所と利用者の接続[米/加:を行う][欧:等を含む]、オンライン・サービス・プロバイダーの利用者によってなされるマテリアルの蓄積。]

(b)(a)(ⅱ)の規定の請求は、発生源のサイトから前に削除されたマテリアルに関する侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取り[日:侵害を実際に知ったか、侵害が発生していると知る合理的な理由があること]に基づいて、オンライン・サービス・プロバイダーが、迅速に[加:又は決められた期間内に]、マテリアルを削除するかこれへのアクセスを止めること[日:削除やアクセス停止のような適切な手段を取ること]を条件とする。

(c)(a)(ⅲ)の規定の請求は、以下のことを条件とする
[米:(ⅰ)]そのような行為をコントロールする権限と能力をサービス・プロバイダーが有しているケースにおいて、オンライン・サービス・プロバイダーが、侵害行為に直接起因する金銭的利益を得ていること;そして]
(ⅰ)[米:(ⅱ)]以下の場合に、マテリアルの削除やこれへのアクセスの停止[日:のような適切な手段]を、オンライン・サービス・プロバイダーが取ったこと
(A)[米/豪:例えば]侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取りに基づく等、そのマテリアル又はマテリアルを使った行為が侵害していると実際に知ったことに基づき、[米/豪:そして]それが内容又は宛先の間違いの結果であることを述べるオンライン・サービス・プロバイダーの関係する契約者からの法的に十分な返答がなかった場合;]
(B)実際そうとは知らないが、オンライン・サービス・プロバイダーが、事実又は状況から侵害行為が明らかであると気づいた[日:に、侵害が発生していると知る合理的な理由があった]場合。[加:又は]
(ⅲ)[加:サービス・プロバイダーが、ホストされたマテリアルが侵害しているとする、権限を有する裁判管轄の裁判所の決定について知らないこと]

第3の2項 いかなる締約国も、(a)の責任制限について、オンライン・サービス・プロバイダーがそのサービスを監視すること、又は[スイス:他のいかなる形でも]侵害行為が生じていることを示す事実を能動的に又は積極的に探す義務を条件とすることはできない。

[日:第3の3項 各締約国は、商標権又は著作権又は著作隣接権を侵害されているとする有効な理由に基づく法的に十分な請求をした権利者に、関係する契約者の個人情報を迅速に開示することを、オンライン・サービス・プロバイダーに命じる権限を、司法当局が有することを確保しなければならない。

第3の4項 各締約国は、取られるべき対策についてのガイドライン策定の促進など、インターネットを用いることで発生する、特許権、意匠権、商標権と著作権又は著作隣接権侵害に適切に対処するための、オンライン・サービス・プロバイダーと権利者の間の相互協力の発展を推進しなければならない。]

 現状どうなっているのかまでは分からないが、7月時点での案は前のものに比べるとかなりまともな内容となっている。ただし、日本政府の外交交渉力の無さから考えて日本の提案は通らないだろうと個人的には思っており、ぎりぎり現行法の解釈でも何とかならないこともないだろうが、その場合、そのことを受けて、プロバイダー責任制限法の改正の議論が出て来るだろうことには十分注意しておいた方が良い。(この点で、やはりアメリカは自国のノーティス&テイクダウン制度の世界各国への押し付けを図っているため、国内法制との整合性において十分な注意を払っておく必要がある。なお、日本の提案の第3の3項で、情報開示の命令を司法当局の権限と改めたのは、現行法との整合を考えて直したのだろう。)

 かなりマシになっているとは言え、特に、この点でストライクポリシー導入の議論などもまだ国内外でくすぶり続けると思っているので、やはり、国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利である情報アクセスの権利等の情報の自由に関する権利を守るということも、条約に書き込むべきであると私は考えている。

(4)DRM回避規制関連
 DRM回避規制関連としては、7月時点の、第2章第4節第2.18条第4項と第5項は、以下のようになっている。

[4. EU/J/CH/Mex/Sig/Mor/Aus: Each Party shall provide adequate legal protection and effective legal remedies [US: at least] against the circumvention of effective technological measures that [US: are used by authors, or at direction of,] authors, and [NZ: performers] performers and producers of phonograms [US:use] use in connection with the exercise of their rights and that restrict acts in respect of their works, [NZ: performances] performances, and phonograms which are not which are not authorized by the authors, the [NZ: performers] performers or producers of phonograms concerned or permitted by law.
[US: In order to provide such adequate legal protection and effective legal remedies, each Party shall provide protection at least against:] Adequate legal protection shall be provided, in appropriate cases, at least against:

