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2010年5月28日 (金)

第228回:内閣府・ 児童ポルノ排除総合対策案パブコメ募集(6月7日正午〆切)

 6月7日正午〆切で、内閣府から児童ポルノ排除総合対策案(pdf)に対するパブコメがかかった(内閣府の該当ページ参照)。既に「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」、「チラシの裏(3周目)」、「北へ。の国から」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」等でも取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、このパブコメは非常に重要なものと思うので、ここでも取り上げる。

 この対策案(pdf)は、内閣府の「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」という検討会で検討されたものだが、この検討会は、リンク先をご覧頂ければすぐに分かるように実質数回しか開かれていない上、有識者としてヒアリングしたと知れるのは児童ポルノ規制問題ではとにかく根拠なく規制強化をがなり立てるので悪名高い日本ユニセフ協会のアグネス・チャン氏のみ、その下のワーキンググループに至ってはどのような資料に基づいてどのような議論がされたかも一切不明であり、このようなたかが数回の検討でネット検閲にしかなりようのないサイトブロッキングをほとんど何の根拠も示さずに対策として打ち出すという出来レースにもほどがあるひどいものである。(このパブコメ自体実質期間が10日程度しかないと、人の意見を聞く気があるとは到底思えない取り方をされている。)

 この対策案(pdf)にはそれでも情報モラル教育などの地道な話も入っているが、このワーキングチームは超出来レースのため問題のある記載も山ほど入っており、特に問題のある部分を、以下に指摘して行きたいと思う。(例によって何故か、総務省で主に検討されているフィルタリングの話やメール検閲の話まで入っている。パブコメではこれらの問題についても指摘するつもりだが、ここでは省略する。)

 まず、「1 児童ポルノの排除に向けた国民運動の推進」で、第1ページに

① 協議会の設置
 児童ポルノの排除に向けた国民運動を官民一体となって推進するため、関係府省庁、教育関係団体、医療関係団体、事業者団体、NPO等で構成する協議会を設置し、国民運動の推進方策について協議するとともに、その周知を図る。(内閣府)

と書かれているが、この協議会からして、いつもの警察庁御用達の規制派団体メンバーが並ぶ可能性が高く、気を付ける必要があるだろう。また、次の、

② 国民運動の効果的な推進(第1ページ)
 児童ポルノを排除するため、キャッチコピー、シンボルマーク等を公募し、広報・啓発活動に活用するとともに、シンポジウムを開催するなどして国民運動の効果的な推進を図る。(内閣府、警察等)

についても、どうせどこかに丸投げで外注されるキャッチコピーやシンボルマークの公募が本当に必要なのかという点も疑問だが、それ以上に、ここで書かれているシンポジウムについても、例によって登壇者を警察が規制派団体から恣意的に選出して規制強化プロパガンダに使って来る可能性が高く、注意が必要ではないかと私は考えている。(地道な広報・啓発活動を否定するつもりはないが、個人的には今の警察はこの点で全く信用できない。次の「③ ホームページによる広報・啓発活動」で「内閣府のホームページにおいて、児童ポルノ排除対策ワーキングチームの活動状況について掲載する」と書かれているが、今のワーキングチームのあまりにデタラメな出来レースぶりと今のお粗末なホームページの有様だけを見ても、今後警察庁が広報・啓発活動と称してやって来るだろうことは大体想像がつく。今のようなやり方で「増進を図れる」のは今の「児童ポルノ排除対策」に対する国民の不信だけだろう。)

 さらに、同じ第1ページで、

⑥ 「女性に対する暴力をなくす運動」における取組
 毎年11月に実施している「女性に対する暴力をなくす運動」において、児童の性的搾取を含む女性に対する暴力を根絶するため、国、地方公共団体、女性団体その他の関係団体と連携・協力し、広報・啓発活動を推進する。 (内閣府等)

と書かれている部分も、男女共同参画会議(第225回の提出パブコメ参照)と同じく児童の問題と女性の問題を混同している点で注意が必要だろう。

 第2ページの、

⑧ 国際的取組への参画
 我が国が2005年に締結した「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」の規定に基づき、児童の権利委員会に提出した政府報告に対し、今後、同委員会の最終見解が示されることに留意しつつ、引き続き、同選択議定書の実施の確保に努める。また、2008年11月、リオデジャネイロで開催された「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議」において取りまとめられた「児童の性的搾取を防止・根絶するためのリオデジャネイロ宣言及び行動への呼びかけ」について国内での周知に努める。(外務、警察、法務)

で周知する言及されているのは、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「児童の性的搾取に反対する世界会議」(外務省HP警察庁の広報資料(pdf)参照)の狂った宣言だが、何度も書いているように、このような根拠のない宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならないことである。

 そして、何と言ってもこの対策案の一番の問題は、「3 インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の推進」であり、この中で、最初の

① 違法情報の排除に向けた取組の推進
 サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンターに寄せられた通報を通じ、児童ポルノに係る違法情報の把握に努め、取締りを推進するとともに、サイト管理者等に対し、警察及びインターネット・ホットラインセンターから削除依頼等を実施する。また、インターネットを利用した児童ポルノ事犯の被疑者を検挙した場合等に、当該違法情報が掲載された掲示板のサイト管理者等に対し、当該違法情報の削除の要請及び同種事案の再発防止に努めるよう申し入れ又は指導を行うほか、非行防止教室や情報セキュリティに関する講習等の場において、インターネット・ホットラインセンターの取組を紹介するなどして、インターネット上からの児童ポルノの削除の更なる促進を図る (警察)。

では、いつも通り半官検閲センターであるインターネット・ホットラインセンターの問題点を指摘する必要があると思っているが、それ以上に問題があるのは、以下の第4ページから第5ページのブロッキングに関する記載である。

④ 児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体との連携等を通じた児童ポルノ流通防止対策の推進
インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)、検索エンジンサービス事業者及びフィルタリング事業者に対して児童ポルノが掲載されているウェブサイトに係るアドレスリストの作成、維持・管理、提供等を民間のイニシアティブにて行うための児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体の設置に向けた作業を進め、同団体との官民連携した児童ポルノ流通防止対策を推進する。(警察、内閣官房、内閣府、総務、経産)

