第235回:総務省・ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集に対する提出パブコメ(その2:一般的な情報・表現・ネット規制関連)
前回の続きで、8月20日〆切で、総務省からかかっているパブコメの「ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集」(総務省のリリース、電子政府HPの該当ページ参照。internet watchの記事、ITproの記事も参照)に対する提出パブコメを載せる。ここに載せるのは、下の目次で、(10)の出会い系サイト規制から(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限までである。
良いニュースは何もないが、一緒に少し最近の話も紹介しておくと、「チラシの裏(3周目)」や「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」で取り上げられているように、男女共同参画会議が8月31日〆切で再びパブコメを募集している(内閣府のHP参照)。この会議もいい加減何をどうしたいのだかさっぱり分からないが、このパブコメについては私も出すつもりでいる。
また、京都では府知事が児童ポルノ単純所持条例の検討をすると言い出すなど(共同通信の記事参照)、相変わらず地方自治体での危険な動きも止まるところを知らず、地方自治体絡みでも当分キナ臭い日々が続きそうである。
次回のエントリは、リオ宣言の話か、海賊版対策条約の話か、上の男女共同参画会議の話か、書けたものから載せたいと思っている。
(目次)
(1)ダウンロード違法化
(2)DRM回避規制
(3)コピーワンス・ダビング10・B-CAS
(4)私的録音録画補償金制度
(5)著作権保護期間
(6)一般フェアユース条項の導入による著作権規制の緩和
(7)著作権の間接侵害・侵害幇助
(8)著作権検閲・ストライクポリシー
(9)模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)
(10)出会い系サイト規制
(11)青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化
(12)児童ポルノ規制・サイトブロッキング
(13)インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会
(14)情報公開法
(15)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪
(16)公職選挙法
(17)天下り
(18)メール検閲・DPI技術を用いた広告
(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限
(以下、提出パブコメ)
(10)出会い系サイト規制
○項目
出会い系サイト規制
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
出会い系サイト事業者の届け出の義務化を中心とする、出会い系サイト規制法の改正法が年の5月に成立し、同年12月から施行されている。その後、2009年の2月から3月にかけて、警視庁が、SNS各社に対して書き込みの削除要請をし、あるSNSでは内容の精査も無いまま「出会い」に関するコミュニティが全て削除されるということが起こった(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/02/news085.html参照)。2009年5月には、やはり警視庁が、SNSサイトの年齢確認の厳格化を要請しており(http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20392643,00.htm参照)、2009年6月には、無届け出会い系サイト運営容疑で逮捕者まで出ている(http://journal.mycom.co.jp/news/2009/06/02/057/index.html参照)。
警察による出会い系サイト規制法の拡大解釈・恣意的運用によって、ネット利用における不必要かつ有害な萎縮効果が既に発生していることは、一般サイト事業者に対する警察からの要請とその反応から明らかである。
この出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反しており、表現の自由などの国民の最重要の基本的な権利をないがしろにするものである、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されなくてはならない。
既に逮捕者まで出ているが、出会い系サイト規制法は、その曖昧さから別件逮捕のツールとして使われ、この制度によって与えられる不透明な許認可権限による、警察の出会い系サイト業者との癒着・天下り利権の強化を招く恐れが極めて強い。出会い系サイト規制法を去年の改正前の状態に戻すまでにおいても、この危険な法律の運用については慎重の上に慎重が期されるべきである。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
出会い系サイト規制法(正式名称は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」)
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・出会い系サイト規制法を改正前の状態に速やかに戻す。
(11)青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化
○項目
青少年ネット規制法・青少年健全育成条例・携帯フィルタリング義務化
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
携帯電話におけるフィルタリングの義務化を中心とする、青少年ネット規制法が、2008年6月に成立し、2009年4月から施行されている。
また、東京都等の地方自治体が、青少年保護健全育成条例の改正により、各自治体の定める理由によってしか子供のフィルタリングの解除を認めず、違反した事業者に対する調査指導権限を自治体に与え、携帯フィルタリングの実質完全義務化を推し進めようとしている。
しかし、そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。一昨年から昨年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、速やかに法律の廃止が検討されるべきである。