(a) [NZ: the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US: that restricts acts not authrized by right holder and is] carried out knowingly or with reasonable grounds to know;] and the unauthorized circumvention of an effective technological measure [US: that restricts acts not authrized by right holder and is] carried out knowingly or with reasonable grounds to know; and

(b) the manufacture, importation, or distribution [US: of, or offer to distribute, a devide or product, that circumvents an effective technologocal measure and is either:] of a device that has predominant function of circumventing an effective technologocal measure and that is any of the following:
(i) [US: marketed for the purpose of circumventing an effective technological measure] marketed for the purpose of circumventing an effective technological measure;
(ii) primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or
(iii) has only a limited commercially significant purpose other than circumventing an effective technological measure.]

Option1
5. Each Party shall provide that effective legal remedies [EU: effective legal remedies][EU: adequate legal protection] against a violation of a measure implementing paragraph (4) independent of any [J: other unlawful activities] infringement of copyright or related rights.

Option2
5. [US/Sing/NZ/Aus/: Each Party shall provide that a violation of a measure implementing paragraph (4) independent of any [J: other unlawful activities][J: infringement of copyright or related rights] infringement of copyright or related rights.

Article 2.18.X

Each Party may adopt and maintain exceptions or limitations to measures [Can: measures][Can: provisions] implementing paragraph (4), so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection of those [Can: those][Can: technological] measures or the effectiveness of legal remedies for violations of those measures.

第4項 EU/日/スイス/メキシコ/シンガ/モルドバ/豪:その権利の行使に関係する形で]著作権者[NZ:実演家]実演家又はレコード製作者]によって用いられ、その著作物[NZ:実演]実演及び録音に関して、著作権者、[NZ:実演家]実演家又はレコード製作者によって許可されていないか、法律によって認められていない行為を制限する、有効な技術的手段の回避に対して[米:少なくとも]適切な法的保護と有効な法的救済を規定しなければならない。
[米:そのような適切な法的保護と有効な法的救済を提供するため、少なくとも以下の行為に対する保護を規定しなければならない:]適切な法的保護が、適切な場合において、少なくとも以下の行為に対して規定されなけらばならない:

(a)[NZ:[米:権利者によって許可されていない行為を制限する、]故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避][米:権利者によって許可されていない行為を制限する、]故意に又はそうと知る合理的な理由がある場合になされる、有効な技術的手段の不正な回避;そして

(b)有効な技術的を回避する機能を有し、以下のいずれかである機器[米:主として有効な技術的手段を回避する機能を持ち、以下のいずれかである機器又は製品]の製造、輸入又は頒布[米:、又は提供の申し出]:
(ⅰ)有効な技術的手段を回避する目的で販売されたもの;
(ⅱ)主として有効な技術的手段を回避する目的で設計若しくは製造されているもの;又は
(ⅲ)有効な技術的手段を回避する以外には限定的な商業的目的又は用途しか持たないもの。]

オプション1
第5項 各締約国は、第4項に書かれている手段を破ることに対する、有効な法的救済[欧:有効な法的救済][欧:適切な法的保護]を、著作権又は著作隣接権侵害[日:他の違法行為]とは独立に規定しなければならない。]

オプション2
第5項 [米/シンガ/NZ/豪:各締約国は、第4項に書かれている手段を破ることについて、著作権又は著作隣接権侵害[日:著作権又は著作隣接権侵害][日:他の違法行為]とは独立に規定しなければならない。]

第2.18.X条(なお、第2.18条第7項にも同じ規定があるが、条文の置き場所の検討だと思うので第7項の方は省略する。)

第4項に書かれている手段[加:手段][加:規定]について、この[加:この][加:技術的]手段の適切な法的保護又はこの手段を破ることに対する法的救済の有効性を大きく損なうものでない限りにおいて、各締約国は、制限及び例外を採用し、維持することができる。

 ここでもサービスや技術そのものまで規制の対象としようとするメチャクチャこそ直り、かなりマシになっているものの、第4項(a)でDRMの回避行為そのものが、(b)でDRM回避機器の製造が規制の対象とされようとしていることは日本の国内法との関係では大問題である。