⑤ ブロッキングの導入に向けた諸対策の推進
 インターネット上の児童ポルノについては、児童の権利を著しく侵害するものであり、インターネット・ホットラインセンターが把握した画像について、サイト管理者等への削除要請や警察の捜査・被疑者検挙が行われた場合等でも、実際に画像が削除されるまでの間は画像が放置されるところであり、児童の権利を保護するためには、サーバーの国内外を問わず、画像発見後、速やかに児童ポルノ掲載アドレスリストを作成し、ISPによる閲覧防止措置(ブロッキング)を講ずる必要がある。そこで、このようなブロッキングについて、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさない運用に配慮しつつ、平成22年度中を目途にISP等の関連事業者が自主的に実施することが可能となるよう、下記の対策を講ずる。(警察、総務、内閣官房、内閣府、経産)

ⅰ アドレスリストの迅速な作成・提供等実効性のあるブロッキングの自主的な導入に向けた環境整備
 警察庁及びインターネット・ホットライン・センターからの情報提供により、児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体がプロバイダー等に対し迅速にアドレスリストを提供できるよう、実効性のあるブロッキング導入に向けた環境整備を実施する。

ⅱ ISPによる実効性のあるブロッキングの自主的導入の促進
 ISPに対し、インターネット上の児童ポルノの流通を防止するためのブロッキングの重要性、有効性等について理解を求め、実効性のあるブロッキングの自主的導入を促進する。

ⅲ 一般ユーザーに対する広報・啓発
 インターネットの一般ユーザーに対し、ブロッキングの重要性等について幅広く広報・啓発し、理解を求めるとともに、インターネット上の流通防止対策に対する国民意識の醸成を図る。

 ここで、「民間のイニシアティブ」、「インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさない運用に配慮」、「関連事業者が自主的に実施」といった記載に多少の努力の跡が見られるものの、ブロッキングについて完全に導入前提の記載がされているのは全く受け入れることができない。警察庁又は半官検閲センターであるインターネット・ホットライン・センターの圧力でブロッキングがなされるのであれば、民間と称しようがしまいが全く同じことである。また、何度も繰り返し書いている通り、現状、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさないようにブロッキングを透明性・公平性・中立性を確保した形で運用することは不可能であり、ブロッキングはどこをどうやっても検閲にしかなりようがない。

 また、「5 児童ポルノ事犯の取締りの強化」で、第8ページに、

② 悪質な関連事業者に対する責任追及の強化
 児童ポルノの提供等に加担しているサイト管理者、サーバー管理者といった悪質な関連事業者について、当該関連事業者に対する指導・警告を徹底し、風営適正化法に基づく当該サーバー管理者等に対して勧告を行うほか、刑事責任の追及を図るなど、悪質な関連事業者に対する責任追及を強化する。(警察)

と書かれており、ここでもネットにおける幇助罪については特別な注意が必要であり、その適用範囲が不用意に広がりすぎないように気を付けるべきであるとやはり指摘する必要があるとも思っている。

 最後に、「6 諸外国における児童ポルノ対策の調査等」で、第9ページに、

② 諸外国の児童ポルノ対策の調査
 G8を中心とした諸外国における児童ポルノ関連法規制について、在外公館を通じて調査を行ってきているところ、法規制に関する動向及びインターネット上のブロッキング等の新たな規制を始めとする諸動向に関する調査を継続し、定期的に結果を取りまとめる。(外務、警察、法務)

と書かれているが、ここでも特にG8を取り上げようとしている点は全く頂けない。これも国際調査自体を否定するつもりはないが、例によってG8のみを取り上げて恣意的に国際動向を作り上げ、単純所持規制プロパガンダに使って来る可能性が高く、この部分の記載も要注意である。

 全体としてみれば、従前の報告書と比べこの対策案には、教育・啓発・被害児童のケア・取り締まりに関する地道な施策の項目もかなり入っているが、特にブロッキングに関する部分の問題を中心に決して見過ごすことのできない問題のある項目も数多く含まれており、6月7日正午〆切と非常にタイトなスケジュールではあるが、児童ポルノ規制問題ど真ん中の重要パブコメとして、普段情報規制問題に疑問や懸念を抱いている方には、是非提出を検討頂きたいと私も思っているものである。私自身もこのパブコメは出さなければならないと考えており、パブコメは提出し次第またここに載せたいと思っている。

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2010年5月26日 (水)

第227回:文化庁・法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(日本版フェアユース)についてのパブコメ募集

 文化庁から、6月24日正午〆切で、法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ(pdf)」に関するパブコメがかかった(文化庁のリリース、電子政府HPの該当ページ意見募集要領(pdf)参照。internet watchの記事も参照。5月21日の著作権分科会の様子についてはPC onlineの記事参照)。

 法制問題小委員会のこの日本版フェアユース中間とりまとめの案については、第223回でも取り上げているが、文化庁の検討でその範囲が広くなることなどあり得ず、当然のように範囲は非常に狭いままで実質的な変更はない。それでもパブコメにかかっているので、今回は、この中間まとめ(pdf)付属資料(pdf)概要(pdf))についてもう少し詳しく取り上げておきたいと思う。