フィルタリングに関する規制については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたいとパブコメ等で再三意見を述べているが、今に至るもこのような本当の問題点を示す調査はなされていない。繰り返しになるが、フィルタリングについて、一部の者の一方的な思い込みによって安易に方針を示すことなく、本当の問題点を把握した上で検討を進めるべきである。
また、東京都等の地方自治体の推し進める携帯フィルタリングの実質完全義務化について、このような青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制の推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、同じく不適切なその他の情報規制推進についても合わせ、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。
なお、フィルタリングについては、その政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた過去がある。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。今までのところ、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗しているとする根拠はなく、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずであり、廃止するまでにおいても、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、このような不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
青少年ネット規制法(正式名称は、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」)
各地方自治体の青少年健全育成条例の改正検討(東京都の条例の正式名称は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」)
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・青少年ネット規制法を廃止する。
・廃止するまでにおいても、規制を理由にしたフィルタリングに関する不当な便乗商法に対する監視を政府において強め、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用を検討する。
・東京都等の地方自治体における青少年保護健全育成条例の改正の検討に対し、その不適切な情報規制推進について、地方自治体法第245条の5に基づき、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出す。
(12)児童ポルノ規制・サイトブロッキング
○項目
児童ポルノ規制・サイトブロッキング
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
現行の児童ポルノ規制法により、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの 」という非常に曖昧な第2条第3項第3号の規定によって定義されるものも含め、児童ポルノの提供及び提供目的の所持まで規制されている。最近も、2009年4月に、アフィリエイト広告代理店社長が児童ポルノ規制法違反幇助容疑で送検され、、2009年5月に、児童ポルノサイトへのリンクを張ることについて、児童ポルノ公然陳列幇助容疑で2名が送検され(http://www.j-cast.com/2007/05/09007471.html、http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/05/09/15641.html参照)、2009年6月には、女子高生の水着を撮影したDVDを児童ポルノとして製造容疑でビデオ販売会社社長他が逮捕されるなど(http://www.47news.jp/CN/200907/CN2009071901000294.html参照)、警察による法律の拡大解釈・恣意的運用は止まるところを知らず、現行法の運用においてすら、インターネット利用の全てが極めて危険な状態に置かれている。
このような全く信用できない警察の動きをさらに危険極まりないものにしようと、与党である自民党と公明党は、児童ポルノ規制法の規制強化を企て、「自身の性的好奇心を満たす目的で」という主観的要件のみで児童ポルノの所持を禁止する、いわゆる単純所持規制を含む法改正案を第171回国会に提出し、民主党はやはり危険な反復取得罪を含む法改正案を提出し、国会で審議が行われた。第171回国会の解散によって、これらの改正法案は一旦廃案となったが、自民公明両党によって再提出され、今なお継続審議とされているのであり、インターネットにおけるあらゆる情報利用を危険極まりないものとする法改正の検討が今後も続けられかねないという危うい状態にあることに変わりはない。
2009年6月には、警察庁、総務省などの規制官庁が絡む形で、検閲にしかなりようがないサイトブロッキングを検討する児童ポルノ流通防止協議会が発足し、この協議会で児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体運用ガイドラインが作られ、さらに、警察庁からアドレスリスト作成管理団体の公募が行われ、2010年7月には、内閣府の児童ポルノ排除対策ワーキングチームと犯罪対策閣僚会議によって、2010年度中にサイトブロッキングを自主規制として導入するという目標を含む児童ポルノ排除総合対策がとりまとめられている。
1.単純所持規制及び創作物規制について
閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。
児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。
児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。
2.サイトブロッキングについて