 DRM回避行為そのものの規制については、著作権法でコピーコントロールを回避して複製する行為が規制の対象になっており、この条文案だとこれで足りるとする解釈も成立し得ないということはないだろうが、「いずれの締約国も、(a)をコピーコントロールの不正な回避に対して適用することを義務づけられることはない」という不可解な脚注がつけられていることからも、今のところ、この第4項(a)は恐らくコピーコントロールではなくアクセスコントロールを主な規制のターゲットとしていると考えられるのである。今まで何度も書いて来ていることだが、このような情報アクセスそのものに対する規制を日本で導入することはユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 また、DRM回避機器の製造規制についても、日本政府の検討で規制に対してまともな一般的な制限又は例外が作られるとは考えがたく、メーカーにとって相当不当な規制となる可能性が高い。

 来週9月7日の文化庁の文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会において、アクセスコントロールの回避規制が検討されることとなっているが(文化庁HPの開催案内参照)、その背景にあるのは明らかにこの海賊版対策条約の議論である。

 文化庁のことなので、検討の背景について表の場では何かしらの誤魔化しを図ってくるかも知れないが、DRM回避機器に対して、ゲームメーカー勝訴の判決が出ていることを考えても、今以上の規制を是とするに足る立法事実、過去の立法経緯における整理(第45回参照)を動かす合理的な理由は何一つない。

 海賊版対策条約の議論、特にDRM回避規制の議論において、日本政府は、自国の法制について過去の立法経緯も含めてきちんと説明した形跡もなく、勝手に規制強化にコミットしたあげく、国内での議論を始めようとしているという、典型的なポリシーロンダリングのやり方を示している。相変わらず規制強化ありきで人の話に聞く耳を持つとは到底思えない文化庁が何をしでかそうとするかは特に要注意である。(外交交渉において、他に取るべきところがあるために、あるカードを切るということは当然あり得る話だが、各国の法制と条文案の比較のような外交戦略の決定において必須となるはずの詳細な資料が日本政府から何かしらの場で提示された様子はなく、例によって、この期に及んでも、ほとんど各担当省庁の官僚の勝手な思い込みだけで行き当たりばったりに交渉は進められているとしか思えない。)

 DRM回避機器の製造規制についての話もあるので、近いうちに経産省で不正競争防止法の改正の検討も始まるだろうが、こちらも同じように要注意である。

 7月時点の条文案から見ても、ほとんど交渉としては7月8月で煮詰まっていると思えるので、経産省の前回の8月会合の概要リリース共同通信の記事にもあるように、各国政府は、次のこの9月の日本会合では交渉レベルを次官級に上げ、何かしらの合意形成を図ろうとしているのだろう。署名前に条約案の全文を公開するとしている点は良いとしても、恐らく、また日本政府は、ここで何かしらの合意ができれさえすれば良いとばかりに欧米なりの言いなりに勝手に妥協をしたあげく、合意ができれば、日本として何を得たのかという説明もなく合意万歳のプロパガンダを垂れ流すことだろう。今の日本政府に期待できるところはほとんどないが、このような外交交渉のやり方は愚の骨頂である。

 ここまで来ると条約そのものについて個人でどうこう言うことにあまり意味はないが、今後も条約交渉の行方とこれを受けた国内の法改正の動きは引き続き要注意である。日本政府はほとんど全くと言って良いほどアテにならないが、個人的には、米欧間又は南北間の対立から、この日本の国益になるとは到底思えない条約交渉が完全に止まってくれることを願っている。

 次回は、「チラシの裏(3週目)」で取り上げられている通り、地方での表現規制の動きが激しさを増しているので、地方自治絡みの話を書きたいとも思っているが、その前にDRM回避規制の問題についてもう少し補足を書きたいと思っている。

(9月6日の追記:タイミングが良いというか悪いというか、今日、最新版(8月25日版)の海賊版対策条約(ACTA)の条文案のリークがあった(keionline.orgのブログ記事、カナダ・オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事参照)。次のエントリとして、このリークされた条文案(pdf)で(wiki版)について、上に書いところと対応する部分の翻訳を載せるつもりだが、かなり変わっているところもあり、特に、プロバイダー責任制限の部分は合意は無理と判断されたのかかなりばっさりとカットされている。ユーザーから見た時、これでACTAについて最大の問題として残ったのは、DRM回避規制に関する部分となった。)

(8月9日の追記:誤記をいくつか修正し、また、次のエントリとごっちゃにならないよう、使ったリーク文書が7月版のものであることをタイトルに書き込んだ。)

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