 「第3章 権利制限の一般規定を導入する必要性について」の「4 まとめ」において、

 第2章でみたとおり、権利制限の一般規定を置かない現行法の下でも、裁判実務においては、個別権利制限規定の解釈上の工夫や民法の一般規定(権利の濫用(民法1条3項)等)の活用等により、各事案に応じた妥当な解決が一定程度図られているものと考えられ、また、必ずしも個別権利制限規定が常に厳格解釈され、それにより不合理な結論が導かれていると評価することはできない。
 さらに、個別権利制限規定の改正等による対応についても、同様の問題を個別の訴訟で解決する場合に要する期間と比較した場合、個別権利制限規定の改正等による対応に時間がかかるという点のみを主要な根拠として、権利制限の一般規定の必要性を導くことは、必ずしも適当ではないと考えられる。
 しかしながら、一方において、インターネット等の情報ネットワーク産業分野を始めとする各種技術の更なる進展や著作物の利用者及び利用形態・利用環境・利用手段等の多様化、社会状況の変化等の諸事情にかんがみると、個別権利制限規定の解釈論や個別権利制限規定の改正等による解決には、今後一定の限界があり得ることは否定できず、また、民法上の一般規定に解決を委ねるよりも、著作権に特化した権利制限の一般規定を著作権法に導入する方が、現状よりも規律の明確化を図ることができると考えられる。かかる観点から、著作権法の中に権利制限の一般規定を導入する意義は認められるものと考えられる。
 また、本小委員会で実施したヒアリングや本小委員会宛に提出された意見書等において、権利制限の一般規定の導入を望む利用者側からの意見が現実に多く寄せられ、さらには一般規定により権利制限の対象とすべきとして、具体的な著作物の利用行為が多数寄せられたことやその内容にかんがみると、権利制限の一般規定を置かない現行法の下において、例えば、権利者の利益を不当に害さず、社会通念上権利者も権利侵害を主張しないであろうと考えられる著作物の利用であっても、利用者側において権利侵害の可能性を認識し、ある種の危険負担をしつつ著作物を利用することが余儀なくされている場合や利用それ自体を躊躇せざるを得ない場合もあると考えられる。これは、著作権との関わりが万人にとって極めて日常的なものとなり、その一方では、市民社会の成熟化、グローバル化の進展に伴い、企業を始めとして法令遵守が強く求められている現代社会において、著作物の利用の円滑化を図る上で非常に重要な問題であり、かかる観点からも、著作権法の中に権利制限の一般規定を導入する意義は認められるものと考えられる。
 さらに、権利制限の一般規定の導入に消極的な立場から指摘される各懸念については、例えば権利制限の一般規定の要件や趣旨をある程度明確にするなど、我が国の現状や関係者の意見に配慮した制度設計をすることである程度解消されうるものであると考えられる。
 以上を踏まえると、導入にあたっては、次章にみるとおり、検討すべき様々な課題があるものの、著作物の利用に関する社会通念に法律を適合させ、また、社会の急速な変化に適切に対応するためには、我が国の社会や法体系等を十分に踏まえ、著作権法の中に新たに権利制限の一般規定を設けることにより、個別権利制限規定で定めていない著作物の利用であっても、権利者の利益を不当に害さない一定の範囲内で著作物の利用を認めることが適当であり、このことは、著作権法1条が規定する目的に合致するものと考えられる。

と一般フェアユース規定の導入について一応意義を認めている(赤字強調は私が付けたもの。以下同じ)。ここまでは大きな突っ込みどころは無いが、ここで、個別の権利制限規定の問題について、裁判における解釈論の問題のみを取り上げ、解釈以前の現行の個別の権利制限規定自体が非常に狭く使いにくいものとされているという問題が報告書中で無視されているのはわざとではないかと私は踏んでいる。(なお、これは突っ込んでも仕方のないところだが、概要(pdf)で「米国型のフェアユース規定を導入している国は、台湾・イスラエル・フィリピン・スリランカ等に留まる」と書くなど、文化庁はやはり細かなところで印象操作を忘れていない。ダウンロード違法化の際のダウンロード違法化国はやはり5カ国程度だったが、その時は「留まる」などとは書いていなかったと記憶している。)

 その後の「第4章 権利制限の一般規定を導入する場合の検討課題について」では、対象類型について、

  1. いわゆる「形式的権利侵害行為」
  2. いわゆる「形式的権利侵害行為」と評価するか否かはともかく、その態様等に照らし著作権者に特段の不利益を及ぼさないと考えられる利用
  3. 既存の個別権利制限規定の解釈による解決可能性がある利用
  4. 特定の利用目的を持つ利用
  5. その他

という分類を行った上で、特に、1.の「形式的権利侵害行為」について、

A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(例えば、写真や映像の撮影に伴い、本来行為者が想定している被写体とは別に、軽微な程度ではあるものの、付随的に美術の著作物や音楽の著作物等が複製され、あるいは当該著作物が複製された写真や映像を公衆送信等するといった利用(いわゆる「写り込み」と呼ばれる利用))

という類型を、2.の「著作権者に特段の不利益を及ぼすものではないと考えられる利用」について、

B 適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの(例えば(a)CDへの録音の許諾を得た場合におけるマスターテープ等中間過程での複製や、漫画のキャラクターの商品化を企画し、著作権者に許諾を得るに当たって必要となる企画書等における当該漫画の複製、(b)33条1項に基づく教科書への掲載に関し、初稿原稿等その他教科書作成過程での複製や、38条1項に基づく非営利無料の音楽演奏に際し、進行や会場設備の都合上、楽曲毎にCDを入れ換えて再生(演奏)することが困難な場合に、あらかじめ複数枚のCDから再生(演奏)する楽曲を演奏順に編集して一枚のCDに複製すること等)

C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用(例えば、映画や音楽の再生に関する技術の開発や、当該技術の検証のために必要な限度で映画や音楽の複製を行うといった場合)

という類型をさらにあげ、これらの3つの類型のみが日本版フェユースの対象となるとしているが、これはあまりにも狭いといって良く、これではほとんど一般規定と言うに値しない権利制限規定がまた個別に作られるに過ぎない(ここまで狭くした上で、さらに社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを追加の要件とする等の方策を講ずるとまでしている)。

 文化庁の報告書は例によって奇怪な議論の倒錯を起こしているが、本来フェアユース規定の導入の話できちんと議論されるべきは、文化庁の整理では4.の「特定の利用目的を持つ利用」に入れられている、一般的な公益目的での利用やパロディ利用のはずだろう。(これらの利用について「特定の」という形容詞をつけているところなど、いつもの文化庁の手口である。)

