第233回:総務省・情報通信審議会第7次中間答申「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」に対する提出パブコメ
主に地デジのコピー制御問題を検討していた総務省の情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」が今年は何故か止まっており、多少スジが悪いのだが、黙ってもいられないので、「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」の方の第7次中間答申「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割(pdf)」に対する意見募集(8月5日〆切。総務省のリリース、電子政府HPの該当ページ参照)に地上デジタル放送におけるコピー制御に関する意見を提出した。
去年の提出パブコメとほとんど違いはないが、念のため、ここに載せておく。
かなり間が空いてしまったが、合わせてここ半月ばかりの話も紹介しておくと、まず、著作権法への一般フェアユース条項の導入について、7月22日に、文化庁で、文化審議会の法制問題小委員会が開催され、検討の続きが行われ、追加のヒアリングをするものとされた(PC onlineの記事、文化庁HPの議事次第・資料、電子政府HPのパブコメ結果参照)。この8月3日・5日も開催が予定されており(開催案内参照)、いまさら何をするつもりか知らないが、文化庁のことなので、また権利者団体中心にヒアリングしてあのレベルのほとんどフェアユースといえないような日本版フェアユースすら潰しに来るつもりだろうか。
7月23日には、内閣府が「第3次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(答申)」についてを公表している(内閣府HPのパブコメ結果あるいは電子政府HPのパブコメ結果も参照)。「第9分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶(pdf)」と「第13分野 メディアにおける男女共同参画の推進(pdf)」では、多少書きぶりが改められ、表現の自由を十分に尊重した上でといった記載が入ったが、創作物の規制も含め規制強化を検討するとの記載自体は残されており、次にどこから何が出て来るか分からないが、いつも通り規制ありきで検討が進むのは覚悟しておいた方が良いだろう。
児童ポルノ規制絡みということでは、やはり、7月26日に内閣府で開催された児童ポルノ排除対策ワーキングチーム(議事次第参照)、翌7月27日に開催された犯罪対策閣僚会議(議事次第参照)で、パブコメを完全に無視し、原案通り、「児童ポルノ排除総合対策(pdf)」(概要(pdf))が決定されている。ブロッキングの導入についてなど、日本では間々あることとは言え、民間の自主規制が大臣会議で決定されることなど異常以外の何物でもないと少し考えてみれば分かることだろう。パブコメ無視もいつも通りと言えばいつも通りだが、よほどあからさまに反対意見ばかりで格好がつかないと内閣府の官僚が思ったのか、児童ポルノワーキングチームで用いられたパブコメ結果概要(pdf)では、勝手に日弁連と日本ユニセフと京都市PTAの意見についてのマスコミ煽動記事を追加している。この話は「チラシの裏(3週目)」や「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」でも取り上げられており、私も今までパブコメではおよそ官僚による恣意的なまとめばかり見てきているが、これほどデタラメかつ恣意的な印象操作付きのパブコメ結果概要の公表は私の知る限りない。表に見えないところでのやりとりは良く分からないが、関係する部分の記載に変更がなかったことからしても前以上にブロッキングについて何か具体的なことが決まっている様子はない中、引き続きブロッキングの導入の検討についても危険な状態が続くことだろう。
また、今度は京都府から、携帯・ネット規制を強化する内容の「青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例(案)」に対する意見募集が8月20日〆切でかかっているので(京都府のHP参照)、京都在住の方で、こうした問題に関心を寄せている方は、是非提出を検討頂ければと思う。
「P2Pとかその辺の話」で取り上げられている、アメリカ著作権局によるにいくつかのDRMの解除の合法化の決定の話に関するコメントなども時間があれば書きたいと思っているが、次回のエントリは、8月20日〆切で、総務省からかかっているパブコメの「ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集」(総務省のリリース、電子政府HPの該当ページ参照。internet watchの記事、ITproの記事も参照)についてか、MIAUから4月時点の条文案の翻訳が公表され(MIAUのリリース参照)、7月時点の条文案もリークされている(laquadrature.netの記事参照)、海賊版対策条約(ACTA)についてか、上の児童ポルノ排除総合対策でもプロパガンダに使うと明記しているリオ宣言についてか、書けたものから載せたいと思っている。
(以下、提出パブコメ)
氏名:兎園(個人・匿名希望)
連絡先:
(ページ)
全体
(意見)
今年の情報通信審議会においては、去年までコピー制御の問題等を検討していた「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」による検討が今年は何故か止められ、今回の中間答申「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」でも、地上デジタル放送におけるコピー制御の問題は全く触れられていない。しかし、コピー制御のコピーワンスからダビング10への緩和も、到底評価できない弥縫策にすぎず、コピー制御に関する問題は、地上放送のデジタル化における重要な問題であり、決してなおざりにされるべきものではないことを考え、本中間答申への意見という形で、地上デジタル放送におけるコピー制御の問題について、以下の通り意見を提出する。
私は一国民として、デジタル放送におけるコピー制御の問題について、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。
1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への制度的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。
現行のB-CASシステムと併存させる形でのチップやソフトウェア等の新方式についても、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高く、このような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。
なお、補償金制度は、私的録音録画によって生じる権利者への経済的不利益を補償するものであって、メーカーなどの利益を不当に権利者に還元するものではない。上記1~4以外の方向性を取り、ダビング10のように不当に厳しいコピー制御が今後も維持され続けるようであれば、録画補償金は廃止しても良いくらいであり、全く議論の余地すらない。上記1~4が実現されたとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。