警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明なリスト作成管理団体等を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、インターネット・サービス・プロバイダー、検索サービス事業者あるいはフィルタリング事業者がブロッキング等を行うことは、実質的な検閲に他ならず、決して行われてはならないことである。いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このことは、このようなリストに基づくブロッキング等が、自主的な民間の取組という名目でいくら取り繕おうとも、どうして憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や通信の秘密、検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないかということの根本的な理由であり、小手先の運用や方式の変更などでどうにかなる問題では断じて無い。現時点でこの問題の克服は完全に不可能であり、アドレスリスト作成管理団体のガイドライン、公募、これに対する血税の投入等を全て白紙に戻し、このような非人道的なブロッキング導入の検討を行っている各種検討会を全て即刻解散するべきである。
さらに言えば、このように自主規制と称しながら、内閣府の児童ポルノワーキングチームや犯罪閣僚会議といった官主導の会議で実質的な検閲に他ならないブロッキングの導入方針を決めるなど、異常極まりないことである。政府にあっては、速やかに自らの過ちを認め、閣議決定等により危険かつ有害無益な規制強化の方針決定の撤回を行うべきである。
政府において、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、前国会のような危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。
違法コピー対策問題における権利者団体の主張、児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。
なお、ブロッキングに関する広報・啓発を行う必要があるとすれば、現時点では、権力側によるその濫用の防止が不可能であり、表現の自由や通信の秘密といった憲法に規定された国民の基本的な権利に照らして問題のない運用を行うことが不可能であるという問題の周知にのみ努めるべきである。
3.プロバイダーのセーフハーバーについて
警察の恣意的な運用によって、現行法においてすら児童ポルノ規制法違反幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあることを考え、今現在民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきである。
4.国際動向について
児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならないことである。児童ポルノ規制に関しては、最近、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。アメリカだけを取り上げても、FBIが偽リンクによる囮捜査を実行し、偽リンクをクリックした者が児童ポルノがダウンロードしようとしたということで逮捕、有罪にされるという恣意的運用の極みをやっている(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080323_fbi_fake_hyperlink/参照)、単なる授乳写真が児童ポルノに当たるとして裁判になり、平和だった一家が完全に崩壊している(http://suzacu.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html参照)、日本のアダルトコミックを所持していたとして、児童の性的虐待を何ら行ったことも無く、考えたことも無い単なる漫画のコレクターが司法取引で有罪とされている(http://wiredvision.jp/news/200905/2009052923.html参照)などの、極悪かつ非人道的な例が知られている。単純所持規制を導入している西洋キリスト教諸国で行われていることは、中世さながらの検閲と魔女狩りであって、このような極悪非道に倣わなければならない理由は全く無い。
しかし、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ており、アメリカにおいても、2009年1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、2009年2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、2009年のドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起され(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、去年与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、法施行が見送られ、ドイツは政府としてブロッキング撤廃の方針を打ち出し、欧州レベルでのブロッキング導入にも反対していること(http://www.welt.de/die-welt/vermischtes/article6531961/Loeschung-von-Kinderpornografie-im-Netz.html、http://www.zeit.de/newsticker/2010/3/29/iptc-bdt-20100328-736-24360866xml参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制の根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されるべきではない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。
かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけるべきである。
5.児童ポルノ排除対策ワーキングチームについて
上で書いた通り、政府の会議で自主規制と称して実質的な検閲の導入方針が決定されること自体異常極まりないことであるが、このような危険かつ有害無益な規制強化の方針を含む児童ポルノ排除対策ワーキングチームは、ホームページなどを参照する限り、2回しか開かれておらず、議事録も不十分であり、有識者として呼ばれたと分かるのは、児童ポルノ規制について根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える非人道的な日本ユニセフ協会のアグネス・チャン氏1名のみである。その下のワーキンググループに至っては議事概要すら公開していない。児童ポルノ排除総合対策案に対するパブコメの期間も実質10日程度とあまりにも短く、到底国民の意見を聞く気があるとは思えない形で意見募集が行われている。パブコメの結果についても、運用以前の問題としてブロッキング等に反対する意見が圧倒的多数だったと思われるにもかかわらず、「運用面での配慮を求める意見が相当数寄せられた」と国民から寄せられた意見を勝手に歪曲し、結果概要にパブコメとは無関係の新聞記事を付けて印象操作を行うなど、到底許されざる恣意的操作を内閣府はパブコメ結果に加えた。