 報告書では、この「特定の利用目的を持つ利用」に入れられている、「公益目的にかんがみ権利制限が求められていると考えられる利用」について、

 一般規定による権利制限が求められている著作物の利用行為には、「障害者福祉」や「教育」、「研究」、「資料保存」といった、目的の公益性に着目した著作物の利用類型が一定程度存在するものと考えられる。
 こうした著作物の利用行為については、権利制限の必要性のみならず、公益目的にかんがみ既に整備されている他の個別権利制限規定との関係も含め、利用の目的、利用行為の主体、対象著作物、制限の程度、利用の態様等の要件につき慎重に考慮する必要がある
 したがって、これを一般規定による権利制限の対象と位置付けるべきではなく、権利制限の必要性について関係者間の合意が得られ次第、個別権利制限規定の改正又は創設により対応することが適当であると考えられる。

と、同じく「パロディとしての利用」について、

 パロディとしての著作物の利用については、我が国では、そもそも「パロディ」とは何か(いかなるパロディを権利制限の対象とするのか)、現行法の解釈による許容性、表現の自由(憲法21条)や同一性保持権(20条1項)との関係等について、あまり議論が進んでいるとはいえず、検討すべき重要な論点が多く存在すると考えられるので、その解決を権利制限の一般規定の解釈に委ねるのは必ずしも適当ではない。したがって、パロディとしての利用を検討する場合は、上記各論点を始めとした関係論点につき十分議論を尽くした上で、権利制限の必要性等を慎重に検討し、必要に応じて個別権利制限規定の改正又は創設により対応することが適当であると考えられる。

と、一般的な公益目的での利用やパロディ利用については大した根拠もなく否定的に先送りにする内容とされており、何故これらのような類型に対応する形で権利制限が求められているのかについて真剣な議論がなされた様子は無い。これらのような類型について個別の制限規定の改正又は創設による対応の可能性についてまで否定するつもりは無いが、文化庁で権利者団体を中心とした検討が続く限り、本来公益あるいは表現の自由の観点から真っ先に許されるべきこれらのような利用について、なかなか入れられず、入ったとしても非常に狭く使えないものとされるという状況は続くだろう

 ABCという類型であげられている写り込みや附随的利用についても確かに権利制限規定を設けるべき話だろうが(実務的に大きな変化は無いだろうが、法的安定性を高めるという点ではこれらの類型について権利制限を設けることも重要である)、これだけではまだ、文化庁と権利者団体が結託して、個別の権利制限すらなかなか入れようとせず、入れたとしても非常に狭く使えないものとするという現状から生じている問題を緩和するという意味では極めて不十分である(このレベルでも権利者団体がいつものように一般規定という字面だけからアレルギーのように反対を叫んでいるが)。

 いつもと同じような内容になると思うが、私自身もパブコメを書くつもりであり、パブコメは提出次第ここに載せたいと思っている。文化庁がどこまで聞く耳を持つかは怪しいが、このパブコメも重要なものであることは間違いなく、普段から著作権問題に関心を寄せている方には是非出して頂きたいものと思う。

 他の話も少し紹介しておくと、東京都の青少年健全育成条例問題に関しては、5月18日に都議会で総務委員会が開かれ、参考人として、赤枝恒雄医師、宮台真司首都大教授、田中隆弁護士、前田雅英首都大教授の意見聴取が行われた(twitter実況1実況2、「草冠に西」で書かれている傍聴記1参照)。都議会の参考人招致の議論は完全にすれ違っており、今後どうなるかは良く分からないが、恐らく同じことが繰り返され、地味に辛い状況が続くのだろう。

 この問題については、東京都弁護士会(リリース参照)に続いて、今回の青少年健全育成条例の改正について、5月21日付けで日弁連会長の声明まで出された。この声明も非常に明快であり、弁護士会レベルでほとんど全面的に今回の都条例改正は否定されたことになるが、法律のプロ集団にここまで言われても、東京都(警察庁)と自公はなお間違いを認めないのだろうか。

 藤本由香里明治大学准教授・山口貴士弁護士が中心となっている「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」で反対請願署名の募集も始まっている(山口貴士弁護士のブログ記事参照)。一筆からでも良いと思うので、反対の方は是非署名を検討頂ければと思う。

 また、児童ポルノサイトのブロッキングについても、5月18日の総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会に議題が突然突っ込まれ、日本インターネットプロバイダー協会が見解を示し(internet watchの記事参照)、警察庁が児童ポルノサイトアドレスリスト管理団体の公募を開始し(東京新聞の記事参照)、総務省系の「安心ネットづくり促進協議会」の「児童ポルノ対策作業部会」でも検討が進められており(internet watchの記事参照)、内閣府の児童ポルノ排除対策ワーキングチームでの検討も最近行われた模様と慌ただしい動きを見せている。いろいろな報道がされているが、ブロッキングについて、その手法をめぐり、警察、総務両省庁の協議が難航し、水面下でなおぎりぎりの折衝が続けられているという状況ではないかと、ブロッキングについても6月予定の犯罪閣僚会議から年内にかけて特に訳の分からない危険な状況が続くのではないかと私は見ている。現状、表現の自由・通信の秘密を侵さずにブロッキングを実施することはできないが、どこの検討でもその本質的な困難性は棚上げのままであり、緊急避難の要件も詰め切れていない。本当にこんな生煮えの整理でブロッキングを見切り発車で実行したら確実にひどいことになるのは目に見えている。警察庁の思惑と総務省の思惑と事業者の意見がこう全部バラバラかつデタラメでは年内の実施も覚束ないのではないかと思うが、この話も地道に突っ込めるところには突っ込んで行かないといけないと考えている。

 知財本部では、その5月21日の本部会合で知財計画2010がまとめられた(本部会合の議事次第参照)。おそらく案をそのまま決定したのだろうと思うが、すぐに正式版の知財計画2010も公表されるだろうと思うので、次回は、この知財計画2010について取り上げたいと思っている。