また、今回の平成22年5月の調査でようやくアンテナ問題の認識等も含めた調査が行われたが、地上デジタルへの移行において、今のままでは、アンテナ工事、共同受信施設・難視聴における対応、アナログテレビの廃棄の問題等を中心に非常に大きな混乱が予想される。移行まで1年を切っているが、今後、混乱回避のためアナログ停波の延期も含めて検討するべきである。
(理由)
去年の中間答申「『デジタル・コンテンツの流通の促進』及び『コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方』」へのパブコメでも書いたことだが、B-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能しているのである。
前回の中間答申で、ようやく無料の地上放送へB-CASシステムとコピーワンス運用の導入を可能とした平成14年6月の省令改正についての記載が加えられた。このように以前、無料の地上放送へのスクランブル・暗号化を禁じる省令が存在していた理由についての記載はやはり無いが、これは、無料地上放送は本来あまねく見られるべきという理念があったことの証左であろう。過去の検討経緯についてよりきちんとした情報開示を行い、このような過去の省令に表れている無料の地上放送の理念についても念頭においた上で再検討が進められなくてはならない。
本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波本来の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したという総務省の過去の行為は見下げ果てたものである。コピーワンス問題、ダビング10問題、B-CAS問題の検討と続く、無料の地上放送のスクランブルとコピー制御に関する政策検討の迷走とそれにより浪費され続けている膨大な社会的コストのことを考えても、このような省令改正の政策的失敗は明らかであり、総務省はこの省令改正を失策と明確に認めるべきである。
コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいと言っているのである。消費者の利便性を下げることによって権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。
昨年運用が開始されたダビング10に関しても、大きな利便性の向上なくして、より複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけの弥縫策としか言いようがなく、一消費者・一国民として納得できるものでは全くない。さらに、ダビング10機器に関しては、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く異なる動作をする(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)など、公平性の観点からも問題が大きい。
現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。
コピー制限技術はクラッカーに対して不断の方式変更で対抗しなければならないが、その方式変更に途方もないコストが発生する無料の地上放送では実質的に不可能である。インターネット上でユーザー間でコピー制限解除に関する情報がやりとりされる現在、もはや無料の地上放送にDRMをかけていること自体が社会的コストの無駄であるとはっきりと認識するべきである。無料の地上放送におけるDRMは本当に縛りたい悪意のユーザーは縛れず、一般ユーザーに不便を強いているだけである。さらに、B-CASカードのユーザー登録の廃止(地上デジタル放送専用の青カードについては既にユーザー登録が廃止されており、BS・CS・地上共用の赤カードについても来年3月に登録が廃止される予定である。http://www.b-cas.co.jp/www/whatsnew/100325.html、http://www.b-cas.co.jp/www/whatsnew/100705.html参照)により、B-CASカードによるユーザーに対するコピー制御の技術的なエンフォースは完全に不可能となっており、既に存在意義を完全に失っているB-CASカード・システムは速やかに完全に地上デジタル放送から排除されるべきである。
なお、前回の中間答申では、現行のB-CASシステムと併存させる形でチップやソフトウェア等の新方式を導入することが提言されており、今も恐らく企業レベル等で検討が進められているものと思うが、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高く、このような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。さらに言うなら、これらの新方式は、不正機器対策には全くならない上、新たに作られるライセンス発行・管理機関が総務省なりの天下り先となり、新方式の技術開発・設備投資コストに加え、天下りコストまで今の機器に上乗せされかねないものである。制度的エンフォースメントにしても、正規機器の認定機関が総務省なりの天下り先となり、その天下りコストがさらに今の機器に上乗せされるだけで、しかも不正機器対策には全くならないという最低の愚策である。
冒頭書いたように、無料の地上放送の理念を歪め、放送局・権利者・国内の大手メーカーの談合を助長している、無料の地上放送にかけられているスクランブル・暗号化こそ問題なのであって、B-CAS類似の無意味なシステムをいくら併存させたところで、積み上げられるムダなコストが全て消費者に転嫁されるだけで何の問題の解決にもならず、同じことが繰り返されるだけだろう。基幹放送である無料地上波については、B-CASシステムを排除し、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること以外で、この問題の本質的な解決がもたらされることはない。
法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。本来立法府に求めるべきことではあるが、このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルで放送法に入れることを私は一国民として強く求める。
なお、付言すれば、本来、B-CASやコピーワンス、ダビング10のような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討していたのか、一国民として素直に理解に苦しむ。今後、立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。
| 固定リンク
« 番外その26:情報・表現規制問題に関する注目候補当落結果リスト(2010年参院選版) | トップページ | 第234回:総務省・ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集に対する提出パブコメ(その1:知財・著作権規制関連) »
「総務省」カテゴリの記事
- 第494回:閣議決定されたプロバイダー責任制限法改正条文案(2024.03.31)
- 第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)(2023.12.28)
- 第487回:文化庁のAIと著作権に関する考え方の骨子案と総務省のインターネット上の誹謗中傷対策とりまとめ案(2023.12.10)
- 第471回:知財本部メタバース検討論点整理案他(2023.02.05)
- 第463回:総務省、特許庁、経産省、農水省それぞれの知財関係報告書(2022.07.18)
コメント