このワーキングチームあるいはグループは議事録、議事の進め方、対策のとりまとめ方等あらゆる点で不透明であり、このような問題だらけのワーキングチームで表現の自由を含む国民の基本的権利に関わる重大な検討が進められることなど論外である。このような検討しかなし得ない出来レースの密室政策談合ワーキングチーム・ワーキンググループは即刻解散するべきである。
このワーキングチームは即刻解散するべきであるが、さらに今後児童ポルノ規制について何かしらの検討を行うのであれば、その検討会は下位グループまで含めて全て開催の度数日以内に速やかに議事録を公表する、一方的かつ身勝手に危険な規制強化を求める自称良識派団体代表だけで無く、表現の自由に関する問題に詳しい情報法・憲法の専門家、児童ポルノ法の実務に携わりその本当の問題点を熟知している法律家、規制強化に慎重あるいは反対の意見を有する弁護士等も呼ぶ、危険な規制強化の結論ありきで報告書をまとめる前にきちんとパブコメを少なくとも1月程度の募集期間を設けて取る、提出されたパブコメは概要のみではなく全文を公開するなど、児童ポルノ規制の本当の問題点を把握した上で検討が進められるようにするべきである。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
児童ポルノ規制法(正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・違憲のそしりを免れない現行の児童ポルノ規制法について、速やかに児童ポルノの定義の厳格化のみの法改正を行う。
・児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定する。
・憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むこと、及び、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討する。
・プロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討する。
・児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかける。
・児童ポルノ流通防止協議会、内閣府の児童ポルノ対策ワーキングチーム等を解散し、サイトブロッキングの導入に関する検討を完全に停止する。
(13)インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会
○項目
インターネット・ホットラインセンター・日本ガーディアン・エンジェルス・日本ユニセフ協会
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
単なる民間団体に過ぎないにもかかわらず、一般からの違法・有害情報の通知を受けて、直接削除要請を行っている、インターネット・ホットラインセンターという名の半官検閲センターが存在している。
同じく民間団体に過ぎないにもかかわらず、日本ガーディアン・エンジェルスという団体が、犯罪に関する情報を匿名で受け付け、解決に結び付いた場合に情報料を支払うということを行っており、この7月からネットでの受理まで開始している。
また、日本ユニセフ協会は、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーン等の根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える危険な児童ポルノ規制強化プロパガンダに募金を流用し、さらに、2009年6月26日の衆議院法務委員会でも、感情論のみで根拠無く児童ポルノの単純所持規制の導入を訴えるなど、寄付行為に書かれた財団法人の目的を大きく逸脱し、明白に公益を害する行為を繰り返し行い、インターネットにおけるあらゆる情報利用を危険極まりないものとしようとしている。
サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。
日本ガーディアン・エンジェルスについても同断であり、直接害が及んでいる訳でもない単なる一民間団体が、直接一般からの通報を受け付け、刑事事件に関与して、解決に結び付いた場合に情報料を支払うということ自体異常である。インターネット・ホットライン・センターにせよ、この日本ガーディアン・エンジェルスにせよ、警察の本来業務を外部委託することがそもそもおかしいのであり、日本ガーディアン・エンジェルスに無駄に国民の血税を流すべきでは無く、その分できちんとした情報受け付けと事件の解決ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。また、このようなことに手を染めている日本ガーディアン・エンジェルスは、特定非営利活動法人あるいは認定特定非営利活動法人の名に値するものでは無く、その取り消しが検討されるべきである。
また、日本ユニセフ協会は、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーン等の根拠無く一般的かつ網羅的な表現・情報弾圧を唱える危険な児童ポルノ規制強化プロパガンダに募金を流用し、さらに、この6月26日の衆議院法務委員会でも、感情論のみで根拠無く児童ポルノの単純所持規制の導入を訴えているが、日本ユニセフの寄付行為(http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_kifu.html参照)において、根拠無く焚書と表現弾圧を叫ぶことは、ユニセフの趣旨には入っていないと考えられ、このようなことが事業としてあげられている訳も無く、このような行為は寄付行為違反である。さらに、民主主義の基礎中の基礎である表現の自由等の精神的自由の重要性を考えると、寄付行為違反を超えて、このような行為は明白に公益を害するものである。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」第96条に基づいて、日本ユニセフ協会に対して、所管の外務省から改善命令を出すべきである。また、このような法人は、公益法人あるいは特定公益増進法人の名に値するものでは無く、新公益法人制度への移行申請において公益認定をしないとするか、あるいは、それ以前に、公益法人及び特定公益増進法人の認定取り消しをするべきである。(なお、日本ユニセフ協会は、そのHPhttp://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_tax.htmlにおいて、募金の税法上の優遇について、特定公益増進法人への寄付が優遇措置を受けられると書いているが、公益法人改革の一環として、既に全ての公益法人に対する寄付に対して同等の優遇措置が認められているのであり(財務省HPhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/koueki01.htmの注参照)、これもかなり悪質なミスリードである。)