(5月28日の追記:上のエントリの最初の段落にinternet watchの記事へのリンクを追加した。

また、6月7日正午〆切で、内閣府から児童ポルノ排除総合対策案(pdf)がパブコメにかけられた(意見募集ページ参照)。児童ポルノ規制問題ど真ん中の重要パブコメだが、相変わらず人の意見を聞く気がないとしか思えないタイトなスケジュールになっているので、次回は、先にこのパブコメの話を取り上げたいと思う(迷い人様、コメントありがとうございます)。)

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2010年5月13日 (木)

第226回:ハトミミ.com・情報公開制度の改正の方向性についての提出パブコメ

 今現在ハトミミ.comで5月14日〆切で行われている情報公開制度の改正についてのパブコメも書いて提出したので、以下に載せておく(募集要項参照)。

 他のパブコメと比べると地味かも知れないが、情報公開制度は国民の知る権利の根幹の1つをなす非常に重要な制度でありながら、曖昧な理由に基づいて行政機関が不開示を決めることができ、その後の客観的な事後救済制度もなお十分に整備されていないというかなり問題のある状態にある。(地方にも影響はじきに波及して行くだろうし、制度全般となるので地方の話を書いても別に構わないと思うが、今回のパブコメで主として念頭におかれているのは、国の情報公開法(正式名称は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」ではないかと思う。)

 ただ、行政透明化検討チームという検討会で4月20日に提出されている大臣案(pdf)概要(pdf)も より情報公開を進めるという方向性で書かれており、この大きな方向性において問題があるという話ではない。多少時間はかかるかも知れないが、情報公開制度については、その情報公開対象範囲の拡大・明確化と利便性の向上が地道に図られて行くことを個人的には大いに期待している。

 パブコメを離れて、情報公開制度そのものの話もどこかでまとめて書ければと思っているが、しばらくはまた著作権や表現の自由一般の話の続きなどを書くつもりでいる。

(神奈川県青少年保護育成条例の改正骨子案に対するパブコメも提出したが(5月20日〆切。神奈川県のリリース参照)、東京都に対する提出パブコメ(第202回参照)のフィルタリングに関する部分を少し手直ししただけのものなので、ここに載せるのは省略する。まだ〆切まで時間があるので、情報規制問題に関心がある神奈川県民の方は、是非パブコメの提出を検討することをお勧めしておく。)

(以下、提出パブコメ)

1.情報公開制度全般に関するご意見

1.「国民の知る権利」を保障するためには、情報公開制度の改正が必要だと思いますか?

◯はい

(その理由を下記に記載してください(任意・200文字以内))
政策決定に関わる重要文書・資料の保存義務とその義務違反に対する罰則が不明確である。さらに、曖昧な理由に基づいて行政機関等が文書の不開示を決めることが可能である上、その後の客観的な事後救済制度の整備も不十分である。

2.現行の情報公開制度全般についてのご意見等をお聞かせください(任意・400文字以内)
・他省庁、議員、審議会等委員、関係団体とのやり取りに使用された政策決定に関わる文書は全て作成者と使用者の個人名と役職を付して最低10年保存を義務化し(メール、FAX、電話、面談等全てのやり取りの記録と保存を義務化するべき)、5年でHP上に全て自動公開されるシステムを法制化するべき。
・全文書に適用される期限を法定し、それ以降は理由によらず必ず公開されるとするべき。
・文書を廃棄する場合は、HP等による事前告知を義務化するべき。
・文書管理責任者を明確にし、故意又は過失による廃棄又は虚偽主張に処分を加えられるとするべき。
・開示の実施の方法は、原則として請求者の求める方法によらなければならないと法定し、オンライン開示、電子媒体による開示の促進を図るべき。

2.情報公開制度の改正の方向性について

1.開示対象の拡大・明確化について改正が必要だと思うものにチェックしてください(複数回答可)
◯公務員等の職務の遂行に係る情報について、当該公務員等の氏名も原則として開示するべき
◯不開示情報である「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ等がある情報」かどうかの判断に、行政機関等の裁量を大きく認めるべきでない
◯国等における審議・検討等に関する情報で、それを公にすることにより、「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある情報についても、行政機関の裁量が大きく入る余地があるため、原則開示とすべき

(その他、開示対象に拡大・明確化についてのご意見をお聞かせください(任意・200文字以内))
・情報公開法6条1項から「容易に」とただし書きを削除し、可能な限り情報は切り分けて開示しなければならないと明確化するべき。
・情報公開法5条1号ハに公務員の氏名を加え、公務員の個人名も原則開示にし、5条5号・6号二を削除・修正し、省庁の検討情報と天下りも含め人事に関する情報も後に原則開示されるとするべき。

2.開示手続きの迅速化・強化について改正が必要だと思うものにチェックしてください(複数回答可)
◯開示請求から開示決定等までの期限を短縮する
◯特例としての開示の無期限延長を見直す     

(そのほか、開示手続きの迅速化・強化についてのご意見をお聞かせください(任意・200文字以内))
実費と利用者の負担の両方のバランスを考慮し、手数料の減額を検討してもらいたい。

3.事後救済制度の強化について改正が必要だと思うものにチェックしてください(複数回答可)
◯不服申立てがなされてから審査会への諮問を行うまでの法定期限を導入する
◯情報公開訴訟を、原告の普通裁判籍所在地の地方裁判所にも提起できるようにする
◯裁判所が、行政機関の長等に対し、対象文書の標目・要旨・不開示の理由等を記載した書面(いわゆるヴォーン・インデックス)の作成・提出を求める手続を導入する
◯裁判所が対象文書を実際に見分し、不開示情報の有無等を直に検討できるインカメラ審理手続を導入する

3.その他

(その他、情報公開制度の改正全般についてのご意見・ご提案等をお聞かせください(任意・400文字以内))
衆議院事務局は申し訳程度に規定を設けているようだが、それだけではなく、参議院事務局、会派又は議員の活動に関する情報を含め、各議員も含め国会全体におけるきちんとした文書保存制度と情報公開制度を整え、立法府についても保存年限に応じた文書の自動公開システムの法制化を行うべきである。

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2010年5月 8日 (土)

第225回:内閣府・「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」に対する提出パブコメ

 次に、内閣府の「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」に対してもパブコメを書いて提出したので、内容はいつも通りだが、以下に載せておく。(5月12日〆切。内閣府のリリース参照。)

