第227回:文化庁・法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(日本版フェアユース)についてのパブコメ募集
文化庁から、6月24日正午〆切で、法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ(pdf)」に関するパブコメがかかった(文化庁のリリース、電子政府HPの該当ページ、意見募集要領(pdf)参照。internet watchの記事も参照。5月21日の著作権分科会の様子についてはPC onlineの記事参照)。
法制問題小委員会のこの日本版フェアユース中間とりまとめの案については、第223回でも取り上げているが、文化庁の検討でその範囲が広くなることなどあり得ず、当然のように範囲は非常に狭いままで実質的な変更はない。それでもパブコメにかかっているので、今回は、この中間まとめ(pdf)(付属資料(pdf)、概要(pdf))についてもう少し詳しく取り上げておきたいと思う。
「第3章 権利制限の一般規定を導入する必要性について」の「4 まとめ」において、
第2章でみたとおり、権利制限の一般規定を置かない現行法の下でも、裁判実務においては、個別権利制限規定の解釈上の工夫や民法の一般規定(権利の濫用(民法1条3項)等)の活用等により、各事案に応じた妥当な解決が一定程度図られているものと考えられ、また、必ずしも個別権利制限規定が常に厳格解釈され、それにより不合理な結論が導かれていると評価することはできない。
さらに、個別権利制限規定の改正等による対応についても、同様の問題を個別の訴訟で解決する場合に要する期間と比較した場合、個別権利制限規定の改正等による対応に時間がかかるという点のみを主要な根拠として、権利制限の一般規定の必要性を導くことは、必ずしも適当ではないと考えられる。
しかしながら、一方において、インターネット等の情報ネットワーク産業分野を始めとする各種技術の更なる進展や著作物の利用者及び利用形態・利用環境・利用手段等の多様化、社会状況の変化等の諸事情にかんがみると、個別権利制限規定の解釈論や個別権利制限規定の改正等による解決には、今後一定の限界があり得ることは否定できず、また、民法上の一般規定に解決を委ねるよりも、著作権に特化した権利制限の一般規定を著作権法に導入する方が、現状よりも規律の明確化を図ることができると考えられる。かかる観点から、著作権法の中に権利制限の一般規定を導入する意義は認められるものと考えられる。
また、本小委員会で実施したヒアリングや本小委員会宛に提出された意見書等において、権利制限の一般規定の導入を望む利用者側からの意見が現実に多く寄せられ、さらには一般規定により権利制限の対象とすべきとして、具体的な著作物の利用行為が多数寄せられたことやその内容にかんがみると、権利制限の一般規定を置かない現行法の下において、例えば、権利者の利益を不当に害さず、社会通念上権利者も権利侵害を主張しないであろうと考えられる著作物の利用であっても、利用者側において権利侵害の可能性を認識し、ある種の危険負担をしつつ著作物を利用することが余儀なくされている場合や利用それ自体を躊躇せざるを得ない場合もあると考えられる。これは、著作権との関わりが万人にとって極めて日常的なものとなり、その一方では、市民社会の成熟化、グローバル化の進展に伴い、企業を始めとして法令遵守が強く求められている現代社会において、著作物の利用の円滑化を図る上で非常に重要な問題であり、かかる観点からも、著作権法の中に権利制限の一般規定を導入する意義は認められるものと考えられる。
さらに、権利制限の一般規定の導入に消極的な立場から指摘される各懸念については、例えば権利制限の一般規定の要件や趣旨をある程度明確にするなど、我が国の現状や関係者の意見に配慮した制度設計をすることである程度解消されうるものであると考えられる。
以上を踏まえると、導入にあたっては、次章にみるとおり、検討すべき様々な課題があるものの、著作物の利用に関する社会通念に法律を適合させ、また、社会の急速な変化に適切に対応するためには、我が国の社会や法体系等を十分に踏まえ、著作権法の中に新たに権利制限の一般規定を設けることにより、個別権利制限規定で定めていない著作物の利用であっても、権利者の利益を不当に害さない一定の範囲内で著作物の利用を認めることが適当であり、このことは、著作権法1条が規定する目的に合致するものと考えられる。
と一般フェアユース規定の導入について一応意義を認めている(赤字強調は私が付けたもの。以下同じ)。ここまでは大きな突っ込みどころは無いが、ここで、個別の権利制限規定の問題について、裁判における解釈論の問題のみを取り上げ、解釈以前の現行の個別の権利制限規定自体が非常に狭く使いにくいものとされているという問題が報告書中で無視されているのはわざとではないかと私は踏んでいる。(なお、これは突っ込んでも仕方のないところだが、概要(pdf)で「米国型のフェアユース規定を導入している国は、台湾・イスラエル・フィリピン・スリランカ等に留まる」と書くなど、文化庁はやはり細かなところで印象操作を忘れていない。ダウンロード違法化の際のダウンロード違法化国はやはり5カ国程度だったが、その時は「留まる」などとは書いていなかったと記憶している。)
その後の「第4章 権利制限の一般規定を導入する場合の検討課題について」では、対象類型について、
- いわゆる「形式的権利侵害行為」
- いわゆる「形式的権利侵害行為」と評価するか否かはともかく、その態様等に照らし著作権者に特段の不利益を及ぼさないと考えられる利用