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
特定非営利活動促進法
租税特別措置法第66条の11の2
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・インターネット・ホットラインセンターを廃止する。
・日本ガーディアン・エンジェルスにおける警察の委託事業を停止する。また、同時に、日本ガーディアン・エンジェルスに対して、特定非営利活動促進法及び租税特別措置法第66条の11の2に基づく特定非営利活動法人及び認定特定非営利活動法人の認定の取り消しを検討する。
・日本ユニセフ協会に対して、所管の外務省から公益を害する活動を止めるよう改善命令を出す。また、日本ユニセフ協会に対して、新公益法人制度への移行申請において公益認定をしないとするか、あるいは、それ以前に、公益法人及び特定公益増進法人の認定を取り消す。
(14)情報公開法
○項目
情報公開法
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
政策決定に関わる重要文書・資料の保存義務とその義務違反に対する罰則が不明確である。さらに、曖昧な理由に基づいて行政機関等が文書の不開示を決めることが可能である上、その後の客観的な事後救済制度の整備も不十分である。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
情報公開法(正式名称は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」である。)
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・他省庁、議員、審議会等委員、関係団体とのやり取りに使用された政策決定に関わる文書は全て作成者と使用者の個人名と役職を付して最低10年保存を義務化し(メール、FAX、電話、面談等全てのやり取りの記録と保存を義務化するべき)、5年でHP上に全て自動公開されるシステムを法制化するべきである。
・全文書に適用される期限を法定し、それ以降は理由によらず必ず公開されるとするべきである。
・文書を廃棄する場合は、HP等による事前告知を義務化するべきである。
・文書管理責任者を明確にし、故意又は過失による廃棄又は虚偽主張に処分を加えられるとするべきである。
・開示の実施の方法は、原則として請求者の求める方法によらなければならないと法定し、オンライン開示、電子媒体による開示の促進を図るべきである。
・不開示情報である「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ等がある情報」かどうかの判断に、行政機関等の裁量を大きく認めるべきでない。
・国等における審議・検討等に関する情報で、それを公にすることにより、「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある情報についても、行政機関の裁量が大きく入る余地があるため、原則開示とすべきである。
・情報公開法6条1項から「容易に」とただし書きを削除し、可能な限り情報は切り分けて開示しなければならないと明確化するべきである。
・情報公開法5条1号ハに公務員の氏名を加え、公務員の個人名も原則開示にし、5条5号・6号二を削除・修正し、省庁の検討情報と天下りも含め人事に関する情報も後に原則開示されるとするべきである。
・開示請求から開示決定等までの期限を短縮する。
・特例としての開示の無期限延長を見直す。
・実費と利用者の負担の両方のバランスを考慮し、手数料の減額を検討する。
・不服申立てがなされてから審査会への諮問を行うまでの法定期限を導入する。
・情報公開訴訟を、原告の普通裁判籍所在地の地方裁判所にも提起できるようにする
・裁判所が、行政機関の長等に対し、対象文書の標目・要旨・不開示の理由等を記載した書面(いわゆるヴォーン・インデックス)の作成・提出を求める手続を導入する・
・裁判所が対象文書を実際に見分し、不開示情報の有無等を直に検討できるインカメラ審理手続を導入する。
・衆議院事務局は申し訳程度に規定を設けているようだが、それだけではなく、参議院事務局、会派又は議員の活動に関する情報を含め、各議員も含め国会全体におけるきちんとした文書保存制度と情報公開制度を整え、立法府についても保存年限に応じた文書の自動公開システムの法制化を行うべきである。
(15)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪
○項目
国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正・ウィルス作成罪
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
国際組織犯罪防止条約の締結には、共謀罪の創設が必要とされているが、現状でも大規模テロなどについてはすでに殺人予備罪があるので共謀罪がなくとも対応でき、その他、個別の立法事実があればそれに沿った形で個別の犯罪についての予備罪の適否を論ずるべきであって、広範かつ一般的な共謀罪を創設する立法事実はない。実行行為に直接つながる行為によって、法益侵害の現実的危険性を引き起こしたからこそ処罰されるという我が国の刑法学の根幹を揺るがすものである共謀罪は、決して導入されてはならない。組織要件の厳密化にしても、今現在国会に提出されている修正案のような、その目的や意思のみによる限定は客観性を全く欠き、やはり恣意的な運用しか招きようのない危険なものである。このような危険な法改正を必要とする国際組織犯罪防止条約は日本として締結するべきものではない。