 パブコメはかなりつづめて書いてしまったが、情報に関する観点から見て問題が多いのは、明確に根拠のない規制強化に触れている「第8分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶(pdf)」と「第12分野 メディアにおける男女共同参画の推進(pdf)」である。これらの部分は短いながら、氾濫といった言葉を使ったいつもの印象操作が入っていたり、性的・暴力的な表現は全て人権侵害であると凄まじく片寄った見方による断言をしていたり、さらに児童ポルノ規制法の改正やブロッキングの検討にまで何故か言及し、ゲーム等の創作物について根拠なく広汎な表現規制を検討するとするなど、相変わらず山のように妄言・暴論を垂れ流している

 このパブコメについては、「弁護士山口貴士大いに語る」や「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」でも取り上げらているので、関心のある方は是非リンク先もご覧頂ければと思う。これは、情報・表現規制問題に関心を寄せている方には、是非出してもらいたいと私も思うパブコメの1つである。

 次回は、ハトミミ.comの情報公開制度改正パブコメ(募集要項参照)について書くことになるのではないかと思っている。

(以下、第8分野「女性に対するあらゆる暴力の根絶」に対する提出パブコメ)

 「有害情報の氾濫」、「インターネットや携帯電話の普及により、女性に対する暴力は多様化」、「一部メディアに氾濫する性・暴力表現」等の根拠のない印象操作を含む記載は削除するべきである。
 「女性をもっぱら性的ないしは暴力行為の対象として捉えたメディアにおける表現は、女性に対する人権侵害であ」ると一方的に断言しているが、表現をどのようにとらえるかは人によるものであり、一部の者の一方的な見方を押し付けることにしかなりようのない、このような歪んだ観点からの公報啓発は行われてはならない。
 ゲーム等について、「国際的に重大な懸念が表明され(中略)ていることから、有効な対策を講じる」としているが、文化の相違を無視し、他国の極一部の者の歪んだ主張を一方的に是とするが如き暴論は一切削除するべきである。
 内閣府は対面調査で回答の誘導を行うなど有害かつ悪質な世論操作を行った前科がある。調査を行う場合は、役所の関与を極力無くし、複数の調査機関により項目の偏向をチェックし、ウェブ調査も含め幅広い調査にするべきである。
 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては例え児童ポルノにせよ情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害する。意図に関する限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。現行法で既に規制されている提供によって生じる被害と所持等との混同は許され得ない。実際の被害者の存在しないアニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現への対象拡大も児童保護という法目的を大きく逸脱する異常規制に他ならない。利用者から見てアドレスリストの妥当性のチェックが不可能なブロッキングも、表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない。児童ポルノ規制については、定義の厳密化、単純所持・創作物規制といった非人道的な規制の排除の国際的な働きかけ等のみを検討するべきである。
 なお、実写と見紛うCGの規制については、確かに実在の児童が絡む事件の捜査の妨げになる可能性があるが、今の所捜査の妨げの事実はなく、その規制の検討も時期尚早である。

(以下、第12分野「メディアにおける男女共同参画の推進」に対する提出パブコメ)

 「女性や子どもをもっぱら性的ないしは暴力行為の対象としたメディアの表現は、それ自体が『人権侵害』である」ると一方的に断言しているが、表現をどのようにとらえるかは人によるものであり、一部の者の一方的な見方を押し付けることにしかなりようのない、このような歪んだ観点からの啓発や自主規制等の働きかけは行われてはならない。
 青少年の表現の自由(知る権利・情報アクセス権を含む)も憲法及び条約で保障されている権利であり、このような権利も守りつつ各種検討を進めると明記するべきである。
 本中間整理でも言及されている「北京宣言及び北京行動綱領」(http://www.gender.go.jp/kodo/chapter4-J.html参照)においても、メディア関連の施策については、表現の自由と矛盾しない範囲で進めることとされているのであり、表現の自由と矛盾しない範囲で各種検討が行われると明記されるべきである。特に国際的に日本のメディアに対する誤解があるようであれば、早急にその誤解を解くよう、実際の被害者の存在しない創作物に対する性あるいは暴力を理由とした根拠のない曖昧かつ広汎な表現規制はかえって表現の自由の不当な規制、非人道的な人権侵害となると、国際的な場で働きかけをするべきである。
 内閣府は対面調査で回答の誘導を行うなど有害かつ悪質な世論操作を行った前科がある。調査を行う場合は、役所の関与を極力無くし、複数の調査機関により項目の偏向をチェックし、ウェブ調査も含め幅広い調査にするべきである。
 一部の者の一方的な見方によって、民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくする規制強化が是とされるべきではない。今現在の日本において、メディア表現について規制強化をするに足る根拠は一切なく、「メディア業界の性・暴力表現の規制に係る自主的取組の促進」、「DVDやビデオ、パソコンゲーム等バーチャルな分野における性・暴力表現」のさらなる規制等に反対する。かえって、固定観念にとらわれない多様な男女両性の性表現を確保し、多様な価値観を互いに許容し合う真の男女共同参画社会を目指すため、既に時代遅れとなっている現行の猥褻物規制の緩和について、政府レベルでの検討を開始するべきである。
 今後は、基本に立ち返り、メディアリテラシー教育の推進、現実の暴力の取り締まり等の地道な対策のみに注力した検討が進められることを期待する。

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2010年5月 7日 (金)

第224回:総務省・「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言(案)に対する提出パブコメ

 しばらく、パブコメエントリが続くと思うが、まず、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第2次提言案(pdf)に対するパブコメを(5月10日〆切。総務省のリリース意見公募要領(pdf)、電子政府HPの該当ページ参照。)を書いて提出したので、以下に載せておく。