- 既存の個別権利制限規定の解釈による解決可能性がある利用
- 特定の利用目的を持つ利用
- その他
という分類を行った上で、特に、1.の「形式的権利侵害行為」について、
A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(例えば、写真や映像の撮影に伴い、本来行為者が想定している被写体とは別に、軽微な程度ではあるものの、付随的に美術の著作物や音楽の著作物等が複製され、あるいは当該著作物が複製された写真や映像を公衆送信等するといった利用(いわゆる「写り込み」と呼ばれる利用))
という類型を、2.の「著作権者に特段の不利益を及ぼすものではないと考えられる利用」について、
B 適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(例えば(a)CDへの録音の許諾を得た場合におけるマスターテープ等中間過程での複製や、漫画のキャラクターの商品化を企画し、著作権者に許諾を得るに当たって必要となる企画書等における当該漫画の複製、(b)33条1項に基づく教科書への掲載に関し、初稿原稿等その他教科書作成過程での複製や、38条1項に基づく非営利無料の音楽演奏に際し、進行や会場設備の都合上、楽曲毎にCDを入れ換えて再生(演奏)することが困難な場合に、あらかじめ複数枚のCDから再生(演奏)する楽曲を演奏順に編集して一枚のCDに複製すること等)
C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用(例えば、映画や音楽の再生に関する技術の開発や、当該技術の検証のために必要な限度で映画や音楽の複製を行うといった場合)
という類型をさらにあげ、これらの3つの類型のみが日本版フェユースの対象となるとしているが、これはあまりにも狭いといって良く、これではほとんど一般規定と言うに値しない権利制限規定がまた個別に作られるに過ぎない(ここまで狭くした上で、さらに社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを追加の要件とする等の方策を講ずるとまでしている)。
文化庁の報告書は例によって奇怪な議論の倒錯を起こしているが、本来フェアユース規定の導入の話できちんと議論されるべきは、文化庁の整理では4.の「特定の利用目的を持つ利用」に入れられている、一般的な公益目的での利用やパロディ利用のはずだろう。(これらの利用について「特定の」という形容詞をつけているところなど、いつもの文化庁の手口である。)
報告書では、この「特定の利用目的を持つ利用」に入れられている、「公益目的にかんがみ権利制限が求められていると考えられる利用」について、
一般規定による権利制限が求められている著作物の利用行為には、「障害者福祉」や「教育」、「研究」、「資料保存」といった、目的の公益性に着目した著作物の利用類型が一定程度存在するものと考えられる。
こうした著作物の利用行為については、権利制限の必要性のみならず、公益目的にかんがみ既に整備されている他の個別権利制限規定との関係も含め、利用の目的、利用行為の主体、対象著作物、制限の程度、利用の態様等の要件につき慎重に考慮する必要がある。
したがって、これを一般規定による権利制限の対象と位置付けるべきではなく、権利制限の必要性について関係者間の合意が得られ次第、個別権利制限規定の改正又は創設により対応することが適当であると考えられる。
と、同じく「パロディとしての利用」について、
パロディとしての著作物の利用については、我が国では、そもそも「パロディ」とは何か(いかなるパロディを権利制限の対象とするのか)、現行法の解釈による許容性、表現の自由(憲法21条)や同一性保持権(20条1項)との関係等について、あまり議論が進んでいるとはいえず、検討すべき重要な論点が多く存在すると考えられるので、その解決を権利制限の一般規定の解釈に委ねるのは必ずしも適当ではない。したがって、パロディとしての利用を検討する場合は、上記各論点を始めとした関係論点につき十分議論を尽くした上で、権利制限の必要性等を慎重に検討し、必要に応じて個別権利制限規定の改正又は創設により対応することが適当であると考えられる。
と、一般的な公益目的での利用やパロディ利用については大した根拠もなく否定的に先送りにする内容とされており、何故これらのような類型に対応する形で権利制限が求められているのかについて真剣な議論がなされた様子は無い。これらのような類型について個別の制限規定の改正又は創設による対応の可能性についてまで否定するつもりは無いが、文化庁で権利者団体を中心とした検討が続く限り、本来公益あるいは表現の自由の観点から真っ先に許されるべきこれらのような利用について、なかなか入れられず、入ったとしても非常に狭く使えないものとされるという状況は続くだろう。
ABCという類型であげられている写り込みや附随的利用についても確かに権利制限規定を設けるべき話だろうが(実務的に大きな変化は無いだろうが、法的安定性を高めるという点ではこれらの類型について権利制限を設けることも重要である)、これだけではまだ、文化庁と権利者団体が結託して、個別の権利制限すらなかなか入れようとせず、入れたとしても非常に狭く使えないものとするという現状から生じている問題を緩和するという意味では極めて不十分である(このレベルでも権利者団体がいつものように一般規定という字面だけからアレルギーのように反対を叫んでいるが)。
いつもと同じような内容になると思うが、私自身もパブコメを書くつもりであり、パブコメは提出次第ここに載せたいと思っている。文化庁がどこまで聞く耳を持つかは怪しいが、このパブコメも重要なものであることは間違いなく、普段から著作権問題に関心を寄せている方には是非出して頂きたいものと思う。