サイバー犯罪条約は、通信記録や通信内容等の情報の保全・捜索・押収・傍受等について広範かつ強力な手段を法執行機関に与えることを求めているが、このような要請は、我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものであり、この条約も日本として締結するべきものではない。前国会に提出されていた法改正案中でも、差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体とそこに記録されている情報を差し押さえ可能であるとされていたが、昨今のインターネットの状況を考えると、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、裁判所の許可無く捜査機関が通信履歴の電磁的記録の保全要請をすることが出来るとしていた点も、捜査機関による濫用の懸念が強く、このような刑事訴訟法の枠組みの変更は、通信の秘密やプライバシー、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がない限り、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利、といった我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものと私は考える。
また、ウィルス作成等に関する罪についても、以前の法改正案の「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」電磁的記録という要件は、客観性のない人の意図を要件にしている点でやはり曖昧に過ぎ、このような客観性のない曖昧な要件でウィルス作成等に関する刑罰が導入されるべきではない。
留保・解釈を最大限に活用しても、憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くことになるだろう、これらの条約は、日本として締結するべきものではないものである。前国会に提出されていた法案は廃案のままにするとともに、条約からの脱退を検討し、今後、ウィルス作成等に関する刑罰の導入を検討するのであれば、その要件が十分に客観性のあるものとなるよう、慎重の上に慎重を期すべきである。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
国際組織犯罪防止条約(正式名称は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」)
サイバー犯罪条約(正式名称は、「サイバー犯罪に関する条約」)
刑法の改正検討
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・前国会に提出されていた、国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案は廃案のままにすると閣議決定を行う。同時に、条約からの脱退を検討する。
・ウィルス作成等に関する刑罰の導入を検討するのであれば、その要件が十分に客観性のあるものとなるよう、慎重の上に慎重を期す。
(16)公職選挙法
○項目
公職選挙法
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
公職選挙法によって、選挙運動期間中にネットを選挙運動に用いることが完全に禁止されている。2009年7月21日に閣議決定された答弁書(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/toup/t171234.pdf参照)により、twitterの利用まで公職選挙法違反であるという政府見解が示されている。
選挙運動期間中の選挙運動に関するネット上の掲示は全て、公職選挙法の第146条で規制の対象となっている文書図画の掲示とされ、完全に禁止されているが、これは、インターネットにおける正当な情報利用を阻害する一大規制となっている。
第148条で、選挙の公正を害しない限りにおいて新聞・雑誌に対し報道・評論を掲載する自由を妨げるものではないと明文で規定しているが、新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであり、第三種郵便物の承認のあるものであり、当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年以来そうであったもので、引き続き発行するものと、ブログ等は無論のこと、大手ネットメディアですら入らない、あまりにも狭い規定となっている。第151条の3で放送についても同様の規定があるが、放送法を参照しており、当然のことながら、動画サイトなどは入らないと考えられる。
紙媒体であろうが、ネットだろうが、実名だろうが、匿名だろうが、報道・批評・表現の本質に変わりはない。表現の自由は、憲法に規定されている権利であり、民主主義を支える最も重要な自由として、その代表を選ぶ選挙において、その公平を害しない限りにおいて、あらゆる媒体に最大限認められなくてはならないものであることは言うまでもない。もし、公職選挙法が杓子定規に解釈され、各種ネットメディアに不当な規制の圧力がかけられるようなら、公職選挙法自体憲法違反とされなくてはならない。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
公職選挙法
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・第142条と第143条の認められる文書図画の頒布・掲示の中に、電子メール・ブログ・動画サイト等様々なネットサービスの利用類型を追加すること等により、公職選挙法第146条の規制を緩和し、ネット選挙を解禁する。
・公職選挙法第148条の規制を緩和し、新聞等に加えてネットにおける報道及び評論の自由も明文で認め、民主主義を支える最も重要な自由として、その代表を選ぶ選挙において、その公平を害しない限りにおいて、ネットメディア、動画サイト、ブログ等における表現の自由を最大限確保する。
(17)天下り
○項目
天下り
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
2007年6月23日号の週刊ダイヤモンドの「天下り全データ」という特集で、天下りとして2万7882人という人数が示されている。中には他愛のない再就職も含まれているだろうが、2万5千人を超える元国家公務員が各省庁所管の各種独立行政法人や特殊法人、公益法人、企業などにうごめき、このような天下り利権が各省庁の政策を歪めているというのが、今の日本のおぞましい現状である。2010年8月に公表されたの内閣府の特例民法法人調査でも、このような特例民法法人だけで6千人を超える天下り理事がいるとしており、これで1割程度減っているというものの、以前の調査と合わせて考えると、様々な団体・企業になお数万人規模の天下り役人がいるのではないかと考えられる。