 詳しくは、提出パブコメを読んでもらえればと思うが、相変わらず、この研究会は、利用者視点を踏まえているどころか、かえって利用者視点を踏みにじっていると言った方が良い無責任な提言を垂れ流している。前回の第1次提言案での最大の問題は、日本レコード協会の提案する日本版携帯著作権グリーン・ダム計画だったが(第183回参照)、今回の第2次提言案の最も大きな問題点は、青少年保護を理由として送信者に対しデフォルトオンでの送信メールの内容確認の実施が認られる余地があるとする、通信の秘密をないがしろにする法的整理と、商業目的でのDPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術の実施の可能性が現時点であるとする、やはり通信の秘密を安易に考えすぎている法的整理の部分である。送信者・利用者にとってその存在と対象範囲について通常意識・検証し得ない送信メールの内容確認・DPI技術について、実施の余地があるとする法的整理を安易に認めることは、通信の秘密をないがしろにすることであり、実質的に事業者による検閲を是とするに等しい危険なことに他ならない。

 次回は、内閣府の男女共同参画局のパブコメ(内閣府のリリース参照)の話になると思っている。

(以下、提出パブコメ)

1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:

2.意見要旨
・事業者による実質的な検閲を是とするに等しい、送信者に対するデフォルトオンでの送信メールの内容確認の実施の余地を認める法的整理に反対する。
・やはり事業者による実質的な検閲を認めるに等しい、DPI技術を利用した行動ターゲティング広告の実施が現時点で可能であるとする法的整理に反対する。
・携帯フィルタリングの完全義務化に反対する。
・青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
・情報管理について、物理的な媒体の紛失等と情報の漏洩・滅失・毀損が混同されているが、情報と有体物は混同されるべきではない。
・今後は、前回と今回の提言案に見られるような利用者視点を無視した検討ではなく、真に利用者視点に立った地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

3.意見
(1)第2~3ページ「Ⅰ1.(2)青少年被害の拡大」について

 この項目において、項目タイトルが「青少年被害の拡大」とされ、項目中でも「青少年のCGMサービス利用に伴う被害も増加している」等と書かれている。しかし、用いられている警察庁の統計(「いわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙状況について」)は統計の分割と単年傾向の誇張による印象操作を含むものであり、同じく警察庁の統計(「少年非行等の概要(平成21年1~12月)」http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/syonenhikou_h21.pdf)によれば、福祉犯被害少年数は、平成12年から21年で、8291件、8153件、7364件、7456件、7627件、7258件、7375件、7014件、7170件となお減少傾向にあり、児童買春事件と児童ポルノ事件の被害児童総数の推移で見ても平成12年から21年で963名、1389件、1690件、1617件、1678件、1750件、1578件、1419件、1184件、1308件となお減少傾向にあり、全体として被害児童数等が増大傾向にあるという事実はない。
 これらのような警察庁の統計は検挙事件を取り上げているに過ぎず、被害の実態を表しているとは言い難いという問題点もあり、このような数字からせいぜい言えることは、児童買春事件の被害が減り、児童ポルノ事件によりリソースを割くことが可能となり、その結果が出ているのだろうということぐらいでしかない。統計を分割して一部の傾向のみ、しかも単年の傾向のみを誇張してあたかも被害が「拡大」しているとすることは悪質な印象操作を含むものであり、行政における報告書の記載としては極めて不適切である。
 この部分における記載は、上記のような平成12年以降の統計全体の数値をきちんとあげ、項目タイトルを「減少傾向にある青少年被害」、項目中の記載についても、「青少年の被害はなお減少傾向にある」等と統計全体に基づいた記載に全面的に書き直すべきである。

(2)第3~6ページ「Ⅰ1.(3)福祉犯被害の防止に向けた効果的な対策の方向性」について
 この項目において、出会い系サイト規制法の平成20年改正と青少年ネット規制法について言及されている。しかし、そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。出会い系サイト規制法の改正も、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。(出会い系と非出会い系というサイトの分け方自体不適切であり、(1)で取り上げた警察庁の各種統計は到底詳細な分析に耐えるものではないが、平成20年から平成21年の被害児童数の増加については、平成20年の出会い系サイト規制法改正の施行が児童が絡む事件の地道な取り締まりにかえって悪影響を及ぼした恐れなしとしない。今後の取り締まりの動向には十分以上に注意するべきである。)
 この部分ではこのような意見があることも書き加えるべきであり、啓発・教育等を中心とした地道な対策についてまで否定するつもりはないが、特に、可能な限り早期に、出会い系サイト規制法の改正前の形への再改正と青少年ネット規制法の廃止の検討を政府レベルで開始すると書くべきである。

(3)第6~7ページ「Ⅰ2.(1)フィルタリングサービスの普及改善」について
 ここで、「携帯電話フィルタリングの解除の抑制については、危険性を十分に認識しないことによる安易な解除を防ぐための取組が求められる」と書かれている。
 フィルタリングに関する規制については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたいとパブコメ等で再三意見を述べているが、今に至るもこのような本当の問題点を示す調査はなされていない。繰り返しになるが、フィルタリングについても、一部の者の一方的な思い込みによって安易に方針を示すことなく、本当の問題点を把握した上で検討を進めると書くべきである。
 また、東京都等の地方自治体が、青少年保護健全育成条例の改正により、各自治体の定める理由によってしか子供のフィルタリングの解除を認めず、違反した事業者に対する調査指導権限を自治体に与え、携帯フィルタリングの実質完全義務化を推し進めようとしているが、このような青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制の推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、同じく不適切なその他の情報規制推進についても合わせ、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。
 なお、フィルタリングについては、その政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた過去がある。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。今までのところ、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗しているとする根拠はなく、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずであり、廃止するまでにおいても、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、このような不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。