他の話も少し紹介しておくと、東京都の青少年健全育成条例問題に関しては、5月18日に都議会で総務委員会が開かれ、参考人として、赤枝恒雄医師、宮台真司首都大教授、田中隆弁護士、前田雅英首都大教授の意見聴取が行われた(twitter実況1、実況2、「草冠に西」で書かれている傍聴記1、2、3、4参照)。都議会の参考人招致の議論は完全にすれ違っており、今後どうなるかは良く分からないが、恐らく同じことが繰り返され、地味に辛い状況が続くのだろう。
この問題については、東京都弁護士会(リリース参照)に続いて、今回の青少年健全育成条例の改正について、5月21日付けで日弁連会長の声明まで出された。この声明も非常に明快であり、弁護士会レベルでほとんど全面的に今回の都条例改正は否定されたことになるが、法律のプロ集団にここまで言われても、東京都(警察庁)と自公はなお間違いを認めないのだろうか。
藤本由香里明治大学准教授・山口貴士弁護士が中心となっている「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」で反対請願署名の募集も始まっている(山口貴士弁護士のブログ記事参照)。一筆からでも良いと思うので、反対の方は是非署名を検討頂ければと思う。
また、児童ポルノサイトのブロッキングについても、5月18日の総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会に議題が突然突っ込まれ、日本インターネットプロバイダー協会が見解を示し(internet watchの記事参照)、警察庁が児童ポルノサイトアドレスリスト管理団体の公募を開始し(東京新聞の記事参照)、総務省系の「安心ネットづくり促進協議会」の「児童ポルノ対策作業部会」でも検討が進められており(internet watchの記事参照)、内閣府の児童ポルノ排除対策ワーキングチームでの検討も最近行われた模様と慌ただしい動きを見せている。いろいろな報道がされているが、ブロッキングについて、その手法をめぐり、警察、総務両省庁の協議が難航し、水面下でなおぎりぎりの折衝が続けられているという状況ではないかと、ブロッキングについても6月予定の犯罪閣僚会議から年内にかけて特に訳の分からない危険な状況が続くのではないかと私は見ている。現状、表現の自由・通信の秘密を侵さずにブロッキングを実施することはできないが、どこの検討でもその本質的な困難性は棚上げのままであり、緊急避難の要件も詰め切れていない。本当にこんな生煮えの整理でブロッキングを見切り発車で実行したら確実にひどいことになるのは目に見えている。警察庁の思惑と総務省の思惑と事業者の意見がこう全部バラバラかつデタラメでは年内の実施も覚束ないのではないかと思うが、この話も地道に突っ込めるところには突っ込んで行かないといけないと考えている。
知財本部では、その5月21日の本部会合で知財計画2010がまとめられた(本部会合の議事次第参照)。おそらく案をそのまま決定したのだろうと思うが、すぐに正式版の知財計画2010も公表されるだろうと思うので、次回は、この知財計画2010について取り上げたいと思っている。
(5月28日の追記:上のエントリの最初の段落にinternet watchの記事へのリンクを追加した。
また、6月7日正午〆切で、内閣府から児童ポルノ排除総合対策案(pdf)がパブコメにかけられた(意見募集ページ参照)。児童ポルノ規制問題ど真ん中の重要パブコメだが、相変わらず人の意見を聞く気がないとしか思えないタイトなスケジュールになっているので、次回は、先にこのパブコメの話を取り上げたいと思う(迷い人様、コメントありがとうございます)。)
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コメント
【緊急】内閣府の児ポ対策WGで意見募集が始まりました。 【重要】
http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/bosyu/iken-haijo.html
6月7日12時までです。
内閣府が出してきた案は
1「協議会の設置」
…NPOだとか、教育団体が構成員とされていますが規制派が食い込む事は
余裕で予想されます。児童ポルノで飯食っているのはどっちだ!
6「女性に対する暴力を無くす運動」における取り組み…ようは男女参画の
第八章の続きです。
8「国際的取り組みへの参画」…規制派イベントの例のリオの子供会議を有益と
考えているようです。また、憲法より上位の「条例」で国民を縛りつけようという
動きにもなります。
4ページからはブロッキング、そして5ページ冒頭で「国内外を問わずブロック」
という方針が明記されています。プロバイダ責任法における削除という法規定を
無視し、本来の意図から外れたものを警察のごり押しで入れてきました。
9ページに「諸外国での児童ポルノ対策の調査」とありますが。ここは是非、
「調査するのはその法を施行してからの実際の性犯罪の動向だろう!」と
訴えるのが言いと思います。元々は、性犯罪減らすための法だろうと!何やってやがると。
…斜め読みですが、今のところ「単純所持」あるいは「取得罪」への言及はありません。
しかしながら、決定案で入れる可能性もありますので、明確に反対と書くのが良いと思います。
また、創作物も同じく入っていませんが、それにも反対を書くべきだと私は思います。
投稿: 迷い人 | 2010年5月27日 (木) 22時16分