しかし、法改正によって得られる利権・行政による恣意的な許認可権を盾に、役に立たない役人を民間に押しつけるなど、最低最悪の行為であり、一国民として到底許せるものではない。さらに、このような天下り役人が国の政策に影響を及ぼし、国が亡んでも自分たちの利権のみ伸ばせれば良いとばかりに、国益を著しく損なう違憲規制を立法しようとするに至っては、単なる汚職の域を超え、もはや国家反逆罪を構成すると言っても過言ではない。
知財・情報政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁から各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を決定するべきである。これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定するべきである。また、天下りの隠れ蓑に使われている特殊法人、公益法人、特定非営利活動法人、特定非営利活動法人等は全廃をベースとして検討を進めるべきであり、天下りを1人でも受け入れている団体・法人・企業は各種公共事業の受注・契約は一切できないという入札・契約ルールを全省庁において等しく導入するべきである。
また、大臣の承認を受ければ良いとするような迂回天下りや、嘱託職員として再就職するような隠れ天下りや、人事院の「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」などにおいて提案されている、60歳を過ぎてから公務員の身分のまま公益法人などに出向するといった新たな天下りルートも許されるべきでない。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
国家公務員法
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・閣議決定により、国家公務員法で規定されている再就職等監視委員会を凍結し、大臣の承認を受ければ良いとするような迂回天下りや、嘱託職員として再就職するような隠れ天下りや、公務員の身分のまま公益法人などに出向するといった新たに提案されている天下りルートも含め、天下りを完全に禁止する。
(18)メール検閲・DPI技術を用いた広告
○項目
メール検閲・DPI技術を用いた広告
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言において、通常のメールと同様SNSサービス中の「ミニメール」の内容が通信の秘密に該当するのは当然のこととしても、メッセージ交換サービスにおけるメールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるかの如き整理がなされている。同じく、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告について、現状でも基準等の作成により導入が可能であるかの如き整理がなされている。
しかし、メッセージ交換サービスにおけるメールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるとすることは、実質、送信者が受信者しか知り得ないだろうと思って送る情報の内容について、知らない内に事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高い。受信情報のフィルタリングに関する要件を一方的に拡大解釈し、送信者に対するデフォルトオンのメールの内容確認の余地を認めることは、実質的にメール・通信の検閲の余地を認めるに等しく、憲法にも規定されている通信の秘密をないがしろにすることにつながりかねない極めて危険なことである。これはデフォルトオンでメールの内容確認を行う場面が限定的であるか否かという問題ではなく、総務省にあっては、実質的なメールの検閲を是とするかの如き通信の秘密に関する歪んだ整理を速やかに改めるべきである。
この部分において、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告についても、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されないのは当然のこととして、DPI技術はネットワーク中のパケットに対して適用されるものであり、一旦導入されてしまうと、その存在と対象範囲について通常の利用者は全く意識・検証し得ないものである。DPI技術についても、利用者が知らない内に通信内容が事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高く、実質的な検閲をもたらしかねない危険なものとして安易な法的整理はされてはならない。契約書によったとしても、それだけでは、明確かつ個別の同意が十分に得られ、利用者からDPI技術の存在と対象範囲について十分に意識・検証可能となっているとすることはできない。DPI技術の利用については、通常の利用者の明確かつ個別の同意を得ることは現時点では不可能であり、この部分の記載は、現時点で、法的課題を克服することは困難であり、基準等の作成もされるべきではないとされなくてはならない。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
なし
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・総務省において、SNSサービスにおけるメール監視やDPI技術を用いた広告のような実質的な検閲を是とするか如き歪んだ法的整理を早急に改め、大臣レベルでその見解を公表する。
(19)携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限
○項目
携帯電話事業者による差別的なダウンロード容量制限
○既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言によると、一部の携帯電話事業者が、公式サイト以外のサイトからダウンロードできるファイルの容量制限を行っているとのことであるが、携帯電話事業者による、このような容量制限は、公平性の観点からも、独禁法からも明らかに問題がある。
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
なし
○ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
・携帯電話事業者による公式サイト以外のサイトからダウンロードできるファイルの容量制限を排除する。
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