(4)第7~17ページ「Ⅰ2.(2)青少年向けの機能制限等」について
 この項目において、通信当事者ではないSNS等のCGMサービス運営者がそのサービス中の「ミニメール」内容確認を行うことが許されるかという点についての検討が行われているが、書かれている通り「ミニメール」の内容が通信の秘密に該当するのは当然のこととして、受信情報に関する自動的なフィルタリングについて受信当事者の同意があるとしてフィルタリングサービスのデフォルトオンが認められる要件を、「利用者」という語の一般化により送信者における送信情報の内容確認のデフォルトオンにまで拡大適用可能であるかの如き記載は通信の秘密との関係整理として不適切極まるものである。
 この点、未知の受信情報について主体的に遮断・選択する必要性があり、デフォルトでオンとされてもフィルタリングサービスの存在と対象範囲について通常意識し得る立場の受信者の場合と、送ろうとする既知の情報について遮断・選択の必要性がなく、一旦デフォルトで内容確認サービスをオンとされてしまうとその内容確認の存在と対象範囲について通常は意識し得ない立場の送信者の場合では、完全に前提が異なるとするべきである。メールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるとすることは、実質、送信者が受信者しか知り得ないだろうと思って送る情報の内容について、知らない内に事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高い。受信情報のフィルタリングに関する要件を一方的に拡大解釈し、送信者に対するデフォルトオンのメールの内容確認の余地を認めることは、実質的にメール・通信の検閲の余地を認めるに等しく、憲法にも規定されている通信の秘密をないがしろにすることにつながりかねない極めて危険なことである。
 これはデフォルトオンでメールの内容確認を行う場面が限定的であるか否かという問題ではなく、このような利用者視点とは到底思えない視点に基づいた、実質的な検閲を是とするかの如き通信の秘密に関する歪んだ整理の記載は、一切削除するべきである。

(5)第55~58ページ「Ⅱ6.(2)法的な課題」について
 この部分において、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告について「DPI技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されない。利用者の同意が明確かつ個別のものであることが必要なことは、前記②記載のとおりであるから、同意に当たっての判断材料を提供するという意味で、利用者に対してサービスの仕組みや運用について透明性が確保されるべきである。よって、DPI技術を用いた行動ターゲティング広告については、各事業者は、透明性の確保に向けて運用に当たっての基準等を策定し、これを適用することが望ましい」という整理がなされている。

 書かれている通り、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されないのは当然のこととして、DPI技術はネットワーク中のパケットに対して適用されるものであり、一旦導入されてしまうと、その存在と対象範囲について通常の利用者は全く意識・検証し得ないものである。DPI技術についても、利用者が知らない内に通信内容が事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高く、実質的な検閲をもたらしかねない危険なものとして安易な法的整理はされてはならない。契約書によったとしても、それだけでは、明確かつ個別の同意が十分に得られ、利用者からDPI技術の存在と対象範囲について十分に意識・検証可能となっているとすることはできない。DPI技術の利用については、通常の利用者の明確かつ個別の同意を得ることは現時点では不可能であり、この部分の記載は、現時点で、法的課題を克服することは困難であり、基準等の作成もされるべきではないとされなくてはならない。

(6)第93~94ページ「Ⅲ4.(3)簡略化可能な手続」について
 この部分における整理で、物理的な媒体の紛失等と情報の漏洩・滅失・毀損が混同されているが、情報と有体物は混同されるべきではない。

 物理的な媒体が紛失等にあったとしても、技術的な保護措置が講じられていたことにより、情報の漏洩・滅失・毀損があったとは考えられない場合は確かにあるだろうが、例えば、暗号化がなされていたとしても、その紛失媒体に記録された情報のバックアップが取られていなかった場合など、やはり情報の滅失・毀損と評価されなければならない。また、真に利用者視点に立つならば、個人情報を記録した媒体が事業者の従業員等によりどのような状況で紛失されたか、またどのような手段によりその情報の漏洩等が防がれたかといった情報は、利用者が事業者のサービスを選択する上で極めて重要な情報となり得るものである。あくまでガイドラインレベルの話だが、ある手続きを一概に省略可能とすることはかえって硬直的な対応を招く恐れもある。

 この部分における整理は、情報と有体物の混同に基づくのではなく、物理的な媒体が紛失等にあったとしても、技術的な保護措置が講じられていたことにより、情報の漏洩・滅失・毀損があったとは考えられない場合があるとする整理にした上で、どのような形のガイドラインが真に望ましいのかについてさらに検討が行われるべきである。

 なお、経済産業省の「営業秘密の管理に関するワーキンググループ「営業秘密管理指針の再改訂(案)」に関する3月18日〆切の意見公募(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595210004&Mode=0参照)の「参考資料3:各種ガイドライン等について」中で、我が国における情報管理に関するものとして16にも及ぶガイドラインがあげられており、他にも例えば、消費者庁のホームページ(http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/gaidorainkentou.html参照)で個人情報についてのみで39にも及ぶガイドラインがあげられているが、情報や事業毎に多少の違いが出て来るのはやむを得ないところもあるだろうが、同一分野に対してこの数はあまりにも多過ぎである。このようなガイドラインの過多から来るコンプライアンスの複雑化により正当な事業活動が妨げられている恐れもある。今後は、真の利用者視点に立ちつつ、このようなあまりにも多過ぎる各種ガイドラインの整理統合の検討が政府において進められることを期待する。

(7)その他・提言案全体について
 前回の第1次提言案と同じく、この提言案全体を通じて、真の意味で利用者視点が全く踏まえられておらず、かえって利用者視点を踏みにじっていることは、極めて残念なことと言わざるを得ない。また、前の提言案の内容について、その後何らフォローアップの公表もなく、今回、第2次提言案が出されたが、このような無責任な提言の垂れ流しは行政のあり方として極めて問題がある。これらの点については、一利用者として総務省に猛省を促したい。

 前回の提言案に対するパブコメで書いたことだが、特に、日本レコード協会が前回の第1次提言案中で提案していた日本版携帯著作権グリーン・ダム計画の検討の完全停止を再度求めるとともに、そのフォローアップの公表を求める。また、やはり前回の提言案に対するパブコメで書いたことだが、国民の基本的な権利を侵害する危険な著作権検閲にしか流れようのない著作権法中のダウンロード違法化条項の削除を総務省から文化庁に強く働きかけること、そして、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律のレベルで明文で書き込むこと、および、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術による著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律のレベルで明文で書き込むことを求める。

 今後は、前回と今回の提言案に見られるような利用者視点を無視した検討ではなく、真に利用者視点に立った地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

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